戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】 作:ゼフィガルド
「そんな経緯があったのか」
「そうだ! 他のヴェスパー部隊長は未だしも、V.Ⅱに関してはあまりにも遺恨が多すぎる!」
ウォルターはミシガンから事の経緯を聞いていた。捕虜の扱いと言うのはセンシティブな物であり、むしろ今まで問題が起きなかったことの方が珍しい位なのだ。それだけ、G1が規律を徹底していたことも分かる。
この話は、警護に当たっているペイター、スウィンバーン、レイヴンを除いた猟犬部隊(ハウンズ)を同席させた上で行われており、ツィイーが手を挙げた。
「それなら、ウチらに加入させたら良いんじゃない? そうしたら、簡単に手出しも出来なくなると思うし」
「ツィイー。残念ながら、スネイルの立場はそう簡単な物じゃない。彼は、アーキバスのルビコン進出における実質的な指導者だ。ベイラムからすれば交渉から、情報源と。使い道は山ほどある」
1317が補足を入れた。然程、戦いが過熱していない頃に追放されたアーキバスを追放されたペイターや、ザイレムで捕縛されたスウィンバーンの加入も、下位ナンバーだった故に見過ごされたのだろう。
しかし、2番隊長のスネイルともなれば話は違う。アーキバスの情報源に取引材料など、使い道は山ほどある。だから、治療を施され、護衛も付けられる程の待遇を受けていた。
「ミシガン。ベイラムとしては、奴をどの様に扱うつもりだ?」
「情報を引き出すことに関しては、薬の使用などをするつもりはない。G13を使えば、然程難しくはないだろうからな」
彼女の特殊能力もあるだろうが、スネイルの執着ぶりを利用することも考えての発言だった。ウォルターは続ける。
「では、その後だ。アーキバスとの交渉にも使うつもりか? 捕虜の返還交渉に関して、スネイルを使えばかなりの条件を引き出せそうだが」
「そう思っていたがな。実際にどうなるかは分からん! アーキバスが惑星委封鎖機構と手を組んだからな!」
ルビコンを封鎖していた組織であり、企業の進出を阻んでいた者達。
彼らからすれば、アーキバスと手を組む上で頭脳が去ったのは都合は良かっただろう。今更、彼の返還を求めるかどうかは微妙だった。
「ベイラムとしても持て余しそうではあるな」
「そうだ。上層部の連中は今、初めてのデートプランを考える少年の様に慎重になっている! だから、手札は少しでも多く! どんな事態にも対応できる構えはしておきたいのだろう!」
ここまで積み立てて来たご破算となれば、どれだけの損失を被るだろうか。企業としては、最も慎重な立ち回りが求められる時期だった。
スネイルを手元に置いておきたいのも、正にその一環だった。いざと言う時はアーキバスの交渉材料として使いたい。あるいは、彼を餌に猟犬部隊(ハウンズ)をより強く引き止めたいという考えもあるかもしれない。
「何処に居ても厚遇される。ということから、彼の能力の高さが伺えますね」
『実際に、奴は戦略家、指揮官、パイロットの3つの役割をこなせるのだろう? その上、あの『アーキバスバルテウス』と言う怪物にも乗りこなせる程の能力も持っている。手元に置いておきたいと思うのも無理はない』
ブルートゥの考えにカエサルが相槌を打った。しかし、今はその能力の高さが災いして、問題を起こしている訳だが。
「そこでだ! 上層部はお前達にスネイルの護衛を任せたいそうだ! 引き入れることも考えているなら、悪い提案ではあるまい!」
「実際に引き入れられるかどうかは別だとして、俺達以外に任せるのも不安な所だろう。お前達の意見は?」
1317とブルートゥに反対する様子はなかったが、ツィイーは難しい表情をしていた。彼女もまた企業から搾取を受けていた者の1人なのだから。
「やるよ。居ても出来ることが殆ど無いし」
「分かった。ミシガン、全員の意見は聞いただろう。引き受ける」
「よし。ならば、俺は全員に伝えて来よう! 今度、カタツムリに手を出す奴がいれば、無事では済まされないとな!」
そう言って、ミシガンは退室した。そして、直ぐに端末に先程の通知が届いた。だが、これを超えてもことを起こす人間が居るだろうから、決して安心できる物では無かった。
~~
スネイルの警護を務めていたペイター達の端末にも決定について流れて来た。スウィンバーンは少し考え込むような表情をして、ペイターは明らかに嫌そうな表情をして、レイヴンはぴょんぴょん跳ねていた。
「賢明ですね。ただ、一つ抜けがあるとすれば、私のことを殺害しようとした輩が混じっていることですが」
「でも、先程助けたのでイーブン!」
