「つ、強すぎ、る.......」
「やっぱり、無理だった......ガクッ......」
「......まだ、やる気?」
あれから数十分後、不良集団の大半を気絶させたレイヴンはバイザーを赤く輝かせ、残党達にショットガンの銃口を向けていた。
「さ、流石にこれはもう......」
「こ、降参!降参でーす!逃げろぉぉぉぉ!」
元々が恐怖で凝り固まっていたのを一喝で無理矢理やる気になっただけあって数が減ればその指揮は脆く、少し圧をかけるだけで簡単に逃げ出てしまった。
逃げ出した不良達をレイヴンは追うでもなく、ショットガンを納めて一息付く。
「......ふぅ」
『......レイヴン、私は戦闘は最低限で済ませるようにと言ったのですが』
「まさかこれだけ相手にするとは想定してなかったから......」
『それは否定しません。ですがこれだけ大立ち回りをすれば......っ、レイヴン、マーケットガードが其方に向かっています。離れてください』
「わかってる、やっぱり来るよね」
息を整えた後、レイヴンは素早い身のこなしで死屍累々の戦場だった場所を後にし、ヒフミ達が逃げた方向へと駆け出した。
『依頼人のGPS情報、送信します』
「だいぶ離れちゃったな......また別の不良に絡まれてないと良いんだけど」
『その点については中心街に向かっているので大丈夫でしょう、彼処でわざわざ騒ぎを起こそうとする者はまずいませんから』
「それもそうか......中心街?出口から離れて行ってるような......」
『少し仕事の時間が伸びるだけなので問題ないかと、早く合流しましょう』
「そうだね」
『一応変装を忘れずに、また騒ぎになっては困りますから』
再び簡易的な変装をしながら、レイヴンはブラックマーケットの通りを駆けていった。
「視認した、大丈夫そう」
『こちらでも確認しました、あの集団は依頼人に危害を加える気はなさそうですね』
「このまま護衛を続けるよ」
ヒフミを視認できる距離まで戻ってきたレイヴンは怪しまれないように周りの露店に目を向けながら、時折彼女と対策委員会を遠目で見る程度にして護衛を再開した。
今のところ対策委員会がヒフミに何かする気配はないが、万が一に備えてショットガンはいつでも抜けるようにし、近すぎず遠すぎずの距離で後をついていく。
「それにしても、彼女たちは一体……」
『どこかの学園の者なのでしょうが、それにしては大人が同行しているのが妙ですね、調べてみましょう』
「……ハッキングはやめなよ?」
『サーバーに入り込むだけなら別にハッキングではないと思いますよ?レイヴン』
「屁理屈……」
相変わらず極端な手段を取る相棒に苦笑しつつ、レイヴンは護衛を続ける。
『データの照合が完了しました』
「いつものことだけど、早いね」
『まずはあの集団から、衣服がアビドス高等学校の制服と一致しました』
「アビドス?」
『かつてキヴォトス最大の規模を誇った学園です。数十年前から砂嵐による学区内環境の砂漠化による規模縮小で経営が悪化し、現在では在校生5名とかつての栄光は見る影もありません』
「5人……たしかに人数は同じだね」
いつもの通り爆速で情報を仕入れてきたエアの解説を耳に入れながらレイヴンは歩き続ける、が。
『次にあの大人についてですが……』
「待ってハンドラー、アビドスの生徒がこっちを見た気がする」
『……わかりました、説明は後にしましょう。念のため臨戦態勢を』
対策委員会の一人、オッドアイの瞳と一瞬目があった。そんな気がしたレイヴンはエアとの通信を一度切り、コートの内側に隠したショットガンに意識を向ける。
その状態が数分ほど続き、特に動きもなかったためレイヴンは警戒を解こうとした、のだが。
「ねえ、そこの君。さっきから私たちをつけてきてるみたいだけど、おじさん達になんの用かなぁ?」
臨戦態勢に入ったままというかなり一触即発の状態で、仕掛けられた。
「.......どうしてわかった?」
よくある漫画の展開のようなテンプレ染みた台詞を吐きながら現れた黒髪の少女に、対策委員会一行は咄嗟に警戒を強める。
