貞操逆転×→性欲逆転世界で配信者してなりきりチャットして女装する 作:坂水木
――香理菜家、香理菜の部屋。
徐々に強まる雨音を聞きながら、男は一人柔らかなソファーに身を沈めていた。
閉められた扉と廊下の先、リビングからは大工作業の声が聞こえてくる。
「そっちシート留めてくださーい」
「承知」
「こっち板足りないです。変わり身使える人、丸太ある人ください」
「任せて。カットします」
「お願いします」
「水除けの糊糸余ってます?」
「得意技なのでたくさんあります」
なんだか不思議な会話が耳に届く。作業者は主に国家公務員の忍者たちなので、忍具や忍術を使って修理補修をしているのだろう。
香理菜家である。香理菜家の二階、主にトイレの話だ。
ほんの少し前にアヤメが香理菜家二階のトイレを破壊して外に出ていってしまったため、現在トイレは使用不可、雨風吹きさらしとなっている。
水浸しは困るので、三玄母娘を保護するためやってきた国家公務員たちが家の補修を行っている。
当の三玄母は実咲から事情説明を受けている。困った顔も「家の全リフォーム工事請け負います」の一言で笑顔に変わっていた。今は暫定だが予定を詰めているらしい。
ソニャはずっと優理の傍に控え、護衛の役割を全うしている。眠そうだが。
そして当事者のもう一人、香理菜はというと。
「ねー優理。ユツィラの配信するんだよね? わたしさ、ほら、ここに居ていいのかな? やー、なんかリスナー的にこんな抜け駆けみたいなさ。うん、すごいドキドキするんだけど、嫉妬で呪い殺されそう……」
そわそわそわそわ、自分の部屋だと言うのに落ち着きなく立ったり座ったり歩いたりを繰り返していた。
「……香理菜ちゃん映すつもりないからドキドキしなくていいよ」
呆れて適当に伝える。わちゃわちゃ抗議してくる興奮気味の女友達は雑に流させてもらった。香理菜との距離感が良い意味でバグっている気がする。ユツィラリスナーだと思うと扱いが超雑になるので、あまりリスナーっぽさを出さないでほしいと思う優理だ。
「……ふぅ」
ディラに頼んで配信画面を準備してもらう。香理菜以外の美女二人にはあだ名を使うことを許してもらった。この後の行動についても説明はしてある。顔出しは……それぞれ特殊な方法で素顔を隠すらしい。今のところ素のままだが……特殊部隊とメイド、何かあるのだろう。
告知だけは前日に済ませてあった。優理が実家でリアラと話した時のことである。
『リアラさん。別件なんですがちょっと許可? というか、してもいいかなって話なんですけど……』
『実はアヤメの真実と僕らの現状を全部ユツィラの配信で話そうかと思って。大事なのは"未来のために少女を犠牲にしようとする権力者"という構図です。皆がアヤメを守ろうと思ってくれれば……どうかな、と』
優理とて、何も考えず無策でアヤメ捜索に出ていたわけではない。思想自体はあった。ただそれも、つい先ほどのアヤメとの邂逅で大失敗し、後悔し沈み込み吹き飛んでしまったが。久方ぶりに前世の懊悩を思い出すくらいには気落ちしてしまった。
ディラに「これは、想定内?」と尋ね『想定内です』と言われ声を荒げてしまったのも、それだけ余裕がなかったからだ。
予想外だったのはディラもまた。
『私が! どんな想いでアヤメ様の今を見ていると思っているのですか!!?』
と声を荒げ。
『あなたがいるから……あなたがいるから、アヤメ様は今こんな目に遭っている。責任を取ってください。最後まで、
と言われてしまったことだ。やはりエイラとは違う存在なんだな、とか、まさか人工知能がそんな感情的になるなんて、とか思ったが……何よりも優理は単純に、胸が痛かった。
ディラの言葉はよく効いた。めちゃくちゃに効いた。
その通りだった。優理が興味本位と性欲と恋欲愛欲と、人間的欲求に従って犬猫でも拾うようにアヤメへ手を差し伸べた結果が今だ。
