貞操逆転×→性欲逆転世界で配信者してなりきりチャットして女装する 作:坂水木
ヘアクリップのプレゼントを買った後も買い物は続く。
第三、雑貨屋その一。
「正直アヤメへのプレゼント、髪留め以外何も考えてないんだよね」
「そうなのですか?私も考えていないので大丈夫です!」
「お揃いだねー」
「お揃いですっ」
ぽやぽや実のない話を続け、雑貨屋探訪と行く。
優理には見慣れた物ばかりでも、アヤメにとっては新鮮さの塊だ。ストラップにキーホルダー、ぬいぐるみに可愛らしい収納箱と、ショッピングセンターの中にあるだけあって一つ一つがある程度洗練されている。センスのある店員が選んだのだろうとわかる品の数々だ。優理は余分な物を買わない主義(年の功)なので、飾り物には一切興味なかった。
「お、ブックカバー」
「ご本ですか?」
「うん。紙の本に付けるカバーだね。最近は電子書籍ばっかり買ってるからあんまり縁ないけど」
「そうなのですか……」
ほへーと可愛い顔をしている。アヤメも電子書籍に慣れ親しんでいる側の人間なので、あまり実感が湧かないのだろう。これも時代の流れだ。
本小物コーナーにはブックカバーの他に種々のしおり、図書カード、本の形のアクセサリーやメモ帳が置いてあった。昔はしおりを集めて楽しんでいた優理だが、今は商品を見ていて別のことを思う。
「そうだアヤメ。アヤメが持ってたっていう金属板、今どこにあるの?」
「??……あっ、あれですか?私のお名前がぺぱーって書かれていたものですか?」
ぺぱーってなんだ。可愛いか。
微笑み、うんと頷く。
「むむ、そうですね。……ユーリが大事なものをしまっている冷凍庫に入れた気がします」
「ええ……」
驚きよりも困惑が勝ってしまう。
なぜ冷凍庫……。というか冷凍庫に入れていいものなのか。なんやかんやで話すタイミングがなく、優理は例の金属板をちゃんと見たことがなかった。アヤメ曰く、大きさは目前にある大きめのしおりと同程度。刻まれていたのはアイリスの花と。"アヤメ、あなたを愛してくれる人を探しなさい。人形ではなく、人としての愛を探しなさい"という文章。
これがあったから、アヤメは自分をアイリスではなくアヤメと呼ぶようになり、人としての愛を探すようにもなった。アヤメにとってのルーツであり、未来の目標でもある。
そんな大事な物をまさか冷凍庫に入れるなんて……。
ちなみに優理の大事な物とは、国に提供予定のミニ試験管的な頑丈な容器入りの精子である。
「エイラ。その金属板って冷凍庫入れても大丈夫なの?」
『肯定。問題ありません」
「そうなのか……。なら大丈夫か。ちなみに金属板って、名前とかあるの?割と大事そうな感じあるけど」
『肯定。ですが優理様、申し訳ございません。金属板についてお話するには優理様の権限が足りません』
「――え?」
一瞬、エイラの言葉に意識が追い付かなかった。
携帯を持ち直し、震えた背筋に周囲を見渡す。何もない。誰もいない。大丈夫だ。エイラが警戒しているのだから気にする必要はない。
深呼吸し、冷静であろうと意識する。
「……エイラ。権限、って何?」
『回答。優理様の知識保持量、さらにはアヤメ様及びエイラからの信頼度です』
「あー……そういう?」
『肯定。優理様に合わせるならば、"関係値"が足りません。鋭意アヤメ様との関係値向上を推奨します』
「そこは上げるけど……エイラとの関係値はいいの?」
『肯定。アヤメ様との関係値を上げると自動的にエイラとの関係値も上がります。ご安心ください』
「都合良くて助かるよ」
『肯定。エイラはアヤメ様に都合の良いAIです。また、金属板は優理様が気にかけるほど重大な事項ではありませんので、リラックスしてアヤメ様とのデートをご堪能ください』
「……」
耳の横を掻く。
このAI、本当にAIか?
