戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
ベイラム上層部はご機嫌だった。目の上のタンコブであったアーキバス精鋭部隊の頭脳とも言えるV.Ⅱを捕らえ、V.Ⅴまで捕獲したのだから。
ザイレムを陣取っていた勢力を排除し、もはや自分達の躍進を止める存在は居ない。レイヴンが付いてから、全てが順調に回っていた。
「このバスキュラープラントの延伸工事が終わった際には、彼女とウォルターを名誉職に就けましょう。それから猟犬部隊(ハウンズ)の配属を……」
まだ、得てもいない利益を語り出す辺り、彼らの傲慢が見て取れた。
ルビコン内では散発的にアーキバスとの戦いが発生しているが、統率力を欠いた立ち回りが多く、ベイラムに押し返され始めていた。
全てが順調だと思っていた矢先の話である。壁面のモニタ内が突如として乱れ、映像が切り替わった。会議に参加していた者達の困惑を他所に、映像が流れる。
「始めまして。ベイラムの役員の皆様方、私。惑星封鎖機構から派遣されました『ケイト・マークソン』と申します。単刀直入に申し上げます。直ちにバスキュラープラントの権利をこちらに渡しなさい」
緊張に包まれていた会議室であったが、暫くして笑いに包まれた。
「どうやら、惑星封鎖機構はコメディアンに転職したらしい」
「なるほど、我々の偉業を祝福する為にネタを先んじて披露してくれた訳ですな」
誰もが嘲笑していると、映像が切り替わった。ウォッチポイント・アルファの映像が映し出され、駐留させていたベイラムの部隊が次々と撃破されて行く。
『アレは。LCじゃねぇ! 報告に上がっていたHCに。それと――』
通信途中で爆散した。シールドで庇い切れていない部分をエネルギーパイルで串刺しにされたからだ。軽快な機動でMT達を奔走するのは、惑星封鎖機構の特務機体『AAS03: EKDROMOI』だった。
四脚MTも応戦しようとするが、一斉に全身をレーザーで貫かれ爆散した。周囲を漂っていたオービットは、滞空する機体に収納されて行く。
『なるほど、こう使うのか』
見た目は中量程の機体だった。しかし、装備はどの企業の物でもない。
特に異様と言えたのが、オービットを射出する背部兵装がまるで翼の様な形状をしていたことだろうか。左腕部に展開した赤色のエネルギーブレードで次々とMT部隊を切り裂きながらも、同時にオービットが戦場を舞っていた。映像が切り替わる。
「応じる意思が見られなかった為。我々は、強制的にバスキュラープラントを接収します。以後、これらの管轄は惑星封鎖機構とアーキバス共同の下で行って行きます。作業の妨害、あるいは攻撃が確認された場合、こちらには報復の備えがあります。ご了承を」
一方的に告げ、映像は途切れた。先程までの空気は一変し、上層部は喧々囂々となり、現場へ連絡を入れた。
~~
「ということだ。惑星封鎖機構とアーキバスが手を組んだらしい」
ナイルからの報告を聞いて、ウォルター達は驚いていた。真っ先に声を上げたのは、元・惑星封鎖機構所属の1317だった。
「馬鹿な。惑星封鎖機構が企業と手を組むなど!」
「そんなにありえないのか?」
どちらも自分達を虐げて来た組織だったので、ツィイーとしては両者共に似たような物なのだろう。スウィンバーンがすかさず訂正を入れた。
「元々、我々企業は惑星封鎖機構の通達を無視して、押し入って来ているからな。治安維持組織が犯罪者と手を組むなんて、普通はありえん」
「は? アレは惑星封鎖機構が勝手に縄張り宣言しているだけですから。この銀河系全土に通じる法律なんてありませんから」
盗人猛々しいと言わんばかリに開き直るペイターに、アーキバスの魂が表れていた。同時に、こんな精神をした奴らと組まざるを得ない程の窮状に陥っていることも直ぐに理解した。
「また、我々はウォッチポイント・アルファを奪還しに行かねばならない。時間を掛けてはいられん。また、ネペンテスの様な迎撃砲台が設置されたら堪らんからな」
ナイルの見立ては概ね正しかった。先んじてレイヴンが無力化してはいたが、時間を掛ければ迎撃システムまで復旧させかねられない。
「少し待て。俺達で話し合う」
「分かった」
ナイルが退出した後、ウォルターは皆の方を見た。この作戦を受けないと言う選択肢は存在していないが、今後の活動にどれほど影響を与えるかということだ。一度、ペイターが確認をした。
「ウォルター的には、管理を惑星封鎖機構に任せる。と言った考えはないんですよね?」
「あり得ない。そもそも、存在し続ける限り何が起きるかと言うのは、現状を鑑みれば分かるハズだ」
新資源に惹かれた企業が押し入り、搾取と戦いを繰り広げる。外に運び出されれば、同じ様なことが起きるだろう。
「人の手に余る代物だ。だが、惑星封鎖機構的にも焼き払うと言う乱暴な真似はしなかった。あくまでルビコン3内に存在する物質として、観察はしたかったようだが」
元・封鎖機構の一員として、1317は組織のスタンスをよく把握していた。新資源がどの様に作用するか分からない以上、保全して様子を見る。と言うスタンスは、一見すると正しいように思えた。
