とある宗教施設。
連立する山々に神社仏閣が立ち並び、その中でも比較的大きな建物内で信者が集まっていた。
子供から大人まで、年代性別問わず祭壇に向けて祈りを捧げている。
昨今、宗教の風当たりが強い世の中。だというのにこうして活動出来ているのは相応の組織力があるという事であろうか。
「さあ、我らに祝福あれ!」
祭壇の前に美女が立っている。
イタリア製の高級レディスーツを着こなす一人の美女。
ぴっちりと着用しているせいかボディラインが強調されており、魅惑的な肉体が浮き上がっていた。
彼女の名はマキマ。
この宗教団体を管理する幹部の一人であり、司の呪隷である。
術式は命令。ブラック企業から支配される恐れによって誕生した呪霊であった彼女らしい術式。そして、組織を運営するのにぴったりな術式だ。
また、彼女自身ブラック企業やブラック上司のノウハウを恐れの感情から学んでおり、術式を使わずとも人を操れる。そのノウハウを見込まれて管理者の一人に任命された。
流石にやりすぎないよう主である司に釘を刺されており、必要以上に人を洗脳しないよう報告の義務も課せられている。
だが、間接的とはいえ呪術で一般人を操るあたり、司も立派な呪詛師といったところか。
もっとも、ここにいる信者も碌な人間ではないのだが。
【術式 三令五申】
信者たちに術を掛けて脳内に教えを刷り込ませる。
これで彼らは教えを忠実に守る奴隷となった。
そのことを彼らは知らない。
脳内に響く事の御言葉は天啓。
教祖である司様の御心。
信者たちはそう思い込んでいた。
ソレが洗脳された結果だとは知らずに。
「(これでまた一歩、主様を理想とする世界に一歩進んだ)」
洗脳した信者に見下したような目を向けるマキマ。
しかしそれも一瞬。すぐに鉄仮面のような笑みを貼り付け、教団の幹部として振る舞う。
彼女には信者を救う気も、正しい教えを示す気もない。
あるのは主の役に立つ事。その為に信者を洗脳し、管理している。
所詮は奴隷。主が使いつぶしを禁じているのでやらないだけで、必要とあらば喜んでやる。
全ては主の為に。その考えは全ての幹部共通であった。
「成程、確かに取り憑かれてるな」
何処にでもある寺の一室。
和服を着崩した美女が一人の男性から相談を受けていた。
彼女の名は綱手。司の呪隷の一体であり、この寺を管理……しているわけではない。
あくまで彼女の役割は霊障の対処。管理はまた別の呪隷に任せられている。
「(階級は二級。雑魚じゃな)」
綱手の目には一体の呪霊が映っていた。
司によって特級に成った彼女からすれば雑魚もいいところである。
しかし、ソレは呪力を持つ強者にとって。呪力を持たず対抗手段のない非術師にとっては三級呪霊すら恐ろしいもの。だからこうして相談者が集まるのだ。
「そ、そうですか。やはり……」
男性は顔を下に向ける。
彼の目線の先は綱手の胸元。
はだけた着物から零れ落ちんばかりの豊満な谷間に集中していた。
いくら呪霊に呪われていても目の前に絶世の美女がいればこうなってしまうのは男の悲しい性というものか。
そしてそんな本来なら千金を払ってやっと一夜を過ごせるかどうかというのに、奉仕をタダどころか逆に貢がせるような少年がいることをこの男は知らない。
「なに、簡単に祓える。……こうしてな」
「!!?」
途端、部屋の温度が下がった。
呪力の解放。
本来なら呪力を認知出来ない非術者でも竦んでしまう程の呪力量。
綱手の呪力に中てられた男はその場から動けなくなった。
そして、ソレは呪霊も同じだった。
「フンっ」
ブンッと、軽く手を振るう綱手。
しかし軽くというのは綱手基準であり、一般人からすればヘビー級プロボクサーのストレートと相違ない。
男性の肩スレスレに拳が通り過ぎ、呪霊に命中。拳は呪霊を砕き、塵となって綱手の呪力に吸収された。
「終いじゃ。どれ、肩が軽くなったじゃろ?」
「………あ。ほ、本当だ!」
呪力を抑えて男性に話しかける。
男性も圧が無くなったことで彼女が本当にお祓いをしてくれたと確信した。
