戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
惑星封鎖機構が再びルビコンに関わって来たという報せは、オールマインド達にも届いていた。彼女達にとっても望ましくない事態であった。
「スッラ、セリア。この干渉は計画に支障を来す物です。対処をしましょう」
「そうだな」
スッラが生返事をして、セリアに至っては反応すらなかった。
彼女らが拠点にしている場所の監視カメラを順番に見て行くと、とある一室にて珍妙な機械が稼働しているのが見えた。
部屋の中央に設置されたVRの筐体にはドルマヤンが入っており、シミュレーターに興じている様だった。中の映像を覗き込んだ。
『小汚い男娼へ。サムは私とVR内でイチャイチャしています。ここならば飢えも争いも何もありません。私達の幸せな様子をお送りしますので、どうかこれを見て独りの寂しさを癒して下さい』
「おぉい、セリア! 今日も一緒にミールワーム捕りに行くぞ~!」
映像内では、白のワンピースと言う清純の象徴を着ておきながら、何故か豊満な胸元を見せつける様にしてえらく開けていた。
一方のドルマヤンと言えば、年甲斐もなく白のタンクトップとジーンズを身に着けて、虫取りアミとカゴを手にしていた。口元に咥えたパイプからは赤い煙がモクモクと立ち込め、煙を浴びた蚊は即死していた。
『は~い、サム。今日はもっとデカいのを捕まえられると良いわね~』
こんな微笑ましい会話をしているが、2人が持つ自然と言う共通認識はルビコニアンしかなかった為、彼らの爽やかとは裏腹に周囲は荒地ばかりだった。
そんな現実逃避VRの映像は、幾つもの中継点を経由して、もはやどこから飛んだか分からない位に複雑難解な足跡になりながら、解放戦線へと送り届けられていた。
「あの駄変異波形、使い物になりませんね。全く、我々を覆う状況と言う物を理解しているのでしょうか?」
「なんだ、お前は理解していたのか」
「当然です。スッラ、今回の任務は我々で行うとしましょう」
スッラとしては皮肉を吐いたつもりだったが、まるで通じていなかった。
もはや、ここに居ても何かを成し遂げられる気はしなかったが、現状は企業の独立傭兵を雇う動きは鈍く、恒常的に依頼を受けられるという点だけでここに居続けていた。
「惑星封鎖機構にバスキュラープラントを管理される様なことがあれば、コーラルリリースの計画は破綻してしまいます。しかし、ハンドラー・ウォルター達がコーラルを焼けば、やはり計画は破綻してしまいます」
「お前の計画は破綻する要素が多すぎないか?」
「重々承知しております。それだけ繊細な手順が求められる作戦なので、こうして少数精鋭で行っています」
「その繊細さが皆目見当たらんのだが」
スッラの指摘を気にすることなく、オールマインドは機器の操作を始めていた。苦情を聞く気はないらしい。諦めて、仕事の話に移ることにした。
「それで、例の猟犬に渡す機体は一体?」
「『IB-07: SOL 644』と言いたいのですが、この機体は我々にとっても奥の手と言える機体です。流石に譲渡する気にはなりません。なので、彼女にはこの片割れの方を与えます」
コーラル集積で撃破されたCEL 240と違い、『IB-07: SOL 644』はかなりの重量機だった。スペックだけを見れば、変形機構なども備わっており常人が扱うのは不可能な様に思えた。
その隣には似たような機体が並んでいた。武装もSOLと同一の物が積まれていたが、カタログを確認すると『有人向け調整:失敗』。と書かれていた。
「この機体は?」
「『IB-06:A(アドバンスド).NUL』と言うそうです。『IB-07: SOL 644』を開発する為の試作品であり、同時に『IB-C03: HAL 826』の様な有人型アイビスを作る為にいじくり回された、実験機ですね」
「運用される前提で作られた訳ではないのか。失敗とはどういうことだ?」
「無人機から有人機への調整と言うのは凄まじく難しいのです。機体の制御機構や設計思想から変えて、なおかつコックピットの空間も作らねばならない。NULは確かに有人機には成れましたが、結果はこの通りです」
オールマインドの操作によってNULのコックピット部分が開かれ、中の様子を見てスッラは頷いた。
「なるほど。確かに、これは失敗だな。だが」
「えぇ。レイヴンになら問題はないでしょう。少なくとも、この争いが終わるまでの間は」
だが、レイヴンがこの機体を使いこなした暁には自分達にとって強大な敵へと変わりかねない。
「対策はしてあるのか? バックドア、遠隔操作権、自爆装置など」
「私も取り付けようと考えましたが、内部のコーラルジェネレーターが干渉して無効化されてしまうのです。なので、細工は出来ないのです」
「ふん。コーラルとは気難しい物だな」
傍と、例のVRシミュレーターの映像を見る。そこでは、白いワンピースを着たバーチャルセリアがサムに対してガチギレしていた。
