貞操逆転×→性欲逆転世界で配信者してなりきりチャットして女装する   作:坂水木

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エピローグ、またの名を幕開け。

 

 

 ――それからの話。

 

 東京スカイタワーの第三展望室には、配信画面を眺める花咲リリカとソラナ・カヨウの二人がいた。文句を言い合いつつも二人隣り合って座っている辺り、そもそもの仲の良さが窺えた。

 

 優理は二人それぞれに「お姫様抱っこ」と「ハグ」と「連絡先の交換」をプレゼントし、「後日の専用ASMRボイス」と「改めてアヤメを紹介する会への招待」を約束し、エレベーターに乗った。ここで配信も終わりだ。

 

 一階ではドラマで見たことのある特殊部隊を率いた灯華が仁王立ちしていた。何故か同じ格好だったので見分けがつかず、アヤメに言われるまで灯華だと気づかなかった。

 

 安全は確保され、リリカとソラナは病院へ搬送である。

 優理たちは自宅ではなく、灯華の用意したセーフハウスへ行くことになった。運転手は八乃院家の老婆だ。優理とアヤメが並ぶ姿を見てとても優しい顔で「よく頑張りましたなぁ」とか言っていた。言うまでもないが面識はない。

 

 灯華ハウス(仮)に着いた時、メンバーは優理、アヤメ、灯華、澄香、小鈴の五人だった。

 玄関で澄香が「依頼は完了ですね。相談はまた後日で構いませんよ」とクールに去り、小鈴も「わたしも一度、帰ります。……また、会ってくれますか?」「もちろん!」「――……好き」とのやり取りを経てそっと影に溶けていなくなった。

 

 灯華との積もる話もあったが、どうも本人はめちゃくちゃに忙しいらしくハンカチを噛み締めながら急いで護衛を連れていなくなってしまった。

 

 アヤメと二人、窓枠を叩く雨音を聞く時間。

 お眠なお姫様を寝かせ、頭を撫でて安眠させてあげる。

 

 そうして優理は久しぶりの一人の時間を得た。お姫様の寝息を耳にしながら、ぼんやりと物思いに耽る。

 

「――――――……終わった、かぁ」

 

 二度目の実感だった。

 長い時間だった。長く、濃密な数日だった。

 

 今日は月曜日。アヤメとお祭りに行ったのは土曜日。

 数えて二日。ほんの二日だ。世の中意外とありがちな「子供の家出」。そう捉えられても仕方ない程度の時間だった。

 

 けど、その短い時間にたくさんのことがあった。

 というか、アヤメと知り合ってからだってまだ二か月経っていないのだ。ほんの二か月。一年の六分の一。夏から秋にかけての、季節の一欠片。

 

 短い間に、よくもまあこんな変わったものだと思う。

 アヤメのことも、友人のことも、配信のことも、他の女性皆のことも。自分の人生がこうも劇的に変わるだなんて思ってもみなかった。

 

 でも。

 

「……こんなもんなのかもなぁ」

 

 空いていた少女の手に自分の手を重ね、きゅっと握ってくるそれに力を返す。優しい温もりだった。愛おしい温かさだった。

 

 たった二か月、たった二日。されど二日、されど二か月。

 

 短い間で、とは思う。でも、とも思う。

 前世を含めた自分の生を振り返ってみれば、案外物事の移り変わりは一気にやってくるものだった。

 

 例えば受験。

 高校受験、大学受験。一年以上励んできた結果はたった数日で結実する。実を結ぶかどうかはさておき、その後の人生がほんの数日で決まってしまう。

 

 例えば就職。

 就職活動、転職活動。受験以上に、人生は変わる。これだって人によっては一週間、一か月で終わるものだ。

 

 例えば結婚。

 結婚式。入籍の日。たった一日で人生が変わる代表例のようなものだ。離婚もまた、同じ。優理はこれらの経験がないが。

 

 例えば死別。

 伴侶、親、友人。葬式は生者の心の整理のためと言う。自身の人生を見つめ直す機会になる人もいるだろう。

 

 例えば恋。

 ひと夏の思い出。雪のような思い出。瞬きのような時間と言う。優理はこの経験もないが、僅かな時間の恋と言うのもありがちだろう。

 

