『状況を簡単に説明します。エナジーMAXの在庫がなくなりました』
『なのでちょうどいい機会と思い、食材及び調理器具の買い出しを予定しています』
『レイヴン、貴方にはその間の護衛を頼みたいのです。報酬は……私の貯金から出します』
『……体の良い休暇ではないか、と?……はい、連日仕事漬けの貴方を休ませるにはこうするしかなかったので』
『依頼、と銘打てば貴方が断るはずがないと判断しました』
『……そういうわけで、よろしくお願いしますね、レイヴン』
『忘れずに言っておきますが、ヘルメットは置いて行ってくださいね』
「ねえハンドラー」
「今はエアですレイヴン、なんでしょうか」
「……細かいことは置いておくけど」
「まともな料理作れるようになったの?」
「失礼ですね、これでも知識だけは誰にも負けませんよ」
「物体X」
「それはやめてください……あれから私も練習はしてるんです……!」
「……」
「レイヴン、そんな目で見ないでください……」
ブリーフィングから数日後、ワタリとしての服装をしたレイヴンとハンドラーことエアはわざわざブラックマーケットを離れ、D.U.シラトリ区、ラミ二タウンまで買い出しに来ていた。ただの買い出しならブラックマーケットで済ませればいいものを「たまには外に出ましょう」というエアの提案でわざわざ遠出することになり、連日依頼続きで疲弊していたレイヴンは心なしか少し遠い目をしていた。
余談ではあるが、エアは身分証もないしブラックマーケットでいいのでは?と提案するレイヴンを「完璧に偽造しました」の一言で一蹴している。
「……で、何から?」
「まずは食事にしましょうか、レイヴン。買い物は後でいいでしょう」
「謀ったね?」
「謀ってません、もう昼ですので」
「……はあ、しょうがないなぁ。いいよ、お金だけは腐るほどあるし」
「武器と変装道具以外に使うことがほぼなかったですね」
「……仕事道具なんだから仕方ないでしょ」
満面の笑みで外食を提案するエアにレイヴンは少し白い眼を向けるが、以前ヒフミにたい焼きを貰った時のことを思い出し、たまにはいいかと承諾する。
少し浮足立っているのか駆け足で飲食店を見て回る彼女を見て娘を見るような生暖かい視線を向けつつ、迷子にならないようにとエアを追いかけようとしたところで。
「あれ、ワタリ?」
「……先生?」
外食しに一旦職場を離れていたシャーレの先生と、レイヴンは偶然の再会を果たした。
「いやぁ、まさか此処に来てるとは思わなくて」
「……ちょっと買い出しに」
「……」
「エア、なんか不機嫌?」
「不機嫌じゃありません。とりあえずチーズバーガーセットで」
(絶対不機嫌だ……)
先生と再会を果たしたレイヴンはエアを呼び止めた後、これも何かの縁と先生を含めた3人でハンバーガー店で昼飯と洒落こんでいた。二人きりと思っていたところに先生が来たためエアは露骨に不機嫌になり、さっさとメニューを決めて頬杖を付いてしまった。
「……じゃあ私はクラシックバーガーセットで、ワタリは?」
「エビバーガーセット」
「わかった、じゃあ注文してくるね」
エアの機嫌をこれ以上損ねないために先生との会話を最低限に済ませ、先生が注文に行ったところでレイヴンは頬杖を付いているエアに話しかける。
「……後で一回だけ何でも付き合うから、それでいい?」
「怒ってません」
「それ怒ってる時の常套句」
「……はぁ。いいですよレイヴン。何でもですね?」
「うん、なんでも」
「……わかりました」
機嫌を戻してくれたらしき様子のエアに安堵すると同時に彼女の眼を見て(何かマズいことでも言っただろうか)と思考するレイヴンのもとに注文を終えたらしき先生が戻ってくる。
「……ところでワタリ、隣のその子は?」
「ハンドラー」
「……今は東雲アマツです。お久しぶりですね、先生」
