貞操逆転×→性欲逆転世界で配信者してなりきりチャットして女装する   作:坂水木

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秋のお祭りデート①

 

 

 十一月の十八日、土曜日。

 天気、快晴。

 

 マンションの外に出ると、肌寒くも澄んだ空気が出迎えてくれた。深呼吸すると濡れた土の香りがする。昨日の雨のおかげだろうか。お散歩日和だ。

 

 今日は「2028年 第47回 白紅原メープルもみじいちょう祭り」の日。

 

 お祭りの開始時刻は十時であり、今はまだ十時前。

 会場となる「白紅原駅」は優理家最寄りの「百原」から三十分なので、徒歩も含めれば四十分ちょっと。向こうに着いてちょうど良い頃合いと言える。急ぎの旅でもないのだ。緩くルーズに行こう。

 

「ユーリ、早く行きましょう!」

「急いでも電車は来ないよ」

「そうでした!」

 

 早々道路を歩いていた少女が振り向く。ちょいちょいと手招きすると、首を傾げながら寄ってくる。ぱっと空いていた手を捕まえた。

 

「はい捕まえた」

「えへへ、捕まっちゃいましたっ」

 

 にへらと笑みがこぼれる。可愛い子だ。

 

 今日はお祭り。

 優理とアヤメは以前約束した通り、お祭りへ行こうと街に繰り出していた。荷物はそれぞれ小さめの肩掛け鞄だけ。

 お出かけ衣装はお散歩を見越して動きやすい格好を選んだ。優理は長ズボンに薄手の長袖。アヤメは白の薄手長袖に青色オーバーオールと、活発さをアピールしている。

 

 本日のヘアースタイルは前髪を全部上に持ち上げたお団子。長い長い髪がまとまり、それでもまとめきれないものは背に流している。普段足首まで伸びている髪は腰辺りまでで留まっている。意外に新鮮でアヤメより優理の方が喜んだ。まあセットは優理が行ったのだが。

 

 今日本当はリアラも来る予定だったのだが、当たり前のように仕事が入って同行を断念していた。本日も溜め息ばかりでマイナスな職場である。仕事スピードだけは普段より早く、周りが変な顔をするのもセットだ。

 

 さておき、平和も平和な優理とアヤメである。

 童貞は美少女と手を繋ぎ、青空より降り注ぐ燦々太陽を浴びて歩く。

 雲のない空は広く、時折吹く強い風が秋の香りを教えてくれる。ほんのり冷たく、冬の足音が聞こえるような。

 

 思えば十一月も中旬。あと半月もすれば十二月。そうしたらもう冬だ。秋の短さは言葉にできない侘しさを思わせる。

 

「綺麗だね」

「? お空がですか?」

「うん。空も、花も」

 

 太陽に目を細め、道端に咲く花を指差す。遠く山にかかる白雲が青の海に揺られているようで可愛く思えた。

 

「ユーリ、お花好きですか?」

「うん。その時その時しか咲いてないから。……見られる時を大事にしたいんだ」

 

 永遠に二人で生きられるわけじゃないから。その言葉は飲み込んだ。

 アヤメにはまだ早い。いつかのお別れを言う必要はない。理解してほしい、共感してほしいというのは優理のエゴだ。情緒が育ち切っていない女の子にそれは……酷だろう。

 

「……んぅ、ユーリ?」

「ううん。お祭り、楽しみだね」

「はいっ!」

 

 繋いでいた手を解き頬を撫でた。

 気持ちを切り替え、駅に着いて電車に揺られる。ゆらゆら、ゆらゆら。人混み苦手人見知りなアヤメは優理に引っ付いていた。最近アヤメの背が少し縮んだ気がする。いや、優理の背が伸びたのか。

 

【アヤメの身長って伸び縮みするの?】

【回答、アヤメ様の身長は伸び縮みします。優理様の庇護を求める意識が表面化したため、身長の低下を招いたのでしょう。アヤメ様の現身長は百五十三センチメートルです】

【結構小さくなってるんだね……】

【返答、アヤメ様に背高い方が好き、と伝えると伸びますよ】

 

 ぱぱっと人工知能のエイラに尋ねてみると摩訶不思議な答えが返ってきた。

 そんなタケノコか何かじゃないんだから、とも思ったが、一般人にはわからないことなのだろう。科学の神秘だ。

 

