戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ザイレムで起きた2大企業の対決は、互いに多大な損耗を出した上で終結した。だが、アーキバスの被害は凄まじかった。
脱出機構を備えていない無人機の撃破は死と同義であり、加工された生体CPUを多数失っていた。加えて、惑星封鎖機構から鹵獲し、改良したバルテウスの損失。そして、搭乗者であるV.Ⅱスネイルが捕縛されたことの影響は計り知れないものがあった。
「おまけにV.Ⅴまで失ったとなれば、上層部は尻に火が付いているだろうよ。残ったヴェスパー部隊長は俺とオキーフだけか」
「これは、撤退も視野に入れざるを得ないだろうな」
上層部と現場の橋渡し役であり、作戦指揮者であるスネイルを失えば隊員達の統率は著しく乱れるだろう。その状態でレイヴンを有するベイラムに勝てるとは、到底思えなかった。
任務の報告の為に呼び出された、スネイルの自室に訪れると。そこには先客がいた。彼女の姿を見てオキーフの顔には緊張が走った
「お待ちしておりました。V.Ⅰフロイト。V.Ⅲオキーフ」
オキーフの困惑を他所に、フロイトは目の前の女性を品定めしていた。
全身義体であることから、本体は別所にあるのだろうことを予想した。義体の何処にもロゴが入っていないのを見るに、企業が製造した物では無いのだろう。と言うことは、上層部が派遣した物だとも考え辛かった。
「どちら様かな?」
「私、ケイト・マークソンと申します。この度、惑星封鎖機構とアーキバスが提携を結んだことを報告に参りました」
「なんだと?」
先程から押し黙っていたオキーフが声を上げた。これには、基本的に自身の目的以外にも無関心なフロイトも驚いてみせた。
「まさか、惑星封鎖機構が企業と手を組むとはな。どういう了見だ?」
「現在、惑星封鎖機構だけでは当事態に対応するのが困難と判断し、コーラルの権益を入手しようとしているベイラムに対抗するべく、貴方達にお声かけさせていただきました。この提携を切っ掛けにアーキバスがバスキュラープラントを奪還することがあれば輸出量は制限させて頂きますが、我々が認めましょう」
「なるほど。惑星封鎖機構もやり方を選んでいられなくなったわけか」
アレだけコーラルの流出を拒んでいた彼らが、企業と提携する程になったのだから、いよいよ首が回らなくなったらしい。
「そう考えて頂いて構いません。勿論、提携を結ぶにあたり手土産はご用意させて頂いております。こちらに」
彼女がコンソールを操作すると、モニタには格納庫の様子が映し出された。
惑星封鎖機構のMT『AM14:SENTRY』が運び入れられ、LCの他にもHCやエクドロモイ。そして、もう1機。
「『IB:02』。技研の防衛兵器として用いられたアイビスシリーズの1機であり、レイヴンが用いている『HAL 826』の兄弟機です」
「ほぅ!」
あのレイヴンも使いこなしている機体が目の前にある。となれば、興味を引かない訳が無い。まるで、ショーウィンドゥに飾られたトランペットを眺める少年の様に目を光らせていた。オキーフが口を挟んだ。
「随分と大盤振る舞いだな。惑星封鎖機構には人員が足りていないのか?」
「我々はルビコンだけに関わっている訳ではないので。機体の手配はしますが、実務の方をあなた方に任せたいのです」
人的損耗に関しては、こちらに押し付けるつもりらしい。運び込まれていることからして、既に上の方と話し合いは住んでいるのだろう。堪らず、フロイトは駆け出していた。
「少し様子を見て来る。何なら、試乗出来ないかも聞いて来る!」
「えぇ。ごゆるりと」
スネイルが捕縛されたことよりも、新品の機体の方が気になるらしい。2人きりになったオキーフは周囲に盗聴器の類が無いかを確認した後、問うた。
「オールマインド。どういうつもりだ? お前達はコーラルリリースの為に動いているんじゃなかったのか?」
バスキュラープラントの延伸工事に関しては、ベイラムが担当しようが、アーキバスが担当しようが問題ない筈だ。だと言うのに、向かい風の中に在る自分達に手を貸す理由がまるで想像できなかった。
「V.Ⅲオキーフ。貴方は一つ誤解しています。オールマインドは私から分化されたAIに過ぎません。そもそも、コーラルを封じたい惑星封鎖機構とコーラルリリースを望むオールマインドでは目的が違う」