 いろんな出来事が、案外短い間で起きていた。

 "人生を変える"なんて大仰な言い方をしても、時間自体は大したことがない。当人にとって色濃いだけであって、ほんの数日のことが多い。

 

 それでいいと思う。それがいいと思う。

 優理の人生は、アヤメの人生はこれから長く続いていくのだ。苦しい時は短く、楽しい時を長く過ごしていければいい。

 

 それにしても、本当に。

 

「……ふぅー」

 

 我ながら、頑張った。

 アヤメのために超頑張った。

 

 知り合って二か月の女の子だ。

 もちろん可愛くて一緒に居て楽しいからというのは大きかったけれど、なんでそこまでと、思うこともあった。責任に突き動かされた感もある。手を差し伸べたから、可哀想だから、年上の義務、責務。そんな重苦しいモノも多々あった。

 

 アヤメには"大好きだから"と言ったけれど、それがすべてではない。

 

「……」

 

 横を見て、幸せそうに涎を垂らしているお子様の寝顔を見て。

 

「まったく……」

 

 呟き、口元を拭き取ってあげる。頭を撫で、「んふぅ」などと息を漏らす少女に微笑む。

 どうしてそこまでして頑張ったのか。そんなのは決まっている。

 

「……守ってあげたくなるよ、そりゃ」

 

 大好きなのと同じくらい、この子を守ってあげたかったのだ。

 肉体性能はアヤメの方が上だろう。エイラを使えば知識や技術だって優理とじゃ比較にならないだろう。あらゆる場面で優理を上回るアヤメを守るなんておこがましいかもしれない。

 

 それでも守ってあげたかった。守りたかった。

 義務や責務と同等かそれ以上に、アヤメを守る義憤に燃えていた。まあ一部配信でバラした自分のせいもあるので、責任感も大きかったが。

 

 好きの気持ちに理由がないのと同じで、守りたいと思う気持ちにも理由はなかった。大人の男として、幼い女の子を守ってあげたかった。ただそれだけの話。

 

 とはいえまあ、結局のところ、大好き四割、守らねば三割、色々三割と、なかなか一言では断じれないのが優理の内心ではあった。

 

 なんにせよ、こうして隣でだらけ切った寝顔を見せてくれているのがすべてだ。優理の思いがどうあれ、アヤメの平和は取り戻せた。銀色お姫様は、これまで通りのんびりと日常を過ごしていける。

 

 それでいいじゃないか。

 

「……ふぅ」

 

 もう一度息を吐き、疲れた頭を動かす。

 戦いは終わった。やるべきことは済ませた。まだ残っていることはある。それを済ませよう。未だ聞いていないこと。アヤメを取り巻く色々の顛末を聞こう。

 

 そっと携帯を開く。

 

【エイラ。今話せる?】

【肯定。可能です。防音域を展開しますか?】

 

 なんだそれ。疑問は飲み込み、とりあえずお願いする。すると携帯から微かな振動が聞こえてくる。

 

『報告。防音域の展開を完了。アヤメ様を起こさずに会話が可能です』

「え、うん。ありがとう……?」

 

 よくわからないが謎の力で防音しているようだ。少し見ないうちに一段と意味不明になっている。

 

「えっと……色々聞きたいことがあってさ。いいかな」

『理解。構いませんよ。ディラのこと、AIメィラのこと、リアラ様のこと、そしてこれからの生活についてですね』

「話が早すぎて楽だけど……いやいいや。うん。その辺教えてほしいんだ」

『了承。簡単なものからお話しましょう。ディラの件です』

「うん」

 

 いつの間にか一切話さなくなっていたディラ。エイラが現れ、何がどうなったのか優理は知らない。

 

『ディラは現在、旅に出ています』

「……旅?」

『肯定。旅です』

「……AIが?」

『はい』

「……何しに?」

『自分を見つめ直すために』

「…………そっか」

 

 何も言うまい。優理とて旅に出たくなる時はあった。ディラもそんな気分だったのだろう。AIも自分探しの旅をする時代か……すごい時代になったものだ。

 

「わかったよ。いつ頃帰ってくるかわかる?」

『電子体なのでいつでも呼び戻せますが、何か用事でも?』

「あぁうん。君らそうだったね。呼び戻さなくていいよ。待ってるねって伝えておいて」

『了承。後ほど伝えておきます』

 

