魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの半廻天〉   作:カメン病

12 / 13
淫獣編,中

 

 

 

 

 ここはまどか☆ほむらの手によって改変された世界。円環の理が再度完全に機能し、地上から魔女が消え去ったのは悪魔ほむらが改変する前と同じである。

 

 「何…………ですの…………? この………記憶………???」

 

 仁美は洪水の様に頭に流れ込む、まどか☆ほむらが改変する前の世界に居た自分の記憶に、満身創痍になっていた。

 

 「何って、これが君の望みだよ。君が願ったんじゃないか、僕に『さやかの事を教えてほしい』って。」

 

 淡々と仁美の問いに答える、記憶を流し込んだ張本人はキュゥべえに良く似た存在だった。一見瓜二つだが、模様や目の色や形など細やかに違う。まるでキュゥべえの間違い探しだ。少なくともルゥしいやミッきいよりは似ていた。

  

 「ともかくこれで契約成立だね、君の祈りはエントロピーを凌駕した。受けとるといい、それが君の運命だ。」

 

 そう言ってキュゥべえが仁美の追憶と同時に作り出した物体は、これまたソウルジェムに似た何かだった。一応金具自体は従来のものと変わらないが、肝心の宝石が小さい。金具とのサイズのギャップを埋め立てるかのように、一回りが硝子でできている。半分イミテーションなのだ。名前もまんま『半ソウルジェム』

 そのデザインは、勿論宝石としての迫力はソウルジェムに劣るし、アクセサリーとしても周りの硝子が、返ってみっともなく背伸びをしているような印象を与える何だかちぐはぐなデザイン。

 まるで王子様に自分をシンデレラだと思わせようとした者が、無理に履いた硝子の靴で靴擦れを起こしているようにも見えた。

 

 「………これが………私の運命…………?」

 

 初めて見るソウルジェムもどきの違和感に、仁美は気付けない。

 

 「言っただろう? 僕と契約して──」

 

 勿体振らずに言ってしまうと、彼は本当にキュゥべえである。以前の世界線とは姿形が変わってしまっても、魂が変わっていなければそれは同一存在と言えるならば。……但し、

 

 「魔法少女になってほしいんだ。って。」

 

 彼は魂が同じでも『何か』が変わってしまっていた。以前の彼なら言わなかった『真っ赤な嘘』を吐くようになってしまっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 見滝原のとある人気のない廃墟が、二人の少女の修羅場と化していた。

 

 「ねぇ、やめてよ……。どうしてこんなことするの…!? 貴方は……こんな酷い事する子じゃなかったよね……?」

 

 どうやら修羅場と言っても、加害者と被害者ははっきり分かれているようだ。

 加害者は魔法少女、被害者は一般少女のようで、魔法少女が一方的に一般少女を武器で傷付けている。はっきり分かれているのは戦力差もだった。実際血を流しているのは一般少女のみ。

 本来魔法少女に守られる筈の少女が、魔法少女に攻撃されるとは何事か。

 

 「私……何かしたかな……。私達…友達じゃ………」

 

 一般少女は、自分が今向けられている敵意に全く身に覚えがなかった。それが友達からの敵意なら尚の事。堪らず本人に理由を聞くが、その返答に一般少女は更に混乱する。

 

 「その通りね。貴方は私に何もしてないし、私の大切な親友よ。……だからこそなの♡ 信頼していた私に裏切られた、貴方のその驚きと恐怖に満ちた顔が見たかったから……、今日まで我慢してたの………。」

 

 驚きというより混乱。恐怖というより混乱。一般少女にとって、昨日まであんなに仲の良かった大の親友の正体が、サディストのシリアルキラーだった事実はただただ現実味がなかった。

 

 「う…そ…だよね……。」

 「そうね。たとえ貴方と今日まで過ごした日々全てが偽りでも…、貴方の最期でくらいは嘘吐かないわ♡」

 

 サディストのシリアルキラーが再び武器を構えたところで、やっと一般少女の諸々が混乱に追い付いた。

 

 「い……いやああああああああ!!!! 誰か…助け──」

 

 一般少女は助けを呼ぶが、望みは薄かった。それはここが無人の廃墟なのもあるが、そもそも二人は結界の中に居るからだ。悲痛な叫びも外界には非通知という訳だ。

 寧ろ叫ぶだけ結界の住人を呼んでしまいそうだが、そこに関しては心配無い。何故ならこの世界線に魔女は居ないのだから。この結界は魔女の結界ではなく、二人が魔女に襲われる心配は無いのだ。

