仲間に裏切られて殺された元勇者のTSゾンビ姫、四天王の吸血鬼に溺愛されて魔族の世界で愛され姫君になる 作:たんがん
(よかった……最後まで、できた……)
舞台の上で喝采を浴びながら、ルウは自分が一仕事を終えられたことに、内心で安堵していた。
最後まで読み切るぐらいなら、出来るだろうとは思った。
王命で、騎士団の人間達が集う拠点で激励の言葉を台本通りに読み上げたり、貴族の方々に挨拶を交わしたり、大勢の人間の前で話す経験が勇者時代にも何度かあったからだ。
魔族に囲まれるのも戦場で何度も経験したことだから、その時に比べればプレッシャーは少ないと思っていた。
やってみたら思った以上に手応えがあって、読んでいる時は久しぶりにこの本に触れられたことも、観客が自分の言葉に真剣に耳を傾けてくれているのも嬉しくて、途中からは他のことを忘れて夢中になって読めていたと思う。
ただ、夢中になっていたというのは、何も良いことばかりではなかった。
――ガッ。
(あ、れ……?)
お辞儀をした直後。プレッシャーから解放されたと思った一瞬、自分が座るべきなのか立つべきなのか、判断が遅れた。
あ、と思った頃には足がもつれて、体がバランスを失っていた。
どうにか手を伸ばしても、舞台の上には支えになるようなものは何もなく。
ぐらりと体が傾いて、視界が城の天井を向いて。
リズさんに続いてボクまで倒れたら、みんなを心配させちゃうかな。
やがて自分の体に訪れる痛みのことなどまるで無視したかのような感想を浮かべて、ルウは自分の体が地面に倒れるのを目を瞑って待つ……
(――――っ。…………………?)
しかし。
想定していた痛みは、いつまで経ってもこなかった。
代わりに感じるのは、自分の代わりに体を支えてくれる、暖かい熱の感触。
おそるおそる、目を開ける。
「――――ありがとう。良く、やってくれた」
「あ――――」
――銀の髪に、どんな宝石よりも綺麗な赤色を放つ瞳。エルドラドの顔が、目の前にあった。
彼が抱き止めてくれたのだ、とルウは理解する……と同時に、頬に熱が集まるのを感じた。
(な、なんで、だろう……ボク、男なのに……)
その理由はわからない。わからないが、ルウは今の自分の姿を見られるのは恥ずかしいと感じる気持ちを誤魔化すかのように、口を開く。
「あ、あの……ぼ、ボク……」
「……話は後だ。今は……この騒ぎを、どうにかするのが先だ」
「騒ぎ……?」
――――ワッ。
眼前のエルドラドでいっぱいになっていた意識が現実に引き戻ると、観客席がやたらに賑やかになっていることに気づく。
それは歓声、というには、いくらか毛色が違うようにルウには聞こえるが、具体的には分からない。内容を聞いてみようと、ルウは耳をそばだててみる……
「おいおーい、エルドラド様なんだよー、女囲ってたの隠してたのかー?」
「なー、オイラ達にも紹介してくれよー。一人で遊ぶなんてズルいぞー」
「リズさんの関係者か? 話聞かせて欲しいなぁ……」
それらは自分に向けられる好奇心、興味の視線だった。
もっと詳しく言うならばそれは、ルウが人生で味わったことのない、味わうはずもないもの……男が女に向ける視線。
ルウはそれを言葉にできるわけではなかったが、なんとなく勇者時代に向けられたような畏敬や好意、そのどれらとも違うの類のものだと感じた。
――――それらが、決して愉快な気持ちになるものではないということも、肌で強く。
「チッ……やはりこうなったか。――――ルウ?」
「…………っ」
ぎゅっ、と。無意識にルウは、エルドラドの黒いコートの裾を握っていた。
その時の感情を、ルウは説明できない。恐怖よりは戸惑いの方が大きいような気はするが、身体は震えていたような気もする。
ただ、その時。手を伸ばしたいと思ったのは、得体の知れない観客席ではなく、エルの身体だった。
「――――。」
一瞬、こちらを見たエルドラドは驚きを顔に滲ませたような気がしたが、すぐに観客席に向き直ってしまった。
だけれども、表情をあまり見せないエルドラドの凛々しい横顔は、今のルウにはとても頼もしく見えて。
「皆、聞けっ…………!! 今宵の朗読会は、これで終いとする!! まずは日頃の任務の最中にこのような催しに集まってくれたこと、城の主として感謝する!!」
建前のような言葉を舞台の上から放つエルドラドに、一瞬の静寂。
しかし、そのすぐ後にやってくるのは、先ほどにも比肩するほどの観客席からの声、声。
「なんだよー、エルドラド様、そんないいとこの娘さんを今まで隠してたのかー!?」
「俺達にも楽しませろよー!! ずっと人類の魔の手から領土を守ってるんだからよー!!」
「そうだそうだー!! 俺達にも紹介しろー!!」
エルドラドに対するひがみと、ルウに対する興味。
溢れんばかりになったそれらに対し——冷や水を浴びせるように、エルドラドは告げる。
「そうだな、お前達にも紹介しよう————
この娘の名はルウ。いずれ我が妻とするため、俺がこの城に迎え入れた者だ」
――――しん、と静まり返る観客席。
信じられない者を見るような目が、兵士達からエルドラドに向かって突き刺さる。
一方、ルウはと言えば。
(え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)
あまりの驚きで、声を出すことも忘れて口をパクパクとさせるのが精一杯であった。