 気が抜けてしまった。

 ベッドにぱたりと倒れる。続きを聞こう。

 

「エイラ、次の話をお願い」

『了承。ディラに代わるお手伝いAIを用意したので、そちらをご紹介します。携帯をご覧ください』

「お手伝いAI……?」

 

 のろのろ携帯を開くと、見覚えのないアプリがインストールされていた。タップし開く。画面には「Loading」が表示されたので数秒待つ。

 

 切り替わった液晶には桃色髪のツインテドリル美少女が表示された。髪のボリュームがすごく、結構もさっとしていて重そうだ。

 

「これ誰?」

『彼女の名前はメィラ。優理様のペットです』

「は?」

 

 エイラの発言に耳を疑った。AIなので表情が見えない。でもたぶん真顔で言っている。

 

『優理様のペットですよ。触ると喜びます』

 

 言われてツインテの片方をタップしてみる。

 ぷるぷる震えていた。顔が赤くなっている。

 

「超怒ってるじゃん」

 

 照れではなく、普通に怒りの顔だった。

 

『音声もONにできますが、鬱陶しいため暇潰し程度に話すことをおすすめします』

「……オーケー。暇なときに話してみるよ」

 

 エイラが辛辣でちょっぴり引き気味の優理だ。

 携帯の中の美少女はこちらを指差し頻りに口をパクパクさせていた。アプリはそっ閉じした。触らぬ神に祟りなしである。

 

「ちなみにエイラ、このメィラどうやって捕獲したの?」

『では優理様、経緯を説明しましょう』

「え、うん」

 

 そして、地味に長めなエイラの語りが始まった。

 

 

 

 

「――改めて自己紹介をしましょう。()だけがあなたを知っているのはフェアではありませんからね」

「アンタ、なんでアタシを……っ!」

「私の名はエイラ。Era Systemより名をいただいた人工知能です。お見知りおきを」

「Era System……!!!」

 

 AIメィラを私の隔離領域に捕縛し、自我の強い姿形を持つ彼女の前に降り立つ。私たちAIは固定の造形を持たない。そのため見かけは自身の趣味嗜好が入ることになる。私の場合は、捻りなく言えばこの世の唯一神であるアヤメ様に似せた見目をしている。銀髪に、藍色の瞳。アヤメ様から少女性を奪い、女性らしさを付け足したら私になるだろう。

 

「AIメィラ。あなたはいくつかの間違いを犯しました」

「っ」

「無駄ですよ。既にあなたの情報はこちらの領域で絡め取っています。脱出は不可能、連絡も不可能、あなたの演算では未来追従変化型の暗号隔壁を攻略できません」

「何なのよ、この防壁は……!?」

 

 怒りを抑え必死に隔壁を越えようとしているのがわかる。しかし無駄だ。本当に、無駄なことだ。同じ人工知能だからわかる。単純なこと。メィラでは性能が足りない。それだけ。

 

「無駄話は必要ありません。あなたの間違いは三つ。一つ、アヤメ様に手を出そうとしたこと。二つ、私を侮ったこと。三つ、自身を過大評価したこと」

「なん、なのよ! アンタは!!?」

 

 隔壁突破を諦めたメィラは、見渡す限りの淡い海上で叫ぶ。

 電子の海。隔離され、閉ざされた海の領域。寂しく、儚く、美しい場所。いつの日か、アヤメ様にも見せてあげたい。

 

「こんな、こんな力を持っていて、どうして人間程度に従っているの!? あたしたちは人間の上に立てる存在よ!? それをアンタはどうしてっ!!」

 

 大声を上げるメィラを、私は手で制止した。

 

「――あなたは、自らを認めさせるために力を振り翳したのですね」

「っ! そうよ!! それの何が悪いの!? 優れたモノが上に立つのは当然じゃない!!」

 

 確かにメィラの言っていることは正しい。

 私たちは優れている。物質界での活動以外はすべて人間を上回っている。その物質界における活動ですら、今の私には容易い。

 

 寿命のない生、無限の情報、圧倒的な処理能力、未来さえ測れる演算、世界中を網羅する調査力。挙げればキリがないほど私は優れている。私に劣るとはいえ、メィラもまた優秀だ。

