『内容は闇銀行「カイザーローン」襲撃の援護』
『襲撃の露払い後、カイザーローンからアビドス対策委員会と依頼人が集金書類を手に入れた後の逃走経路確保までを頼まれています』
『カイザーローンはマーケットガードと手を組んでいます。恐らくは彼等による道路の封鎖、最悪はマーケットガードの保有する無人兵器「ゴリアテ」の投入も考えられます』
『依頼人達が到着するまでに封鎖を行うであろうマーケットガードを制圧していることが望ましいでしょう、迅速な作戦遂行をお願いします』
『あえて言うならそうですね.......レイヴン、愉快な遠足の始まりです』
「こちらレイヴン、配置についた」
『覆面水着団、同じく配置に付きました。そちらの合図があり次第突入します』
シロコの銀行強盗宣言から数十分後、レイヴンはかつての襲撃の記憶を頼りにカイザーローンの配電盤に侵入していた。かつて2回ほど壊したはずなのに警備はまるで配置されておらず、カイザーローン側の怠慢、というよりは人手不足が伺えた。
「マーケットガードの一人くらいいたらいいのに」
『流石にマーケットガードも常時人員を配置するほどの余裕はないのでしょう。こちらとしては弾数の節約になってありがたいですね』
「そうだね、ハンドラー、手筈は?」
『配電盤の破壊を確認後、私があちらのオペレーターに合図を送信し突入。襲撃後に先んじて封鎖を行ってくるだろうマーケットガードの排除を行います』
「わかった、じゃあ、始めよう」
『ええ、メインシステム、戦闘モード起動』
銃口を向け、配電盤に向けて一発。
防弾機能など備えていない配電盤はその一発で破壊され、行き場を失った電流がスパークを立てる。
カイザーローン内の照明は内部電源に切り替わるまで一時的に落ち、電気室は暗闇に包まれた。
『配電盤の破壊を確認しました。合図、送信します』
「こっちも行こうか」
『逃走ルートの逆算を開始します』
スパークだけが明かりとなった電気室で、渡鴉のバイザーが赤く輝いた。
『最短ルートの割り出しが完了しました。先んじてマーケットガードの襲撃を行います』
銃声と悲鳴が聞こえるカイザーローンを抜け出し、レイヴンはブラックマーケットの道路を駆ける。
エアが割り出した最短ルートにたどり着く頃には、想定通り騒ぎを聞きつけたマーケットガードが少なからず駆け付けていた。
「カイザーローンが騒がしいとの連絡を受けて急行したが、一体何が.......」
「いやまて、あれはレイヴン!?」
『こちらを補足されました。増援を呼ばれる前になるべく数を減らしましょう』
「わかってる」
レイヴンが向かってくることに気づいたマーケットガード達は戦闘態勢に入るが、彼女はお構いなしに突っ込んでいく。
「緊急コード15E!敵は単騎、レイヴンだ!至急応援を求っ!?」
「遅い」
盾を構えたオートマタ達を跳躍で越え、その勢いのまま無線連絡をしていた者に飛び蹴り。おまけと言わんばかりにショットガンを一発お見舞いした後、その反動で浮き上がった彼女は次の目標にまた飛び蹴りをかました。
「やつを飛ばせるな!空中戦では分が悪すぎ、ガアッ!?」
『特別警戒対象レイヴン、排j.......』
得物であるショットガンの大きな反動を活かした跳躍戦術。かつてAC乗りであった頃の経験を活かしたレイヴンの戦い方は「まるで飛んでいるよう」と評されるほどであり、今回のような開けた場所での戦闘では無類の強さを誇る。
1つ、また1つとマーケットガードを気絶させ、オートマタを破壊していくその様は、敵でありながら見惚れる者すら存在した。
『レイヴン、増援です。数20.......っ!やはり持ち出してきましたか、ゴリアテです!』
「やっぱり、そりゃあ私が相手ならそうだよね」
最初に駆け付けたマーケットガードを粗方無力化したレイヴンは一度息を整え、増援に備える。
「特別警戒対象」と判断されるほどにはレイヴンの存在は脅威であり、敵が彼女であることを知ったマーケットガード達は惜しみなく切り札の一つ、無人兵器ゴリアテを投入した。
『腕部のバルカン砲と頭部の主砲に注意を!』
「ジャガーノートを思い出すね.......」
『レイヴン、「壁越え」の時には私はいませんよ』
「そうだった」
レイヴンの天然ボケにエアが突っ込み、少し空気が緩くなったがそれもつかの間、リロードを終えたレイヴンはマーケットガードの増援へと突っ込んでいく。
『特別警戒対象レイヴン、排.......』
「遅い」
「ゴリアテの準備急げ!このままでは全滅だぞ!」
オートマタを軽く超え、蹂躙劇を繰り広げるレイヴンに焦ったマーケットガードは移送を終えたゴリアテの起動を急がせる。
せめて時間稼ぎをとレイヴンに目標を定めて発砲するが、彼女はなんなく躱すどころか、蹴り飛ばしたオートマタの盾で跳弾させる離れ業まで見せる。
「盾が、飛んで.......?」
「ボーっとしてる場合か!射撃中止!射撃中しぃ!?」
『敵、陣形が乱れています、各個撃破を』
「了解」
現実離れしたこの状況に陣形は総崩れ、統制もクソもなくなった烏合の衆を狩ることなど容易いこと。レイヴンは文字通り戦場を飛び、一人また一人と地に伏す者を増やして行く。
そうして殆どのマーケットガードを制圧したレイヴンだが、そこでようやく無人兵器、ゴリアテが起動した。
『特別警戒対象レイヴン、排除開始』
『熱源反応、バルカン来ます!』
周りの被害など微塵も考えず、鉄の兵器は武骨な腕から銃弾を乱射する。
味方であるはずのマーケットガードも巻き込んで放たれた鉛玉の嵐はしかし鴉を仕留めるには至らず、いつの間にか躱していたらしい彼女はゴリアテの真上を跳んでいた。