優理のせいでアヤメは外に出て、優理と暮らし、優理のために命を使おうとしている。
傘宮優理が軽い気持ちでアヤメを連れださなければ(勝手に家に来たけど)、アヤメは今も命がどうだ人生がどうだで悩んだりしていなかったはず。
責務はある、義務もある。その通り。
でもそれ以上に、今はもう優理自身がアヤメの傍に居たかった。一緒に居てほしかった。責任は取ろう、義務も全うしよう。アヤメのことはしっかり、自分か彼女が死ぬまで、最大最幸福を一緒に探し求めて生きていこう。
ディラのおかげで、改めて決意が固まった。
漢にはやるべき時がある。優理にとってのそれが今だった。
根本的な問題解決のため、優理は自分自身をベットすることにした。
これは賭けだ。リスナーの民意に賭ける。性欲以外は善性の多い人々の意思に賭ける。アヤメの幼さを知るリスナーたちに、アヤメが普通の人間と変わらない事実を知るリスナーたちに、遠い出来事ではなく身近な話として聞いてもらう、知ってもらう。
そこにあるのが憐れみでも同情でも構わない。重要なのは秘された物事が表に出ること。大衆の目に触れ、その一部でも権力者へ非難の矛先が向くこと。
相手は国だ。日本だけではない。アヤメを狙う数多くの国家、組織。ならば少なくとも、一時的に動きを止める程度の情報は広めてしまおう。
その間に灯華の協力で日本政府をこちら寄りに掌握。保護のラインを作ってもらおう。こちらにはエイラがついている。電子機器含む情報はすべて筒抜けだ。実働部隊さえいれば、すぐに元の生活――とまでは言えないが、安定した生活を取り戻すことはできる、はずだ。
「……よし、始めようか」
『ユツィラチャンネルにて配信を開始しますか?』
「うん。スタートで」
『了解しました』
緊張で痺れる指先を数回動かし、気合を入れる。配信を始めよう。
え す
YC 銀のお姫様と童貞を救う会
ライブ配信 ユツィラ ご報告 未来よりも一人の少女を
「――皆様、午後十二時をユツィラがお知らせいたします」
時報定期
ユツィラアラームボイスは販売済みです
お値段(100円)
価格破壊定期
販売数(500,000)
一緒にお昼寝したいよ♡
「結構人集まってるね。月曜のお昼なのに」
ふむと頷く。告知を「絶対見てね」とか「大事なお話」とか書いたから効果は出たようだ。お昼休みで仕事中の人もいるかもしれない。感謝である。
現在視聴者数、およそ二十万人。
これだけ人数がいれば少しは効果も出るか。
「今日は"銀のお姫様と童貞を救う会"を結成しようと思います」
どういうことかしら
童貞=ユツィラ
犬猫拾った?
お金なら貢ぐよ♡
写真はよ
「童貞は僕なんだけど、犬猫ではありません。皆、ここがどこだかわかる?」
窓しか見えない
私の瞳に映るあなたの……顔!?!?
は?
え?
「あ、そうそう。今日は顔出しなんだ。事情があってね。すぐ説明するからよろしく」
すっごく押しに弱そうなお顔してて草
攻めて押したら押し倒せそうな男の子じゃん……!
わたしが守ってあげるからね♡
顔出し急展開過ぎない?え、やば
お肌綺麗過ぎない?あたしより綺麗に見えるんだけどなにそれお触りいい?
これが流行りのチョロインですか……
困り顔が似合う男は私の性癖に刺さるッ!
「一応反応しておくか。……顔出しの理由はすぐ言うから後回し。スキンケアはミズタマ化粧水と乳液だね。洗顔は昔泡立ててやってたけど、最近は水だけかな。代わりに化粧水はドバドバ使って乳液もたっぷり使ってる。日傘とか日焼け止めはよく使うし、脱毛もしてるからその辺のケアは普通の人よりしてるかも。ここは友達の家。アイリスは……あの子、本名アイリス・アヤメって言うんだ。僕は普段アヤメって呼んでる。僕? 僕は優理。これ本名ね。どうも、ユツィラ改め優理です」
は?
え?
え
ん?
?
え?