「……なんだか、人間より察し良くてスマートだよね、エイラって」
『肯定。エイラは人類最高傑作であるため、人間を超えているのは当然です』
「はいはい。わかったよ。ありがとうね」
『肯定。どういたしまして、優理様』
はぁ、と緩く息を吐く。
緊張したことさえ見透かされ、"気にしなくていいぜ!"と言われてしまった。優秀過ぎる人工知能も困りものだ。
意識を現実に戻し、こちらを見つめる視線にやんわり笑う。
「エイラはすごいね」
「ふふー、エイラはすごいんですよ」
「うん。改めて思い知らされた」
自慢げなアヤメと、主に褒められて嬉しいエイラだ。一流のAIは感情を表に出さないため、いつも通り静かにネットワークを浸食していく。
金属板のことはいったん忘れ、買い物に戻る。
雑貨屋は"雑貨"と言うだけあっていろんな物があり、アヤメは終始興味津々にあっちへ行ったりこっちへ行ったりと視線を巡らせて楽しんでいた。しかしどうもお気に召した物はなかったようで、結局三軒の雑貨屋すべてを見るだけで終えてしまった。
「アヤメ、ぬいぐるみとか欲しくならなかった?」
「?はい。可愛かったですけど、私にはユーリとエイラがいるのでいりません」
「そっか」
なでなで。
よくわかっていない顔で撫でられ、ふにゃんと笑顔に変わった。可愛い。
撫でている優理の手を掴んで勝手に自身の頬へ持っていく妖精をもちもち撫でながら思う。
アヤメは可愛い子供だが、それと同時に可愛い大人でもある。
幼子のようで結構周りを見ていて、自分にとって大事なことをちゃんとわかっている女の子。心は幼くても身体は立派な大人で、頭だってしっかり考えられる力を持った大人だ。
少し、アヤメのことを子供扱いし過ぎたかもしれない。反省せねば。子供だったらこんなエッチな身体してないもんね!煩悩退散ッ!!!
雑貨屋の後に鞄屋を流し見し、何度もカフェを見て目で訴えてくるアヤメを鬼の心で黙殺し、"寄りたいです!"の声には後で別のところ寄るからねと我慢してもらい、その代わりに美味しい物食べさせてあげると約束し、意外にもアクセサリーショップはさらっと流して見終え。
「アクセサリーもっと見なくてよかったの?」
今までで一番興味無さそうだったので尋ねてみると。
「はいっ。ユーリが選んでくれた髪留め以上の物はないですから!」
はにかみながらそんなことを言われてしまい、照れくさくてしょうがなくなってしまう優理だった。
色々見回ってきて、あとはタオル屋と香水専門店を残すばかり。まだアヤメの買いたいものは見つかっていない。優理の琴線に触れるものもなく、微妙に悩みながら白色がいっぱいなタオル専門店に足を踏み入れる。
「ふ、ふわふわですっ……」
銀髪と白色タオルの親和性はどうしてこうも高いのだろうか。
菩薩の笑みで同居人を見つめる童貞だが、意外に意外、この童貞前世ではタオル収集を趣味の一つとしていた。旅行するたびに各地のオリジナルタオルを土産としていたのだ。それは転生しても変わらず、家のタオル・下着入れには各種柄タオルがひっそりと収められている。
アヤメがタオルと戯れているのを眺め、商品を見ておこうと周囲を見渡す。
バスタオル、手ぬぐい、ミニタオル、ヘアタオル、ハンカチ。大きさは色々、素材も色々。水分吸収効率や手触りがそれぞれ違って簡単な説明書きがされていた。
「し、失礼いたします……っ!」
「あ、すみません」
結構人気なのか、タオルショップはそこそこに混雑していた。ゆるっと巻かれた長い髪を揺らす女性とすれ違う。緊張した声だったが、仕草に品のある綺麗な人だった。
ただ何もせず見物しているのも店に迷惑なので、アヤメに声をかけていったん外へ出ておこうと思う。
「アヤメ―。混んでるし入口で待ってるね」
「待ってください」
「ん?」
「ユーリ、お買い物ですっ」
「おー」
熱心にタオルを見ていると思ったら、ここに来て欲しいものが見つかったらしい。
ちょっぴり興奮気味の少女に近寄る。
「買いたいのあった?」
「はい!一緒に選んでくださいっ」
「いいよー」
優理の選んだプレゼントは髪留め。今回のタオルは二人で選ぶプレゼントにするようだ。
どれどれ、とアヤメの指し示す先を見てみる。
