なにせ支配するだけじゃなく身も心も奴隷に変えるんですから。
けど、種族として存続するならこれ以上ない術式なんですよね。
「ここが君の領域かい、武玄司?」
血管のような領域。
洞窟状になっている内部の質感は肉に近い。
全体に血管のようなものが張り巡らされ、ドクドクと脈打っていた。
司の呪隷による領域。
「違うな、ここはお前に恨みを持つ呪隷たちの領域だ」
「恨み?」
夏油…いや、羂索の領域である胎蔵遍野が混じっているせいで景色が変化しているが問題ない。
なにせ司の方は九人分の領域なのだから。
【術式:惑血】
【術式:蟲操術】
突如、領域の必中効果が発動。
簡易領域で相殺する羂索。
羂索の領域が混ざっているせいで必中効果はかき消され、付与された術式も無力化されている。十分対処は可能だった。
【術式:爆血】
【術式:飛血鎌】
第二次波。
今度は爆炎と斬撃の血が飛び散る。
熱に強い呪霊と堅い呪霊を召喚して防ぐ羂索。
今度は呪霊任せのおかげで観察する余裕が生まれた。
「………まさか!?」
一撃もその次も血を媒介にした術式だった。
血に関する術式は加茂家の相伝。
正式な相伝である赤血操術ではない上に、感じる呪力は呪霊のもの*1。
そこから考えられる可能性は一つ。
【術式:流血闘術】
【術式:凝血術】
接近戦を仕掛ける呪隷が二人。
一人は血を纏う拳で、もう一人は血で濡れた刀を持って。
呪力強化した格闘戦で対応しながら羂索は呪隷たちを観察した。
「もしかして本当に………君たちは呪胎九相図かい?」
「「「!!?」」」
正体を看破された呪隷たち。
彼女は一旦距離を取り、全員が同じ個所に集まった。
「ええそうよお父様。私は貴方によって生み出された呪物………自分の呪力にすら耐えきれなかった出来損ないよ!」
和服を着ている美女の呪隷が叫ぶ。
珠世。膿爛と呼ばれる四番目の呪胎九相図。
本来なら自身の呪力に耐えられず、呪力を持った亡骸と化しているが、ここでは違う。
司によって呪隷としての新たな生と肉体を手にし、主人に奉仕することに喜びと使命を抱きつつ、復讐という寄り道を楽しんでいる。
「…ック。クハハハハハ! まさか失敗作がこのような形で可能性を見せられるなんて。長生きはするものだね」
「………失敗作ですって?自分から作っておいて、ママを殺しておいて!」
露出の激しい遊女のような恰好の美女が吠える。
堕姫。散相と呼ばれる七番目の呪胎九相図。
術式は飛血鎌。自身の血を鎌にして振るい、斬撃を放つ。
また、彼女の帯は生得領域になっており、様々な物を収納できる。
「ママ、ねえ。死産した呪物ごときにそんな感情があるなんて」
「ふざけないで!」
子供サイズの着物を着ている美女がピンク色の炎を放つ。
禰豆子。焼相と呼ばれる最後の呪胎九相図。
術式は爆血。血を燃やして炎を操る呪隷である。
また、普段は子どもの姿でいることを好み、戦闘や奉仕の際などにグラマラスな美女の体形に戻る。
「ふざけてなどいないさ。自分の手から生み出される以上は自分の可能性の域を出ない。つまらないものだったよ。…さっきまではね」
「どういう意味?」
背後から白い軍服を着た美女と、ミニチャイナドレスを着ている美女が再び接近。
信女と神楽。かつての呪胎九相図五番の青瘀と骨相。
彼女達もまた司に呪隷としての生と肉体を与えられた。
「君たちは死産した筈だ。自分の呪力に耐えられなくてね。しかしこうして別の存在に成った上に、新たな生を手にしている。受肉体ではなく自分の肉体を持って」
「縛りを結ぼう、司くん。どうやってこの失敗作を変えた?どうやって肉体を与えた?どうやってあの場から生き延びた? 答えてくれるなら君と私どちらかが息絶えるまで私はこの場から逃げ出さず受けて立とう」
羂索の発言に九相図たちは動きを止める。
コレは主が決める事であって自分たちが断っていいものでは無い。
復讐はあくまで寄り道。本命は主に仕える事。自身の感情を優先してはならない。ソレが呪隷というものだ。
「いいだろう、答えてやる。その代わり。コイツらの復讐は決着が付くまで付き合ってもらうぞ。無論、付いたかどうか決めるのはコイツらだ」
「「「ご主人様(主様)!!」」」
司が結びを承諾。
瞬間、九相図の呪隷たちは顔を赤らめた笑みを見せた。
「愛されているねぇ。ソレも含めて気になるな。じゃあ話してくれ。君の術式が関係しているのだろ?」
「ああ、俺の術式は呪隷操術。レイが幽霊の霊じゃなく、奴隷の隷になっている。つまり調伏した呪霊を呪隷という奴隷に変え、従えるのが俺の術式だ」
「成程、彼女たちが心の底から君に従うのはそのせいか。呪力は呪霊のだけど魂が若干違うのも理解できる。そして、あの失敗作が生きられるのもその呪隷になったおかげということか」
