仲間に裏切られて殺された元勇者のTSゾンビ姫、四天王の吸血鬼に溺愛されて魔族の世界で愛され姫君になる 作:たんがん
「――――あぁっ!! す、スマンだよ!! オラん顔、この城でまだ知らんヤツがおると思わんかっただ‼︎」
「…………へ?」
前方から突然聞こえてきた訛りの強くて明るい声に、腰を抜かした体勢のままルウは面食らった。
「ほ、ホレ、これで大丈夫だべ? 怖ぇ顔、もう見えねぇだよー」
訛った声と共にカポ、と髑髏の兵士は兜を逆に被り直した。
人間の兵士だったら当然何も見えなくなる、間抜けな格好だ。だが、骸骨である彼は大丈夫だったりするのだろうか。
「どうもすまんべー、戦場帰りで気ぃ抜けちまって……ほれ、立てるべか?」
「あ、あの、ボクは、そっちじゃないです……」
まるっきり見当違いの方に出される骨だけの手を見れば、彼が何も見えてないことは明らかだった。
「か、兜、もう戻して大丈夫、です……あなたはスケルトンさん、ですよね……アンデッドの魔族の一種の……」
「おぉ? もういいべか? おめぇさん、慣れるの早ぇべなぁ……オラのダチでも結構慣れるまで時間かかったヤツおんのに……」
兵士が兜を元に戻す様子を見届けながら、ルウは息を整えて立ち上がった。
髑髏の兵士――――スケルトンの素顔が顕になるが、ルウに先ほどのような恐怖はもうない。正体さえ分かってしまえば、昔読んだ本の絵姿で何度も見たような顔の一つでしかなかった。
じゃらり、と彼(……?)の首元で揺れるアクセサリーには、まだ視線をやる勇気はないが。
「ん、あぁ……コレ、オモチャだぁよ。戦場に行く時はいつも着けてるんだけんど……すまねぇすまねぇ、もうしまっとくべー」
「あ、オモチャなんですか……」
ルウの様子を見て視線をやらないようにしているのに気づいたのか、スケルトンは気を遣ってアクセサリーを首から外してくれた。
玩具と分かっても怖いものは怖かったので、首元のそれが鎧の中にしまわれる様子を見てルウはほっと息を吐いた。
「そういや、名乗るのが遅れたべなー。おらぁ、ケイヴっていうもんだよ。おめぇさんは?」
「あ、え、えっと……る、ルウ、です……」
咄嗟に、メーチェにも名乗った名前を名乗る。シュタインやメーチェ、エルドラドにそう呼ばれている内に、最近はこの名前が自分のを指すものだとだいぶ思えるようになっていた。
「ほんで、ルウさん。おめぇさん、どないしてこんなとこおったんだべ?」
「え……あ、その、それは……」
その質問に、ルウは返事をすることができなかった。
今のやり取りから、このスケルトンの兵士――ケイヴは、自分の事情を知らない、エルドラド達から何も聞いてないことは明らかだ。
だとすれば、自分のことはどこまで話していいのだろうか。
勇者であったことは論外として、元男である辺りもシュタインには止められていたから怪しい。
しかし、そうなると――話せることなど、自分にはない。勇者ではない自分には、何もないのだ。
それならばその場しのぎの嘘をつけば良いだけの話であるのだが、人の言うことに従って生きてきたルウは嘘をついた経験はほとんどなく、気の利いた嘘など何も出てこない。
嘘も、真実も、何もない。今の自分は、ひどく空っぽだ……
「え、っと…………」
「ん〜〜? …………おぉ、そっかそっか〜」
一向に返事がないことを不審に思ったのだろう。ケイヴが首を傾げながらルウの事を見つめていたが、やがてポンと骨の手を叩いた。
「そのめかし込んだ服装……ルウさん、もしかしてあれだか? リズ様の知り合いだべか?」
「え? えっと……」
「そっかそっか、あの
返事に迷っていると、何やら勝手に納得がいったらしいケイヴがうんうんと頷いている。
彼の中では何らかの答えが出たようだが、ルウとしては『リズ』という
「よっし、そうと分かれば話は早ぇ!! おらが案内するだよ、こっちだべ!!」
「えっ……!? ちょ、ちょっと……!?」
カシャンと骨の鳴る音がして、ルウの腕が骨の手に引っ張られる。ルウが止める間もなく、彼女を引っ張ったまま、ケイヴはずんずんと廊下の奥へと歩き出し始めてしまっていた。
「そろそろ始まっちまうから、早く行かねぇと席なくなっちまうかもしんねぇもんなー。いやー、ルウさんのこと、始まる前に見つけられて良かっただよ」
「ちょ、ちょっと、待ってください!! 始まるって、何が……!?」
「んー? ありゃ、具体的な内容まで知らなかっただか?」
内容どころかどこへ連れて行かれるかも分からずに戸惑うルウの質問に、歩を進めたまま振り返らずにケイヴが答えた。
「今日は、エルドラド様が開催してくださった朗読会。リズ様が本を読んでくださるってんで、城のみんなも興味津々な一大イベントだぁよ」