『トリニティ総合学園の生徒から依頼が入っています』
『ブラックマーケットにて表では既に流通が終了している「ある商品」の購入のため、当日の護衛を頼みたい、とのことです』
『「ある商品」に関してはすでにこちらで調べがついています』
『キャラクターブランド『モモフレンズ』とアイスクリームチェーン店のコラボ商品。販売エリアも特定済みです』
『当該区域は武装不良集団のたまり場になっていますが、ブラックマーケットでの騒ぎはマーケットガードとの戦闘になりかねないため、戦闘は最低限で済ませてください。案外貴方の名を使えば怖気付くかもしれません』
『……それと、ブラックマーケットでは貴方は有名すぎます。護衛の際には有事以外は変装しておくのがよいかと』
『もし依頼人に何かあった場合、トリニティとブラックマーケットの全面抗争もあり得ます。絶対に成功させましょう、レイヴン』
「えっと……貴方がレイヴンさん、ですか?」
「合ってる。私が独立傭兵レイヴン。貴方が依頼人の……」
「あ、阿慈谷ヒフミです!今日はよろしくお願いします!」
無法地帯ブラックマーケット、その一角で三大学園の一つ、トリニティの制服を着た少女とレイヴンが顔を合わせていた。
「依頼内容を再度確認しよう。限定商品の購入のための護衛、期間はブラックマーケットに滞在する間、間違いない?」
「はい、それで合っています」
「報酬金は依頼終了後に指定の口座まで。それと……」
「えっと、他に何か……?」
「……周りを少し見てほしい」
レイヴンに言われたヒフミは試しに周りを見渡してみると、周囲の人間が皆レイヴンを見ていることに気づいた。
驚愕で目を見開く者、ひそひそ話をする者、何かを察する者など反応は様々で、この場所におけるレイヴンの影響力がとてつもないものであることを彼女は直感で理解した。
「あれって……」
「うん、レイヴンだ……」
「なんでトリニティの生徒と……?」
「今日の仕事場は此処ってこと?逃げなきゃ……」
「……あんな感じで、私は此処では名が知れすぎている。そのまま護衛を務めれば変な騒ぎを巻き起こすかもしれない。そういうわけで変装して護衛をするよ」
「あ、ありがとうございます……学園をこっそり抜け出してきちゃってるので、騒ぎをおこしちゃうと大変なことに……」
「……なら、近くにいるのもいらない厄介事を招きそうだ。少し離れた場所をついていこう。何か起きたらすぐに駆け付けるから安心して」
「わかりました、では改めてよろしくお願いしますね!」
顔合わせを終えたのち、限定グッズが販売されている場所へと駆けていくヒフミを見送った後、レイヴンは人気のない場所へ移動し、簡易的な変装を行う。
とはいえ変装と言っても極めて簡易的なもので、ヘルメットを外し、コートを裏返しただけである。
いくらレイヴンが有名と言ってもヘルメットのおかげで素顔を知る者はおらず、トレードマークであるこの二つを隠してしまえば彼女がキヴォトス最強の傭兵であるとは誰も思わないだろう。これは彼女が常にヘルメットを被っていたことによる思わぬ利点だった。
「……んっ、つめたっ……」
『依頼人の現在位置のGPS情報を確認しました、送信します』
「……わかった、始めよう」
露出した犬耳が空気に触れ少し身震いをしたレイヴンはヘルメットを仕舞い、エアとの通信用のインカムを付けるとヒフミを見失わないギリギリの距離で彼女の護衛を開始した。
「今のところは大丈夫そうだけど……」
『無事に購入まで完了したようですね、何もなければこのままブラックマーケットから離脱して依頼完了です』
少し時間は経ち、ヒフミは無事にペロロ様の限定グッズ購入を完了していた。
事前調査で相場を確認できていたからなのだろうか特にぼったくりにも会わず適正価格で購入できたようで口論になることもなく、騒ぎになることもなかったようだ。
店がギリギリ死角にならない曲がり角からその様子を見守っていたレイヴンは少し安堵したようで息を漏らす。
「ここから一番近い出口までかかる時間、計算お願い」
『わかりました……!?待ってください、依頼人が発砲されています!』
「っ!」
しかしそれもつかの間、突然不良生徒達がヒフミに発砲し、慌てた彼女は逃げ出してレイヴンの視界から消えてしまった。
「ハンドラー、戦闘支援」
『わかっています、早く準備を!』
レイヴンは変装のために裏返したコートを着なおしてヘルメットを被り、ヒフミを追って急いで駆けだす。
