貞操逆転×→性欲逆転世界で配信者してなりきりチャットして女装する 作:坂水木
女性の性欲争いが激化し、醜い蹴落とし合いが発生しているアヤメ生家周辺。
混沌とした戦場を利用し、ソニャの上の優理は上手い具合に時間稼ぎを熟していた。優理は、ではなくほぼソニャの功績であった。
東から時計回りに一周して時間を稼ぐという作戦だったが、既に優理たちは西から北を過ぎ、北から東へと向かっている最中だ。体感十分は稼いでいるが未だに実咲からの連絡はない。
「ディラ、実咲から何かない?」
『もう少々かかりそうです。今最後の本棚に取り掛かっています』
「少々ってどれくらいさ」
『鍵の回収と車の起動で三分あれば』
「了解! ソニャ、あと三分だって」
「うん」
屋根から飛び降り、狭い道を素早く駆け抜ける。背後に迫る人間を振り切り、立ち塞がる人影の上を飛び越え――ずに股抜けする。無理やりの低姿勢で優理の頭が女性の股を擦っていく。
「きゃぁぁん♡!♡!」
悲鳴だか嬌声だかわからない叫びは無視し、ソニャの背に引っ付いたまま屋根の上へ。
「どうしようパパ、もう東。……三分もかからないよ」
「別の方向逃げたらどうだろ。……さすがにそろそろ振り切れないかな」
「わたしはがんばるわ。……けど、後ろの人たちの執念もすごいから……」
建物の影に潜み、そっと後ろを窺う。
「ぐふ、ぐふふふふ、匂う臭うニオウなぁぁぁ……あたしのオトコのニオイだあああああ!!」
「黙れ! 見つけるのは私が先だ」
「気配はこっち……うーん、仲間が一人、ってか同業なだけで味方じゃないしそのまま気絶しててねー」
「屋根には見当たらねえか。……ふ、なら地上だよなぁ!」
「わたくしの目は良いのですよ。そう、建物の影、と見せかけた壁面!――誰ですか!?」
「そいつはアタシの台詞よ。通るの待ってるんだから早く消えて」
「――! 目と目が合ったー、見えちゃったー見つけちゃったぁ、今行くわよマイスイートラヴァー!」
遠くからなのに一人と目が合ってしまった。慌ててソニャに場所の移動をお願いする。この逃亡劇の厄介なところは一人に見つかると便乗して二人三人と付いてくるところだ。しかも流れに気づいた連中によって人数は阿呆みたいに増えていく。
「むぅ……パパ、ちょっと急ぐからきをつけて」
「うん」
忠告には頷きを返す。直後、ギュンっと加速する身体。ソニャの髪に顔を埋め、微かな恐怖心を誤魔化す。森の香りが気持ちを落ち着けてくれる。
壁を駆けて屋根を踏み蹴り、まるでアメリカのコミックヒーローにでもなったかのような動きで住宅街を飛び回る。この動きにさえ普通に付いてくる人間がいるのがおかしい。やはりこの場に集まっているのは精鋭なのだ。
『優理様、こちら準備完了です』
『優理様! メイドのメイドカーであればすぐさま発進可能にございます!』
「ソニャ!」
「ん!」
なんやかんやその場をぐるぐる巡るように動き回っていたら良い時間になっていた。対価はソニャの体力と優理の精神力。
ナビゲートはディラからの音声報告なので、目で見えなくてもパーフェクトに案内が行われる。アヤメの生家より東に数分の場所、十字路、車は見えない。
『到達点まで残り五秒』
合流時に速度を落とすことはできない。ならばどうするか。決まっている。飛び込みだ。
『四秒』
背後の人間は減ったが遠くに人影はある。車の後ろにも追手はいるだろう。自動車はすべてディラがハッキングをかけているので停止済みだが、向こうのAI、メィラのことを考えると悠長に構えてもいられない。
『三秒』
ソニャがやや加速する。優理は若干の祈りを込めて目をつむった。
『二秒』
風切り音と女性たちの叫びが響く。
『一秒』
ディラのカウントだけが不思議とよく通っていた。
『ゼロ――完璧な合流です。お疲れ様でした、ソニャ様』
そして、次に目を開けた時には車の中だった。身体には軽い衝撃が走っただけ、後部座席の片側には大きなエアクッションが膨らんでおり、ソニャと優理にダメージを与えることはなかった。
「……パパ、怪我してない?」
「うん。ソニャは?」
「へいき。……むふむふ、上手くいってよかった」
しがみついていた手足を緩めると、ソニャがもぞもぞ動いてうつ伏せから仰向けに体勢を変えた。ちょうど優理の視線の先にソニャの顔が来る形だ。
