「いやー、にしてもいい仕事だな、そこら辺の大したことない会社を定期的に脅かすだけであれだけの大金って」
「ほんと羽振りいいよね、一体どこのお偉いさんなんだが」
AM1:00、武装不良集団「ガタガタヘルメット団」の前哨基地となっている廃工場は深夜ということもあり静まり返っていた。
団員達の大半は眠りに就き、哨戒に当たっている警備担当達は油断しきって雑談に花を咲かせている。
「まあそういうことはどうでもいいでしょ。あの人の依頼で私たちはぼろ儲け、いいじゃんそれで」
「それもそうだね、このままいけばお金持ちでバラ色生活────ガッ!!?」
しかしその沈黙は突如として破られた。雑談に耽っていた警備担当の一人が、突如として倒れる。
「なっ……て、てきしゅ、ぐえぇっ!!?」
倒れた仲間を見て慌てたもう一人が眠っている構成員達を起こそうとするが、そのまえに彼女も腹部を抑えて倒れ込む。
『……夜間迷彩を施していたのもありますが、ここまで近づいて発見されないとは』
「……警備部隊を無力化して油断していたんじゃないかな」
『……確かに、彼女たちは生徒であって兵士ではありません。目の前の脅威を排除し終えて浮かれるのも不思議ではありませんね』
倒れ込んだ警備担当二人を横目に彼女らを無力化した張本人、黒いフード付きのコートを羽織ったヘルメットの女性は獲物である
「
『今スキャンが終わりました。マーカーを更新します……居住区をマークしました。どうやら警備員以外は全員就寝中のようです』
「そう、手早く片付けよう」
『襲撃時の銃声で残りの居住区の団員は臨戦態勢に入るでしょう、レイヴン、背後からの奇襲に用心してください』
「わかってる、行こうか」
数秒のやり取りを交わした後、女性は廃工場へ向けて駆け出す。
彼女の名は「レイヴン」、依頼達成率100%を誇る、キヴォトス最強の傭兵である。
「ただいま、エア」
「お帰りなさいレイヴン、いつも通りの見事な活躍ぶりでしたね」
「……まあ、慣れ、かな」
時間は流れ、時刻は正午。今回の依頼、ガタガタヘルメット団襲撃を成功させ、レイヴンはブラックマーケットに存在する彼女とオペレーターのハンドラーことエアの拠点に帰っていた。内装は一般的な家屋というには家具が少なく、レイヴンが真っ先に開けた冷蔵庫は大量の飲料水とエナジーバーで埋め尽くされていた。
「レイヴン、度々思うのですが1日3食エナジーバーというのもどうかと、一緒に食事しに行こうと言っても中々頷きませんし......」
「これが1番しっくりくる」
「確かにエナジーバーは1日分のカロリーと栄養素を補給できますが、だからといって......」
「でも、エアが食事を作ろうとしたらああなったじゃん」
「それは......!」
食事事情に苦情を入れようとした白髪の少女、エアの言葉にレイヴンは食い気味の返答をし、エアは言葉を詰まらせる。
過去、エアは今のようにエナジーバーしか口にしないレイヴンの食事事情に耐えかねて自分で料理を作ろうとしたことがある。
しかし彼女には知識はあっても実践経験がなかったため、結果として物体Xが完成.......つまりは盛大に失敗したのである。
それ以降エアはレイヴンに食べさせてもらっている身としてあまり食事に関して強く言えず、指摘されると今回のように言葉を詰まらせてしまうようになってしまった。
「......慣れ、といえば」
「どうかしましたか、レイヴン?」
「この世界に来てから、そろそろ2年になるんだね、エア」
「......そうですね。まさかこうなるとは思ってもいませんでしたが」
──────二人はこの世界の本来の住人ではなく、今の彼女らの姿もこの世界に最適化された姿であり、本来の姿ではない。
かつてレイヴンはルビコン3と呼ばれる星で活動していた傭兵、強化人間C4-621であり、エアもCパルス変異波形、実体を持たないルビコニアンと呼ばれる存在だった。
彼女らはルビコン3での戦いの果てにオールマインドを退け、代わりとなってコーラルリリースのトリガーを引いた。
コーラルリリースは無事成功し、星々にコーラルは伝播した......筈、なのだが、その後目覚めた二人は何故かこの世界、キヴォトスに迷い込んでいた。
変わった身体、実体を得たエア、頭の上に存在する奇妙な紋様。予想だにしない事態に初めこそ二人は驚愕し混乱していたのだが、意外にも飲み込みの早かった二人はすぐにこの世界での暮らしに順応。ただ、戸籍がないためブラックマーケットを拠点とする他なく、それがレイヴンがこの世界でも傭兵として活躍している理由である。
