戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「1317。エクドロモイについての対策は?」
2機掛かりで攻められているレイヴンを援護するべく、ナイルが1317に助言を求めるが、彼は首を横に振るばかりだった。
「特務部隊は惑星封鎖機構の中でも秘匿性が高い。むしろ、俺はウォルターが機体名を知っているだけでも驚いていた」
構成員であったハズの自分ですら知らなかった機体を、どの様に知りえたのか? 改めて、ウォルターの底知れなさに冷や汗を流していると、当の本人は僅かに口角を釣り上げた。
「ノーザーク。あの詐欺師め。やってくれたな」
「これは……」
ナイルと1317は燃料基地周辺の様子が映し出されているモニタを見た。
621と2機のエクドロモイが交戦している個所から少し離れた所に2機。そして、燃料基地周辺には無数の反応が出現していた。
~~
「……あ?」
何時まで立っても、ラミーに衝撃は訪れなかった。何故なら、ノーザークの銃撃は天に向かって放たれていたからだ。上空へと向かった弾は、存在感を示す様に強烈な赤い閃光を放った。
どうやら、彼が放ったのは信号弾だったらしい。だが、ウォルターからは周囲に伏兵が配備されているという話など聞いてはいなかった。程なくして、マッドスタンプ内に無機質なアナウンスが響く。
『熱源反応多数。来ます』
「おい、ノーザーク。テメェ、何を呼んだ?」
「ククク。ビジネスですよ。私の借金返済と信用回復を兼ねた!」
惑星封鎖機構の兵器が殆ど廃棄され、パイロットや人員も逃走しているというのなら。この基地は使用可能な兵器、価値の高いジャンク、大量の燃料タンクが設置された宝の山だった。
ノーザークから渡された映像のデータを見る。燃料基地の周辺には大量のMTや作業用メカが殺到していた。いずれも機体の塗装は剥げ、装甲は欠け、配線なども剥き出しになっている様なゾンビめいた群れだった。
『おい! ノーザークの野郎! 今度は本当だったか!』
『あのクズ野郎に貸した借金なんて目じゃねぇ! 早く! 他の奴らに取られる前に行くぞ!!』
燃料基地にやって来たのは、その日を生きるのが精一杯な独立傭兵やノーザークから踏み倒された金貸し達だった。
彼ら内部に踏み入ると次々と物品を接収していく。武器や弾薬を掻っ攫って行っては、あるいは無傷な輸送ヘリを強奪して好き勝手に飛び去って行く。
「ひでぇ光景だな……」
「なんたって、彼らはケツの毛まで毟り取ることに慣れている連中ですから」
誰かを攻撃している時間も惜しい。奪い合う様な状況に陥る位なら、誰かが手を付けていない場所へと移動して物品を回収すれば良い。
少しでも報酬を。欲望に目が眩み、他の誰かに取られまいと奥へと進んで行けば必然的に精製プラントがある場所までたどり着く訳で。
~~
『なんだコイツら!?』
「!?」
エクドロモイに搭乗している『特務1級士長』と『特務少尉』に動揺が走ったのも無理はない。レイヴン達が後詰めの戦力を待機させていたとは思えなかったし、戦力と言うにはあまりにもみすぼらしい。
「やっほぉおおおお! 皆ぁああああああ!」
621はこの一瞬の隙を突いた。2機の巧みな連携を捌く為に防戦一方になっていた彼女は、突如として現れた回収者(スカベンジャー)達に飛び込んだ。アサルトブーストを吹かしながら突っ込んで来たので、彼らはパニックに陥った。
「少尉!」
「全員潰せばいい!」
火事場泥棒にやって来た連中は、まさか現在も交戦中であるとは露ほども思っておらず、全員が恐慌状態に陥っていた。
『クソが! ノーザーク死ね!!』
『畜生! 生きて帰ったら、借金を倍にしてやる!』
ある者は直ぐに脱出レバーを引き、ある者は背中を見せて逃げ出し、ある者はレイヴンやエクドロモイ相手に豆鉄砲を放っていた。勿論、効いていない。
「乞食共が! 邪魔だ! 消えろ!!」
放たれたプラズマライフルとマシンガンは有象無象の機体を撃破していくが、レイヴンには届かない。エクドロモイは機動性の為に燃料や弾数を絞っていることもあり、これ以上の無駄撃ちは望ましくなかった。
故に、眼下に広がるゾンビの群れは放っておくことにしたが、彼らを攻撃しないという選択もまた望ましい物では無かった。
『見ろよ! 俺達相手に手も足も出さねぇで逃げてやがる! 惑星封鎖機構ってのは大したことねぇんだな!』
この魑魅魍魎は当然連携などしているはずもなく、先行した者達の悉くが撃破されたことなど知りもしない。加えて、この施設の物品を略奪した成功体験から非常に気も大きくなっていた。
「この……! ゴミムシ共が!!」
「よせ! そんな奴らにくれてやる弾丸が勿体ない!」
壊れかけのマニピュレーターを使ってファッキューをされたり、人間でいう所の尻を見せつけるかのように振舞われているのはまだ良い。相手にしなければ良いだけの話なのだから。
『あっ』
惑星封鎖機構と企業のMTやAC達とは技術の差に隔たりがある。即ち、封鎖機構以外の人間は取り扱いすら知らない者が大半だ。
だから、このスカベンジャーがLCの装備していたレーザーライフルを剥ぎ取ろうと、色々と弄った結果。偶々、損傷が少なく稼働状態であり、銃口が上を向いており、引き金が引かれ。発射されたレーザーがエクドロモイのブースターに直撃した。という事態は、天文学的確率で起きた事故であった。
「……は?」
「士長!?」
レイヴンと戦った末に撃破される。というのは、十分に想定し得る事態だった。だが、どうしてこんなことを予想できただろうか?