「さっきから振り返るたびに君がいたからさ、最初は偶然かと思ったけど毎回毎回同じくらいの距離を保ってるもんだからつけてるんじゃないかと思ったらその通りだったみたいだねぇ」
「……なるほど、露骨が過ぎたか」
動揺もせずさらりと流し、少女は対策委員会のほうへ歩を進める。
「もしかしてさっきのチンピラの仲間!?」
「にしては雰囲気が違う」
「いかにも仕事人、みたいな感じですね~」
軽口を叩きながらも各々が銃を構え、あわや開戦、というところで。
「ま、まってください!」
ヒフミが両者の間に割り込んだ。
「ヒフミ?」
唐突に割り込んだヒフミにこの場で唯一の大人、先生が疑問の声を上げる中。
「その……レイヴンさん、ですよね?」
「……変装してる時にレイヴンって呼ぶのは、やめてほしいかな」
「「「「「!?」」」」」
正体を言い当てられた少女、レイヴンは照れ隠しのように頬をかいた。
「レイヴンって、さっきの!?」
「見た感じ私たちと同年代みたいですけど……」
『あの数のチンピラを、たった1時間で振り切ってきたってことですか.......!?』
自分たちとそこまで年の違わなそうな少女が伝説の傭兵であることに驚く者、あの状況から自分たちに合流できたことに驚愕する者など反応は様々で。
「……チンピラ達は振り切ったんじゃなくて、8割気絶させたら勝手に逃げていった。30分もかかってないよ」
「.......8割?」
「あの無駄に数だけは多そうなチンピラ達を.......?」
「流石は最強の傭兵って呼ばれるだけはあるねぇ」
ひとまず不良の仲間ではないと知って銃から手を離した対策委員会の様子を確認した少女、レイヴンは自分もコートから意識を外し、ヒフミに駆け寄る。
「あの不良集団は何とかした。後はブラックマーケットを出るだけだけど......」
「えっと、その......この人達がブラックマーケットで探し物をしているらしくて、今案内をしているんです。だからもう少し時間を頂いちゃうかなーと......」
「......わかった。護衛の期間は「ブラックマーケットを離れるまで」だ。契約違反はしていない、続けよう」
ヒフミに確認を取ったレイヴンは改めて対策委員会の面々と先生に向き直る。
「そういうわけで、私は彼女の護衛である以上君達に同行することになる、いいかな?」
「ん、いいよ」
「むしろ大歓迎です〜⭐︎」
反応を確認してから合流しようとしたレイヴンだったが、その前に先生が少し確認したいことがあるようで彼女に声をかけた。
「ええと、レイヴン、じゃなくて......」
「.......ああ、そうだね。この姿でレイヴンと呼ぶのはやめてほしい」
「じゃあ、なんて呼べばいいかな?」
「ワタリ」
「東雲ワタリ、少なくとも今はこれが私の名前」
「おいしい!」
「いやぁ、ちょうど甘いモノが欲しかったところだったんだー」
それから数時間後、対策委員会の探している絶版の戦略兵器は一向に見つからず、疲弊した一行はたい焼き屋で休憩していた。
「レイ......ワタリさんは食べないんですか?たい焼き」
「私はいいよ、これがあるし」
ヒフミがたい焼きをレイヴンことワタリに渡そうとするが、彼女は手に持ったエナジーバーを見せ、やんわりと拒否する。
『エナジーMAX......1つで1日分の栄養とカロリーを摂取出来る代わりに凄まじい不味さを誇る伝説のエナジーバーですか......』
「不味いと感じたことはないけど......」
「今までどんな食生活してきたのよあんた......」
「1日1食これ」
「想像以上にダメだった!?」
手に持つそれが如何に凄まじいものかを知った対策委員会の1人、セリカはワタリの食生活に驚くと同時に呆れていた。
「な、なら是非これ、食べてください!たまには美味しい物も食べないと!」
「いや、だから......」
「依頼人としての追加報酬です、これなら断れませんよね!」
「む、むう......」
同時にヒフミもその食生活に何とも言えない物を感じたのか、強引にたい焼きをワタリに押し付けた。
『いい加減たまにはまともな物を食べてください、レイヴン』
「しょうがないなぁ......ん......!?」
エアにすら食べろと催促されたワタリは仕方なさそうにたい焼きを口に運び......