 とりあえずアヤメを撫でておいた。頭頂部にお団子があるので、撫でる位置はおでこのちょっと上だ。なんだか熱を測っているようで面白い。

 

 乗り継ぎである。

 駅のホームはよく太陽光を浴びられる環境だった。

 

「直射日光はちょっと暑いねー」

「えへへ、日光好きですー」

「暑くない?」

「ぽかぽか太陽好きです。日光浴です!」

「ええ……アヤメ家じゃあんまり窓側行かないじゃん」

「だって太陽よりユーリのお傍の方がいいですっ」

「そっかぁ」

 

 純真好意ストレート。

 しょうがないのでアヤメの隣で一緒に日光浴をしてあげることにした。光合成だ。一応優理もアヤメも日焼け止めを塗って来ているので肌に問題はない。備えあれば患いなしである。

 

 電車を乗り換えて、目的の駅で降りる。今日がお祭りだと知られているからか、他の駅より降車する人数が多かった。白紅原駅。終点だ。人が落ち着いた辺りで二人はゆっくり降りる。

 

 街の名を冠する駅だからか、駅舎は結構凝っていた。

 

「すごいです。これが"和"ですね!」

「そうだね、和だね」

 

 日本家屋風、というより神社やお城をイメージしている気がする。

 改札には「2028年 第47回 白紅原メープルもみじいちょう祭り」と書かれた看板が設置され、パンフレットも置かれていた。数人紙をもらっていくのを見て優理も一枚もらう。目をきらきらさせているアヤメを連れて外に出た。

 

「わ、人がいっぱいです!」

「結構人いるね。まだお祭りっぽくないけど、行こうか?」

「はいっ」

 

 駅外は階段になっていて、浅い石段がより神社っぽさを助長する。

 振り返ると見える八の字屋根に和風の木造建築。

 

「おお、迫力あるな」

 

 地味に優理も初訪問である"白紅原駅"。想像の数十倍は立派な駅だった。

 

「ユーリユーリ、お写真撮りませんか?」

「いいよ」

 

 可愛いおねだりには快く頷いた。

 超文明携帯エイラを用いて、自撮りなのににょーんと伸びて他撮りしてるっぽく撮影する。

 ぱしゃぱしゃと数枚撮って、満足した少女を撫でて出発だ。

 

「! 発見してしまいました……」

「発見しちゃったか……」

 

 駅舎から正面、タクシーやらミニバスが止められそうなロータリーの先、いくつかの料理、お土産店が並んでいた。

 なんだか旅行先の温泉街直通駅にでも来たかのようだ。そういえば白紅原には温泉もあったかもしれない。人工泉だが大きな銭湯が開業されたとか聞いた覚えがある。観光地の白紅平原は結構な人が耳にしたことのある単語だろう。無論、優理は行ったことがない。

 

 何やら発見してしまったらしいが、頷くだけ頷いてスルーする。たぶんお土産屋さんを見つけた報告だろう。

 

「ユーリ、ユーリ」

 

 控えめに手を引っ張ってくるが、なんとなく気づかないフリをする。適当に撫でて誤魔化す。

 

「ユ、ユーリ! いじわるですっ」

「はは、ごめんごめん。出来心で。お土産でしょ?」

「むぅ……そうですー」

 

 むくれてしまったお姫様の手を引きお土産店へ。

 

「らっしゃいませー」

 

 気だるげだが客入りは上々。優理たちと同じ観光客が吸い込まれるように軒先を見て行く。買うかどうかはさておき、お客さんは多いため店員も忙しそうだ。

 

 雑多に置物やアクセサリーもあるが、漬物や缶詰、瓶詰もある。

 アヤメはそれらすべてに興味を持たず、最前列に置かれた"手形"だけをじっと見ていた。

 

「通行手形か」

 

 木を切り出して作られた手形。表に漢字で祭りの名前や「通行手形」の文字が記載されている。上部に穴が設けられ紐が通されている。この手形に焼き印を施して街を回っていくのだろう。スタンプラリーの紙代わりだ。

 

「すみません。通行手形二つください」

 

 最初から買うつもりだったので、さっさと買って後から来る人に巻き込まれないよう避難する。

 一枚アヤメに渡すと、満面の笑みで受け取った。もう機嫌は直ったらしい。

 

「ユーリ、どちらに行くのですか?」

「一応さっき店員から聞いたけど、パンフレット見ようか」

「はい」

 

