呪隷操術~呪霊を支配してハーレムを~   作:大枝豆もやし

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日常・弐

 

 とある高級ホテル。

 港町に建てられたそこは、昼は海を、夜は夜景が楽しめると人気であった。

 その最上階の一室で司は眠っている。

 無駄にでかいキングサイズのベッド。

 司のような子供どころか、大人数人でも余裕で寝られる大きさ。

 彼はその上で呪隷たちと寝ていた。

 

 肉の寝具。

 美女に膝枕をしてもらいながら、両サイドから美少女に抱き着かれて肉布団の役目を果たしている。

 美貌もスタイルも傾国の美女美少女が快適に寝るためだけに八時間近く尽くしている。このような贅沢が出来るのはエロ漫画の世界ぐらいだ。

 そんな彼を反対側のビルからとある影が妬ましそうに睨んでいた。

 

「(フン、その年でもう色気づいてるのかよ、エロガキが)」

 

 ホテルから少し離れたビルの屋上で狙撃銃を構え、面白くなさそうに唾を吐く男。

 見ての通り彼は殺し屋。しかも同時に呪詛師でもある。

 術式は隠匿。音や気配を殺し、術者非術者問わず殺し続け、今ではそれなりに名の知れた殺し屋となった。

 今回の目当ては司の賞金。その為に彼の命を狙っていた。

 

「(こんな狙撃しやすい場所で寝ているとは馬鹿なガキだな)」

 

 対象は窓張りの部屋でカーテンも閉めずに寝ている。これ以上ない狙撃タイミングだ。

 相手は幾多の呪霊を倒し、何十人もの術師や呪詛師を返り討ちにしてきた強敵と聞いていたが、所詮は噂に尾ひれがついたエロガキ。すぐに片づけられる。

 いつも通り術式で呪力や気配を隠し、銃口を対象に向ける。

 音を殺して引き金を引こうとした途端……。

 

 スパンッ!

 

「………は?」

 

 男が最後に見たのは対象を撃ち殺す瞬間ではなく、首が斬り飛ばされ倒れる己の身体だった。

 瞬間、やっと気づいた。間抜けだったのは自分だと。

 

 朝とはいえ寝ているにも関わらずカーテンを敷かず、巨大なガラス張りの部屋で寝ている。明らかに撃ってくださいと言っているようなものだ。

 誘導された。この射撃ポイントに。罠を仕掛けていたのは司の方で嵌ったのはこの男だった。

 

「(これが……武玄司!)」

 

 子供でありながら大人を手玉に取る鬼才の少年。

 そう、まるで五条悟のように。

 

 

 

 

『(今日は随分虫が多いわね)』

 

 司が寝ているマンションの周辺。

 巨大な鎌を持つ呪霊(・・)が呪詛師の首を狩っていた。

 彼女は司の呪隷の一体であり、今は呪霊の姿で司の近辺を護衛している。

 

 

『………やっぱりこの姿じゃ駄目ね』

 

 淡々と獲物を狩る。

 賞金に群がる呪詛師や、司に引き寄せられた呪霊。それらを機械的に刈り取っていった。

 呪霊としての姿でも一級相当の実力。しかしこの程度ではまた寄って来る。出来るなら呪隷の姿に戻って戦いたい。しかしソレが出来ずにいた。

 等級が低い呪霊のフリをして呪詛師を狩れ。決して呪隷と悟られるな。これが司の命令だった。

 呪霊操術で操られている呪霊と違い、彼女たちには人格や個性がある。故にただ操られているだけでは出来ないような複雑な命令もこなし、時には団体行動も出来る。

 命じられた以上、彼女たちが逆らうことはない。盲目的に主へ尽くし、主を妄信し続ける。しかし自我が存在する以上、常に主の思い描く通りに動くとは限らない。

 

『おい、死神(フェイト)。なんだその不満そうな顔は』

『……何よ、鎧騎士(シグナム)

 

 中世の騎士のような格好をした髑髏の呪霊が、典型的な死神の恰好をした髑髏の呪霊に話しかける。

 死神(フェイト)鎧騎士(シグナム)。彼女たちの呪隷としての名である。

 

『ご主人様は話すなと仰ったでしょ?呪霊のフリをしろと』

『そのご主人様の言葉を疑った愚か者は誰だ?』

『『………』』

 