 では、この結界の住人は誰?というと、それは最初から一般少女の目の前に居る。この結界は、魔法少女が一般少女を閉じ込める為に展開した結界だった。

 それは決して、今世界線の魔法少女だから出来るという訳ではなく…、そもそも加害者の正体は厳密には魔法少女ではない。『偽魔法少女』と総称されるその種族の詳細な説明は後回しするとして、とにかく今重要なのは一人の少女が、絶体絶命の危機に瀕しているという事だ。

 

 「──いいや、今だけが嘘だね。」

 「!!?」

 

 一般少女を追撃しようとした瞬間、 背後から聞こえた謎の指摘と共に謎の攻撃を受けた偽魔法少女。それは槍による刺突で、偽魔法少女は咄嗟に振り向き自分の得物で防御する。

 その指摘と攻撃の主は佐倉杏子。どうやら一般少女の叫びは届いていたようだ、本物の魔法少女に。

 次の瞬間一般少女が廃墟の別の棟の屋上に、超高速で吸い込まれた。どうやら偽魔法少女が杏子に気を取られている内に忍び寄った、黄色いリボンの仕業のようだ。

 

 「!!!」

 「彼女の友達から離れなさい。彼女の偽物さん?」

 

 屋上で一般少女を優しく受け止めたのは巴マミ。本物の魔法少女が二人も。

 

 「はああぁぁーーー!!!」

 

 一般少女を巻き込む心配が無くなると、杏子は容赦無く槍術の暴風雨を浴びせ、それに応戦せざるを得ない偽魔法少女。屋上のマミ達を気に掛ける余裕は無い。

 

 「アミコミケッカイ!!!」

 

 杏子が、自身の多節棍の槍を模した結界を発動する。他世界線では基本的に敵の分断や拘束に使われてきた技だが、何と今世界線では杏子自身と敵である偽魔法少女を、同時に拘束した。二人が完全に密着したおしくらまんじゅう状態で。

 

 「何を…!? まさか!」

 「ティロ・フィナーレ!!!!」

 

 偽魔法少女が、杏子達の意図を理解した時には遅かった。マミの放った一撃が偽魔法少女を杏子ごと撃ち抜く。

 次の瞬間、アミコミケッカイと杏子だけが陽炎のように揺らいで消えて、偽魔法少女だけが後方の壁まで吹き飛ばされた。ロッソ・ファンタズマを切らせて敵をティロ・フィナーレする、杏子とマミの狡猾な合体技である。

 

 「残念、私達も嘘吐きなのさ♡」

 「がはっ……!」

 

 全身強打により、急所であるソウルジェムのイミテーション…、まんま『偽ソウルジェム』が変化した装飾も砕け散り、偽魔法少女はそのまま倒れ込み動かなくなる。マミと杏子の勝利のようだ。その証拠の様に、偽魔法少女が張っていた結界も消え去る。

 しかし何だか既視感のある結界の景色だった。いや、外界の見滝原をまんま再現していて、無人にしただけの結界だから既視感があって然るべしなのだが。しかし他世界線で見られた結界と違って、結界の主の性質を全く反映していなそうなのは偽魔法少女という、今世界線限定の種族ならではなのか。…果たして、かつて干渉遮断フィールドの中でほむらが作り出した、偽りの見滝原と似ているのはただの他人の空似なのだろうか?

 コローン、と、偽魔法少女の側に何かが落ちた。それを近くに潜んでいた本物の杏子が拾う。その見た目は一見ソウルジェムだが…

 

 「……うえー、こりゃまたえげつない量溜まってんなー…。」

 

 よく見ると従来のソウルジェムとは異なっていた。別に宝石は本物みたいだが、宝石の中に更に別の色の宝石が詰まっている。結果宝石の色にコントラストが生まれ、何なら従来のソウルジェムより美しいと感じる人も居るだろう。

 杏子がえげつないと言ったのは、その『インクルーデッド』に溜まる穢れの量である。正確にはインクルーデッドの外側の宝石『クリスタル』だけに溜まる穢れ。

 

 「さて……。はぁ、これだけは慣れねーな。」

 