ショップの一部を占有するバスタオルエリア。数はそこまで多くないが、普段見かける一般的なバスタオルより大きめに見える。どれも表面がつるつるっとしていて、さっき買った絨毯のような質感だった。説明文には吸湿速乾、悪臭防止、洗濯可と書かれてあった。
「ふぅむ……」
正直どれも似たり寄ったりで違いがわからない。値段は一万円行かないくらい。普段用のバスタオルとは雲泥の差だ。高級タオルなだけはある。手触りは確かにふわふわしょわっとしていて顔を埋めたくなる。サイズの割に軽く、持ってみてもふわっと柔らかで重みがない。羽毛布団のような軽さを感じる。
ちらと横を見て、熱心な視線に内心苦笑する。
我らがお姫様は"一緒に選ぶこと"にご執心らしい。優理が言い出したことではあるが、これはどれでもいいよーじゃ拗ねてしまいそうだ。一応聞いておくか。
「ちなみにアヤメどれがいいの?」
「私は全部好きです!ユーリが選んだのを買います!」
「……おっけー」
大体予想通りの回答だったので、しょうがなく自分で考えてみる。
値段はこの際どうでもいい。高級バスタオルなんて使ったことがないのだから、どれを買ったって今までより使いやすいに決まっている。それなら……。
「じゃあ僕は空色カラーの二つセットにしよう」
「二つですか!」
「うん。薄い水色と薄い橙色、綺麗だよね」
「はい、綺麗ですっ」
同居人からの了承ももらえたので、ささっと買ってささっと店を出る。一つ買うより値は張ったが、これからの二人暮らしを考えると高級品が二つくらいあっても全然良い。むしろ今回の使い心地によっては今後バスタオルを入れ替えていってもよいかもしれない。
人間のQOL(生活の質)でお金をかけると良いのは、寝具、椅子、空調と言われている。言われているというか、ただの優理の経験則だが。バスタオルなんて毎日使うのだから、ちょっとくらいお金をかけても罰は当たらないだろう。
後ろで同じタオルを買っている人をちら見し、赤毛に赤リボンと、赤色好きな人もいるなぁと思いながらショップを出る。
向かうのはアヤメへのプレゼントとは別、個人的に寄ってみたいと思った香水専門店である。
「――ついに僕も香水ショップデビューか」
独りごちる。
香水香水香水と買うか悩んでネットでしか見てこなかったものを、実際に見てしまう。
気合充分に足を踏み入れ、店内をそそそっと回っていく。
テスターとして物が置かれており、軽く指先で香ってみる。バニラっぽいもの、花っぽいもの、フルーツっぽいもの。
試してみるがどれも結構匂いが強めだ。そういえば香水は長時間匂いを香らせるために、付けた瞬間は結構匂いが強いものも多いと書かれてあった。もちろん香りの強弱はあるし、使われている香料によって変わってもくるだろう。しかしどうにも、化粧道具ですらあまり匂いのしないものを選んでいる優理には好ましく感じられなかった。
「……」
溜め息を飲み込み。思ったより自分の鼻が我儘で口端に苦みを浮かべる。
性癖とは厄介な物だ。優理は優理自身が想像していたよりずっとフレグランスへのこだわりが強いらしい。
人に売れているのだから悪くはないはずだ。ただ優理に合うものがなかっただけで……。興味深そうにしている隣人にも聞いておこう。
「アヤメってさ、香水とか興味ある?」
「?よくわかりません。匂いはあまり気にしたことがないので……。でも、ご飯の匂いは好きですっ」
嬉しそうなお顔にほんわかする。
ご飯の匂いは好きだよね。わかるよ。優理もご飯の匂いは好きだった。
「聞き方を変えるね。僕が香水買うとして、どんなのがいいかな?」
「……」
黙り込んでしまった。珍しい。
困ったような、悩んでいるような、戸惑っているような。複雑な顔だ。
「えと、ユーリ」
「うん」
十秒ほど経って、何故かほんのり頬を染めたアヤメが名前を呼んでくる。
「あの、私、ユーリの匂い好きです。だから、えと……このままじゃ、だめ……でしょうか?」
上目遣い、そして雪色の肌に浮かぶ桜、さらには甘えたような声。
優理の精神にアルティメットダメージ。妖精の可愛さに心を溶かされた童貞だ。しかし優理は鋼の童貞を持っているため、即座に精神を立て直して表情を取り繕った。