 このように主を妄信するあまり呪隷同士でいがみ合う事も偶にある。

 同じ主を信奉する以上共に仕えようとするし、主の為に出来る限り協調を取ろうとする。しかし所詮は元呪霊。我が強い。

 考えの違いでいがみ合ったり、褒美や手柄の取り合い等、争いの種は存在する。

 しかし、だからといって仲違いすることは決してない。

 

 

 

「おいお前ら、何くだらないことで喧嘩してるんだ?」

 

『『ご主人様!』』

 

 彼女たちは呪隷。主の言葉一つで如何様にも出来る。

 さっきまでの険悪な空気は何処に行ったのか。

 呪隷たちは媚びた声で司の方へ振り向いた。

 

『ご主人様、何故ここに!?』

「とびっきりの大物が釣れたからな。いてもたってもいられなくなったんだよ」

 

 あー寝にくかったといって体をうごかす司。

 肉布団は司の趣味ではなく呪隷の方。むしろ彼は一人で隠れるように寝るのが好きなタイプだ。

 そもそも、彼は廃屋で布団無しで寝たり、山の中でテントも無しに野宿したりと、野生児みたいな暮らしをしていたのだ。むしろ布団なんて要らない。

 

『何を仰って……!!?』

 

 発言を途中でやめるシグナム。

 彼女もまた感じ取ったのだ、司が言う大物の気配を。

 

 海の方から強力な呪霊が現れた。

 おそらく土着信仰されてた神が零落し呪霊と化したもの。

 本来なら特定の日のみ現れるソレが、司の体質によって引き寄せられたのだ。

 

 司によって引き寄せられる呪霊はその辺を漂う雑魚とは限らない。

 低い確率だが、自身が生まれた場所から離れて行動出来る特級クラスの呪霊も寄り付く事がある。

 今回は当たり。SSRの呪霊が釣れた。

 

「お前らは戻れ。普通の呪霊じゃないのを見られるわけにはいかないからな」

『『ハッ!』』

 

 一度呪隷を戻し、海の方へ向く。

 呪霊が真っすぐこちらに近付いている。司の引き寄せ体質に引っ張られれているのだろう。

 

「じゃ、狩るか」

 

 海の方目掛け、司は駆け出した。

 

 海を見てはいけない日。或いは海に行ってはいけない日の怪談。

 その日は海から怪異が現れ、遭遇或いは目を合わせると災いが降りかかるといった内容。

 本来なら特定の日にしか現れないが、司の引き寄せ体質はそのルールを超越してソレをおびき寄せた。

 

 武玄司は呪いに愛されている。……否、愛され(呪われ)過ぎている。

 海に行っただけでこのような大物をおびき寄せる体質。コレのせいで彼は術師以外の生き方を捨てざるを得なかった。

 

 

 

 だが、彼はこの境遇を楽しんでいる。

 

 獅子や虎が獲物を狩るのに喜びを見出すかのように、馬が走ることに充足感を得ているかのように。

 

 司は与えられた才能(神の呪い)を発揮し、存分に振るい、鍛え極めることを心の底から喜びを感じていた。

 

 もう彼は戻れない。退屈だが優しい日常に。力なんて必要なく、誰かに守ってもらえる世界に戻ることはない。

 

 冥府魔道。呪い呪われ、勝ち続けることでしか生きられない蟲毒の坩堝。それこそ彼が生きられる唯一の世界であり、進み極めると選択した道である。

 

 今の彼は、幸せである。

 

 

 

 

「闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え」

 

 海岸に付いたと同時、印を結んで呪文を唱えた。

 途端、空が黒い幕のようなものに覆われる。

 帳。術師が呪術を隠ぺいするために使う結界術。

 元術師だった呪隷から張り方を教わり、身に着けた。

 

「さあ、これで遠慮なくやれるぞ」

 

 帳を張った以上、中の様子は外から見えない。

 監視する呪術師も、漁夫の利を狙う呪詛師もいない。これで手の内がバレることはない。存分に全力を出せる。

 

 

【術式 呪隷操術】

 

 

 司の背後から三人の美女が現れる。

 一人は水を、また一人は氷を、最後の一人は雷を纏って。

 

「やれ」

 

 司の号令に従って、三人は呪霊を狩りにいった。

 

 

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