少なくとも僕が国籍変更するのは決定事項な件   作:筵針

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16話 輝くトラペゾヘドロン ※微ホラー?注意

 

 

 

 ―――ま、待ってくれ!?

 

 と、僕に迫る目の前の少女二人に向かって、必死に呼びかけた。

 

 二人はそれぞれ、同じ髪色をした小さな子供を抱きかかえていた。

 そして、僕の方を憤怒の視線で睨みつけている。 

 

 これはどういう事なのかしら。

 と、芦毛の子に言われる。

 

 ひどいよ……私を裏切ったの?

 と、栗毛の子に問い詰められる。

 

 そ、そんな……何かの間違いだ……。

 と、僕は狼狽しながらも言い訳を並べる。

 

 まさか、僕がこんな不義理(浮気)をするなんて。

 心当たりがまったくない。自分で自分が信じられなくなりそうだった。

 

 ジリジリと後ずさる僕に、二人はどんどん詰め寄ってくる。

 表情は俯いていてわからない。

 だが、怒りのオーラが全身から立ち昇っているのはハッキリとわかった。

 

 僕の背中は、既に脂汗でびっしょりだ。

 しかし、そんなものを気にしている余裕など全くなかった。

 

 ねえ、あなた。

 と、芦毛の子が怒りで震えながら話しかけてくる。

 

 こんな事をして、どうなるかわかってるよね?

 と、栗毛の子も恐ろしい気配を発しながら凄んでくる。

 

 僕の心はあまりの恐怖で限界だった。

 二人から少しでも離れようと後ずさり続けていると、足元からガラガラと何かが崩れる音がした。

 

 ……気が付くと、僕は断崖絶壁の崖際に追い詰められていた。

 僕の喉からヒッという声が漏れる。 

 あと5cmも下がっていたら、この崖から滑り落ちていただろう。

 

 い、いつの間にこんな崖が? さっきまではこんなものなかったのに……!?

 

 動揺した僕の視線が、崖下に吸い込まれる。

 激しい波音が聞こえてくるが、下の方は薄暗くて全く見通す事ができなかった。

 まるで、地獄に通じる穴のようだ。

  

 そんな暗い崖下に気を取られていた一瞬。

 その一瞬の間に、二人に僕との距離をほぼゼロまで詰められていた。

 

 ハッと察して、振り返った時にはもう遅かった。

 

 ―――さようなら、この浮気者。

 

 恨めしい言葉と共に、二人に身体をドンと押される。

 

 少しだけ浮遊感を感じた後、急速に崖下に落下していく僕の身体。

 絶対的な絶望の予感が、僕の脳裏を突き抜ける。

 

 ……何故? どうしてこんな事に……?

 

 そんな僕の疑問は何も意味を成さず、崖下の海へと吸い込まれていく。

 

 荒れ狂う海に叩き落とされた僕の意識は、二度と覚める事はなかった――――――

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「うわああぁぁっ!!??」

 

 ガバッとベッドから身体を起こす。

 ハッハッと息が切れ、心臓の鼓動は煩いくらいにドクドクといっている。

 僕の身体は、全身汗でずぶ濡れだった。

 

 ……ゆ、夢? 夢だったのか?

 

 息を整えながら辺りを見渡すと、そこは僕の住んでいるアパートの部屋だった。

 トレセン学園の近くにある、僕がトレーナー養成学校に通っていた時から住んでいるアパートだ。

 

 見慣れた部屋を眺めていると、段々と冷静になってきた。心臓の鼓動も平常に戻っていく。

 はぁ〜……と深い溜息が漏れた。

 

 なんてひどい悪夢だ……。

 夢は記憶の整理の過程で見るドキュメンタリーだとか、深層意識が望む光景がなんだとか聞いたことがあるが……。

 自分の脳を疑ってしまいそうだ。

 現実ではないのに、不義理をしてしまったあの二人にも本当に申し訳ない。

 

 しばらく放心していたが、ふと枕元のスマホを見るといつもの起床時間より大分早い時間だった。

 だがあんな悪夢を見た後で、もう一度寝直すなどと考える事は出来なかった。

 僕は重い体を起こして、シャワーを浴びて気持ち悪い汗を流す事にした。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 悪夢のせいで少し落ち込みながらも、トレセン学園に出勤した僕は、朝から様々な器材を資材倉庫で探していた。

 

 何故こんな事をしているかというと、僕とフォークインとパーク。三人の仮のチームルームを作る為だ。

 

 僕は新人だ。何の実績もない僕に、トレーナー室などという贅沢な専用個室が与えられるわけがない。

 しかし二人の担当を持った今、ミーティングや着替えなどをする為の場所が必要だと考えた僕は、とある一つの制度を利用する事にした。

 

 それは、トレセン学園の旧校舎にまつわる制度。

 旧校舎というだけあって、現在ではほとんどが空き部屋となっており、それらの部屋は用途を明確にして申請すれば借用する事が可能なのだ。

 過去にも僕のようなトレーナーが、仮設チームルームとして使う為の申請が受理された前例もあり、これを使わない手はないと僕は考えた。

 

 少しその辺りを詳しく調べると、いくつかの部屋は既に借用済のようだった。

 そこで僕は要らぬ隣室トラブルを避ける為にも、念の為に駿川さんにどの部屋が空いているか確認する事にした。

 

「そうですね……元家庭科室が空いています。そこでよければ」

 

 といった解答が得られた。

 信頼する駿川さんの勧めに従って、僕は早速その元家庭科室の借用申請を提出した。

 

 勧められた元家庭科室に行ってみると、隣は元理科準備室のようだった。

 

