夏油傑side
私は、呪いの王子に出会った。
悟と決別して数年、私は活動拠点を海外に移していた
海外なら悟に邪魔されないし、例の呪詛師集団や宗教団体*1も存在しない。
噂の特級呪詛師―――武玄司も海外にいるとの情報だが、日本国内なら兎も角、広いこの地球上で出会う事は早々ない。
当時の私はそう思っていた。そんな時、彼と遭遇してしまった。
美しい子だった。
まるでアイドルやモデルのような美貌。
少なくとも呪われた地で一人いるより、舞台やステージの上で踊っている方が似合っている。
しかしそれは外見だけ。
溢れる呪力は………いや、その存在感は悍ましいものだった。
呪力によって赤く光る眼。
彼に視線を向けられた瞬間、私は久々に恐怖を思い出した。
まだ自分の力も碌に知らない頃、初めて呪霊と遭遇したような恐怖感。
彼に抱いた初印象はソレだった。
自然と身体から漏れる禍々しい呪力。
人であること自体が不自然だと感じさせる程の禍々しさ。
しかし外見は美しい少年であることが、更に不快感を引き立て増幅させていた。
『なんだ、先客か。いくら推しキャラだったとはいえ、容赦する気はないぞ』
彼が呪霊を呼び出す。
作戦も配置も、何も考えない様子で出された呪霊達。
そのどれもが私の持つ特級を凌ぐ呪霊だった。
同じ呪霊操術。
だからこそ分かる。術師としては相手が格上だと。
特級呪術師であり、かつては最強だったこの私よりも上。
よって私は確信した。この少年こそが武玄司だと。
武玄司。
十にも行かない年で特級呪詛師となり、悟を完封した最強の呪詛師。
学生の頃、悟から何度もその子の話を聞かされた。
悟以上の呪力と、呪霊による圧倒的な手札の多さ。
術式は私と同じ呪霊操術だが、操る呪霊はどれも特級クラス。
進んで主である司に仕え、様々な術式を行使し、文字通りのワンマンアーミーだと。
私はソレを疑っていた。
そんな人間が存在する筈が無いと。
いくら縛りで呪霊に遭遇しやすい体質だからといって、そんなに特級をポンポン捕まえられる筈が無い。
呪霊だっていくら呪霊操術があるからといって自分から従ってくれるわけではない。だから嘘か冗談だと思っていた。
しかし目の前の相手を見てやっと気づいた。真実と彼の異常性に…。
術式によって一斉に呪霊を突撃せる。
どれも一級相当の呪霊、術式は無いがパワーとスピード、そして数の暴力によって圧殺する。
せいぜい時間を稼げればいい。その間に攻略法を…。
【術式:呪爆】
途端、辺り一帯が絨毯爆撃された。
彼の特級呪霊が放った一発の砲撃。
途中で散弾…否、クラスター弾となってばら撒かれる。
ソレを喰らった呪霊は次々と爆散。私の目の前が火の海と化した。
呪霊が一掃された。
それ自体はまだいい。予想はしていたから。
問題は巻き込まれた筈の彼の呪霊は無傷だった事。
同士討ちを気にすることなくばら撒かれていたというのに、彼の特級呪霊たちは何事も無かったかのようにこちらを攻撃してきた。
特級によく例えられるクラスター弾による絨毯爆撃。
ソレを喰らっても平気な程強い特級なのか、ソレともそういう術式なのか。
「(ならこれはどうだ!?)」
今度は特級を仕掛ける。
雷とその妖怪への恐怖から生まれた登録済み特級呪霊、雷獣。
手持ち最大の玉藻の前と比べると格は落ちるが、それでも十分強力な呪霊だ。
【術式:纏雷】
一撃で破壊された。
雷を纏う巨大な黒猫のような呪霊。
同じ雷を操る獣の呪霊同士だというのに、こちらは登録済み特級呪霊だというのに。
相手の呪霊は私の雷獣を容易く破壊した。
向こうの呪霊が格上だと思っていたが、まさか一撃とは。ここまでの差があったか!?
