〇月×日
昨日ノートを母親に買ってもらったので思考をまとめる序でに日記をつけることにした。
先ずこの世界が何の世界か。その答えはすぐに分かった。
ここ、呪術廻戦の世界だ。
最近、町で幽霊みたいなのを見るようになった。
俺も最初は逃げようとしたのだが、幽霊がこっちに気づくと逃げられなくなってしまう。
なんていうか、身体が逃げるのを拒否しているみたいな感覚だ。
けど問題はなかった。襲ってきても返り討ちに出来る力が俺にはあったのだ。
そう、呪力だ。
俺は自然と呪力を出していた。
最初、呪霊に恐怖してパニック状態で応戦していた。
その時は恐怖をトリガーにして呪力を出していたが、今では少し意識するだけで呪力を出せる。
そう、俺は力を手にしたんだ。
呪力という特別な力。
漫画でしか無かった力を、今の俺は存分に振るうことが出来るのだ。
ぶつける対象もある。なぜか呪霊は俺の方へ勝手に喧嘩売って来るのだ。
向かって来る上に逃げられない。なら、戦うしかねえよな。
最初、俺は今世に絶望していた。
DVと児童虐待親父に、そんなクズに縋りつくメンヘラ女。こんな家庭に生まれたことに、俺は転生したことを後悔していた。
けど、今は違う。
俺は力を手にした。
今の俺を……明日を変えられる力を。
ならば、ソレを使わないなんて道理はないだろ?
変えてみせる。
お先真っ暗だった今世を。
俺がやりたいように……前世では出来なかったことを叶えてみせる!
△月●日
呪力の練習を始めた。
原作での初期の修行法は呪骸を使って行われていたが、ただの子供である俺の家にそんなものは無い。よって、自力のみでやるしかない。
やり方はハンターハンターの四大行を再現する事だ。
ネットで似てるとかなんとか言われてたからいけるだろ。
呪力自体はいつでも使える。
こんな環境で育ったんだ。負の感情なんて生まれた時から湧きまくりだ。
思えば、赤ん坊のころから呪力を使えたんだろう。だから最初呪霊に襲われた時も無意識に使って戦えたんだ。
だから出来るはずだ。コツさえつかめばすぐに呪力をコントロール出来るはずだ。そして、行く行くは黒閃を……。
×月◆日
母親が俺に寄って来た。
父親に冷たく当たられ、俺を代わりに可愛がろうとしてきた。
ハッキリ言ってうざい。愛してくれているのは分かるが、ソレは父親の子供だからだ。
しかも、アイツの愛は気まぐれだ。時々猫可愛がりするが、ソレは父親が冷たく当たったせい。あのクソ野郎が求めたら俺をほったらかしにしてあの男に答える。
ああ、ホントに気持ち悪い。
けど今の俺はまだガキ。親なしでは生きていけない。
だから、生きるための力と知識を今のうちに吸収しなくては。
今は支配される側に回ってやる。けど、いつかは抜け出して、俺が支配する側に回るんだ。
俺には力がある。
虐められる側じゃなくなったんだ。
〇月×日
遂に呪力を安定させて戦えるようになった。
いや、ソレだけじゃない。練習しだして一年。やっと俺は呪力を完全にコントロール出来るようになったのだ。
呪力を纏って維持したり、呪力を一点に集中させたり、逆に呪力を拡散させたり。自在に使えるようになった。
コレで俺はやっと呪術師初心者を卒業できた。
あとは呪力操作を瞬時に、その上で無意識に出来ないといけない。
この先の人生も、術師としての道も長い。
第一、俺はまだ六歳なのだ。
ゆっくりとやっていこう
〇月◆日
親父が帰ってこなくなった。
とある空き家。
住宅街の中、ポツンとたたずむ一軒家。
周囲が空き地であることを除けばただの家に見えるが、そこは幽霊が出ると言われており、近所の人たちから避けられている場所であった。
所謂、曰く付きの場所、或いは心霊スポットである。
そんな場所、夜中の二時。一人の子供がそこに入っていった。
黒髪黒目の子供。
子供の名は
一般人でありながら強大な呪力を持つ特別な子供である。
「おじゃましま~す」
戸を開けて家の中を探索する。
家中に満ちる呪力。一般人でも悪寒を感じる程の密度。
司はソレを確認してにやりと笑った。
「(そこらの雑魚共よりは強そうだな。じゃあ、今日は色々と試せるか)」
居間に通じる扉を蹴破る。
家具を壊し、窓を割り、ドンドンとわざと騒がしく走り回った。
これは挑発。この家の呪霊をおびき出そうとしているのだ。
そして、彼の思惑通りに一匹連れた。
「う”ぅぅるぅぅさぁぁいぃぃ!」
足が異様に長い子供のような呪霊。
ソイツは飛蝗のように飛んで司に襲い掛かった。
バァンと、虫を潰すかのように張り手が繰り出される。
しかし、その手が司を捕らえることはなかった。
グシャ!