周囲の人間は突然現れたレイヴンに動揺し、逃げ出す者、騒ぐもの、店を畳む者まで現れている。
『依頼人の端末をハッキングしました。位置情報を送信します』
「後で言いたいことはいろいろあるけど、今は助かる」
『有事ですので』
有事だというのに軽口を交わしながらレイヴンはヒフミと彼女に発砲した不良生徒を追う。
「依頼人、止まりました。それに不良生徒も何者かによって鎮圧されて……」
「……誰かが助けてくれたってこと?」
『わかりません、ですが不良生徒の仲間と思わしき反応が多数!』
「急ごう、まだ間に合う」
『戦闘支援、開始します。メインシステム、戦闘モード起動!』
ブラックマーケットを駆ける黒い鴉のバイザーが、赤く輝いた。
『先程撃退したチンピラ達の仲間のようです!完全に敵対モードです!』
「望むところ」
「まったく、なんでこんなのばっかり絡んでくるんだろうね、私達なにか悪いことした?」
一方その頃、ヒフミを追っていた不良生徒を撃退した少女達、アビドス対策委員会一行は不良達の増援への対処に追われていた。
『愚痴は後にして......応戦しましょう、皆さん!.......え?』
臨戦体勢に入った対策委員会達だが、その直後、後方の不良生徒達が吹っ飛ばされ全員が一瞬呆気に取られる。
「......なんか、派手に吹っ飛びましたね.......」
「......レイヴンさん、来てくれたんだ.......!」
「レイヴン?」
ヒフミが喜びの声を上げると同時、レイヴンは倒れた不良生徒を踏み台にしてジャンプし、くるりと一回転しながら対策委員会と不良生徒達の間に着地した。
「ごめん、遅くなった」
「い、いえ。慌てて逃げちゃった私も悪いですし......」
「......誰?」
「ヒフミの知り合い?」
「......なぁんだ、ヒフミちゃん、ちゃっかり護衛を雇ってたんだねぇ」
ヒフミがレイヴンに謝罪する中、対策委員会は突然現れた謎の人物に疑問符を浮かべる。
そして不良生徒達はといえば。
「レ、レイヴン.......!?」
「嘘だろ、『あの』レイヴン!?」
「間違いない、あのヘルメットとコート......!」
多少の違いはあれど、レイヴンの登場に驚愕し、そして恐怖していた。
『......聞いた事があります。2年前彗星の如く現れ、瞬く間にその名を轟かせたキヴォトス最強の傭兵、レイヴン!』
「......むず痒いな、その紹介は」
「なんか想像以上にやばい護衛だったんだけど!?」
明らかにブラックマーケットの住人ではない対策委員会にまでその名を知られていることに少し困惑と達成感を覚えたレイヴンは改めて不良生徒達に向き直る。
「彼女は私の依頼主だ、これ以上手を出す気なら......容赦は、しない」
少しドスの効いた、しかしあまり感情の乗っていない声は不良生徒達にはよく響いたようで。
「さ、流石にやめようよ......あのレイヴンだよ?」
「この前ガタガタヘルメット団を一人で壊滅させたって言うし......」
「に、逃げまーす!流石に無理!」
怯える者、逃げる者。
殆どがレイヴンに畏怖する中、その威勢を崩さぬ者も居た。
「......うるせぇお前ら!相手がレイヴンだからってこのまま黙って引き下がれるか!」
「で、でも......」
「でももかももない!ここで引けば面子が丸潰れだ!やるぞ!」
「は、はいぃ!」
1人の一喝で指揮を立て直した不良生徒たちはレイヴンを排除しようと大勢で彼女に向かってくる。
「レ、レイヴンさん......!」
「ヒフミはその人達を連れて安全な所へ、此処は何とかする」
「何とかって.......あの人数を1人で!?無理に決まってるでしょ!」
「大丈夫、こんな事は慣れてる、それに.......」
「私は、『1人』じゃないから」
『ええ、レイヴン、私が貴方をサポートします』
多分続かない。
レイヴン、仕事の時間です。
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「ティーパーティー」からの依頼です。
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「セミナー」からの依頼です。
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アビドス対策委員会からの依頼です。
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私からの私的な依頼です。