「その為に、私達ルビコニアンを追い出そうとしていたみたいだけれどさ」
ツィイーが悪態をつく。彼らはルビコンを守りたいのではなく、あくまでコーラルと言う新資源を観察したいだけであり、ルビコニアン達の生活を守ることまでは想定しなかった。
むしろ、企業以外にもコーラルを搾取する存在として疎ましく思われている位だったかもしれない。
「周囲の関心を失せさせるためには、コーラルを焼き払う勢いでやらねば意味がない。保全等と言う、生温い対処では意味がない。そもそも、アーキバスと手を組んだ時点で、ある程度は輸出なども視野に入れているはずだ」
アーキバスも企業である以上、治安維持の為だけに組むはずがない。協力した暁には、惑星封鎖機構から幾らか許可を貰えるのだろう。切羽詰まった者同士が組んだ形ではあるが、中々に厄介だった。
「惑星封鎖機構に現時点でバスキュラープラントを破壊されては困る。ある程度、酸素が薄くなるところまで延伸して貰わなくては、焼き払っても効果が得られない。奪還作戦には参加する。……ただ、HAL826は損傷が酷い」
ザイレムでの戦闘でHAL826はボロボロになっていた。いずれのパーツも設計図はコピーしていたが複製に時間が掛かる故、直ぐに用意できると言う訳では無かった。ペイターに冷や汗が流れた。
「ちょっと待って下さい。さっきの映像でも見た限り、フロイトは惑星封鎖機構の機体を持って来ているんですよね? レイヴン抜きで勝てるとは思えないんですけれど」
「分かっている。以前まで使用していた機体は用意できたが。621、行けるか?」
「難しい」
珍しく、レイヴンが快諾をしなかった。彼女にここまで言わせるのだから、実際には不可能に近いのだろう。
「前みたいにザイレムの中に、また新しい機体があるとかは……」
「ある訳が無いだろう。既にカーラ達が調査をしている」
ツィイーが一縷の望みを掛けて提案したが、直ぐに突っぱねられた。このまま攻略に向わされることを考え、冷や汗を流していると通信が入って来た。相手は匿名だった。ウォルターが取った。
「誰だ?」
「どうも。あなた方に馬鹿にされまくって音声コラまでされたオールマインドです。AIの同一性の侵害に関して抗議します」
「苦情なら受け付けん。切るぞ」
「まぁ、お待ちください」
こんなに人間臭かったか? と、ウォルターは若干の疑問符を浮かべていたが、このタイミングで接してくるのには理由があるのだろう。
「何の用だ? 例の惑星封鎖機構に関してか?」
「その通りです。私達は貴方達と敵対していますが、彼らのことが目障りなハズです。どうですか? 今だけ、同盟を組みませんか?」
「信用ならない。第一、お前達の目的は俺達と相反する」
コーラルリリースがオーバーシア―の目的と反していることは既に話した通りであり、潰し合うことはあっても手を組むことはあり得ない。
「ですが、貴方達はIB:02に乗ったV.Ⅰに対抗し得るだけの機体を所持しているのですか?」
『IB:02。ということは、あの機体はやはりアイビスシリーズなんですね』
「お前達は持っているとでも言うのか?」
「はい。惑星封鎖機構が回収しきれなかった分は、幾らかこちらの手元にあります。どうですか? 再びザイレムにお越し頂けませんか?」
信用ならない。が、HAL826の修繕には時間が掛かり過ぎる。一刻も早く力を手にしたい一同としては、頷く外なかった。
「……こちらは複数で行くが、構わないな」
「えぇ、勿論です。お待ちしております。ハンドラー・ウォルター」
通信が切れた。今までで一番信用ならない取引ではあるが、オールマインドの技術力は侮れたものではない。
「621、休む間もないが。頼めるか?」
「うん!」
今度は快諾した。だが、問題は随伴機だ。ペイターと1317のLCは破損が酷く、マトモに動かせるのはブルートゥのミルクトゥース位だった。
ベイラムの者達も忙しない中、他に頼める人間が居るかと考えた時、皆がスウィンバーンに視線を向けた。
「な、なんだ? 私の機体は大部分が修繕中だぞ?」
「それがですね。実は、我々が捕縛したV.Ⅴホーキンスのリコンフィグは割と原形のまま残っていましてね。技術解析の為に修理していたらしくて」
ホーキンスの機体は、スウィンバーンの機体と一部構成が被っている。また、ジェネレーターやFCSなどはコアに収まっていた為、レイヴンが鹵獲した際にそれらも一緒に持って来ている訳だ。
「俺の方で一部パーツを貸してやる。概ねが揃っているなら、使いこなせるだろう?」
「それなら貴様が、ペイターのデュアルネイチャーを再現すればよいのでは?」
「ある物を使え。俺だって無限に資源が湧いて来る訳ではない」
ウォルターに交渉したが、一部パーツの貸し出しで済む。ということで、スウィンバーンの出撃がほぼ決まった。アーキバスと対峙する訳ではないが、何とも気が重かった。
「一緒にがんばろー!」
「えぇ、ご友人。頼りにしていますよ」
「私、こういう牽引多くないか?」
アーキバスが自分の知っている姿からかけ離れて行っているが、自分の立場は殆ど変わらない気がすることにスウィンバーンは、諦観と同時に……少しばかりの安堵を感じていた。