困惑レベルが上がっている。が、それも想定内。正直本名を言う必要はないかもしれないが、アヤメの説明をするとなるとどこからか漏れるのも時間の問題だろう。既に敵組織には優理の名前どころか住所に年齢に職業と全部バレているのだ。それならば、隠さず堂々と、自分から公開することで先にダメージを受けておこう。
予期せぬ攻撃は致命傷になるが、想定し備えていれば痛みも最小限で済む。
「と、まあ。なんでこんな大公開しているのかって話なんだけどさ。……順を追って話すよ。今の僕がどうなっているのか、今のアヤメが、あの子がどうなっているのか……」
これはただの暴露配信ではない。
これは、一つのメッセージである。焦燥に駆られ伝えきれなかった言葉を、自身の持ち得るモノを利用して送り伝える、銀の少女への一綴りの手紙。
ある程度端折って、大事なことだけを電子の海に流していく。
アヤメとの同居。
アヤメの生まれ、育ち。境遇。夢人形計画のこと。
アヤメの身柄を狙う、国家、組織のこと。
一人の少女を犠牲に、世界を進めようとする人間たちのこと。
優理がアヤメを大切に思っていること。助けたいこと。そして、一番大事なことを言えなかったこと。
「――言えなかった。本当は最初に言わなきゃいけなかったんだ。義務とか責務とか、理屈とか理由とか。そういうのじゃなかったんだ。僕がどうしたいか、僕の想いを、僕の気持ちをあの子に伝えなきゃいけなかった。……だから、もう一度だけ話がしたい。直接、話をしよう。アヤメ。こんな形でチャンスをもらおうとしている僕がずるいとはわかってる。でも、もう一度だけ話させてほしいんだ。待ってるよ。場所は……」
わたしの家かな?
絶対に間に入れない場所に挟まる、それが私
最期の地――それは私の胎内
アイリス子供っぽかったけどちゃんと三歳なら子供か……私の娘!?!?
――子を守るのは母の役目と、昔から決まっている、だろう?
ゆうりくんがんばえー!そして私の声援は彼の力と成り、いつしか恩返しと私の夢の中へ……!
ちらと配信のチャット欄を見て、碌なコメントがない事実に安堵と呆れと疲労が押し寄せてくる。こんなもう半分終わっているリスナーの中に香理菜が含まれていたってマジですか……。優理、改めて微妙過ぎる現実にショックを受けた。
軽く首を振る。
アヤメともう一度話す場所。それは……。
「――僕たちが最初にして、叶えた約束。空を見られる場所。そして、アヤメが見つけた新しい秘密の場所。僕を連れていってくれるって、そう言ってくれた場所。そこで待ってる。アヤメが来てくれるまで待つよ。待ち疲れて、待ちくたびれて、もう一度僕の方からアヤメを探しに行くのも……うん。いいかもね。アヤメが空を飛んだみたいに、僕も飛んでみたいし」
エイラの名前を伏せた、ふんわりとした内容だ。それでもアヤメならわかるだろう。何より彼女にはエイラがついている。この程度の読解造作もないはずだ。
今日は雨だから青空も夕焼けも見えないかもしれない。それでもいいと思った。どうしようもなく綺麗で見惚れてしまう空は、仲直りして全部落ち着いて、本当に"ただの観光"として訪れた時に見ればいい。
この暗号、私も読み解いたら行っていいの?
ゆうりきゅんの思考をトレースすればワンチャン……!
ユツィラなのかゆうりなのかはっきりしてよ!どっちで呼べばいいのよぉ……
なんでもいいけど尊みを感じる
抗議活動、しますかぁ
ろくでもないコメントに混じって真っ当にアヤメのために憤ってくれている人がいた。リアルネット問わず抗議工作に動くというコメントも散見される。
どこまで本気かはわからない。それでもいいと思う。少なくとも日本への対処は灯華がしてくれている。それ以上を望むのは贅沢が過ぎるというものだ。
あとは……。
「別に皆も来れるなら来ていいよ。ハグくらいならするから、気軽に読解してね。これ以上ヒントはないし……たぶん、現場は高確率で鉛玉飛び交い銃声響き硝煙香る戦場になるから、自衛能力ある人だけ来てね」
草
無理難題が過ぎるよぅ
雨だから硝煙は香らない、そんなツッコミは野暮よね!