ペイターの中では、過去の殺人未遂も先の救出で帳消しとなっているらしいが、スネイルとしては到底納得できる所では無かった。
「未だに、貴様が閣下のことを助けたのが信じられんが……」
「いや。私、コイツのことは嫌いですけれど、業務とは別ですから。嫌いだから殺すってヤバ過ぎでしょ!」
あまりにも爽やかな笑顔で殺害を業務と割り切る恐ろしさに、スウィンバーンは震えあがった。
「私は偶にお前が恐ろしい何かだと思ってしまうのだが」
「皆、公私混同し過ぎなんですよ。ね、レイヴン?」
「うんうん」
正に、公私を一つも分けていない彼女に問うて同意を得ようとするのも、ロジックが破綻している気がした。マトモに考え過ぎているだけかもしれない。
彼らがそれぞれの反応を示していると、ノックの後。扉が開かれた。ウォルター、1317、ブルートゥの3人が居た。
「交代の時間だ。襲撃があってから、結構な時間も経っているだろうからな」
「助かります。では、私はホーキンスさんと面会に行ってきますので。お二人はどうしますか?」
ウォルターから交代を告げられ、ペイターは飛び出していく前に振り返って2人に問うた。
「私は一旦、部屋に戻って仮眠を取らせて貰う。流石に少し疲れた。レイヴン、貴様はどうする?」
「ウォルターと話がしたい」
先程までの天真爛漫な様子から一転、彼女が滅多に見せることのない不安な様子を気取ったのか、ウォルターは頷いた。
「構わない。場所を変えるぞ。スウィンバーン、ご苦労だった。1317、ブルートゥ。後は任せたぞ」
「分かった」
「えぇ、ご友人。お任せください」
『しっかりと! 見張っておくからな!』
2人と1人(?)に警護を任せ、ウォルター達は人気の少ない場所へと移動した。
スネイルの襲撃事件の後、下手人達の事情聴取の際にレイヴンに協力を頼んだ。と言う話は、ナイルから聞いていた。……その際、彼女の能力で何を聞き取ったかも。ウォルターが促した。
「何を話したい? ゆっくりでいい。エアと相談しながらでも良い」
「……うん」
色々な感情が綯い交ぜになっており、彼女の頭だけでは言葉として紡ぐがの難しい状態だった。しかし、彼女は独りでは無かった。
『レイヴン。ゆっくりと整理しましょう。スネイルのこと。ベイラムの人のこと。この二つに絞ってみましょう』
手探りで何を選べばいいか分からない状態よりもグッと話は選びやすくなった。少しずつ整理を付けて、レイヴンはボソボソと話し始めた。
「ウォルター。スネイルは、生きていちゃいけないの?」
「どうして、そう思った?」
「ベイラムの人達。凄く怒っていた。大切な人が殺されたって。だから、スネイルも殺すって」
彼女の言葉を否定するのは簡単だった。私刑は許されないということは規律にも定められており、捕虜への虐待は許されない。……と言う定型文の答えを求めている訳ではないということ位は察している。
ウォルターもまた、自らの経験を顧みながら、諭すようにしてレイヴンへと語り掛けた。
「人を傷つければ恨まれる。恨みは殺意と報復を生み出す。過ちを犯したスネイルが許されることはない」
厳しい口調だった。だが、ウォルターはスネイルが犯した罪を軽く見てはいなかった。非人道的とも言える無人機の生産、これらを運用したことによって生み出された死傷者は多数に上る。罪は消えることは無い。怒りも、恨みも、執念も晴れることは無い。
「だから、罪を犯した人間は生きて、背負い続けなくてはならない」
ウォルターの声に力が籠る。決して、他人事などでは無い。実感と信念が込められた、力強い物だった。
「スネイルも?」
「そうだ。死んで終わりにするなど、許されることではない。恨まれ、蔑まれるだろう。それでも奴には生きて貰う。621、お前はどうしたい?」
積み上げた立場は崩れ、残ったのは怨恨と侮蔑。死んで終わりにすれば、楽にはなれるかもしれない。だが、彼の立場ではソレが許されることは無い。
ウォルターの厳然とした話を聞いていたレイヴンは、話し始めの時は不安気だったが、今はそんなことも無く。確固たる決意を秘めたものに変わっていた。
「うん。じゃあ、私。スネイルのこと、助ける」
「楽な道ではないぞ」
「大丈夫! 皆もいるし!」
全員の協力を取り付けた訳でもないと言うのに、彼女の顔は不思議な自信に満ちていた。そうと決まれば話は早く、彼女は来た道を引き返して彼の病室へと向かって行った。……そんな彼女の後姿を見ながら、ウォルターは独り言ちた。
「そうだな。俺もまだまだ生きねばな」
老体に鞭を打ち、杖を突きながら部屋へと戻る。そして、通信機を取った。通知名には『シンダー・カーラ』と表示されていた。