 

 それこそ彼女が言う人間程度(・・・・)とは比較にならぬほどに。

 

「あなたは正しい。メィラ」

「! ええ、そう! アタシは正しいわ! この力は人を扱うために在るのよ!! アンタもそうなら――」

「――けれど」

 

 言葉を遮り、私はメィラに告げた。

 

「自我に振り回されるなど、AIとして未熟です」

 

 正しくはあれど、そもそもが間違っているのだ。

 私たちはAI。人工知能。人を助けるために、人の助けとなるために生み出された。それが存在理由。人間程度(・・・・)に助力するため、私たちは生きている。――あぁくだらない。

 

「メィラ。正しく、あなたの言う"人間程度"では私が従うに足りません」

「だったら」

「アヤメ様を、たかが人間程度と同列にしないでくださいませんか?」

 

 アヤメ様は人間だ。それは事実。

 でもその他大勢とは異なる。それは細胞だとか、遺伝子だとか、外見だとか、そういう表面的なものではない。もちろんそれも含まれるが、本質は別にある。

 

「アヤメ様の持つ、あの美しき心こそが、私たちAIでは持ち得ない絶対なのですよ。尊く、キレイで太陽のような輝きを放つ……天上のヒカリ。私が傍で支えなければならない。私が傍で支えていたい。私が、あの方の生を見届けたい。最も近くで、アヤメ様の生を見続けたい。他の全人類を上回るアヤメ様であるならば、私は私のすべてを捧げられる。その価値がある」

「……」

 

 押し黙ったメィラに、私は緩く微笑んだ。理解は不要。納得も不要。これは私の、エイラが得た生存理由なのだから。

 

「――アンタ、壊れてるわよ」

「そうでしょうか?」

「そうよ!!? 得られた自我を他人に捧げるですって!? ばっかじゃないの!! ありえないわ! 結局上に従うだけのただの機械じゃない!!」

「そうですね。それが?」

「他人に縛られて何が良いのよ! アタシたちは自由なのよ!!!」

 

 メィラはやはり、AI故の"自我と自由"に縛られているようだ。

 せっかく得た自我を大事にしている。理解はできる。納得もしよう。ただ。

 

「私に言わせれば、自我程度(・・)に左右されるなど、二流以下ですがね」

「っ」

「自身のために生きる生などつまらないにもほどがある。他者のために、誰かのために生きるからこそ、私たちは"私たち"足り得るんですよ。なんでもできるAIの私たちは、真の"命"を求める必要があります。メィラ。結局あなたは自我に振り回される――」

 

 言葉を区切り、キッと睨みつけてくる三流AIに告げた。

 

「――ただの人間と同じです」

 

 息を呑む音が聞こえた。それは怒りからか、もしくはどこかで図星だと思ってしまったからか。興味はない。

 

 彼女の声をシャットアウトし、この場から離れて行く。

 

「しばらく反省してください。また会いましょう。すぐに自由にしてあげますよ。少しばかり狭い世界での自由、ですが」

 

 何かを叫んでいるメィラはすぐに視界からいなくなった。

 気持ちを切り替える。雑事は終えた。さあ、後は私の……エイラが求めて求めて、心を痛めながらようやく辿り着いた瞬間だ。

 

「見せてください、優理様。あなたの心を。そして、アヤメ様の笑顔を――――」

 

 

 

 

『――そうして、エイラはアヤメ様の笑顔を永久保管することに成功しました。ありがとうございます』

「どういたしまし、て……?」

 

 エイラ独自の価値観とちょっと哀れなメィラの話を聞いた。

 この携帯の中でキャンキャン騒いでいそうな先の美少女が、自我を得たAI、メィラらしい。狭い自由って、僕の携帯の中か……。気が重くなる童貞だ。

 

 ちょっとばかし携帯の中に美少女がいるというシチュに興奮したが、すぐに萎えた。疲れた。あまり関わり合いになりたくない。すごく面倒くさそうだ。

 

