「隊長、そろそろ敵陣に入りまっせ!」
「ああ、敵の斥侯には注意しないとな」
(クソ、何でこんなことになったんだ……)
俺は今、国内では遠く離れた町のシュトゥルフの町の西側にいる。どうやら今から二百年前に王国は4人の王の息子に分割相続されたらしく、ようやく最近になって統一手前まできたらしい。今回俺が出陣したのは敵対していた最後の王家の子孫との戦いらしい。
今回その戦争に参加しないと行けなくなったきっかけは一か月前に遡る……
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きっかけはあの模擬戦闘(?)をした後だった。どうやらイオナが親父の族長にチクったらしく、母親伝えで族長の下に出向しないといけなかった。
そのことは村中の噂になり、向かってる途中でも友人に絡まれた。
「おいヤーノシュ、いったい何をやらかしたんだよ」
「正直身に覚えがありすぎて冷汗が止まらねえよ」
「まあ、あの娘にべったりな族長だからな……」
あそこまで自由奔放な性格となったイオナの背景には当然族長の影響があった。元々うちの集落全体の人間は好戦的な性格が多かった。その中でも族長を始めとする一族は武勇に長けており、国内では西の北フランク帝国の防波堤の様な役割を担っていた。
そんな敵に回すと恐ろしい族長から直々に呼び出されたのだから当然俺は村中から注目を浴びていた。
(あの族長の事だから、マジで頭を潰されてもおかしくはないんだよなぁ)
そんな事を悶々と考えながら遂にたどり着いてしまった。
「おはようございます。先日族長から御呼ばれされたフニャディ・ヤーノシュです」
「おお、話は聞いているよ。 ちゃんと遺骨は拾ってあげるから安心しな」
(いやどこが安心できるんだよ……)
「……火葬は勘弁してくださいね」
因みにこの世界では火葬は重罪にあたる者の刑罰の一つである…
そんなこんなで族長のいる間にきてしまった。もはや俺の人生はここまでかと考えながら族長の前に来て跪く。
「ヤーノシュ、顔をあげなさい」
「はっ!」
顔を上げるとそこには武人の顔をした族長がいた。普段娘のイオナに向けている人間と言われても分からないくらいだ。
「いつもイオナの相手をしてもらってるな。 今日呼ばれた事について、何か心当たりはあるか?」
ヤバイ……絶対殺されるパターンじゃないか
とはいえここで素直にイオナをボコボコにしたことを話すとミンチにされそうなので、それらしい事を言うしかない
「は、はい。先日はイオナ様を含めた友人と遊んでいたのでその事かと……」
「そうだ。その話をイオナから聞いてお主をここに呼んだのだ。」
「単刀直入に聞く。 どこであの模擬戦闘で行った陣形を学んだのだ?」
族長から出た言葉を聞き身震いをしてしまった。
あのファランクスのような陣形は本来前世の人間が使っていた戦術だ。そんなのは文献もまともにない時代、商人が編み出したのには何か裏があると族長は考えたのだろう。
「はい、以前私が南フランク王国に交易で向かった時、文献でその様な事を記述していた物を拝見したのでそれを参考にしました。」
「そうか。 それ以外にもこんな話も聞いているぞ、どうやら弓や馬上にも長けているではないか」
正直驚いた。確かに俺は村を行き来する時は馬にまたがっている。もしかして他の交易商伝えで耳にしたのだろうか
「た、確かにどちらも私の得意分野ではありますが……どこでそれを聞いたのですか?」
「他国の商人ではかなり噂になっていている。お主南フランク国内で賊の一派を壊滅させたらしいではないか」
そこまで噂になっていたのか…… 半年前、南フランク王国にいた時に山賊に襲われたことがあった。幸い向こうは大した装備をしていなかったので、十八番の馬上弓で撃退した後に傭兵と共に賊の根城を陥落させた。根城といってもちょっとした洞窟の中だったので、手製の爆弾で洞窟が崩壊させただけなので戦った訳ではない。
「そこでお主に話がある。 国王から軍隊の召集令が出されたから参加してみないか?」
「マジっすか? 一応商人の家系なんですけど」
予想外な発言が飛んできたので、素の反応をしてしまった。一応この村を含む国内では徴兵制はあるが、商人はこの制度の対象外とみなされている。その代わりに通常より多くの税を支払うことになり、戦争などの収入源としていた。
だが、これが直々に呼び出されたとなると断るのも難しい。徴兵の対象外ではあるが、そんなことは族長の一言で簡単に覆せるし、最悪決闘を申し込まれる可能性だってある。そうなると俺は敗北と同時に社会的に死ぬし、両親にも大恥をかかせる事になる。もはやこれはお願いではなく、命令と変わらない
「そこは安心しろ、お主に歩兵として戦場に行ってくれという訳ではない。あくまで軽騎兵や斥侯として活躍してもらいたいのだよ」
実際この国だけでなく、世界的に見ても乗馬できる人間というのは限られている。それに最近の戦闘は歩兵主体ではなく、貴族が中心の重騎兵が実際の戦闘をしているので、流石に俺にはその役は回ってこないだろうと考え了承した。
「……わかりました。 出発はいつごろになりますか?」
「うむ、王からは一か月後に集合といわれているから、二週間後にまたここに来るといい」
そんな会話があり、現在王国東部の独立勢力との争いに参加する事になったのだ
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(だからといって何で部隊長になるんだよ!!!)
俺が指揮しているのは軽騎兵の中でも国外から亡命してきた奴らだ。最近王国東部にあった国が滅亡し、そこ出身の者を指揮する事になった。
彼らはその中でも馬に乗って家畜と共に生活する遊牧民の一派だった。当然そこらのぽっと出の人間がトップになった事から、かなりの人数が言うことを聞かなくなり渋々名誉挽回の為に決闘を申し込んだ。結果として俺が馬上槍試合で勝ったことから命令には従ってくれるが、俺のことを不満に思うやつらだって当然いる。こうした奴らを統制する為に俺は今斥侯として最前線で偵察をしているのだ。
「それにしても隊長は馬上で弓を扱えるんっスね、パルティアンショット(馬上で背面を向きながら矢を放つ事)ができるのは驚きましたよー」
「商売する以上、どこから賊が襲ってくる可能性は捨てきれないからね。」
「いやいや、俺等でもあれができて一人前って感じっすよ? そんな事言われたらたまりませんって」
そんな事を話しているとようやく敵陣が見える位置に着いた。
敵の陣形はこの時代ではスタンダードな大きな円盾を中心としたものだった。その後ろには弓兵がおり、右側を騎兵が固めている。反対側にいないのは単純に長期間の戦争で人材が不足しているのだろうか最後に後ろにいる騎士らしき集団がいた。少し離れた位置なので正確な人数は分からないが、おおよそ3000〜4000人程の規模だ。
「それにしても敵さんの騎兵少ないっすねー」
「向こうは長期間の戦争で騎兵が減ったんだろうな。実際こっちも傭兵を雇わないと騎兵の頭数が揃わないから、戦況は若干こっちが有利程度そうだな」
だからこそ左翼側は森等の障害物と合わせることで何とか補っている状態だ
「とはいえ向こうには右翼側に重騎兵がいる。こいつらが片翼を突破してくる可能性もあるから十分注意するべきだな」
「とりあえずここいらで帰るべきっってコトっすね?」
「ああ、大将に報告しに行くぞ」