エアは身分証を偽造した時に適当に作った偽名を名乗り先生に対応する。適当に決めたという割にはレイヴンのよく使う偽名「東雲ワタリ」と名字を露骨に合わせてきていて、どう考えても適当ではないという話はここでは閉まっておこう。
「君がハンドラーなんだ、アビドスの時は色々とありがとう」
「依頼は確実にこなすのが私とレイヴンなので、当然のことをしたまでです」
「エ……アマツ、今はワタリだし一応護衛任務って体裁だから、なるべく正体は隠して」
「わかりました。……ところで、先生はいつまで?」
「いやぁ、仕事が溜まってるから……実はこれもコッソリ……」
「……はぁ、仕事は堅実に処理するものでは?」
「返す言葉もございません……」
露骨に帰ってくれオーラを出しながらエアは先生の予定を伺う。先生の怠惰を忠言しながらすぐに帰ると聞いて機嫌を良くした彼女を見たレイヴンはルビコンでの彼女ってここまで感情豊かだっただろうかとちょっと過去を思い出しながら、運ばれてきたコーラのストローに口を付けていた。
「……おいしい」
「そもそも仕事の期限を超過するというのは信用という問題において……ワタリ、私にも」
「いいよ」
いつの間にかエアの忠言は説教に代わっていた。それを後目にコーラの味に舌鼓を撃っているところで彼女に欲しいといわれ、レイヴンは躊躇することなく自分の飲んでいたコーラをエアに渡し、受け取った彼女は自然にレイヴンが使っていたストローに口を付ける。
「……二人は姉妹とか、なのかな?」
「違う、名字が同じなのは偶然だし……偶然?」
「偶然ですよレイヴン」
「……うん、そういうことにしておこう」
仲睦まじい、というよりは手慣れている所作を見た先生は二人の血縁関係を疑うがあっさりと否定し、同時にレイヴンは「名字同じなのなんでだろう」と疑念を抱くのだが、すぐにまあいいかと思考の奥底にその疑念を捨ててしまった。
「じゃあ二人はどういう経緯で一緒になったのかな」
「……」
「……んー」
(レイヴン、どこまで話したものでしょうか。流石にルビコンの話は伏せますが……)
(……こっちに来てからはまあ話していいよ。その前は……どうにかでっちあげる)
(わかりました、それで行きましょう)
唐突に自分たちの経緯を聞いてきた先生に二人は一瞬言葉を詰まらせ、ちゃっかりキヴォトスに来た時からレイヴンもできるようになったC波形同士の交信で周囲に聞かれないように相談する。聞かれないように、という割には強化人間か同じC波形が居れば漏れてしまう会話手段だが、今のところキヴォトスには両者とも存在しないため実質的な秘匿回線となっている。これもまた余談だが、レイヴンがヘルメットを改造するまでエアはルビコンの時のように交信を使ってレイヴンのサポートを行っていた。
「……どうしたの?」
「……失礼、何処まで話したものかと考えていました。一応プライベートの範囲ですので」
「うん、まあある程度なら話していいかな。でも先生、こういうのいきなり聞くものじゃないよ?」
「それは……ごめん」
「……私はね、昔身寄りのない孤児だったの」
少しデリカシーのない先生を戒めつつ、レイヴンは自分の過去を経験にちょっと嘘も交えつつ話し出す。
「あの人に拾われて、そこからはその人に従ってあちこちで傭兵まがいの活動をしてた」
「あの人?」
「……私の恩人、生きる意味を与えてくれた人。あの人が居なかったら私は居なかった」
「……その人は、今どこに?」
「わからない、生きてるかも、死んでるかも。でも、私は生きてるって信じたい。……生きてて、欲しい」
(……ウォルター……)
「……ごめん、辛いこと聞いちゃったね」
「いいよ、引き摺ってるわけじゃないから。それで、アマツと出会うまでの話だったね」
(……レイヴン、大丈夫ですか?)