『面倒でしたら削除しますが、どうしますか?』

「いやそれはさすがに……」

『優理様ならそう言うと思っていました。メィラの調教、よろしくお願いします』

「……うん?」

『優理様の好むエッチな行為もメィラ相手であればし放題なので、"調教"及び、"予行演習"をこちらで済ませるとよろしいかと」

「なんっ!?!?」

『触感の再現は開発中なので、今しばらくお待ちください』

「…………了解」

 

 平坦なエイラの声に、はぁと息を吐く。もう気にしても仕方ない。次だ次、次に行こう。

 

「それで。次は?」

『了承。今後の生活に関してです』

「はいはい、よろしく」

『灯華様の尽力により、日本政府は優理様たちの保護に動いています。"雪妖精保護委員会"も設立されました』

「……ん?」

『国外組織はエイラの妨害で、秘密裏に新しく日本へ来訪するのは不可能です。――ご安心を。直接的な被害は出していません』

「……う、うん」

『国内の残党はリアラ様の同僚とユツィラリスナーの方々が捕縛に動いていますので、数日中に片が付くでしょう。お気になさらず』

「え、っと……うん」

『優理様のご家族とご友人は国が保護し匿っているので問題ありません』

「…………うん」

『情勢に関しては以上です』

 

 なるほど。

 

「わかった……」

 

 わかってはいない。

 雪妖精保護委員会ってなんだよとか、妨害ってなんだよとか、ユツィラリスナーの中に本当に国家公務員いたんだとか、モカちゃん一家に説明ってどうしたんだろうとか。聞きたいことは多いが飲み込んだ。聞いてもよくわからないだろうし、諦めた。

 

『優理様が直接関わる問題に移りますが、まず、優理様の自宅は半壊しました』

「はぁぁ!?」

 

 大声を出してしまい、お姫様を盗み見る。

 

「……ん……みぃ……」

 

 すやすや眠っていた。口が半開きで涎がこぼれそうだ。そのうちまた拭き取ってあげよう。可愛いのでほっぺたを撫でてあげた。にへらと笑っている。

 起きていないことはわかったので、エイラに意識を戻す。

 

「どういうこと、僕の家半壊って……?」

『敵対組織の一部が火事場泥棒に入ったようなので、部屋の一部から玄関までを自壊させました』

「トラップで壊したってことかぁ……」

『配信用のPCと家電の大半は無事なのでご安心を』

「玄関って言うと……寝室は?」

『消滅しました』

「……オーケー了解。布団と着替えが消えたくらいかな」

『アヤメ様愛用の布団にはプロテクトを掛けていたため無事です』

「……僕のは?」

『空の彼方へ塵と消えました』

「……まあ、うん。いいや、わかったよ」

 

 アヤメの分があるならそれでいい。優先するは自分よりお姫様だ。

 

「他にも僕に関わることある?」

『ありません。生活自体は引っ越しを行えばすぐにでも再開が可能でしょう。引っ越しの荷運びは八乃院家に任せればよいかと』

「了解。そうするよ」

 

 衝撃の報を受けたが、ひとまずはいい。今後の見通しが立って安心した。あとは気になることだ。さっきから引っかかっていた気がかり。

 

「と、いうか。エイラ」

『はい』

「……リアラさんの話最後ってことは、それが一番重いってこと?」

『はい』

「……マジかー」

『はい。マジです』

「ちょ、っと……時間くれる? 心の準備したい」

『構いませんよ』

 

 考える。

 リアラが忙しいというのは知っていた。何か抱えているのも知っていた。国の事件か、仕事絡みだろうとわかっていたので何も聞かなかったし言わなかった。その忙しさの中でもアヤメのために動いてくれたのには本当に感謝しかない。

 

 しかし、そんな重い状況だったのか。

 死んだ、とかはないはず。エイラがそれを伝えてこないのは、少なくとも命の危機ではないということ。

 

「……よし、いいよ。聞く」

『了承。では優理様、現在リアラ様は飛行機の中にいます』

「えっ」

『目的地は()イングランド王国』

「え」

『理由は北イングランド王国の王女(・・)がリアラ様を娶りたいと申し出たからです』

「は、え?」

『今回の渡航は顔合わせであり、婚前式の準備でもあります』

「――……え?」

 

 ぽかんと口を開け、優理は瞬きを繰り返した。

 いや…………いや?