『人の顔にミールワーム乗せるとか何考えているんですか! 馬鹿ですか! 女子相手にやることじゃないでしょう!?』
「いや、セリアって女子って年でも……」
『はい! 減点! 年の話はタブー! タブーですよ!』
余程、サムに敢えて嬉しい反面。テンションが上がり過ぎて自分の理想であるサムを押し付けられている本人は、楽しい虫取りの時間を強制終了させられてションボリしていた。
「そうですね」
「そうだな」
珍しく、オールマインドとスッラは真面目に仕事に取り込み、セリアに伝言だけ残してザイレムへと発った。
~~
ザイレムには、大破した無人機、MT、LCが野ざらしにされていた。先日行われた戦いの激しさを物語る光景だった。
『レイヴン。この無人機達の中身に有機反応があります。ですが、コックピットのスペースがおかしいです。この狭さでは人間が入れません。何が入っているのですか?』
「スウィンバーン、この中身って」
「……人間だ。アーキバスが捕らえた、敵対関係に当たる者達の加工された末路だ」
少し躊躇いはしたが、スウィンバーンは隠さずに話した。遅かれ、早かれ話す必要はあると考えていた。
『何故、態々人間を使うんだ? AIを使った方が安上がりではないのか?』
「と、カエサルも申しています。そこの所はどうなのでしょか?」
「AIとMTは相性が良くないのだ。惑星封鎖機構が使っていた、マシンの負荷を無視する為にAIを使うなら未だしも、パイロットの代りと言う点ではAIは役に立ち辛いのだ。これはアーキバスでも散々に実験したことだ」
『待って下さい。あの機体の中に入っているのは、敵対されていた方達なんですよね? そんな者達を使って、上手く立ち回れるのですか?』
エアの疑問はもっともだ。アーキバスに忠誠をつくした者が、五体を削り機体を動かしている。ということなら分かるが、むしろアーキバスに害する者達をパイロットに使おうものなら、矛先が翻る危険性すらあった。
「そこら辺は薬物を使えば、どうとでもなる。AIにある程度補助させながら、人間の判断力も添える。本人達は何故戦っているかも分かっとらんだろうな」
非道極まる行為だったが、一切の弁明はしなかった。レイヴンもブルートゥも責めることも慰める真似もせず、静かに頷いていた。
「ご友人、行きましょう。この先が合流地点です」
「うむ。そうだな、2人とも。油断をしない様に。我々の動きも見張られているかもしれんからな。……レイヴン、そう言った物は聞こえるか?」
「今の所は」
彼女の能力は戦闘面以外にも伏兵の探査と言う点でも非常に便利だった。レーダーにも反応が無く、トラップがある訳でもなく。慎重に進んでいく。ウォルターからの通信が入る。
『スウィンバーン、近くに敵影やトラップの気配はない様だ』
「その様だな。このまま、何事もなく行けばいいが」
3機が進み続けた先。頭上からの狙撃などにも気を配り、地下の方へと潜って行った先に、彼女達は居た。
「お待ちしておりました。レイヴン」
「3機か。まぁ、そんなもんか」
スッラのエンタングルだけではなく、見慣れない機体が隣に立っていた。
フェイス部分の形状は何処となくHAL826と似通った雰囲気を感じさせるものであり、背部のブースターからはコーラル粒子が舞っていた。
「それが、レイヴンに貸与すると言う機体か?」
「はい。『IB-06:A.NUL』と言う機体です。これは彼女以外に扱えない代物です。どうぞ、ご確認を」
今まで、オールマインドが動かしていたのか。ハッチが開かれたが、コックピットには誰も居なかった。いや、誰かが入ることも難しい物だった。ブルートゥが声を漏らした。
「このコックピットは、子供が入れる程度の大きさしかありませんね」
「はい。この機体は、無人機の有人機改造の実験機体として作られた物ですので。貴方達も使っていたHAL826の先達とも言えるでしょう」
『レイヴンなら問題なく入れるサイズですが』
レイヴンの少女然とした背格好なら問題なく乗り込める物だった。機体を近付けさせてハッチを開けて、NULのコックピットに飛び込んだ。すっぽりと収まった。
「ちょっと狭い」
「機体性能に関してはおいおい確かめていくと良いでしょう。地上部の方では、練習相手がお越しになられた様ですし」
「なんだと?」
スウィンバーンが再びスキャンを走らせる。すると、先程まで影も形も無かった機体反応が次々と出現していた。少し考えて、直ぐに分かった。
「そうか。上空か!」
~~
ザイレム上空部。スキャンにも、レイヴンの耳にも届かぬ場所からLCが次々と投下され、彼らを指揮するようにしてHCとLC HM型も投入されていた。
「態々、連中と勝負する必要はない。奴らの脱出口を埋めてしまえ!」
HCに搭乗した隊員に指導され、LC達は次々と地上部から地下へと続く出入口を破壊していく。地上部に転がる残骸を蹴飛ばしながら、また新たな無人機がザイレムを駆ける。幾度目になるか分からない、ザイレムでの戦いが再び始まろうとしていた。