火事場泥棒に来た乞食達の予期せぬトラブルで自分が落ちる。確実にレイヴンを追い詰めていたというのに、こんなバカげた出来の悪いコメディの様な落ち方をするとは。
「くそぉおおおおお!!」
地上に落ちたら全員潰してやる。空中で姿勢を立て直しながら、周囲を索敵している時にアラートは無慈悲に告げた。
『優先排除対象レイヴン。接近して来ます』
言葉にならなかった。迫って来たレイヴンが、コックピットで満面の笑みを浮かべている様な気がした。落下していたエクドロモイは全身に弾丸を叩きこまれ、そのまま撃墜された。
「あ、あり得ない……」
特務少尉は絶句していた。こんな、取るに足らないカスに撃破される。
自分達は惑星を治める存在であり、こんな汚らわしい存在に食い荒らされて良い訳が無い。企業と言う暴虐者相手なら納得も出来るが、こんな寄る辺も思想も持たないカス共に。
「レイヴン!!!」
残された少尉はレーザーランスを展開して肉薄する。蔓延っていた有象無象が蹴散らされて行き、エクドロモイの機動性を活かして重ショットガンの乱射を全て回避して、0距離まで近づいた。後はコックピットに矛を突き通せば全てが終わる。
「死ねぇイ!!」
「おっと!」
この場に及んで、レイヴンの機体は宙を舞った。レーザーランスが貫いた先にあったのは燃料タンクだった。特務少尉が瞬時に脱出レバーを引くと同時に、エネルギーの刃が引火して大爆発を引き起こし、エクドロモイを呑み込んだ。
~~
「アーキバスグループ傭兵起用担当V.Ⅷペイターです。燃料基地襲撃作戦の完遂。お見事でした」
作戦終了後、帰還した621達は労いの言葉と共に報酬を受け取っていた。
今回の作戦の顛末は企業間だけではなくルビコン解放戦線から傭兵にまで幅広く知れ渡っていた。
「まさか、惑星封鎖機構の拠点がアリーナの下位と独立傭兵達によって丸裸にされるとは痛快な話でした! こういった夢のある話は、心が躍ってしまいます。当然、貴方が一番の功労者と言うことは我々も把握しています」
「うめっ、うめっ」
ペイターが称賛の数々を述べるが、興味がないのか621は先の作戦で会合した者達から受け取っていた色々な虫を試していた。誰もレーションを始めとしたマトモな食料を渡す気はなかったらしい。
「V.Ⅳからも伝言を預かっています。流石だな、戦友。想像以上だ。とのことです。今後。私の方からも依頼をするかもしれません」
『こんな事態は誰も予想できないでしょうね』
惑星封鎖機構の拠点に大量の強盗を流入させる。補給拠点を潰したことのダメージも大きいが、それ以上に風評被害は甚大だった。
「連中を叩けばどれほど金になるのか。621、今後封鎖機構の拠点を相手取る時には周囲にそう言ったハイエナが湧くかもしれんな」
「はーい」
ペイターの話には一つも興味はないが、ウォルターの言葉にはしっかりと反応していた。彼女の口からは棘の付いた脚がはみ出していた。
「ギャー!!」
「あぁあああああああああ!!」
1317が悲鳴を上げたが、ノーザークの絶叫にかき消された。彼はウォルターへと詰め寄る。
「どうした?」
「どうして、私の報酬が0Cなのですか!? 折半の予定は!!?」
「弾薬、燃料、機体の修理費用。それに、お前の口座に報酬は入れたが一瞬で無くなった。自動で引き落とされたのだろう」
「手渡しで寄こしなさい!!」
「無茶を言うな。紙幣でのやり取りと言う訳ではないんだぞ」
なおもノーザークが抗議を続ける反面、頭に包帯を巻いたラミーもまた自身への報酬が0Cであることを見ながら笑っていた。
「ハッハッハ、俺は構わねぇよ。新生マッドスタンプ代って考えりゃ安いもんだ」
「無敵! 無敵!」
共にパイプに入ったコーラルを吸いながら、ミッション成功の余韻を味わっていた。改めて、ラミーは621を見た。
「(……こんなナリしてやがんのに、これからもコイツぁ戦い続けるんだろうなぁ。あんな化け物達と)」
ラミーも幾度かアリーナに参加したことはあるが、あのエクドロモイ達はACとは次元の違う強さを持っていた。目の前にいるジャンキー仲間の少女はこれからも死線に身を投じ続けるのだろう。
「ラミー?」
「なんでもねぇ。もっと、吸おうぜ!」
快楽と酩酊だけでは紛れない不安があった。ジワジワと脳内にコーラルが染み渡り、ラミーは胡乱な目付きでポツリと呟いた。
「なぁ、アンタ。コイツのこと。頼むぜ」
『え?』
誰に向けた訳でもなく、彼の視線は621に注がれながらも彼女のことを見ているように思えなかった。自らに語りかけられたような気がして、エアは小さく驚いていた。