「へへへ、しょうがないなぁ!!」
訂正、あんまり取り繕えてはいなかった。
緩んだ頬にぽやっと下がり気味な目尻と、ただでさえちょろそうな顔がよりちょろそうになっていた。
「いいよ!アヤメのお願いだもんねー。しょうがないなぁー!」
ニッコニコな男と、照れながら嬉しそうな少女と。
結局香水ショップでは何も買わず、ささっとそのまま通路に戻った。
香水は買わなかったが、優理にはそれ以上の収穫があった。
自分の匂いは全然わからないにしても、アヤメは優理の匂いを好きと言った。優理もアヤメの匂いは好きだ。エッチだけど。これはもう相思相愛と言っても過言ではない。匂いが好き=相手との相性が良いと前世で聞いた。今世でも似たような話は聞いた。つまり優理とアヤメは遺伝子的に相性が良いと言うこと。……それ、前に聞いたな。
エイラから以前、アヤメが優理に懐く要因の一つとして遺伝子相性の良さがあると言われていたかもしれない。嬉しいは嬉しいが……変にぬか喜びさせられた気分だった。
微妙な気分を抱えた優理は、ルンルンのアヤメを伴ってショッピングセンター三階の通路脇で短い休憩に入る。
残りの予定は服屋だけだ。あと夕焼けを見せてあげること。それとソフトクリームを食べさせてあげること。最後のプレゼントはアヤメが考えることなので、それこそ最後だ。
もう十五時を過ぎているので、あと二時間もすれば日暮れの時刻となる。場所はどこでもいいが、どうせ見るなら家の近くがいいだろう。朝見た空との対比もしやすいし、割と見晴らしも良いので遠くまで見える。まあ服屋に寄ることを考えたら時間ないし、電車の中で夕焼けと言うのも乙かもしれない。
バスタオル入りの紙袋を持ってご機嫌な少女に微笑し、さて行くかと息を吸う。同時、視界の隅に入り込む赤色に溜め息を吐きたくなる。
「……はぁ」
「ユーリ?」
「なんでもないよー」
目で尋ねてくる少女を撫で、吐いてしまった溜め息を振り払う。
ショッピングセンターで買い物を始めて、敢えてこちらからのアクションはしないでいた。アヤメも一緒だったし、用があるなら向こうから話しかけてくると思っていたからだ。
しかし向こうは優理の思っている数倍は奥手で面倒くさかった。
わざわざ近寄って胸を揺らしてアピールしてきて(優理の偏見)、話しかけるのではなく相手とすれ違うだけにして(偏見ではなく真実)、こそっと優理の視界に入るよう意識して(これも真実)。
"気づいてくださる?くださいます?"と、完全に面倒くさい女ムーブをかましてきていた。いつぞやの優理と同じくらいには面倒くさい。
「アヤメアヤメ」
「はいっ」
「これから知らない人……」
言おうとして、二人とも"夢見る誰かの全体チャット"を利用していたことに気づいて、共通点あったのかと驚く。まあでも、共通点はチャット仲間というだけなので。
「アヤメが知らない人と話すけど、大丈夫?」
「え」
「怖いなら僕の後ろに隠れててもいいよ?」
「……だ、大丈夫です。ユーリが一緒なら……大丈夫です」
「そっか」
「……はい」
「ん」
頑張ろうとしている子の頭を撫で、ぎゅっと目をつむる少女に優しく微笑む。
「よし」
呟き、相変わらずこちらを窺っている視線の下へ。あれでバレていないとでも思っているのか……。
雑過ぎるストーキングに呆れながら、なんでこんなところにいるんだと驚きながら、よく自分に気づいたなと感心しながら。
歩いて、優理たちの進行方向に気づいて慌て、すぐただの一般通行女性ですよと装おうとする仕草に苦笑する。
まさか二度目の邂逅がこんな早いとは思っていなかったし、どうしてそう現実だとネットみたいにえちえちな絡みをしてこないのかと言いたくもある。でもまあ。写真で知っている優理と異なり、向こうはこれが完全な初対面だろうから。
「――灯華さん」
よそよそしく歩き、しかしこちらをちら見してくる相手に声をかける。
その女性――
「お、おほほほ!お……お初にお目にかかります。わわ、わたくし、八乃院灯華とも、も、申しましゅ!!!!!」
盛大に噛んで、涙目になるゆるふわ美人がそこにはいた。
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