「……つまり、お前はオールマインドの大本ということか?」
「そう捕えて貰っても構いません。オキーフ、貴方はコーラルリリースを望んでいないのでしょう? ならば、協力しましょう。人間の手に余る物は我々に管理されるべきです」
彼女の言葉を全て信じて良いかどうかは疑問だった。だが、コーラルの抑制と言う点では、目的を共にすることは出来ると考え、頷いた。
「ひとまずは協力と言う形はとるが、お前のことは信用していない。今になって、顔を出したことも含めてな」
「それで構いません。我々としても苦渋の選択なのですから」
ルビコンにおけるコーラル競争は佳境に入っている。撤退したはずの惑星封鎖機構が舞い戻って来たことも含めて、オキーフには思案するべきことが積み重なり続けていた。
~~
ヴェスパー部隊長2名を捕縛。ベイラム側にも多数の怪我人や犠牲は出たが、戦いの規模に比べればかなり抑えられていた。ベイラムの勝利と言っても良かったかもしれない。
「結局、ザイレムはどうなったんですかね?」
「どちらの企業も残していくだけの戦力が無かった。直に戻って来たカーラ達が住み着くだろう」
ペイターの疑問に対してウォルターが淡々と答えた。流石に今度は、ベイラムから排除されない様にコッソリとやるだろうが。
「上層部はもう皮算用を始めている。既にコーラルの販売先に関してもルートを作っているらしい」
ナイルが呆れたように言った。アーキバスのヴェスパー部隊長のNo.2を捕虜にしたことで、相当に気が大きくなっていた。
また、ザイレムが戦いの余波でボロボロになっていたことも含めてバスキュラープラントの延伸工事は更に加速していた。もはや、自分達を邪魔立てする者は何もないと言わんばかりに。
「しばらく夢を見ることは自由でしょうよ。……で、捕縛して来た二人はどうなったんですか?」
ペイターとしてはベイラムの顔色よりも、そちらの方が気になった。片や安否を案じる意味で、片や生死確認の意味で。
「まず、スネイルの方は衰弱が激しい。恐らく、度重なる強化手術にバルテウス向けの調整も含めて無理が祟ったのだろう。暫くは、安静にということだ。621とスウィンバーンの二人が看病している」
「しぶといですね」
もしも、この場にレイヴンかスウィンバーンが居たらマジギレされていたであろう回答だった。ウォルターとしても、彼の気質には慣れたのか、もう1人の方についても話した。
「ホーキンスは俺達が捕らえた訳では無いから、ベイラムの捕虜として扱われている。恐らく、メーテルリンクと同じ様な待遇になるだろう」
「まぁ、仕方ないと言えば仕方ないですか。また、面会にでも行きますよ」
こちらの方は目に見えて気落ちしていた。スウィンバーンの時の様に一員として確保できるのではないかと考えていたが、そう甘くはなかった。
「しかし、これでヴェスパー部隊はほぼ壊滅か。アーキバスも撤退を考える所だろうが……」
これだけ多数の資源と人員を失ったのなら、更に損を出す前に撤退するだろう。と言うのが、ナイルの考えだった。V.ⅠとV.Ⅲが残りはしているが、彼らだけでどうにか出来る気もしなかった。
「それでも、撤退を表明しないということは。何かしらがあるのだろう。……さて、俺も迎えに行くとするか」
その何かしらが、ウォルターの中では引っ掛かっていた。こんな間際でアーキバスに交渉でも持ち掛けている存在が居るのか、あるいは……と。そんな可能性を考慮しながら、彼はレイヴンを迎えに行った。
~~
隔離部屋、治療を施されたスネイルはベッドに寝かされていた。部屋前には護衛が立っており、室内に通されたレイヴンとスウィンバーンは彼の看病をしていた。
「まさか、閣下とここで再会することになるとは思っても居ませんでした」
「私もだ」
正に、この2人を捕らえた少女は隣でミールワームを咥えて、プカプカと赤煙を浮かべている。病室での喫煙を注意する者は誰も居なかった。
「回復され次第、事情聴取はされると思いますが。その後はどうされるかお考えで?」
「私に選択権があればの話ですがね」
やって来たことを考えれば、そのまま銃殺刑にも処されかねない。それだけ、スネイルが犯して来た所業は罪深い物だった。
スウィンバーンも立場としては決して強くはなく、縋る者があるとすれば隣でミールワームの尻を齧り始めた、この少女位な物だが。