「ありがとうございます!何処も受けてくれないし、受けてくれても詐欺でした!けど貴方は違いました!」
「良い良い。儂は司様から力を頂いたのじゃ。この程度など造作もない」
綱手の手を取って感謝の意を伝える男性。
内心、ソレを鬱陶しく思うも、司の目的の為に綱手は笑顔を張り付けて応対した。
まあ、うざかったので手は振り払ったが。
「じゃあ、後はしばらく様子を見る。何かあったらまた来るがよい」
「はいありがとうございます!」
男性は部屋から出て手続きを済ませた。
こうしてまた信者という名の金蔓を手に入れ、同時に呪霊も主に捧げられた。
「温いな。もっと脅せば絞り取れたというのに」
「
襖を開けてまた別の美女が入ってきた。
レディスーツを大きく開けて胸元を露出し、窮屈そうにダイナマイトボディがはみ出している。
彼女は芽衣子。彼女もまた呪隷であり、この寺の信者たちを管理している。
「あのまま脅して奴をこの寺に住まわせ、私の術式で洗脳すればまた金蔓を確保出来たというのに」
「いや、やりすぎじゃろ」
呆れた様子で綱手は返した。
この宗教団体も大分拡大された。
元は別の宗教団体だったが、司達が乗っ取り、他の団体と合併して大きくしてきた。
乗っ取りは簡単だった。呪術を見せれば大抵の奴は「本物」だと勘違いして明け渡してくれた。
もっとも、洗脳の術式があるのだから、呪力に抵抗できない一般人なんて簡単に洗脳出来るが。
「主様の目的はあくまで呪霊と呪物集め。小遣い稼ぎや労奴集めはその序でじゃ。忘れたか?」
「序でだからといって蔑ろにしていい筈が無いだろ。全ては主様の為にある。一つ残さず捧げるべきだ」
「いや、もう十分大きくなったじゃろ?これ以上大きくしたら呪術師共に目を付けられるぞ?」
宗教組織を作った理由。ソレは金集めもあるが、一番の理由は呪霊集めと呪具集めである。
一般人でも呪いに関わることはある。呪霊に取り憑かれたり、呪詛師に呪われたり、呪物を手に入れたりと。そういった情報を集め、呪霊や呪物を回収する。これが第一の目的。信者や報酬はオマケみたいなもの……とは言い切れない。
何事にも金や人手は必要。時には権力も使う事だってある。そのためには宗教組織というのは都合がよかった。
信者の中には企業の幹部や社長、地元の権力者や政治家などもいる。そういった伝手を確保するのも宗教団体を乗っ取った理由の一つである。
まあ、それでもやりすぎないようにやれと司に釘を刺されているが。
「……組織が大きくなれば、また人手が必要になるからと主様が手を加えて下さるかもしれないのに」
「ソレが狙いか」
司の術式もここ数年で成長した。
その一つに呪隷の術式の合体と分割というのがある。
文字通り呪隷を合体させて強力な呪隷に変えたり、逆に分けて術式の一部を他の呪隷に合わせる等である。
この術式を使えば、野良では湧かないような強大な呪隷を作れるかもしれない。
「じゃがこうして主様に今役立っておる。それ以上何を求めるのじゃ?」
「……それも、そうだが」
これこそ呪隷が運営する組織の強みである。
呪隷が管理する以上裏切りは無い。
組織運営で恐ろしいのは身内の裏切りだが、呪隷が管理する以上はその心配は皆無。
金にも異性にも権力にも興味を見せず、ただ主に仕える事のみに集中する管理者たち。
担当している呪隷たちはほぼ全員が元その道のプロだった者であり、私欲を一切見せることなく忠実に業務をこなしている。
まさしく盤石の組織。内部からは一切の隙を見せない。
「それで、結局儂に何の用じゃ?」
「む、そうだった。すっかり失念していた。……実は特級呪物が見つかった」
「……なんじゃと?」
呪物の捜索。
これもまた宗教団体を運営する理由の一つ。
中でも特級は最優先事項。術師よりも先に手に入れろと言われている。
「特級呪物宿儺の指がある可能性がある。これの調査だ」
もし仮に呪隷が某宗教団体みたいに必要ないものを売りつける商法やったら司がブチ切れます。なのでそこは安心してください。