「そういうことになるな」
司は軽く自身の術式の話を続ける。
そして遂に核心に触れる。
「俺の術式反転は3つ。そのうちの一つが呪隷に肉体を与えることが出来る。さらに順転と合わせて虚式にすることで呪霊でありながら肉体を持つ存在にできる」
「!!?」
「あと、俺が生きてる理由も術式反転の拡張術式のおかげだな。俺の拡張術式には呪隷を孕ませて新しい呪隷を作るってのがある。コイツらの母親の男バージョンだ。で、反転にすると予め孕ませた呪隷に俺を産ませることが出来る。要は転生だな」
「………ほう」
羂索は好奇心と狂気が見える笑みを浮かべた。
「それで、君の体に支障はないのか?無いのならそれは何故だい?」
「問題ない。俺は元から人間の癖に魂が怨霊…呪霊だからな」
「何!?」
それを聞いた途端、羂索は驚愕。
好奇心と狂気が更に増した。
「一体誰に作られた!? あの女が最初に孕んだのはただの呪霊!九相図は自然に発生しない筈だ!」
「誰にも。俺の両親は普通の非術師だ。知ってる筈だろ?」
「ククク…。確かにそうだね」
武玄司の家族構成などとっくに収集済み。
彼の出生に呪いが関与してないのは知っていた。
「おそらく俺の術式は魂の術式と肉体の術式が融合した結果だと思われる。呪隷を孕ませる体質も魂の影響だろう。もしかしたら魂も肉体に合うよう適応しているんだと思う」
「成程、そうかそうか…」
うんうんと頷く羂索。
「よし決めた。最初はその元失敗作を片付けて逃げようと思ったが、気が変わった」
「君をじっくりと調べたい!術式も、呪隷も、君の魂自身も!その全てが欲しい!」
「武玄司!そいつらを壊した後、君を捕獲してじっくり調べさせてもらうよ!」
「相手するのは俺じゃない。先ずはこいつらの復讐に付き合ってもらうぞ」
司が指示を出すまでもなく動き出す九相図。
決着がつくまで思う存分やれる。
恨みを晴らすため、彼女たちは怨敵を呪った。
「なかなか粘ったな。だがもう終わりだ」
どこまでも続く大海原に、点々と岩が浮かぶ領域。
ティア・ハリベルは他の呪隷と共に倒れている漏湖を見下していた。
鹿の呪隷エミルー・アパッチ、蛇の呪隷シィアン・スンスン、雌獅子の呪隷フランチェスカ・ミラ・ローズ。
彼女たちは呪霊になる前からティアの配下にいた。そのせいか呪隷になった今でも配下のように行動している。
「やったねティア!あとはトドメを刺すだけだよ!」
ネリエルも参戦。
強大な膂力と頑強さで漏湖を追い詰めた。
彼女だけではない。鳥の呪隷チルッチ・サンダーウィッチ、狼の呪隷リリネット・ジンジャーバック。
合計7人の特級。如何に漏湖が原作で最強格*2だろうと、とても処理できるものではない。
全員がティアの術式を共有。
そのせいでティアは動けなくなったが、その分他の呪隷たちが動けばいい。
一人消えても特級が6人もいる上に、自身の術式と併用可能。
相性の悪い術式を6人の特級が行使する。
漏湖にとってはクソゲーどころではない。
全員で漏湖をリンチ。
火礫虫や火口、放つ炎や熱線、溢れ出る溶岩、漏湖自身の身体能力。
誰かが牽制や妨害を担当すれば、他の誰かが攻撃や防御を担当する。
漏湖の行動全てをチームプレイで潰しつつ、戦況を優位に進めた。
呪隷の最も恐ろしい点。
ソレは高い知能とチームプレイが出来るという事。
質も量も術式も特級クラスなのは十分脅威だが、術師は一人。やれることは限られる。………通常の呪霊操術ならば。
呪隷は違う。全員が自律している。
命令無しでも自分で考えて行動し、時に協力して活動出来る。
もし仮に呪隷を無制限に増やせるなら、人類にとって代わる事も可能かのしれない。
術式反転によって肉体を持つ今の呪隷たちならば。
「(こんな…筈では………!)」
振りかざされるネリエルの槍。
漏湖が最後に見たのはその穂先だった。
・術式反転:新生
司の術式反転の一つ。呪隷に肉体と生を与える。
肉体を獲得した結果、呪隷にとって反転術式と正のエネルギーは弱点にならず、呪いのため呪力もエネルギー源となる。
また、順転である呪隷操術と組み合わせて虚式にすることで、正と負のエネルギーの両方を持つ新しい生物へと昇華させることが出来る。
・術式反転:輪廻転生
司の術式反転の一つ。元となる術式は拡張術式の為、正確に言えば術式反転の拡張術式といった方が適切かもしれない。
予め妊娠させた呪隷の胎児に転生して復活する。要は肉体のバックアップ。
・呪霊と呪隷の違い
司の呪力で成長出来る、未発達だが全員術式を持っている、主である司に対して絶対的に従う、肉体がある←NEW