 交差点手前で壁に寄る。

 パンフレットにはお祭りの概要や協賛、大きな地図が載っていた。今回の焼き印所について記されている。

 会場図が思っていたより大きくて驚く。まるまる駅二つ分を跨いでいた。距離的に直線でも徒歩三十分以上は軽くかかるだろう。

 

「結構広いな……」

「これ全部回るのですか?」

「アヤメは回りたい?」

「回りたいですっ!」

「じゃあ回ろうね」

「はいっ、えへへー」

 

 せっかく来たんだし、ということでえっちらおっちら回っていく。

 順番的に左(西)回りが良さそうなので、一番左から右へ焼き印を押していくことにした。

 

「割とハイキングっぽい格好してる人多いね」

「ハイキング……?」

「えっと、ちょっとした山登りとかしそうな服装のこと」

「ふんふん、確かにです。色とりどりなお洋服ですね!」

「うん。あ、ふふ、アヤメ。クイズです」

「なんでしょう?」

「ばばん。どうしてハイキングは色とりどりな服なのでしょうか」

「むむっ」

 

 口がへの字になってしまった。可愛い。考え込むと視野が狭まるのは人類共通か。既に西側を回り終えて東へ向かう観光客もいるようで、すれ違う時ぶつからないよう軽く抱き寄せておく。

 手を繋ぐより、腕を組むように密着させると自動的に距離が縮まった。

 

「ユーリ、わかってしまいました……」

「おお、答えをどうぞ」

「目立つためですっ」

「ほう、その心は」

「え? えと……ユーリに見つけてもらうためですっ」

「ふふ、僕に?」

「はいっ。私はユーリに見つけてもらったら嬉しいですー」

 

 ごろにゃんと頭を擦り付けてくる。可愛いなぁと頬と顎をなでなで。幸せいっぱいな猫姫様には大正解と伝える。

 

「正解だよ。山ってすごい広いでしょ? はぐれちゃったら探すの大変だからね。遠くからでも見つけられるように派手な色をしているのさ」

「んふー。ご褒美はなんでしょうか?」

「えー。……じゃああとで好きな屋台ご飯をプレゼントだ。一緒にいっぱい食べよう!」

「やったっ! いっぱい食べます!」

 

 ご褒美なんて何も考えていなかったが、ご飯でOKだった。いっぱい食べさせてあげるのは当然だしプレゼントでもないのだが……アヤメが喜んでいるので良しとしよう。

 

 それなりに交通量のある道路脇、歩道を進む。

 今のところモミジもイチョウも見られず、ただの道路と観光客しかいない。パンフレットによればメインのイチョウ&モミジ並木は東側にあるらしい。もうしばらくお預けだ。

 

 歩いて歩いて十五分ほど。

 紅葉色の(のぼり)を発見した。手前には案内図の地図看板と「最西焼き印所」の看板もある。

 

「ここが僕らの旅路の出発点……!」

「私たちのぼうけんが始まるのですね!」

「うん。あ、ここ右折ね」

「はーいっ」

 

 右に曲がってすぐ見える焼き印所、もとい簡易広場。

 白の天幕が張られたテントといくつかの屋台が並んでいる。焼きそば、甘酒、あと地域の野菜。広々とした砂利の広場を贅沢に使っている。いくらか置かれたベンチでは御老婆たちが歓談していた。

 

「ユーリ! 焼き印所です! 行きましょうっ!!」

 

 駆け足! とでも言いたげな雰囲気のアヤメに釣られ優理も早足だ。

 焼き印所で手形に印を入れてもらう。

 

「おお」

 

 よく考えたら焼き印って見たことなかったので、入れる風景がかなり新鮮だった。

 焼きごてをググっと押し付け、木を焦がしている。ちゃんと木が焦げる匂いもするし、焼き印入れてくれる人は皆軍手をしていた。そりゃ焦げるんだし熱いか。

 

 どうもー、とその場を離れる。アヤメのきらきら笑顔に「最西」の人もニッコリしていた。笑顔の伝染だ。さすがはアヤメ。

 

 受け取った手形にはしっかりと「最西焼印所」の文字が刻まれ、色の濃淡が天然の木を感じさせる。嗅ぐとわかる焦げた木の香り。思ったよりちゃんと"手形"っぽくて優理も満足だった。

 

「じゃあ次行こー」

「はーい!」

 

