(ここはどこだ……?)
大学を卒業してからはや数年、田舎の地方都市から出てきた俺は都会のメーカーで働いていた。元々県内でも有数の馬鹿工業高校出身の俺でも理系の大学に行ける時代、そこそこの大手メーカーに行けただけでも奇跡だった事もあり、周りと比べる劣等感から自分なりに仕事に打ち込んでいた。そんなある日、起きたら自分の体が小さくなっていた。
「ヤーノシュ、そろそろ起きるよー」
「はーい、今いくよ」
正直最初は赤子の状態だったので、母親の言葉は全く分からなかった。夢の世界みたいに初っ端から言語が理解できなかったのもあり、夢ではないと確信できたからだ。(正直俺に人工言語を想像できるような頭脳はないし)
本当に苦労したものだ。なんせここはまだ前近代以下の文明であり、村の村長によると西にある帝国では魔女狩りが活発に行われているらしいからだ。まあその帝国じゃなくても、俺みたいなイレギュラーがいたとすれば現代人でも間違いなく村八分みたいなことになりそうだが。
「はい、それじゃあ昨日の続きから勉強をやっていくわよ」
「えー、まだ算数やるの? 流石にもう僕もそこまで子供じゃないよ」
「またそんなことを言って、帳簿を間違えたらお父さんみたいに大変なことになるからつべこべ言わずにやるわよ!」
そう言われると何も反論できないので、渋々小学生の様な勉強をやっていく。
転生した家の両親は交易商みたいなことをやっているようで、息子の俺に勉強を母が監修している。内容は現代の簿記のようにしっかりしているような内容ではなく、結構試行錯誤しているような内容だ。一応前世では独学で簿記の勉強をしていたので、基礎教育をさっさと終わらせてこの世界の歴史やらを学びたい。だがこの世界では書物といったものはほとんどなく、とんでもなく高価らしい。今勉強に使用している道具も黒板の様な板に書いているだけだ。俺も町の司祭が持っている聖書くらいしか知らない。
そんな事を考えながら勉強をしていると、窓の外から一人の少女が入ってきた。
「ヤーノシュ! あーそぼ!!」
「ちょっと今勉強中だから後にしてくれないか?」
「えー? そんなちまちましたことをするよりも馬に乗って武器を振ってるほうがいいと思うんだけどなー。 村長みたいに敵をなぎ倒しているヤーノシュの方がカッコイイじゃん!」
こんな商人の人間にとって侮辱的な事を言っているのは、族長の一人娘の「イオナ」だ。まあ経済というものを知らなければそんなことを考えるのも納得だろう。現に俺も小さい頃は似たようなことを考えていたし。
「あらこんにちはイオナちゃん。 ごめんなさいね、ちょっとヤーノシュは勉強中だから後からなら一緒に遊んでいいわよ」
「うーん、ヤーノシュのお母さんがそう言うなら……じゃあ私もヤーノシュと一緒にいる!」
とんでもない爆弾発言を言いやがった。確かに顔やスタイルはかなりの優良物件だが、俺とは性格が似ても似つかないのであまり好きな性格ではないのだ。
(まじかよこのクソガキ……)
「あらあら、イオナちゃんはそんなにヤーノシュがお気に入りなのね」
「うん! なんだかんだ言って一緒に遊んでくれるし……」
そういいながら恥ずかしそうにこっちを見てくる。頼むやめてくれ、どうせ族長の外交カードとしてどっかの集落の長に嫁入りするだろうから、あまり情みたいなものは作りたくないのだ。
正直交易をするにあたって、彼女のような特権階級の人間と幼い頃から接することで将来的なメリットがあると見込んだことがきっかけなだけあって、尚更頭が痛くなる。
「よし、じゃあこの辺で今日の勉強は終わりにしましょうね」
「終わった!? よし、ヤーノシュいくよ!!」
「わかった、わかったから服を引っ張るのはやめてくれ!!」
