少なくとも僕が国籍変更するのは決定事項な件   作:筵針

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12話 アタシと私の彼はトレーナー

 

 

 

「……で、今に至る。というわけなんだよ」

 

 目の前のコップを手に取り、水を一口飲む。

 僕はフォークインとヴェニュスパーク……パークに、それぞれの思い出を話し終えた。

 ふぅ、疲れたな。こんなに長話をしたのはいつぶりだろうか。

 

 でもこうやって改めて思い返してみると、色々な事があったなぁ。

 本当に、僕が夢を叶えてトレーナーになれたのも、二人のおかげだ。

 再会していきなり腕を引っ張られた事なんて、些事に思えてきたよ。

 

 ……うん、些事だよね。些事。

 ちょっとまだ腕がズキズキするけど。

 

 僕はもう一度手元の水を口に含んでから、二人の様子を伺った。

 

「…………」

「…………」

 

 ……二人とも何故か目を瞑ったまま、腕を組んで黙り込んでしまっていた。

 何か難しい顔してるみたいだけど……どうしたんだろう?

 

 

 ふと時計を見ると、大分時間が経っている事に気が付いた。

 二人は海外から来たんだから、多分寮住まいだろう。

 だとしたら門限もある事だし、今日のところはお開きにして、また明日改めて話がしたいところだ。

 

 と、思っていたら。

 

「ねえ、タクヤ。二つ聞きたい事があるんだけど、いいかしら」

 

 フォークインが何故かまたジト目で僕を見ていた。

 剣呑な空気が漂い始める。

 ……嫌な予感がする。脳内センサーが危機を発し始めた。

 何か返事に困りそうな質問が来そうな感じがする……。

 

「……今日はもうこんな時間だし、明日にしないかな?」

「ダメよ」

 

 奮戦虚しくダメだった。なんでしょうか。

 

「一つ目。アタシの話より、この子の話の方が倍以上に長かった気がするんだけど、気のせいかしらね?」

 

 僕の背中につーっと汗が流れる。

 ……正直、僕もパークの話が長かった自覚はある。

 でもそれは、パークの問題とかチームやモンジューとの事も含んでいたからで……。

 などと、脳内で言い訳は思いつくが、それをフォークインに言っても藪蛇になりそうな気がした。

 やましい事があるわけでもないのが、逆によくない。みたいな。

 ど、どうすれば……とにかく、誤魔化すしかないか?

 

「……気のせいだ、と、思うよ?」

「ふーん……へえー……あっ、そ。まあいいわ」

 

 僕の大分苦しい返答に、フォークインは明らかに納得していなかったが、不問に伏してくれるようだった。

 僕の背中に、また嫌な脂汗が滲み出てくる。

 

 危ない……。

 だがまだ危機は去っていない。僕の脳内センサーは反応し続けている。

 

 フォークインの背後に見える爆弾。

 その導火線には、まだ火のついたライターが添えられている。

 ……目を凝らしてよく見たら、小さいミニフォークインが、そのライターをホレホレとこれ見よがしに揺らしている幻覚が見えた。

 小さい彼女は、僕が返答を間違えれば即座に着火する気なんだろう。

 ……それだけは、断固として避けなければならない。

 

 僕は腕を組んで変わらずジト目でこちらを睨んでいる、フォークインに対して改めて身構えた。

 

「二つ目。アンタ、なんか勘違いしてない?」

「……へ?」

 

 フォークインの言葉を聞いて、僕の口から間抜けな声が漏れた。

 ……勘違い? 何の事だろう……?

 

「アタシ……と、この子との約束の事よ」

「あ、そう。それは私も思った」

 

 パークもフォークインに同調した。

 ……フォークインとパークとの約束?

 

 約束の事と言えば……二人との再会の約束の事だろうか。

 確かに僕は、二人はそれぞれの国の代表として日本にやってきて、トレーナーになった僕とジャパンカップで再会するものだと思っていた。

 しかし実際はそうではなく、二人は日本のトレセン学園の生徒としてここにいて、今こうして僕と再会している。

 

 ……なんでだ?

 というか、最初から僕も何故二人がここにいるのかが聞きたかったんだった。

 思い出話で忘れかけてたけれど。

 

 

 フォークインは溜息を吐いた。

 

「……あの時、アタシはアンタにこう言ったのよ」

 

 

『いつか必ず貴方の元に行く。その時は[アタシのトレーナーになって]』

 

 

 ……………はい?

 ……おかしいな。前半は確かに聞いた覚えがあるけれど、後半の一文には全く聞き覚えがない。

 僕が唖然としていると、フォークインが手を額に当ててまた溜息を吐いた。

 

「なんかおかしいなと思ったのよね……」

「私はこう言ったよ?」

 

 

《いつか私も日本に行くよ。そうしたら[私のトレーナーになってね]》

 

 

 ……………えぇ?