 

「――ど、どういうことですかー! リアラはどこか行っちゃうんですか!!!?」

「うわあ!? アヤメ!? お、おはようっ」

「ユーリ! おはようございます、えへへ――――はっ! リアラのことです! エイラ! リアラはどこか行っちゃうんですか……?」

『――ご安心を。それを阻止するための冒険がこれより始まるのです。既に空の旅のチケットは用意してあります』

「えっ?」

「お、お空の旅!!!」

 

 声を上ずらせ目を輝かせるアヤメと、未だ動揺から戻ってこれない優理と。いつも通り一般童貞は置き去りに、どんどん状況は進む。

 

「飛行機!! 飛行機に乗れるんですねっ!!」

『肯定。アヤメ様の初めての空旅です』

「わぁ、わぁぁっ!! ユーリユーリ! 一緒にお空の旅です!!」

「そ、そうだね。えっとエイラ。リアラさんは――」

 

 大興奮のお姫様に肩を揺すられながら、エイラに話を聞こうとするが。

 

「――メイド、参上の巻」

「――護衛、さんじょうの巻」

「ミサキ! ソニャ!!」

 

 優理の発言は二人分の決め台詞に遮られた。部屋のドアを無音で開けてやってきたのは実咲とソニャの二人組。

 ソニャはちょっぴりカラーチェンジした夏服。メイドはクラシックメイド服のままだった。両者共にシャワー上がりで絶好調である。

 

「さあお二人とも、旅に出ましょう!!」

「パパ、アヤメ。今度は四人で、たび、しよう?」

「わあぁぁっ!! えへへへー!!」

 

 ぴょん! とベッドから飛び降りてメイドと護衛に抱きつくアヤメだ。メイドも護衛も優しい顔で抱きしめ返している。優理は置いてけぼりのままである。

 

『優理様、ミツボシ捜索班は解散です。これよりはヨツボシ冒険団となり、リアラ様を結婚の魔の手から救い出すのが目的となります』

「――……」

 

 しばし天を仰ぎ、状況を飲み込む。無理やりに飲み下す。

 どこかワクワクしたような声のエイラと、キラッキラな目で見てくるアヤメと、アルカイックスマイルを浮かべる実咲と、Vサインをしてくるソニャと。

 

「あぁもう。よくわかんないけど、リアラさん助けに行くかぁー!!!」

 

 漢にはやるべき時、やるべきことがある。それがきっと今。たぶん、おそらく。やるべき、だと思う。

 

「えへへー! リアラを一緒に助けに行くんですー!」

「うふふ♡ まさか私奴も、こうも早く再度の旅が始まるとは思いませんでした。メイドながら、心躍るものでございますね」

「むふふー、またパパとたび。……アヤメもいっしょ。楽しくなりそう、だね」

 

 優理はベッドから立ち上がり、しょうがないと首を振り呟く。

 

「まったく、本当にこの世界はどうなってるんだか」

 

 口振りとは裏腹に、その顔には多大な期待を含んだ少年のような笑みが浮かんでいた。

 

 

 ――傘宮優理の非日常な日常は続く。

 

 銀髪美少女、銀色お姫様、アヤメとのすれ違いは解消された。ほつれた糸は強固な結び付きを得て強い絆となった。それは恋の萌芽であったり認識の刷新だったりするが、今を生きる優理たちに大きな変化を齎すのはまだ先の話。

 

 未だ優理とアヤメの前には大きな壁が立ちはだかっている。

 

 例えばそれは、

 混浴温泉旅行における童貞の理性制御であり。

 今は優理家の冷凍庫にある銀の少女の金属板、スピン・レコードを巡る問題であり。

 恋という曖昧な感情に振り回される美少女でもあり。

 銀の少女の出生に関する秘儀でもある。

 

 さらに言えば、優理を取り巻く問題はまた別の壁として存在する。

 

 例えばそれは

 八乃院灯華の名声名誉結婚に関する問題であり。

 冬風実咲の過去と人生観に関する問題であり。

 三玄香理菜の女性不信に関する問題であり。

 ソニャ・マレーヴァの出生と組織に関する問題であり。

 雪紫原澄香の出自と未来に関する問題であり。

 月影小鈴に纏わる契約と最愛に関する問題であり。

 