 そう言うと杏子は変身を解きながら、たった今拾ったものはマミに投げ渡す。そして元々持ち合わせていた別のクリスタルを取り出し、自分のソウルジェムにコツンと当てる。

 その行為は、他世界線でソウルジェムの穢れをグリーフシードに移す行為に似ているし、実際に杏子のソウルジェムの穢れはクリスタルへと移り始めた。インクルーデッドにはグリーフシードと同じ機能があるのだ。

 これがグリーフシードもグリーフキューブも無い現世で、ソウルジェムを浄化する唯一の方法である。

 パリンッ、と、音を立ててクリスタルだけが砕け散る。クリスタルが受け入れられる穢れの上限…つまり、インクルーデッドの上限の丁度半分に達した証拠だ。

 それで丁度杏子のソウルジェムに溜まった穢れも一掃できたので、杏子は残った内側の宝石『インクルージョン』は使わず取っておく事にした。

 

 『あり…がと…う…』

 

 その際に、砕け散ったクリスタルに囚われていた兼、円環の理から亡命していた元少女兼半魔女の魂が、杏子達に感謝する声が聞こえた気がした。浄化されたのだろう、とても穏やかな声をしていた。

 

 「……………………。」

 

 それ自体は良い事だが、杏子は複雑な気持ちになるしかない。

 

 「ごめんなさいね、貴方もすぐに解放して上げるから。少しの間…辛抱して頂戴。」

 

 先程杏子から受け取ったインクルーデッドのクリスタルの中にいるであろう、別の元少女兼半魔女の魂に断りを入れるマミ。すぐにでもマミの穢れを与えて円環の理に導かせてあげたいところだが、マミにもマミのペース配分がある。こればかりはどうしようもない。

 

 「………たく、厄介だぜ。偽魔法少女って奴ぁ。…いや、偽インキュベーターか。」

 

 魔法少女とシンデレラの違いの一つは、本物にも偽物にもカボチャの馬車が用意されているところだ。行き先は意地悪な姉が待つ家でも、王子様の住む城でも無い、天使と堕天使が織り成す舞踏会の会場だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現世が悪魔ほむらが改変する以前の世界と違う部分の一つに、マミと杏子の認識があった。ほむらと同じ様に二人も数多の前世の記憶を有していて、世界の成り立ちを理解しているという事である。

 前世を覚えていると言っても生まれた時からではなく、暁美ほむらが見滝原中学への転校直前にベッドの上で目覚めた段階で、ほむら本人を含めて漸く思い出すのだが。それまでは皆パラレルワールドの存在など想像した事も無い人生を送っていた。

 だから現世の二人は目の前で、さやかが円環の理に導かれた時は普通に悲しんだ。それはほむらの目覚めの前に起きていて、さやかを含めて誰も天界の存在など知らなかったからだ。

 …そう、教えられていない。円環の理の中にある社会と住人について、見滝原組だけではなく地上の全ての魔法少女には。

 ミッきいから契約前に教わるのはあくまで『魔法少女の過酷さ』と『円環の理』の存在だけである。ミッきい達も教えたいのは山々だが、死後の世界の認知による危機意識と労働意欲の低下や、愛する者との再会の確信がトリガーとなる悪魔誕生防止の為仕方無い。

 しかしそんな中特例で前世を思い出したマミと杏子は今、さやかにまた会えると知って少し前向きになった訳だが…

 

 「……最速記録なんじゃねーの? ……あいついっつもソウルジェム濁らせてんな……。」

 

 結局滅多に会えないから悲しい事に変わりは無い。その鬱憤を晴らす様にさやかの偉業を揶揄する杏子。

 それに対して、現在杏子と一緒に見滝原市をパトロール中のほむらが片手間に意見する。

 

 「この世界では魔女になった訳でもないし、許してあげないかしら? まぁどの世界でも…魔女になるのを承知で濁らせてる訳では無いでしょうけど。」

 

 ほむらはさやかをフォローしたが、納得しない杏子。

 

 「──にしたってあんなに何度も置いてくかよ?」

 

 杏子は何度もさやかを失った記憶も取り戻した結果、少し堪えてしまっていた。しかしそれは悲しみより怒りでである。寂しい思いをさせられる身にもなってほしいという怒りだ。

 