 何故だろう。そんな大事な事を僕が聞き逃していたのか? 

 僕はもう、唖然を通り越して呆然となっていた。

 

「多分だけど……私って別れ際にすごく泣いてたし、聞き取れてなかったんじゃないかな……」

「アタシもそのケースっぽいわね……」

 

 二人はちょっと気まずいのか、耳をペタンと倒して顔を赤らめながらフイと顔を逸らした。

 

 ……僕は二人に対して、とても申し訳ない気分になっていた。

 そんな大事な事を聞き漏らしていたなんて……。

 

 ま、まあとにかく、これで二人が今ここにいる理由がわかった気がする。

 

 僕が日本でトレーナーになれた事を知った二人が、約束を守る為に国許(くにもと)を離れて僕の元に来てくれた。

 というのが、二人が今ここにいる真相だったわけだ。

 

 ……僕は二人のその想いに、改めて胸が熱くなった。

 

「……ありがとう、二人とも。こんな僕の為に来てくれたなんて、本当に嬉しいよ」

 

 僕が心からのお礼を言うと、二人は目を見開いてさらに顔が赤くなっていった。

 そして、二人は赤くなった互いの顔を見合わせてから、またこちらの方を向いた。

 二人の顔には、同じ微笑みが浮かんでいた。

 

「……別に、お礼を言われるような事じゃないわ」

「……うん、お礼を言うのはこっちだよ。タクヤ」

 

 よく見ると、二人の目尻には涙が光っていた。

 ……僕の目にも、涙が滲んできた。

 

 今この時、本当に二人と再会できた気がする。

 

 僕らはそのまましばらく、三人で見つめ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの〜、お取り込み中すみません。そろそろ閉店なんですが……」

 

「「「あ、ごめんなさい……」」」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 すっかり暗くなっちゃったな。

 

 太陽もとうに沈んで、夜になったトレセン学園。

 カフェテリアから出た僕は、二人を寮へ送っていこうと寮の方角に向けて歩き出そうとした。

 

「あ、タクヤ。ちょっと待って」

 

 すると、パークに呼び止められた。

 僕は訝しみながら、パークの方を振り向く。

 

「どうかした? 忘れ物?」

「ううん、そうじゃないよ。でも……」

「……そうね、寄って行きたい場所があるわ」

 

 フォークインの方も、何か気になる事があるようだった。

 なにやら二人とも同じ事を考えているようだが。

 寄りたい場所とはどこの事だろうか?

 寮の門限もある事だし、あまり時間は掛けられないけれど……。

 

「大丈夫。こっちよ」

 

 フォークインが先頭でスタスタと歩いて行く。

 ……どこへ行く気なんだろう。

 パークもフォークインの後へ続いていく。

 僕もそんな二人の後を、早足で追っていった。

 

 

 

「ここは……」

 

 そこは二人と再会した、三女神像のある中庭広場だった。

 フォークインとパークは、並んで三女神像の前に立っている。

 二人は三女神像を見つめながら、何か考え込んでいるようだった。

 

「……ねえ、ヴェニュスパーク」

「……パークでいいよ。やっぱりフォークインも?」

 

 要領を得ないやり取り。

 一体なんの話をしているのだろう。

 なにやら、二人は二人の間でしか通じないものを感じ取っているようだった。

 ……三女神像に、何かあるんだろうか?

 僕にはいつもここに佇んでいる、三女神様の像にしか見えなかった。

 

 無言のまま、時間が流れていく。

 

 僕はふと自分の腕時計に目を向けた。

 そろそろ時間も押してきている。時刻を確認すると、早く二人を寮に帰さないと門限に間に合わない時間になってきていた。

 僕は顔を上げて、二人に帰ろうと呼びかけようとした。

 

 すると。

 

  

「「タクヤ」」

 

 

 その直前、二人が同時に僕を呼んだ。

 いつの間にか二人は三女神像に背を向けて、並んだまま僕の方に向き直っていた。

 

 その姿を見て、僕は息を飲んだ。 

 二人とも、何か神秘的な雰囲気を纏っているように見えたからだ。

 ……これは、一体……?

 

「……どうしたの?」

 

 問いかけると二人は互いに顔を見合わせた後、目を瞑って同時に深呼吸をする。

 

 そして二人は目を開くと、僕に向かって微笑んだ。

 ……惹き込まれるような、綺麗な笑みだった。

 

 

「私達は、約束を果たす為にここに来た」

「だからアタシ達は、今ここでタクヤにお願いするわ」

 

 

「アタシの」「私の」

 

 

「「トレーナーになってください」」

 

 

 

 僕はこの時、本当の意味でトレーナーになれた気がした。

 

 気が付くと、僕の目からは嬉しさでまた涙が溢れだしていた。

 

 

 

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