司の足が子供の呪霊を捕らえた。
トマトのように潰される頭。
ぴくぴくと痙攣した後、呪霊は最初からいなかったかのように霧散した。
踵落とし。
呪霊に見えない速度で天井に跳び上がり、更に天井を足場にして方向転換。その勢いと呪力を足に乗せて頭を踏み潰したのだ。
園児からかけ離れた身体能力と判断力。一体、彼は何級程の呪術師であろうか。
「で、アンタがここの家主か?」
「………」
振り返ると、蹴破られた入り口から女の呪霊がいた。
先程の子供の母親という設定なのだろう。女型の呪霊は怒りに満ちた目で司を睨んでいる。
「あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ァ”ァ”!!」
背中から腕が生え、司目掛けて伸びてくる。
蜘蛛のような八本の異様な腕。
ソレは物理法則を無視して迫って来る。
迫り来る腕を避ける司。
サイドステップで躱し、身体を回転して躱し、いつの間にか取り出した包丁で腕を弾く。
避けながら司は少しずつ呪霊との距離を詰める。更にそれだけでなく……。
「ぎゃああああああああああ!!!?」
呪霊の腕を叩き切った。
延ばされた手を避け、横を腕が通り過ぎた瞬間、包丁で関節部を切り落としたのだ。
相手は呪霊。身体を破壊されてもすぐさま再生する。しかし、呪力は消耗するためダメージは残る。
小技で敵の呪力を削り、大技で止めを刺す。司の好む戦法である。
一本、また一本と。繰り出される腕を避けながら切り落とす。
一撃でも当たれば命を落としかねない威力の腕撃。
包丁越しに肉を切り骨を砕く感触が伝わる。
しかし、司は一切の恐れを見せることなく、一切の嫌悪感を見せることなく、敵の腕を切り落とし続けた。
いや、むしろ負の感情の逆。
彼は今、この戦いを楽しんでいる。
「ハハハ…アッハッハッハッハぁ!」
子供離れした顔で……鬼の形相で司は笑った。
「(今だ!)」
隙が出来た途端、司は決めに掛かった。
最初は呪霊も構わずに攻撃していたが、消耗を重ねるうちに動きが鈍り、隙を晒すようになった。
一気に呪力を解放する。
呪力を足に集中させ、圧縮して解放。
ジェット機の如く加速して呪霊に跳び蹴りを繰り出した。
跳び蹴りの威力に乗せられて叩きつけられる呪力。ソレは女型呪霊を文字通り木っ端微塵に砕いた。
「さて、後一匹……そこか」
「ぎゃ!?」
司が包丁を投げる。
呪力を纏った刃物。
ソレは彼の背後の壁……否、壁に張り付いて姿を消していた呪霊に突き刺さった。
「漁夫の利でも狙ってたか? けど残念だったな。俺は呪力の気配に敏感なんだよ」
呪力を感知する。
呪術師にとっての基礎ではあるが、戦いなど何かに夢中になることで警戒を怠り、感知出来るはずなのに見逃してしまう事は多々ある。
しかし彼は今世で得た持ち前の用心深さによってソレを防いでみせた。
将来は有望な呪術師になるであろう。もしこのまま真っ当に育ってくれれば。
「きぇあああああ!!!」
奇声をあげながらその呪霊は部屋中を跳ね回る。
驚異的な跳躍力の理由は尻尾。
尾をバネのように折り曲げ、解き放つことによって飛び跳ねているのだ。
縦横無尽に動くことで敵を翻弄させ、背後を取る。
知能は無いがその戦い方を本能で理解していた。
しかし、ソレを利用された。
「そこ」
「ぐぇ……!?」
カウンター。
背後を取って襲い掛かった途端、振り向いた司の拳が顔面に突き刺さった。
無防備な状態で晒された顔面に、自身の勢いと司の呪力が衝突。
甚大なダメージを食らって呪霊は砕かれるかのように塵へと還っていった。
呪霊の動きを見極めた正体。
呪力を目に込めることで動体視力を上げたのだ。
「ま、こんなもんか」
こうして、また心霊スポットが地図の上から消えた。