魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの半廻天〉   作:カメン病

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 全ての魔女達が、浄化され切る前にまるで天界が傾いたかのように一定方向に雪崩れ込み出したのだ。一瞬の内にほむら達の周りには魔女の姿は無くなってしまった。

 

 「「「………!!!???」」」

 

 ほむらとさやかと杏子は何が起こったのか把握出来ずただ呆然とするしかなかった。

 

 「大変よほむら!! これを見て!!」

 

 そこに、まどかの妨害が終わり通信出来るようになった地上のルゥしいが、ほむらとまどかサイド全員に見えるようにスクリーンを召喚した。そこにあったのは衝撃の映像だった。

 

 「「…………………!!???」」

 「何………これは………!!???」

 

 スクリーンには暴風雨、大竜巻の群れ、大洪水、大津波、大地震、火山噴火、森林火災、空を覆い尽くす程の流星群……と多種多様な災害と、それから逃げ惑う阿鼻叫喚の人々が複窓で映し出されていた。

 まるで地獄のような光景だが、ほむらさやか杏子が驚いたのはそれらの原因だった。

 

 「ワル……プルギス…………!!? 」

 

 そう、全ての災害の側にはそれぞれ別のワルプルギスの夜が映っていた。この地獄は大量のワルプルギスの夜によって開催されているようだ。

 

 「こんな事が世界中で同時に隙間無く起きてる!!! 何とか見滝原への侵入だけは防いでるけど…一向に収まる気配が無いどころかワルプルギスは増える一方…。このままじゃ世界が滅んでしまうわ!!!!」

 

 ルゥしいが鬼気迫りながら容赦無く現実を突き付ける。

 

 「おい……、これってさっき消えた魔女達だよな!?」

 

 杏子が当然の推察を皆と共有する。

 

 「ああ、どうやら天界に穴が開いてそこから全ての魔女が地上に……しかも同じ時代に漏れ出してしまったようだね。これじゃあ地球だけじゃない……、宇宙が滅んでしまうだろうね。」

 

 キュゥべえも更に容赦無く現実を補足する。

 

 「ルゥしい!! 直ぐに穴を特定して塞ぐのよ!!! 天使にも協力を要請して───」

 

 ほむらはルゥしいに的確な指示を出すが……

 

 「それが…、穴は発見したのだけど………塞ごうとしてもその天使達に邪魔されて出来ないの!!」

 「「!??? 」」

 「………何ですって………?」

 

 予想外のルゥしいの報告にほむらとさやかと杏子が思考停止しかける……がほむらは直ぐにある異変に気付く。

 

 「………………まどか? 何をしているの……、早く天使達に馬鹿な真似を止めるように指示を……。」

 

 異変とはこの状況でも恐ろしい程冷静なまどかだ。今も辛うじて立ち上がりこちらを睨み付ける程の元気はあるのに何も言って来ない。………というより何故こちらを睨み付けているのだ?

 

 「無駄だよほむらちゃん……。だってその天使達が……私の指示で天界に穴を開けたから。」

 「「「!!!!??」」」

 

 まどかの告げる衝撃の事実にまた思考停止しかける三人。そこに更に衝撃の事実を更新するまどか。

 

 「ほむらちゃん……私も貴方と同じだよ…………、私には円環の理の復活以外に………もう一つ別の願いがあった。……………それは他の誰でもない私が円環の理になって……私自身の手で全ての魔法少女を救済する事。」

 「…………………なっ…………」

 「だから貴方が円環の理になる事なんて許さない。………お願い………魔王化を中止して!! ……そして私に『神』を返してよほむらちゃん………………いえ……………インキュベーター!!」

 

 まどかは世界を人質にほむらに交渉してきた。

 まどかの要求に応えるのは不可能では無い、まだほむらは魔王化寸前で半魔王の状態だからだ。悪魔に引き返すなら今しかない。

 

 「…………………………!!! 何をしているのキュゥべえ!! まどかと一体化してる貴方なら…天使にハッキングする事も出来る筈よ!! 私と二人掛かりで───」

 

 ほむらは交渉に応じる訳がなかった。ここでまどかが円環の理に返り咲けばほむらの敗北どころか完全敗北だからだ。故にキュゥべえに助けというか、本来の役目を働きかけるが……

 

 「……それは無理だよほむら。だって君じゃあ僕の願いを叶えられないだろう?」

 「…………は?」

 

 さっきから予想外の出来事に思考停止してばかりのほむら。どういう事だ? キュゥべえの願いは『宇宙の存続』の筈では?

 

 「僕はそもそもまどかに…、完全な神に返り咲いた後僕を人間にして貰う事を条件に協力していたんだ。だから僕を人間に出来ない君の言う事を聞く義理は無いね。」

 「………………………………何ですって? ………………………人間にして貰う……………………………?」

 

 ほむらは訳が分からなかった。キュゥべえは一体何を言っているのだ?