そんな感じで俺は半ば強制的に外へ遊びに行った
「……ふふ、本当に仲良しだわね」
そんな声が微かに聞こえた気がした。こっちの苦労も知ってほしいものだ
そんなこんなで連れてこられたのは村の近くにあるちょっとした平野だ。村の中では狭く、皆両親の農作業等の手伝いの後で遊んでいる。一日の大半が暇なのはイオナくらいだ
「おーいみんな、ヤーノシュを連れてきたわよ!」
「やっとか、遅いぞー!!」
そう言ってきた村の子供達は既にそこそこの人数で遊んでいた。だいたい10人程だ。大抵個々で剣士ごっこをしていたりする。
「悪かったな、所で今日は何をするんだ?」
「いやー、今までは二人とかで剣の打ち合いとかしてただろ? 流石にそれは飽きてきてさー、戦いってほんとは人が集まってやるから、そっちのほうが面白いんじゃね? って思ってねー」
「なるほどね、じゃあ半々になってぶつかり合うって感じにするか?」
「そうそうそんな感じ! ただしヤーノシュは弓矢禁止な! 流石に後ろからピシピシやられると当たるかどうかヒヤヒヤするから」
そういわれた。確かに後ろから打たれるとか特督隊みたいで恐ろしいだろう。
因みに俺は弓矢とかの遠距離攻撃は得意だが、剣とかの近接攻撃は苦手だ。怖いしね
そんな感じでお互いに作戦もクソもないような陣形で対峙する
「どうした?攻めてこないのか?」
「なら早速やっていくぜ!」
俺の軽い挑発によって相手から攻めてきた。向こうは6人いるが、武器はばらばらだ。剣を模した木刀だったり斧みたいなものだったりと。対するこちらは全員が2m以上ある長槍を装備している。(身長は皆140㎝程度なのでその長さで十分という見込み)武装は自由らしいので二人だけ腰に木刀を所持しているが、基本はパイク兵のように並列して待ち構える。正直子供の体では構えるだけで結構しんどいが仕方ない。
(さて、正直お互いに戦術としては悪くはないがどう出てくるか……)
こちらの陣形としては古代ギリシアのファランクスのような感じだ。メリットとしては長いリーチを生かして接近してきたら槍でたたく戦法だ。しかし機動力がないため、隣や後ろに回り込まれたら不利だ。その為本来は脇を塞ぐ為に騎兵などを置く必要がある。その代わりに両端の二人には木刀を装備させて、回り込まれたら近接戦をして貰う感じだ。
そんなこんなで戦闘が始まった。向こうはイオナが将軍として指揮しているようで、いきなり距離を詰めてきた。
「ちょっと! そんな装備卑怯じゃない!!」
「卑怯も何も世の中やったもん勝ちだって」
早速中央突破を仕掛けてきたイオナに長槍が叩き込まれる。咄嗟にガードをされたが心理的な効果はあったらしく、咄嗟に後ろに下がった。だがそれが狙いだ。イオナが後退したことで後ろにいた子の突撃が出来なくなり、統率が乱れた。
「ほらほら! 攻撃できるんならやってみな!!」
なんかこちらが悪役になっている気分だが、これが戦いだから仕方がない。そのままこちらが攻勢に出る
相手が半ばパニックになり一人二人と脱落したことにより、こちらが優勢になった。そこから平押しから包囲の段階に入る。戦列はこちらが多いので扇状に展開し、左右の二人には槍を捨てて剣で側面から攻撃してもらう。
そこからは完全に一方的に叩きのめし、イオナが降伏したことで決着がついた。
「スンッ、スンッ……次こそは絶対勝もん」
「……流石に俺が悪かったから、頼む泣かないでくれよ」
「ぜっったいにがつもん!!!」
そう言って村へ走り去ってしまった。ああなったイオナは何も聞かないから族長にチクるのだけはやめてくれと願うしかない。
「……ヤーノシュ」
「……なんだよ」
「流石にあの戦法は引いたぞ」
「……ちょっとそれは後悔している」
因みにその後しっかり母親伝いで族長に呼び出された