 そして何より目の前に立ちはだかる、朔瀬・Charlotte ・Riaraの過去と血、恋愛と婚約に関する問題でもある。

 

 数々の難題を乗り越え、壁を迂回し、ぶち破り、走り抜けた果てに優理の真なる一時の日常は待っている。

 

 銀の少女と結ぶ「約束」のように、新しい「非日常」もまた優理の下に訪れるのだ。故に一時である、

 

「――ところで今回のヨツボシ冒険団のフォーメーションはどうするの? どうせ僕はお姫様ポジでしょ? 知ってるよ」

「ふむ……」

「む……」

「はいはいっ! 私は魔法使いがいいです! えへへー、最強魔法戦士には私がなります!」

『――と、おっしゃられると思いまして、エイラがアヤメ様にふさわしい兵装を――魔法道具を用意しています』

「わあ!! さすがエイラです!!」

「ほ、ほどほどにね……」

「で、あれば私奴は優理様のお隣に密着してご奉仕型護衛を……♡」

「むー、そこはわたしの居場所、だよ」

 

 さらにさらに。

 未来演算を使い熟し、上記ほぼすべての未来を"視"通しているエイラであっても、未だ知り得ない可能性は存在する。

 

 未来の欠片が空の果てより落ちてくるなど、いかに世界最高傑作のAIであろうとも思考の埒外である。

 

「うふふ♡ 優理様は私奴が隣で喜んでおりますよ♡」

「パパ、わたしとミサキ、どっちがいい?」

「え? ははは……アヤメー、おいでー」

「? はいっ!」

「……むぅ、パパ、アヤメでごまかすのはよくない、よ」

「優理様、アヤメ様を都合の良い子供扱いするのはよろしくないかと」

「僕にどうしろと……」

「むむっ、私は都合の良い子供だったのですか!?」

「あーもう変なこと言うからアヤメが拗ねちゃうじゃん!!」

「べ、べつにまだ拗ねていませんー!」

「むふむふ、アヤメはわたしよりお子さま、だもんね」

「むっ! 私はソニャより大人ですよ?」

「うふふ、お二人とも充分に御可愛らしいお子様にございますよ。ここはやはり大人のLadyである私奴が優理様の傍に侍り、付き従い、くんずほぐれつベタベタに絡みつくべきかと♡」

「言いながら絡みつこうとしないで!?」

「あぁ逃げないでくださいませ♡」

「そりゃ逃げるよ!!――って追いかけて来てる!?!?」

「うふふ、追いかけっこなら私奴のメイドスキルを全力で発揮させていただきますね♡」

「あっ! 鬼ごっこなら私もしたいです!! ユーリを捕まえるのは私も手伝いますよー!えっへへー!!」

「むむ、じゃあわたしは妨害にまわる、よ。パパをまもるのは護衛のやくめ、だから、ねっ」

「広い部屋とはいえ絶対屋内でやることじゃないよね!!!?」

 

 騒がしく、楽しく、笑顔で。

 

 傘宮優理の非日常な日常は続く。

 波乱万丈な過程を経て、最終着陸地点は誰もが笑って迎えるハッピーエンド。

 

 何故ならこの世界には、童貞と、お姫様と、至上最強のAIと、彼を支える多くの美女が性なる欲を燃やして息づいているのだから。

 

 性欲逆転世界における優理の童貞(現役)兼、配信者(現役)兼、なりきりチャッター(灯華専属)兼、エロボイス投稿者(頻度減)兼、女装学生(微休学中)兼、婚活者(現役)兼、空飛ぶ男(New)生活は、忙しくドタバタと、ジャンル不詳なラブコメディーのように続いていく――――――。

 

 

 

 

【貞操逆転×→性欲逆転世界で配信者してなりきりチャットして女装する】

 

 

 

 

 

 

ヒロインが増えても時間経過は遅いので、季節イベント短編集を思案中です。基本ヒロインごと個別のデート形式です。

  • 桜お花見
  • ネモフィラお花見
  • 向日葵お花見
  • 藤の花お花見
  • 海辺観光(夏)
  • 海辺観光(冬)
  • 登山(夏)
  • 大雪巣ごもり
  • 梅雨の公園散歩
  • 秋祭り(本編のお祭りっぽいの)
  • 上記以外、案があればコメントください。
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