 

 「僕は今まで君達人間を……宇宙の存続の為の手段としてしか見て来なかった………それは事実だ。…………だけど鹿目まどかや暁美ほむら、君達との出会いで気が変わった……………いや、気が狂れてしまったようだね。僕は………人間に興味が湧いてきたんだ。…………人間になりたいと思ってしまったんだよ。……………この感情だけはあらゆる技術を尽くしても完治する事はなかった。……………………………生まれて初めてだ……、僕に………宇宙よりも優先したいものが出来たのは…………………………。」

 「………………………………………………………。」

 

 キュゥべえの嘘か本当かも分からない告白を聞いて、今度は思考停止というよりこっちはこっちで生まれて初めての感情に襲われるほむらにさやかに杏子。

 しかしその感情の正体について分析する暇は今はない。色々なノイズを蹴散らしながらほむらが辿り着いた決断は……

 

 「………………………………………………………………………………………………………ええ……いいわよまどか、お望み通り………………このまま私と一緒に死にましょうか。」

「「「!!!!」」」

 

 痛み分けである。これなら勝利も出来ないが敗北もしない。

 

 「私に貴方の行為を非難する資格は無い。……………寧ろ嬉しいわ、貴方一人だけが不幸になる事は無くなるから…………。………………逆に貴方にはあるのかしら?………本当に世界と心中する覚悟が!」

 

 寧ろまどかの覚悟を問うほむら。しかしまどかに更に問い返された。

 

 「…………………………無いよほむらちゃん、貴方には…………私と一緒に死ぬ覚悟なんて。」

 「……………………え…………………?」

 「どうして貴方はマミさんと杏子ちゃんに……私との接触を許したの?」

 「!!!」

 「二人の出方を見る為だったとしても………やっぱりリスクが高過ぎるよ。…………本当に自分の計画を邪魔をされたくないんなら………どんなに利用価値があったって先に二人を天界に封じておくべきだった。」

 「………………………………………。」

 

 ぐうの音も出ないほむら。まどかは続ける。

 

 「貴方は二人に自分を止めて欲しかったんじゃないの? 自分じゃ私を諦められないから…………誰かに諦めさせて欲しかった。……………………貴方を助けようとしてたのは私達だけじゃない、貴方自身もなんだよ!」

 

 「…………………………………………………………………………………………………………………。」

 

 ほむらは先程のキュゥべえの発言に引き続き、まどかの発言により自分の中にまた別の新しい感情が生まれたのを感じた。………否、生まれたのではなく死んだと言った方が正しいだろうか。昔から生きていた感情が自分から引き千切れて遠くに行ってしまう。そんな感じがした。

 

 「………………………………………………………………ねえ……杏子……………………………、貴方は………………私の事………好き?」

 「!!!!」

 

 ほむらは自分とこの世界の行く末を杏子の返答内容で決める事にした。

 

 「貴方は私の事助けに来たと言っていたわ。……だったらそれは私の事が掛け替えの無い存在だという事……………………そうよね? ……………どうなのかしら……………、もしそれが本当なら……………………………私が地上に戻る為にまどかを諦めても良い。」

 「………………………………………。」

 

 杏子はほむらが、まどかの次の依存先を探している事を理解した。その中で自分に白羽の矢を立てたのだと。

 つまりここで自分とほむらが相思相愛であるような事を言えば世界は消滅せずに済む可能性が高い。その事も理解した上で杏子が選んだ答えは……

 

 「…………………………わりーな……ほむら…………………、確かにあんたの事は嫌いじゃねー。でも……………だからってそれは私にとって………あんたが掛け替えの無い存在って訳じゃねーよ。」

 

 杏子は敢えて突き放す事にした。だからほむらの依存を断るような事を言ってしまった。

 しかしそれは杏子が世界やほむらを諦めたからでは無い。何故なら…………杏子が助けに来たのは最初から世界でもほむらでも無い、自分自身なのだから。

 

 「あんたを助けに来たってのはあくまで……私の為だよ。……友達を見捨てたら後味悪りぃからな。…………私も結局…………愛してるのは自分自身…………。」

 「……………………………?」 

 

 ほむらが一瞬黙ったのは杏子の返答内容に傷付いたからではない。杏子が言っている事に矛盾を感じたからである。

 

 「……………それが要するに掛け替えの無い存在と思ってくれているって事じゃないの? 愛してもいない存在の為に命懸けられる?」

 

 ほむらの疑問に返ってきた杏子の次の答えはほむらにとって衝撃だった。

 

 「命懸けられるからって掛け替えが無いとは限らない。…………愛する存在は替えが利くんだよ、失っても自分の命さえ無事なら…他の人や物を愛し直して、人は生き続ける事が出来る!」

 「…………!!!」

 「例えば……!私が家族やマミを失った後でも………さやかやあんたを愛したように!!! ……ほむら……あんただって!!!まどかを失ってもまどか以外の誰かを愛すれば良いんだ!!! そうすれば───」

 

 ほむらにとっては、自分の愛するものを失った後でも自分を好きで居られるという事実が衝撃だった。

 

 「ふざけないで!!!!! 替えが利かないから愛しているというに決まっているでしょう!!??? まどかが居ない世界なんて有り得ない………、まどかを心から愛する私にとっては!!!!! 貴方のいう愛は偽物で、貴方はただのナルシストよ!!!!佐倉杏子!!!!!!」

 

 過去一ブチ切れるほむら。だがそれは杏子も同じだ。

 

 「ああそうだ、私の愛は偽物で……本物の自己愛だ!! 当たり前だろ? 私達は神でも悪魔でも無い……………人間なんだから!! だから私は誰かの為のじゃなく……自分の為だけに頼むぞ……、ほむら………………どうか私の為に……………………あんたも自分を愛しちゃくれないか………………………。」

 

 杏子は気付いていた。ほむらが誰かを愛し直して一旦世界が救われても、また同じ事が起こると。だからほむらに他人を愛さなくていい生き方を肯定させる必要があると。

 

 「…………………………………………………………………………………………………………………。」

 

 後僅かで穢れが溜まり切り、漆黒の太陽になろうとしていた魔王の盾。その動きを止めていた矢に罅が入り出した。

 そしてほむらは言う。

 

 「………………………………………いいえ違うわ………杏子、……………………貴方は……………………正真正銘の悪魔よ。」

 

 矢は砕け散り……魔王の盾は廻天した。溜まった穢れは全てほむらに帰っていく。

 それはまるでほむらが自分で自分を救済しているようだった。

 

      

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