『排除』
『上空では遮蔽物がありません、レイヴン!』
「なら、こうする!」
レイヴンは己を狙う銃口に向けていつの間に持ち替えたのか二丁のグレネードを放ち、針の孔を通すかの如く銃口に叩き込む。
そうして銃口に入り込んだグレネードは本来発射されるはずだったバルカンの弾に打たれ誘爆し、派手に爆発。
マーケットガードの誇る無人兵器はたった一人にいいようにされ、その武器を2つ失った。
『なるほど、敢えて誘爆させることで内部から武装の破壊を.......お見事です、レイヴン』
「褒めてる暇はないよハンドラー、まだ主砲がある」
『っと、そうでした。主砲は発射まで少し時間がかかります、その隙を上手く突いてください』
両腕を失ったゴリアテは狙いをレイヴンに定め、主砲の装填を開始する。
『排除、排除、排除』
「排除排除って、うるさい.......」
装填までの3秒間の間にゴリアテの懐に潜り込んだ彼女は装甲の合間を狙って再びグレネードから持ち替えたショットガンを叩き込み、バルカン砲破損の負荷が回復しきっていなかったゴリアテは
『止めを、レイヴン!』
「うん、これで、終わり」
ゴリアテの脚部を踏み台にして跳びあがったレイヴンはその合間に排莢、リロードを終え。
主砲に向けて、最後の一発を放った。
『間もなくレイヴンさんが戦闘中のエリアに入ります。相手はマーケットガード、皆さん、加勢を.......』
「どうやらその必要はなさそうだよー」
それと時を同じくして覆面を被った対策委員会たち.......覆面水着団がレイヴンと合流する。
「うん、丁度」
「これで、任務完了だよ」
覆面水着団と先生が見守るなか、ゴリアテは閃光を迸らせ、盛大に爆発した。
『封鎖地点を突破、この先はもう安全です』
『お疲れ様でした、レイヴン』
「やった、大成功!」
少し後、無事封鎖を突破した一行は一度足を止め、休憩していた。
どうやら集金書類のほかに現金まで盗んでいたらしく、ちょっとした騒ぎになっているがレイヴンには関係のないこと、一人銃に異常がないかチェックしていた。
『そういえば、レイヴン』
「?」
『今回の襲撃、実質的にタダ働きになりましたが、いいのですか?』
エアは今回の依頼が突発的なものだったことによる無報酬を気にしていたが、レイヴンは特に気にする様子もなく。
「報酬ならもう貰ってる」
『と、いうと?』
「……たい焼き、美味しかった」
『.......ふふ、貴方らしいですね、レイヴン』
彼女の少し子供っぽい理屈に安心したエアは、通信の向こうでほほ笑む。
その後、便利屋68にお礼を言われるなど珍事があったが、一行は無事にブラックマーケットの出口まで向かっていった。
「それじゃあ、私は此処まで」
「今日はありがとうございました、レ.......ワタリさん!」
「もうレイヴンでいいよ、仕事も終わりだし」
ブラックマーケットの出口、レイヴンは仕事を終え、一行と別れようとしていた。
「なんならおじさんたち、最強の傭兵レイヴンより食生活壊滅的なワタリちゃんの印象のほうが強いからねー」
「……食生活壊滅的は、ちょっと刺さる」
『今まで疎かにしてきたツケです、レイヴン』
「ハンドラーさんも、今日はありがとうございましたー★」
『依頼のためですから、礼を言われる筋合いはありませんよ』
ダメな私生活を掘り返されたレイヴンは恥ずかしそうに頬をかく。
「色々とありがとう、ワタリ」
「先生まで.......ああもう、それならワタリでいいよ、でも、一つお願いがある」
「お願い?」
レイヴンはまた頬をかいた後、ちょっとしたお願いを口にした。
「私と、「友達」になってくれないかな?」
「……もう、友達じゃない?」
「そうだねー、一緒にたい焼き食べた仲だし」
「うんうん、もう私たちとワタリちゃんはお友達ですよ~★」
「また一日エナジーバー1本とかしてたら怒りに行くからね!」
「じゃ、じゃあ私も、ワタリさんとはお友達です!」
『なら私もですね』
「……どうやら皆は、もうワタリのことを友達って思ってるみたいだよ」
「.......そっ、か.......ありがと」
『嬉し泣きですか、レイヴン?』
「うるさいやい、ハンドラー」
友達が増えたことがうれしかったレイヴンは少し涙を流し、拭う。
「じゃあ、友達のよしみ。これから先一回だけ、私は皆の依頼をタダ働きで受ける。無論先生も」
「私もいいの?」
「いいよ」
「できれば頼むようなことにならないのがいいんだけどねー」
ささやか、というには破格すぎる礼を一行に伝え、レイヴンは別れを告げた。
「……ウォルター、いっぱい友達、できたよ」
『.......』
かつての主人を懐かしみ、レイヴンは空を見上げる。
『帰りましょうか』
「うん」
少し思い出に浸った後、レイヴンは帰路へとついた。
そして、そのお礼が使われる時は、意外にもかなり早くやってきた。
『シャーレの「先生」から依頼が入っています』
気が向いたら続かない。
レイヴン、仕事の時間です。
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「ティーパーティー」からの依頼です。
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「セミナー」からの依頼です。
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アビドス対策委員会からの依頼です。
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私からの私的な依頼です。