初めこそ木っ端の依頼しか来なかったものの、成果を上げるにつれ次々と学園や企業からの依頼が舞い込むようになり、気づけばレイヴンは「最強の傭兵」としてキヴォトスにその名を響かせるようになった。有名になるにつれ生徒として勧誘しようとする学園や、抱え込もうとする企業もそれなりに居たが、レイヴンはそれを全てよしとせず断り、今もこうしてブラックマーケットでエアと共に暮らしている。
「......あれもこれも、全部自分の力で手に入れたんだぞって、ウォルターに、自慢できるかな」
「.......そうですね、あの人ならきっと、褒めてくれますよ」
かつてレイヴンが強化人間C4-621であった頃は、ウォルターが与えた機体を駆り、ウォルターの持ち込んだ依頼を受け、ウォルターのために戦う。ウォルターの猟犬、という呼ばれ方が相応しい存在になった。
しかしルビコン3での戦いでハンドラー・ウォルターは散り、猟犬は自由の身となった。
今のレイヴンは自分の選んだ依頼を受け、自分で手に入れた武器を駆り、自分とエアのために戦う。猟犬という枷から解き放たれ、自由に羽ばたく渡鴉として生きている。それがレイヴンが今はもう亡きウォルターに誇れる唯一のことであった。
「.......ただ、慣れとはいっても」
「レイヴン、何か問題が?」
エナジーバーを食いちぎり、飲料水一本を飲み干したレイヴンは少し不満の残る声をあげ、身につけていたヘルメットを外す。
「......この『耳』は、今も、慣れない」
「私は素敵だと思いますよ、レイヴン」
「ありがとう、エア......でも私はやっぱり慣れないよ.......」
彼女の露わになった顔には猟犬に似た耳が生えていた。レイヴンの身につけているヘルメットはバイザーを通してエアの支援を受けるためのものであるが、実のところ付けている理由の半分はこの耳を隠すためのものであった。
エアはこの耳を「素敵です」「可愛い」などと評しているがレイヴンにとっては耳が4つあって邪魔、という感想しかなく、彼女がこの世界に来てから唯一の不満点だ。
「......そうだ、依頼はどれだけ来てた?」
「直近で6件ですが、条件で5件除外して今は1件です」
「そっか、いつもありがとう」
「大丈夫ですよレイヴン、これは私と貴方で決めたことですから」
かつてレイヴンは無作為に依頼を受けた結果ルビコン3の戦火を拡大させ、取り返しのつかない状況まで追いやった。
二度と同じことを繰り返さないために二人は再び傭兵業を営むにあたって「2つ」条件を設けることにした。
一つは「笑えない依頼は受けない」。これは自分たちが依頼の経緯に納得が行く、成功して笑える依頼しか受けないということ。つまるところいたずらに被害をもたらすだけの仕事は受けない。
もう一つは「友人を裏切らない」。これはエアやこの世界でできた友人達を敵に回すような仕事は受けない、ということ。
この二つに違反する依頼は弾き、自分達で受けたい依頼を決める。それが今の「独立傭兵」レイヴンである。
「なら、お風呂上がってからブリーフィングをしよう。お湯沸かすよエア」
「わかりました。準備をしておきますね、レイヴン」
かつてからは想像できない、穏やかで透き通った日常を送る二人。
──────ただ、ここから平穏な日常とは、少しの別れを告げることとなる。
続かない。
レイヴン
我らが強化人間621、女の子。コーラルリリース後になんやかんやあってキヴォトスに漂着、エアと一緒に新生活をスタートする。戦闘センスもあってかすぐに傭兵として大成し、割と金に困らない生活を送れている。何故かケモ耳が生えた。
獲物は皆大好き最強ショットガンZIMMERMAN。
エア
レイヴン大好きルビコニアン。コーラルリリース後になんやかんやあってレイヴンと共にキヴォトスに漂着。実体を持ったことに驚愕&困惑。でもなんやかんや受け入れてキヴォトスでの新(婚)生活スタート。知識はあるものの実践経験がないので家事が下手。2年の間になんとか成長はしている。一応戦うことはできるが基本レイヴンのサポートをするため銃を取るのは稀。オペレーター時は身バレを避けるためハンドラー(支援者)と名乗っている。
レイヴン、仕事の時間です。
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「ティーパーティー」からの依頼です。
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「セミナー」からの依頼です。
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アビドス対策委員会からの依頼です。
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私からの私的な依頼です。