「(ック、やはり格上か!? だが既に私の呪霊は次の行動に移っている!)」
まさかナンバー2になるかもしれない呪霊を破壊されたのは痛いが、既に王手は取っている。
姿と気配を消す一級呪霊。特級には戦闘力が足りないが、隠匿能力は私の呪霊の中でも随一。コイツならあの少年を…。
【術式:拒絶】
呪霊は六枚の盾のようなものに弾かれ、消滅した。
おそらく彼に抱き着いている呪霊――橙色の髪をした美女のような呪霊の術式だろう。
彼女は露出の激しいドレスを身に纏い、とても大きな胸を主人に押し当てながら媚びと熱を帯びた顔を向けている。
「(コイツ…本当に呪霊操術か!?)」
やっと私は気が付いた。
違う、彼の術式は呪霊操術なんて生浅しいものじゃない。
私の呪霊操術とは根本的に違う術式。
もっと強力で、もっと禍々しい呪い。
彼自身がそうであるように
彼の話を聞いた時は、話を盛っているかと思った。
悟の不可侵を突破した、悟の術を無効化した、悟が一度も勝ったことがない。
どれもこれも信じられなかった。
有り得ないと思っていた。
そんな訳がないと、いくら何でも悟に勝てるわけがないと、そう思っていた。
だけど違った、悟の言葉は全て正しかった。
本当に悟が言うほどの強さがあるのか、悟が言う程の存在なのか、面白半分で手を出してみようと思った。
その結果がコレだ。
正直な話、勝てると思っていた。
悟はきっと油断したか何かしただけなのだろうと思っていた。
悟が本気でやらなかっただけなんだろうと、そう考えていた。
だが違った。悟の言う通りだった。
まさかここまでだったとは…。
『領域展開』
武玄司が印を結ぶ。
ソレを見た私は即座に決断、行動した。
持ち呪霊の半数を使ってうずまきを放つ。
出来た領域の穴から脱出し、全力で逃げた。
コツコツ溜めた呪霊を半数も消費しておいて成果ゼロなのは痛いが仕方ない。
もし彼に捕まってしまえば、呪霊を全部奪われた上に“もっと恐ろしい事”をされそうだったのだから。
『あれが武玄司か…。二度と会いたくないな』
吐き気がする。
彼の呪力に充てられたせいか、ソレとも気味の悪い存在感のせいか。
普段慣れている筈の呪霊の嫌な味を思い出しながら、私は口を押さえた。
五条悟side
「武玄司の討伐、ですか?」
その依頼を聞いたとき、俺は耳を疑った。
海外で呪霊狩りを行っている武玄司。
アイツを援助している筈の海外の政府が、武玄司の討伐をこの俺に依頼してきた。
「理由が分かりませんね。武玄司を援助しているのは貴方方…いや、各国である筈。なのに何故今更になって反故にするような真似を?」
最初は依頼そのものを疑った。
確かに司は呪詛師だが、一般人には手を出していない。
他の雑魚呪詛師と違い、奴は金の為に人を呪ったり、無作為に暴れるような奴じゃない。
むしろ非術師からすれば、勝手に呪霊を狩り、呪詛師を殺してくれる存在だ。
分かりやすく例えたら益獣みたいなもの。危険だがそれ以上に益を齎す。
だから特級が居ない国々はあいつを国に招き、活動を援助してきた。
けど、今更になってソレを覆した。疑問に思わないわけがない。
「君の意見は最もだ。私たちを疑っているのだろ、何か裏があると」
「端的に言えば」
俺がそう返すとソレも想定内といった様子で某国の重鎮は話し出す。
「私も最初は君と同じ考えだった。確かに彼は呪詛師であり、自身の目的の為なら人殺しを厭わない。だが、彼は私たちが考えた以上に危険だった…」
重鎮は震えた声で話を続ける。
「彼は危険だ。呪霊を倒す度に強くなっていく。何れは国だけでなく世界を脅かす存在になるだろう………」
「答えになってませんね。武玄司の術式は呪霊操術。呪霊を倒す度に従え、その分だけ強くなる。そもそも奴の目的は貴方方もご存知の筈です。ソレに、特級術師自体が単体で国家転覆を可能としています。その理屈で言うのなら私も該当してしまう」
「違う、そうじゃないんだ………」
震えた口ごもる重鎮。
よく見ると手もカタカタと震えていた。
「奴の術式は…呪霊操術なんて生温いものではない。でなくては、あの特級の数も質も説明できない。そして何より………」
また震えながら口ごもる重鎮。
美味く言い表せないといった様子。
ソレは司の異様さからなのか、それとも恐怖からなのか。
「まあいい。君も彼を見たら分かる筈だ。そのよく見える目なら、すぐに奴の異様さと恐ろしさに気づくだろう」
最初、俺はその言葉を理解出来なかった。
だが、今なら分かる。
「(ああ、成程。確かにコイツはヤバい…)」
見えてしまった。
気づいてしまった。
アイツの異様さと悍ましさに。
以前見た時とは格段にレベルが上がっている。
ただでさえデカい呪力が更に成長している。
呪力の質も量も、そして悍ましさも。
外見はプリンセスみたいだが、内蔵している呪力と魂は異質。
人間でいること自体が不自然だと感じさせるぐらいだ。
気持ち悪い。
生理的にも本能的にも。
違う。
コイツは人間じゃない。
術師でも呪霊でもない。
もっと悍ましい存在だ。
殺さなくてはならない。
人類やこの世界の為にも。
まあ、俺には関係ないけど。
俺はただ俺のやりたいようにするだけだ。
ソレに、俺もあまり人の事言えないし。
「やる事は変わらないよなぁ!!」
【術式順転:蒼】
初手で俺は全力の『蒼』をぶつけた。
本当はもっと様々な原作キャラやオリ敵と戦わせながら、少しずつ司の悍ましさを表現したかっらのですが、自分の力量不足で一気に出しました。
へたっぴで申し訳ありません。