「……むふー、わたし、がんばったわ」
「うん。ありがとう、ソニャ」
「うんっ。……パパ、褒めて?」
「ソニャすごい。ありがとう、かっこよかったよ。偉くてかっこよくて可愛くて、超すごい女の子だ」
「むふふふ……ふぅ……パパ、ちょっと休憩してもいい?」
「うん。疲れた?」
「うん……つかれたかも」
「じゃあそのまま寝ていいよ。後で実咲と話したこと教えてあげるから」
「うん…………」
頷くや否や、スリープモードにでもなるかのように一瞬で眠ってしまった。安心しきった顔がひどく幼く見える。
姿勢を整え、ソニャを座席に座らせてあげる。割とうるさく動かしたのに起きる気配はなかった。少々心配になりディラに問うと『リミッター解除を二度行ったようですね』とのこと。
溜め息は飲み込み、自分への怒りも飲み込み、静かに椅子に座る。
「――優理様、落ち着かれましたか?」
「……うん。おまたせ」
タイミングよく、というよりずっと様子を見ていたのだろうとわかって苦笑する。本当に気の利くメイドだ。普段はセクハラ下ネタばかりの変態なのに、こういうところはちゃんとしているのだから憎めない。
「はい。私共は現在東京都心に向かっております。追手はありません。ディラ様によるシステム破壊は成功し、如何にAIであろうと完全に壊されたものを直すことはできないようです。目的地はございませんが……どうされますか?」
「追手いないのはいいね。目的地か……」
最初の目的地はソニャから得たヒントで東京スカイタワーだった。
次の目的地は謎の信号が出ていたアヤメの生家だった。
そして手がかりも何もすべてを失った今。代わりに得たのは優理とソニャの体内を巡るナノマシン。それと敵性AIメィラの存在。こちらはエイラの存在がバレたのでイーブンか。
とにもかくにもアヤメがどこに行ったのかわからないのが問題だ。手がかりが欲しい。
「うーん……もし実咲がアヤメだったらどこに向かう?」
「私奴ですか?」
「うん」
バックミラー越しに困ったような顔をする。柳眉が微かに八の字を描いている。相変わらず絵になる美人だ。
「私奴であれば、優理様の足跡を辿りその日々に想い馳せ自身を慰めるかと」
口を開かなければ、と注釈が入るかもしれない。
「そうですか。僕の足跡か……」
なるほど、後半はともかく一理ある。
もし優理がアヤメだったとしたら、自分のせいで狙われているとわかっているのだし近いところで見張る。つまるところストーキングする。……これじゃあ世の女性を笑えない。優理も立派な変質者だった。
「足跡巡りするか。ちなみに最初は僕の家だけど」
「ッ!? 冬風実咲、二十五歳。
「や、そんな超真剣な顔しなくても……」
「いいえ優理様。これは私奴が御母様から認めていただけるかどうかのチャンスにございます。……
「ああ、僕の知らない土地のカサミヤさんですか。どうぞご自由に」
「ぷくーー!」
「うわ、頬膨らませながらどうやって喋ってるの、それ……」
漫画ならよく見るが、自分で「ぷくー」なんて言う人間は初めて見た。というか、人って頬膨らませながらまともに喋れるのか……。
「うふふ、メイドの特技にございます」
「そっすか。……なんでもいいので、僕の実家行くかぁ」
「はい」
ニコリとアルカイックスマイルを浮かべた実咲は運転に集中する。カーナビディラに目的地の設定をお願いしているようだ。
揺れの少ない車内で座席に背を預ける。お腹が空いてきた。アヤメは……ちゃんと、ご飯を食べられているだろうか……。
ヒロインが増えても時間経過は遅いので、季節イベント短編集を思案中です。基本ヒロインごと個別のデート形式です。
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大雪巣ごもり
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梅雨の公園散歩
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秋祭り(本編のお祭りっぽいの)
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上記以外、案があればコメントください。