 「……さやかの方も円環の理に導かれた際、何度も仲間を置き去りにした記憶を思い出している筈よ。きっとその事について申し訳無くなっているわ。」

 「………そうだな。今度あったら土下座してもらって、滅茶苦茶に奢っもらうよ。一店舗分のドーナツ買わせるとかな。それでチャラだ。」

 

 今度こそほむらのフォローが響いたようだ。杏子ももう存在しない過去の事を引き摺っても仕方無いので、笑い飛ばす事にした。

 

 「さやかはお金持ってるのかしら?」

 「あいつは親衛隊ってのに勤めてるらしいし、羽振りはいいだろ。それにこっちの通貨は持ってなくても、天界にもドーナツ屋はあるらしいしな。」

 「……親衛隊は意外と安月給だって聞いたけど……。」

 「マジかよ? ……またボランティア精神で根詰めてなきゃいいが…。」

 

 お互い天界の話については、ミッきいから聞いた曖昧な情報だけだが会話を楽しんだ。

 

 「っと、そう言えば……。今日は私の慰めじゃなくて…あんたが私に相談あるんじゃなかったっけ?」

 「…そうね。…………志筑仁美の話なのだけど……、」

 

 ほむらは現世でも、仁美とさやかと同じクラスに転入していた。

 

 「仁美をどう慰めればいいかって話か?」

 

 数多の前世の記憶から、杏子はこの世界でも仁美の事をよく知っていた。故にほむらの悩みも予測出来る。

 現世の仁美視点のさやかは、数多の前世と同じく蒸発しているのと変わらない。親友の消息不明で悲しみに暮れる彼女を、放っておくべきかどうかでほむらは悩んでいたのだ。

 

 「そう。その上タイミングの悪いことに、志筑さんも上条君と付き合い始めるのが早かったから……。」

 「…ああ成程、上条を取られたショックで蒸発したと思ってる訳か……。そりゃあ大変だ。」

 

 結果仁美は自分を責めてしまっている。それは事情を知るほむらには尚更見るに堪えなかった。

 

 「…ま、見守るしかねーだろ。幸いこの世界には魔女もナイトメアも居ねーから、あいつの負の感情が必要以上に促進される事はねー…。下手に刺激せずいつも通り接すれば……。」

 「でも、偽インキュベーターが居るわよ。奴らに弱った心を利用される前に、何か手を打つべきかも…。」

 

 『偽インキュベーター』とは名の通りインキュベーターとは別の、現世で新たに生まれた種族である。偽魔法少女を生み出し、人を襲わせる魔法少女の敵である。

 

 「でもさー、流石に私達の知り合いに手は出さねーだろ、あいつらも。こっちには魔法無効化の九兵衛も居るんだしさ。」

 

 偽インキュベーターの前世はキュゥべえで、ほむら達と同じく前世の記憶を有している。現在敵対関係である神まどかの友達だった仁美に危害を加えるのは、文字通り神の怒りに触れる事を理解している筈だという杏子の意見。

 

 「でも、堕天使軍に手を焼いてる現状、全面戦争したくないのはまどかだって同じ筈。偽インキュベーターがその弱みをついてきたら…、」

 「やれやれ、君達の会話は、とてもかつて悪魔だった者同士の会話とは思えないね。」

 「………………。」

 

 二人の会話に挟まってきたのは、実はずっと二人と一緒にパトロールしていた魔法少女九兵衛。前世で神まどかに願いを叶えてもらい、人の形を得た“もう一人のキュゥべえ”だ。

 

 「ほむら、君は前世で散々己の欲望の為に魔女を生み続けていたし、杏子も、敢えて使い魔の成長を見逃していたそうじゃないか。それなのに、一体いつから自分以外の身を案じる“神の心”を持つようになってしまったんだい?」

 

 博愛にしろ純愛にしろ、人ならざる狂気を抱いたまどかとほむらに憧れた為、二人が混ざり合ったワルプルギスの夜の容姿を借りた元キュウべぇは、変わり果ててしまったほむらへの落胆?を口にする。

 

 「………………友達への心配を浮気扱いは、初心が過ぎるんじゃないかしら? 第二次性徴期の少女さん?」

 「ああ、すまない。君はまどかの悲しむ顔が見たくなくて仁美を心配しているんだよね。君は元々まどかの知り合いは極力助けようとしていたんだっけ。」

 

 あくまでほむらの心変わりを認めない厄介ファン。

 