そもそも今のヒントだけで読み解ける人が少ないでしょ
命懸けのハグか……我が命、懸ける価値有り、か
ミステリー作家兼ユツィラリスナーの私に敵はなし。なお戦闘力……
なんだか楽しそうなリスナーたちだ。
ほとんどが遊び半分で言っているのだろうが、中には本気でハグを求めてやってくる人もいるかもしれない。それがユツィラリスナー――いや、性欲の為せる技か。
助力は大いに歓迎なので、是非やってきてアヤメ保護奪還作戦を手伝ってほしい。活躍度によっては優理からお姫様抱っこくらいまでの報酬がある。無論エッチボイスも含まれる。これらの情報を聞いたリスナーのうち、数万人は本気を出してくれることだろう。
「じゃあいったん終わろうか。現地着いたらまた再開するつもりなので、よろしくね。僕は移動します。同行者は……」
と、そこで護衛とメイドを手招きする。ディラを引き伸ばして自撮り棒っぽく上手く距離を作る。これで映る幅が広がった。
「メイドのミーちゃんと」
「メイドにございます。お見知りおきを」
「護衛のソーちゃんだよ」
「ん……よろしくね」
美女二人がどうやって顔を隠すのかと思ったら、実咲はメイド服と同じ生地のエプロンを顔にかけて純白頭巾姿を披露していた。目の穴も呼吸穴もないので、見えないし息苦しそうだ。メイドのことだから「特にそんなことはございませんが?」とか思っているのだろう。
一方、護衛のソニャはというと。
「……」
「なに?」
「いや何も」
「むふー」
何故か胸を張って自信ありげな様子の護衛ソニャ。その頭は紙袋で覆われていた。目のところは穴が開けられ、口元も小さく穴が開いている。頭巾とか仮面とかそういうのじゃなくて、ただの紙袋だった……。
優理は何も言わない。十歳児のソニャが自慢げなので、否定するのも可哀想に思えたからだ。
草
お化けメイドに紙袋夏服……夏服?
今秋なんですけど、もう冬なんですけど
無駄に精巧なメイド服だねぇ。裁縫屋のあたしゃにゃわかるよ
「ミーちゃんとソーちゃんは凄腕護衛なので、たぶん君らが襲いに来ても即撃退&逮捕&肉壁にされるよ」
肉壁(文字通り
銃撃戦の肉壁はさすがの私でも大怪我しちゃう……
つまり"なかまにくわわる"コマンドを選べばいいのね!
私もユツィラきゅんの護衛したいのだけど
「是非仲間に加わってください。パーティユツィラはいつでも仲間を歓迎します」
仲間(肉壁
仲間(都合の良い駒
仲間(踏み台
仲間(戦闘員
「――戦いに報酬はない。名誉も名声も何も、金貨一枚すら貴様らの手に残ることはないだろう。ただ貴様らの胸に残るのは、何の罪もない少女一人を救ったという事実のみ。誰に褒められることもければ、大衆の記憶に残ることもない……。ともすれば、非難され、糾弾され、否定され、弾劾を受けるだろう。それでも、己の魂に従い、自身の誇りが声高に叫ぶと言うのならば……私は歓迎しよう。貴様ら……否、貴殿らの矜持に応えよう。貴殿らの信念を、貴殿らの敢闘を、貴殿らの雄心を。私の持ち得るすべてを以て貴殿らに応えよう」
私が征こう
私も、共に
貴公の道行に、ささやかながら我が助力を
我ら永遠なる同士也。言の葉なぞ今さらぞ
――して、貴殿より齎される報酬は
「あ、報酬ね。ハグと、あとエッチなことじゃなければ連絡先交換とかお姫様抱っことかならいくらでもするよ。僕にできることならなんでもお願い叶えるのは……超ファインプレーしたら?」
はい神配信
――私の全てを懸けて、征く
その言葉、忘れないでね
申し訳ないけどさすがに行く
お姫様抱っこか。……人生懸ける価値、あるかもなぁ
ワンチャンえっちなこともいいですか?
そんなこんなでなんだかんだいつも通りなまま配信は終わる。
コメントの流れが早かったり、セクハラコメントが多かったり、興奮気味なリスナーが多かったりとしたが些細なことだろう。
「ふー、ひとだんらく……」
安堵の息を吐いている優理だが、彼は気づいていなかった。
自身の一言の意味を。そして、侮っていたのだ。
この世界の女性が持つ、"性欲及び恋欲愛欲"というモノを。
さらに言えば、自分のリスナーにとりわけ性欲強めな女性が多いという事実も忘れていた。
こうして始まる。絶対に聞き逃せない男の発言――――"お姫様抱っこ"を切望する乙女たちの、魂を懸けた骨肉の争いが……!!!
ヒロインが増えても時間経過は遅いので、季節イベント短編集を思案中です。基本ヒロインごと個別のデート形式です。
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桜お花見
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ネモフィラお花見
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向日葵お花見
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藤の花お花見
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海辺観光(夏)
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海辺観光(冬)
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登山(夏)
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大雪巣ごもり
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梅雨の公園散歩
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秋祭り(本編のお祭りっぽいの)
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上記以外、案があればコメントください。