「......おい、しい?」
疑問符を浮かべながらも、初めての感覚に身を震わせた。
「そりゃあたい焼きだもの、美味しいに決まって......って、泣くほど美味しいの!?」
「まさしく感動、って感じだねー」
「今までこれと、ハンドラーの失敗料理しか食べたことなかったから......」
『レイヴン、一言余計です』
無意識に涙を流していたらしく、セリカから突っ込まれたワタリはあまりにもあんまりな食事情を口に出す。
「そりゃあ涙も出るわね......ハンドラー?」
「誰?」
「ワタリの知り合いじゃないかな」
『私のことです、皆様』
『ちょっ、誰かが通信に割り込んで......!?』
ハンドラーが何者か、という話題になったところで渦中の本人、ハンドラーことエアはアビドスの回線をジャックし、強引に通信に割り込む。
『音声だけで失礼します。私は独立傭兵レイヴンのオペレーター、ハンドラー』
「一瞬でジャックしたっていうの......!?」
「相当な凄腕だねぇ、おじさん惚れ惚れしちゃうよ」
「ハンドラー、またやってる......」
恒例行事のようにハッキングを行うエアにワタリは少し頭を抱えた。
『話題に出たので挨拶だけでもと思い、こうして回線をジャックさせてもらいました、では......!?』
『と、取り込み中失礼します!そちらの方に武装した集団が接近中!』
『データ照合、マーケットガードです。皆さん隠れてください』
「さっき派手にやり過ぎたかな......?」
「いいから!隠れろって言われたんだから隠れるわよ!」
少し天然を発揮したワタリにツッコミが入り、ひとまず身を潜めた一行はマーケットガードに護衛された輸送車が闇銀行、カイザーローンに入っていくのを目撃する。
「あれ......な、何で!?あいつは毎月うちに来て利息を受け取っているあの銀行員......!?」
「あれ、ほんとだ」
対策委員会一行が驚く中、ワタリとエアは別のことに思考を寄せていた。
「......あいつら、ついにマーケットガードを護衛にした」
『流石にこれまで3回も警備が破られては背に腹はかえられぬ、ということでしょう』
「3回?」
2人の会話を聞き取った先生は対策委員会とヒフミが話を進める中ふと浮かんだ疑問を口に出す。
「ああ、聞こえてたか、先生」
『過去3回、我々は依頼でカイザーローンを襲撃したことがあります。毎回警備は増やされていましたが、限界が来たのでしょうね』
「ぶ、物騒だね......」
「ブラックマーケットでは日常茶飯事」
さらっと明かされる衝撃の事実に先生は少し引き攣った顔を浮かべた。
「へえ、彼処、破られたことあるんだ」
「え?」
「うん、他に方法はないよ」
「えっ?」
そして一連の会話を聞いていたシロコは何か閃いたらしく、1人決意を固めた。
「ホシノ先輩、ここは例の方法しか」
「なるほど、あれか。あれなのかー」
「そうですね、あの方法なら......!」
「ええっ?」
他の対策委員会のメンバーも閃いた何かを察したのか、理解していないヒフミを放って会話が進んでいく。
「......あ、あのう。全然話が見えないんですけど......「あの方法」ってなんですか?」
「......ハンドラー」
『依頼人に任せましょう、我々はあくまで傭兵ですから』
「ワタリさんまで!?」
「残された方法はたった一つ.......」
「銀行を襲う」
いつの間にか覆面を被ったシロコが、効果音の付きそうな顔で宣言した。
続かないかもしれない。
東雲ワタリ
レイヴンが任務などで正体を隠す時に使う偽名の一つ。初めて自分で付けた名前だからか妙に気に入っていて、レイヴンとして活動していないプライベートでもこの名を使うことが多い。名前の意味は夜明けを渡る。
レイヴン、仕事の時間です。
-
「ティーパーティー」からの依頼です。
-
「セミナー」からの依頼です。
-
アビドス対策委員会からの依頼です。
-
私からの私的な依頼です。