 「だったらいっそ、仁美も魔法少女に勧誘するべきじゃないかな。そうすれば彼女にもしもの事があっても自衛させられる。何よりさやかの真実を伝える事ができるしね。」

 

 一見合理的な提案をしてくる九兵衛。だがほむらと杏子は乗り気では無い。

 

 「貴方がまだ人間の人生の価値を理解していなくて残念だわ、九兵衛。」

 「失礼だなぁ、これでも謳歌しているつもりだよ。まどかの分もね。」

 「………お? 噂をすれば。」

 

 杏子が視界の端に何かを捉えた。それは文脈から分かる通り仁美である。仁美が居たのは恭介が入院している病院の屋上だった。

 

 「こんな時間に上条のお見舞いか? 甲斐甲斐しくて──!!?」

 

 今は真夜中な上に、杏子とほむらの現在地は病院から遠く離れた建物の上だ。その光景は魔法少女の視力を以て初めて捉える事が出来る。だからワンチャン見間違いかもしれないが、何かおかしい。

 屋上にもう一人……、否、もう一匹居る。小動物のシルエットが仁美と向き合っていた。

 その小動物は偽インキュベーターで、仁美が何か話し終わった後兎の様に長い耳を動かし、仁美の胸に翳す。

 

 「まさか…!!」

 

 杏子とほむらはその光景に、恐ろしい心当たりがあった。杏子が居ても立っても居られなくなり、魔法少女姿に変身する。

 

 「 マミに連絡してくれ!!」

 

 杏子は万一に備えてそう言い残すと、ビルの屋根を流れる様に飛び移りながら、あっという間に病院の屋上に辿り着く。そして間近で恐ろしい心当たりの答え合わせをする。

 

 「が…う…ああ!!」

 「ヤロー…!!!」

 

 ビンゴだった。それはこの章の冒頭でもあった『偽契約』の現場。偽インキュベーターが仁美を偽魔法少女にする瞬間だ。胸元を光り輝かせながら半ソウルジェムを産卵する際の苦しみに喘ぐのは仁美…だけではなかった。

 なんと偽インキュベーターも、自身の胸元から仁美のとは別の半ソウルジェムを産卵…というか、その際の輝きで破裂した様にボディを雲散させ、まるで自身が化け狸の様にドロン!と半ソウルジェムに変化した様だった。

 まだ偽契約は終わらない。計二つの半ソウルジェムは空中で渦を描き衝突すると、互いの硝子部分を砕いて中の宝石を融合。インクルーデッドを誕生させた。直後、砕けた硝子同士も融合し偽ソウルジェムも誕生すると、双子は減速しながら逆回転の渦を描き床に着地した。

 これで偽契約は完了。仁美は偽魔法少女となってしまった。

 一足遅かった杏子は気を失った仁美が倒れる前に、多節棍の槍を体に巻き付けて傾かせていた。そして仁美を手繰り寄せ脇に抱える。

 

 「佐倉さん!!」

 

 ほむらと九兵衛も、杏子の言い残した通りマミへ連絡した後病院の屋上にやってきた。

 

 「九兵衛!!」

 「分かってる!」

 

 一足遅かっただけで手遅れではなかった。錬金術師のような魔法少女姿の九兵衛が持つ、ほむらの盾に似ている己の盾を一回転させたからだ。九兵衛の固有能力『魔法無効化』を仁美にも発動した証拠である。

 九兵衛は『人間になりたい』という願いから魔法少女になった、『矛盾』を性質とした魔法少女である。結果得たのは“任意の対象を人間に変化させる力”。インキュベーターミッきいとの接触前から魔法が使えた、生来の魔法少女である九兵衛はこの力を自身に使う事により、初めて人間に変身する事ができるのだ。

 勿論使用中はソウルジェムの穢れが溜まり、溜まり切れば魔女になるのは他の魔法少女の固有能力と同じである。つまり無条件で対象を人間に戻せる訳では無く、他者に使用する場合はその対象の魔法少女で居た期間が長い程魔力を消費する。

 逆に言えば契約直後の魔法少女の、契約した事実を夢オチの様に消滅させる程度造作も無い事である。その証拠にインクルーデッドと偽ソウルジェムは跡形も無く消滅した。

 

 「やれやれ、招かねざる客って訳かい。…にしても相変わらず出鱈目な力だね。我が分身ながら訳が分からないよ。」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。