(平気。だけど、私はウォルターを、裏切ったから、今更どんな顔をして会えばいいか……)
(……)
ウォルターの話題で少し言の葉を詰まらせたレイヴンをエアは心配するが、レイヴンは心配無用と話を続ける。
「ある時の依頼で終わらせた後に死にかけて……アマツとは、その時に出会ったの」
「死にかけの時に!?」
「……そうですね、今ワタリが生きているのは私のおかげですよ」
「……おかげというか、なんというか……はぁ」
何故か自慢げなエアにレイヴンは若干の白い眼を向けながら、ため息を付いて一旦話を区切る。
「詳しくは話せないけどその後色々あって……2年前、私とアマツはあの人と別れてブラックマーケットに流れ着いた」
「それ以降は恐らく貴方の知る通りです。地道に依頼をこなし続け、ワタリは「最強の傭兵」と称されるまでになりました」
「うん、まあこんなところかな。特に面白くなくてごめん……あ、来た」
色々というには多すぎるルビコンでの出来事をぼかしながらレイヴンは話し終え、ちょうど良いタイミングで注文したハンバーガーが運ばれてくる。
「……色々と、あったんだね」
「おいし……ん、色々。でもまあ今生きてるから平気」
「そうですね、過去は過去、あくまで振り返るものでしかありませんから。ワタリ、私にもください」
「いいよ、アマツのもちょうだい」
「当然です」
「……カップル?」
当然のように口を付けたハンバーガーを交換しあう姿を見て二人の姉妹疑惑を払拭された先生は素朴な感想を口にする。
「違うよ、あくまでビジネスパートナー。……それに女同士だし」
「……ええ、そうですね、あくまでビジネスパートナーです」
「そ、そうなんだ……(その割には手慣れすぎてるような……)」
ビジネスパートナーと言い切られたエアは少し悲しそうな顔をして言葉を詰まらせるが、場の雰囲気を壊さないためにすぐに合わせる。それでも先生の疑念を払拭するには至らなかったのだが、それはまた別の話。
「ところで先生、呑気にしてていいの?仕事溜まってるんでしょ?」
「んー、もう少し余裕はあるから……大丈夫、多分」
「全然大丈夫に見えませんね。いっそ代行の依頼でも出されてみては?」
「出したら受けてくれる?」
「ええ、ワタリが」
「書類仕事はアマツの方が得意でしょ……」
「冗談です」
仕事の話を聞かれて冷や汗を流す先生を揶揄いながら、3人の時間はゆっくりと終わりを告げる。
店を出た後すぐに先生は怒り狂った青髪の生徒に連れていかれ、改めてレイヴンとエアは二人きりになった。
「では、改めて行きましょうか。調理器具は嵩張るのでまずは食材から」
「うん、でも手あたり次第買わないようにね」
「……善処します」
「よし、行こうか」
以前手あたり次第に食材を買い物体Xを生成したエアを少し牽制し、レイヴンはエアをエスコートするように並びたって市場へと足を進める。
「……そういやレイヴン、なんでも、でしたね?」
「うん、なんでも」
「はぁ……レイヴン、そういうことは気軽に言うものではありませんよ。私だって聖人ではないのですから」
「たまにはエアのお願いも聞いてあげないとって思ったから」
「……わかりました。じゃあ、今のうちに」
思ったよりちょろいレイヴンにはエアはまた呆れながら、なんでも、の内容を伝える。
「今日の夜、二人で一緒にキヴォトスの空を見ましょう。ナイトフォールに乗って」
「……いいね、たまにはそういうこと、してみたかった」
「……そういうところですよレイヴン」
半ば告白まがいの発言をそのまま受け取ってしまったレイヴンに若干不満そうなエアは、ちゃっかり手を繋いで買い出しを始めるのであった。
『トリニティ総合学園生徒会「ティーパーティー」からです』
思いついたら多分続かないこともないかもしれない。
東雲アマツ
身分証を偽造するときに名付けたエアの偽名。ちゃっかりレイヴンの偽名は東雲ワタリで作っている。多分この世界線のブルアカではエアとレイヴンが天照と渡烏とかそういう考察をされているかもしれないしないかもしれない。
レイヴン、仕事の時間です。
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「ティーパーティー」からの依頼です。
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「セミナー」からの依頼です。
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アビドス対策委員会からの依頼です。
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私からの私的な依頼です。