 パンフレットで見ると二つ目はここから近かった。名称「大西」。

 アヤメは今のところ食べ物飲み物に興味を示さず、次へ次へと進もうとしている。収集欲が湧いたのだろうか。子供はこういうの楽しむよね、とは同じくらい楽しんでいる大人(童貞)の言い草である。

 

 一つ目の焼き印所を出て七分。

 二つ目の焼き印所を見つけた。幟はないが、こちらは大きな公園になっているらしい。木々に囲まれ、入口には大きなモミジの木が並んでいた。

 

 強い風が吹く。

 銀糸の髪が優理の視界を過る。同時、空よりひらひらと降り注ぐ葉っぱの群れ。飛んで降りて、遠くへと流れていく。

 

「――すごい」

 

 息を吞むような美しさはない。胸躍る眩しさもない。ただただ、つい目で追ってしまう秋の色。微かな感傷と、現地でしか見られないであろう季節の移り変わりがひどく心に残る。

 

「ユーリ、ユーリ!」

「はいはい」

「とっても綺麗です!」

「ね。秋だね」

「これが秋なんですね!!」

「ふふ、秋の一部かな」

「もっと秋見たいですっ」

「これから見に行くから……楽しみ増えた?」

「増えましたー!」

 

 元気な少女に口元が綻ぶ。

 なんだか妙に嬉しかった。

 

 アヤメが家に来て一か月半ほど。買い物をして、お出かけをして、お食事をして。空を見て、ゲームをして、映画を見て。日常的なことは色々とやってきた。

 

 ご飯だっていろんな種類……と言えるほどではないけれど、それなりに豊富なレパートリーを食べてきた。外食もしたし。

 

 ただ、今日のような"季節毎のイベント"はまだやっていなかった。しいて言うならハロウィンお菓子の買い物をした程度だろうか。パーティーやら仮装やらはしていないので些細なものだ。

 

 秋のイベント。紅葉狩り。

 今回はそれに加えてイチョウとお祭り、焼き印所巡りが組み合わさった大きなイベントだ。

 

「……ふふ」

 

 前世で優理はずっと一人だった。イベントには行っていた。一人なりにいろんなイベントを楽しんでいた。お花見も、紅葉狩りも、クリスマスもバレンタインデーだって。

 でもやはり、寂しい気持ちはあったのだ。誰かとこの思いを共有したい、思い出を話したい、一緒に見て回りたい。

 

 結局形にならなかった思いが、生まれ変わって今、理想通り――いや、理想以上に楽しい時間となってここにある。自分の手の中に、手の先に――。

 

「ユーリユーリ! お写真です!」

「あぁ、うん。撮ろっか」

「はいっ!」

 

 少女の声で意識が引き戻される。

 携帯を構える。過去の自分に向けて、将来お前はこんな可愛いお姫様と一緒に並んで写真を撮ることになるんだと、思い出を共有できる相手ができるんだぞと、伝えるように笑顔を浮かべて。

 

 ――ぱしゃり。

 

 シャッターを切る。どれだけ楽しいんだと、呆れてしまうほどに眩しい笑みを浮かべる自分の横、にぱーっと輝く笑顔を浮かべるアヤメがいた。

 ただし、落ちるモミジの葉は全然写っていない。風に吹かれた銀の髪が残像のようにブレていて笑ってしまう。

 

「あー! 全然葉っぱ写ってないです!」

「はは、現地に来た人だけのお楽しみってことさ」

「む、それはそれで……良いかもです?」

「うん。良いかも」

 

 こてりと首を傾げ、なんとも言えない顔をする少女を撫でた。

 お祭りはまだ始まったばかり。

 屋台飯も、焼き印所巡りもまだまだ続く。

 

 優理の望んだ未来は今、アヤメと共にここにある。




お祭り話はGWでまとめて投稿します。
今週と来週のお休みでまとめてです。アヤメ編の本番はこの辺からなので、気楽に読んでください。

ヒロインが増えても時間経過は遅いので、季節イベント短編集を思案中です。基本ヒロインごと個別のデート形式です。

  • 桜お花見
  • ネモフィラお花見
  • 向日葵お花見
  • 藤の花お花見
  • 海辺観光(夏)
  • 海辺観光(冬)
  • 登山(夏)
  • 大雪巣ごもり
  • 梅雨の公園散歩
  • 秋祭り(本編のお祭りっぽいの)
  • 上記以外、案があればコメントください。
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