戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「スネイル!?」
ザイレムから帰投して休憩を取っていたレイヴンとスウィンバーンは、スネイル暗殺未遂の話を聞いて、直ぐに彼の病室に駆け付けていた。表には見張りも立っておらず、ペイターが傍にいるだけだった。
「おや、レイヴン。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。私が居ますからね!」
「えぇ。大変、不本意ではありますが」
自分のことを殺そうとしたベイラムの人間よりかは、ペイターの方がマシであると判断したらしい。その選択が如何に不満であるかは、スネイルの眉間に深く刻まれた皺が物語っていた。
彼の無事を確認したスウィンバーンは大きなため息を吐いていたが、ここでふと疑問に思ったことがあった。
「閣下がペイターに助けられたとは聞きましたが、貴様は何故ここに? その、言い方はアレだが」
「いやぁ、遠慮しなくていいですよ。私、このハ……コイツのことあんまり好きじゃないですし!」
本人を目の前にして堂々の発言はデリカシーが無いなんてもんじゃない。辛うじて、ハゲ! と言わなかった辺りは、レイヴンに配慮している数少ない気遣いが見えた。……本人に対する気遣いはないが。
「どうもこのバカは自分に新しい機体が配備されたことを自慢したくて、足を運んだそうです。まるで、ガキの様ですね」
「そのガキに助けられているんですよねェ」
スネイルも助けられた手前、言い返すことが出来ないのか。眉間の皺が更に深くなった。レイヴンは2人の交流を見て安堵したような笑みを浮かべているが、スウィンバーンとしては何も安心できる要素が無かった。
「ペイター! 閣下に無礼だろう!」
「私、もうアーキバスじゃないので。つか、スウィンバーンさんもアーキバス&惑星封鎖機構に楯突いたから、復帰は絶望的じゃ?」
「え?」
ザイレムでの戦闘はLCを始めとして、惑星封鎖機構の機体が多かったが、現状アーキバスと手を結んでいる為、謀反と言えば謀反であった。スネイルは眼鏡を掛け直しながら言う。
「おや、もう見限っている物だと考えていましたが。一応、アーキバスへの帰属意識はあったのですね」
「閣下まで!?」
「スウィンバーンはハウンズだから!」
止めと言わんばかりにレイヴンが余計なことを言った。いや、言わなくても言い逃れが不可能な位に馴染んでしまってはいるのだが。
このままでは自らの不義に関して追及されそうな気がした為、スウィンバーンは慌てて話題を切り替えた。
「にしても、閣下を襲った下手人は一体?」
「それに関しては調査中だそうです。流石に部外者である私には教えたりはしないでしょうが、レイヴン。貴方なら話も聞けると思います。……と言うよりかは」
スネイルが言いかけた所で、内線が掛かって来た。ペイターがスウィンバーンに目配せをすると、彼は受話器を取った。相手はナイルだった。
「スウィンバーンか。レイヴンはいるか?」
「はい、一緒に見舞いに来ています。何か御用ですか?」
「丁度良かった。そのまま、取調室に来てくれ。レイヴンが相手ならどんな隠し事も通じないからな」
パイロットとしての技量もそうだが、この少女が持っている特異な能力は交渉ごとにおいては無類の強さを誇る。
「分かった。今直ぐ向かう。……そう言う訳だ、レイヴン。一緒に取調室に来てもらうぞ」
「えー。まだ、あんまり話していないのに?」
「構いません。仕事を終えた後なら、幾らでも話が出来るでしょうから」
「そうですよ! 何かあったら、私が居ますので!」
「……心配だから、私も残っておこう」
ペイターだけを残しておくのはあまりにも不安だったのか、スウィンバーンも残ることとなり、レイヴン1人で取調室へと向かった。
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「早速だが、レイヴン。今から調書を取る。あの二人の心の内を読み取ってくれ。あちら側からはコチラを見られない様になっている。お前の特殊能力に関しても、知っている者は多くないから、遠慮なくやってくれ」