 ……扉が少し開いていたので、閉めようと取っ手に手を掛けた時に、その部屋の内情が目に入った。

 その部屋は、半分がまるで何かの研究所のようになっているのに対し、もう半分がシックな雰囲気のある喫茶スペースのようになっていた。

 

 ……何なんだろうか、このアンバランスすぎる組み合わせは。

 僕はその奇妙な光景に首を傾げながらも、半開きの扉を閉めて自分の部屋の準備を始める事にした。

 

 

 

 ホワイトボード、ロッカー、間仕切り、パイプ椅子、長机、重量棚、プラすのこ……。

 

 仮設チームルームを作るために、学園内の資材倉庫から色々と必要な物を見繕っていく。

 仮設なだけに出来るだけ最低限の量の器材にしようとは思っていたが、それでも中々の物量だ。

 一人で運ぶのは、相当な労力がかかるだろう。

 

 だが、これも全ては二人の未来の為だ。

 このくらいの肉体労働なんて、何のことはない。

 

 そう気合を入れ直し、いざ作業に取り掛かろうとした。

 その寸前、後ろから声を掛けられた。

 

「その量を一人で運ぶのは大変だろう。手伝ってあげるよ」

 

 若い男性の声。

 聞き覚えのない声だったが、職員の誰かが気を使ってくれたんだろうか。 

 自分の仕事に手を煩わせるのも悪いと思った僕は、遠慮しようとその男性に振り返る。

  

「ああそんな、悪いで…………す……」

 

 声の主に振り返った僕は、途中から言葉を失った。

 ……その人物の身体が、何故か光り輝いていたからだ。

 

 雰囲気が〜とか、オーラが〜とかではない。

 物理的に身体が発光していたのだ。

 僕は自分の目を疑った。

 朝の悪夢のせいで、僕の脳がイカれたんじゃないのかとも考えた。

 だが何度目を擦って凝らして見ても、その人がピカーと光っているのは変わらなかった。

 

 ……僕の中で、何か正気を保つ為に必要なもの(SAN)がゴリッと削れた気がした。

 

 その後何とか気を取り直して、互いに自己紹介をし合う。

 輝く謎の人物の正体は、なんと僕の先輩にあたるトレーナーだった。

 

 先輩はその名状し難い見た目に反して、僕にとても親切にしてくれた。

 最初は遠慮するつもりだったが、その姿に意表を突かれた僕の気が動転している間に、いいからいいからとなし崩し的に手伝ってもらう事になってしまった。

 不思議な優しい先輩に僕は感謝と申し訳なさを感じつつも、二人掛かりで重い器材を仮設チームルームへとどんどん運び入れていく。

 

 途中、僕達の運搬風景を多くの人に見られたが、何故か誰も先輩が発光しているのを気にしていないようだった。

 まるでそれがいつもの光景だと言わんばかりの異様な雰囲気だ。

 むしろ、ここ最近担当の二人(フォークインとパーク)が騒ぎを起こしている僕の方が注目されている有り様だった。

 

 僕がおかしいんだろうか?

 フォークインとパークが三女神像から何か感じていた事といい、このトレセン学園には謎が多い。

 また何か僕の中から、大事な何か(SAN)がゴリゴリ削れた感覚がした。

 

 

 二人で長机を運んでいる最中。

 これを聞いていいかどうか非常に迷ったが、あまりにも気になったので恐る恐る聞いてみる。

 

「……先輩。先輩は何故光ってるんですか?」

「ああ、これかい? なんでも、偉大な者に仕えている者は輝いて見えるものなんだそうだよ」

「…………そうですか」

 

 ……光って見える理由じゃなくて、その光る原因が知りたかったんだけどな。

 だが、考えても分かりそうもない。

 僕はもう気にしないように、必死に努める事にした。

 

 

 えっさほいさと二人で1、2時間程掛けて器材を元家庭科室に運び込み設営すると、仮設ながらもそれらしい形のチームルームが完成した。

 

 ふう〜と一汗拭い、運搬だけじゃなくて設営まで手伝ってくれた先輩に、感謝を伝えようと振り向いた。

 

 ……先輩の光は、レインボー色に変化していた。

 

 なんだろう。疲労によって体内の彩色反応とかが変わったりするのか?

 あまりにも通常の人体の構造から逸脱している先輩に戦慄しつつも、感謝の礼を述べる。

 

「せ、先輩、ありがとうございました。このご恩はいつか返させていただきます」

「いいよいいよ、気にしないで。困った時はお互い様だからね」

 

 先輩の七色の光が、輝きを増しているように見える。

 僕には優しい先輩に指す後光が加わって、ますます眩しい存在になっているように感じた。

 

 ……というよりも、実際に輝度が上がっていて本当に眩しい。

 まともに目を開けていられない位になってきている。

 あまりの冒涜的な眩しさに、先輩の事を細目じゃないと直視できない程だった。

 

「じゃあ私はこれで。頑張ってね新人君。君があの二人をどう導いていくのか、私も期待して見ているよ」

「は、はい!先輩、どうもありがとうございました!」

 

 僕は光輝く優しい先輩に、もう一度最大限の礼をした。

 先輩は微笑みながら、颯爽と仮設チームルームから去っていく。

 

 ……僕は先輩が完全に部屋から去るまで、感謝と眩しさの二重の意味で頭を上げられなかった。

 

 

 

 これは余談になるが。

 先輩と出会った後の数日間。

 僕はしきりに窓の外を気にする(一時的発狂)ようになった。

 何故かは僕にも理解らないままだった。

 

 

 

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