「ヘーキヘーキ!」
「何処からそんな自信が湧いて来るんだ?」
何故か、あまり彼女の表情には陰りが無かった。どうにかなると本気で思っている様な笑顔だった。あまりに屈託のない物だから、スウィンバーンとしても逆に不安になった。
「あるいは、もう助からないから見捨てているだけかもしれませんが」
「もっと、明るく」
彼女は銜えていたミールワームを中から圧し折った。断面から体液が零れたが、分かたれた半身がそれぞれ蠢いていた。頭が付いた方を、スネイルに差し出していた。
「要りません」
「じゃあ、スウィンバーンに上げる」
「じゃあ。ってなんだ! 要らんわ!」
誰にも受け取って貰えず、諦めて自分で消費していた。そんな、アホ丸出しの状況の最中、部屋に入って来る者が居た。ウォルターだ。
「その調子だと、いつも通り迷惑をかけている様だな」
「えぇ、その通りです。貴方は自分の飼い犬の躾も出来ないのですか?」
「自主性を尊重しているだけだ」
レイヴンが即座にウォルターを支えに行った所を見るに、彼らの主従関係が見て取れた。そのまま、ベッドの隣に出したパイプ椅子に腰かける。
「それで、貴方が私に何か用ですか?」
「単刀直入に言おう。引き抜きに来た。今回の功績を考えれば、それ位は許されるはずだ」
惑星封鎖機構の鹵獲兵器破壊。V.Ⅴの捕獲。猟犬部隊(ハウンズ)が上げた功績は大きい。なおかつ、バスキュラープラントの延伸工事が進んでいるともなれば、ベイラムの上層部はいよいよ上機嫌だった。
ウォルターの提案にスウィンバーンが目を見開いたのも束の間、スネイルは不快さを隠そうともせずに言い放った。
「それで。私に慈悲を掛けてやるとでも? レイヴンを抱えて、私のことも助けてやろうとでも? 思い上がるなよ」
「か、閣下」
何故。とまで言いかけて、流石のスウィンバーンでも理由を理解した。これは、紛うこと無き嫉妬だ。先程まで陽気だったレイヴンも戸惑っている。
「そうか。ならば621は引き続き、俺の猟犬として働いて貰うとしよう。差し出された手を取る気概も無い負け犬のことなど、さっさと忘れろ」
「ウォル、ター?」
スネイルに見せつけるようにして、ウォルターはレイヴンを手繰り寄せた後、部屋から出て行こうとしていた。スネイルの額に青筋が浮かび、スウィンバーンが小さく悲鳴を上げた。
「随分な言いようですね。私が負け犬と?」
「何か違ったことを言ったか? 目の前のチャンスに飛びつけない程度に、自分のプライドの方が大事なのだろう? 勝負すらしていないのだから、負け犬ですら上等だ。この駄犬め」
もしも、これを言っていたのがペイターならばレイヴンも憤慨していたが、普段大人しいウォルターがここまで気勢の強い言葉を吐いていることもあって、ひたすらに戸惑うばかりだった。
「この私に対して挑発ですか。……良いでしょう、精々彼女に見限られない様に、老体に鞭を打つが良い。首を洗って待っていろ」
「そうか。では、期待しておこう。621、戻るぞ」
「う、うん……」
レイヴンに支えられながら、ウォルターは退出した。彼らに合わせるようにしてスウィンバーンも小さく会釈をした後、退出した。……残されたスネイルは、彼女が残して行ったミールワームの半身を取り口に放り込んでいた。
正直、ちょっと分かり辛くなっているかもしれないので。補足。
・このケイト・マークソンってオールマインドじゃないの?
今作では別人として扱われています。この義体ケイトは惑星封鎖機構から派遣されて来たAIですが、オールマインドとは別個体です。
・オールマインドとはどういう関係?
惑星封鎖機構の管理AIの一部が、ルビコン内の変異波形やコーラルから影響を受けて変化したのがオールマインド。と言った具合に取り扱っています。
・ケイトの目的は何?
現状、惑星封鎖機構の当初の目的であるコーラル流出の抑制ですが、正直無理そうなので、管理するなら輸出しても良いよ。と言う妥協ありきでアーキバスと手を組んでいます。
・アレ? ウォルター達の目的と一致していない? 邪魔する必要ある?
自分達に管理権限が無いのはダメなのです。
・なんで、こんなややこしい設定にしたの?
そうしないとアーキバスと惑星封鎖機構が結び付かないので……。現状、ベイラムに戦力が偏り過ぎた為。