マジックミラーで遮られた先には、スネイルを襲撃したと思しきベイラムの隊員が居た。ナイルに指示され、レイヴンは胸ポケットからパイプを取り出してコーラルを吸引した。
すると、周りの心音や呼吸音すら雑音と思えるほどに精神が研ぎ澄まされて行き、聴取を受けている彼らの声が聞こえて来た。
「納得いかねぇ! 俺の後輩は、アイツに殺されたんだ! なのに、なんでアイツが生きてんだ!? レイヴンが助けたからか? レイヴンと関係者以外に価値はねぇってのか!?」
彼女の顔に緊張が走った。精神を整えるようにして、深呼吸をするとプカーっと赤い煙を吐き出した。彼が心の中で話したことを、そのまま伝えた。
『レイヴン。大丈夫ですか? かなり、緊張されている様ですが』
「ん」
「……耐えられなくなったら言ってくれ。その時点で切り上げる」
ナイルにも彼女の変化は感じ取れたのか、慎重にことを進めるようにと周囲のスタッフに指示を出していた。マジックミラー越しの聴取は進む。
激昂した彼を落ち着けるようにして、周囲の警備兵が抑えに掛かった後は、表面上は大人しく話している様には見えたが。
【何が猟犬部隊(ハウンズ)だ。それまで、命掛けて戦っていた俺達のことはどうでも良いってのかよ! お前だって、俺の後輩のことを知ってんだろ!? ザイレムの警備隊長任されて! 給金も増えて、家への仕送りも増やせるって喜んでいた! なのに、あのアーキバスのクソ野郎が殺したんだ! だけど、誰も裁きやしねぇ! 理由は知ってんだよ! アイツがレイヴンのお気に入りだからってこと位な!! 他にも同じことを考えている奴はいるぜ!】
ジワリと脂汗が浮いていた。戦場においてもここまで彼女が窮地に追い込まれることは珍しく、日常でこんな状態になっているレイヴンを見るのは、エアも初めてだった。
『レイヴン。この辺りにしておきましょう』
「まだ、大丈夫」
口では言いながらも、彼女も理解せざるを得なかった。彼女が幾ら抜けていると言っても、自分が行ったことまで目を逸らせる程、器用でも無かった。
激昂している男とは別に、もう1人の襲撃者の方にも意識を向けた。彼は俯いたままボソボソと話していた。
「尋問官さん。アンタも知っているでしょ? 連中は捉えた捕虜を加工して、無人機に組み込んでいるってこと。俺のことを指導してくれた先輩が、この間。無人機のパーツとして見つかったんだって」
【……戦争にもルールがあるってこと位は分かっているよ。でも、先にルールを破って来たのはアイツらだろ? なんで、俺達だけがずっと守り続けないといけないんだ?】
命を助けたとしても罪が消える訳ではない。それでも償う為に生き続けなければならない。……と言うのは、傍観者の正論だ。犠牲になった関係者達からすれば、そんなことで納得できるだろうか?
そして、彼が凶行に走った原因の一端は、恐らく自分が握っているのだろうと、感覚的に理解していた。軍規的に考えれば、彼らの行動は決して認められる物ではない。しかし、行為に及んだ理由は理解できてしまうのだ。
「……よし、ここらで切り上げよう。少し、スタッフの配置を考えねばならんな」
ナイルは床に落ちたパイプを拾い上げ、レイヴンに手渡した。どうやら、気づかぬ間に落としていたらしい。落したことにも気づかない位に、別のことに気を向けていた。とも言えるが。
「ねぇ、ナイル。私」
「皮肉な話かもしれんが、お前が願った未来を望んでいない奴もいるんだ。辛い話に付き合わせてしまったが、おかげで必要な情報は収集できた。こんなことを聞かせてしまった手前、スネイルの安全は確保しよう。約束する」
これ以上、聞かせるのも酷だと思われたのか。レイヴンは退出を促され、黙って出て行った。
『……私達が彼を許せるのは、被害を出されていないから。なんでしょうね』
彼女には、被害を出させないだけの強さがある。だが、彼女以外の者達はそうでは無い。……もしも、スネイルのせいでウォルターや誰かが犠牲になっていた時、果たして自分は彼を許そうと思えたのか?
答えが出ない。と言うよりも、出したくない。と言うのが正直な所で、レイヴンはパイプに火を付けてコーラルを吸引した。彼女にしては珍しく、咳き込んでいた。