仲間に裏切られて殺された元勇者のTSゾンビ姫、四天王の吸血鬼に溺愛されて魔族の世界で愛され姫君になる   作:たんがん

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第6話 リハビリ生活の始まり

 それから数日間に及ぶことになる、ルウのリハビリ生活の一日目が始まった。

 ……といっても基本はルーチンワークなので、新しいことは一切ない。

 ルウが目覚めた部屋、寝室と思しき部屋をそのままリハビリ用の空間として使わせてもらうことになったので、しばらくは本当に生活に変化がなくなることになるだろう。とはいえ彼女は現状、歩くことすらままならない有様なので、部屋を借りさせてもらっていることに感謝こそすれ、恨むことなどない。

 

「は〜い、いきますよ〜。いっち、に〜」

「いち、にい……」

 

 メーチェはずっと、ルウのリハビリに付き合ってくれた。身体を起こすのを手伝ってくれたり、歩く際の支えになってくれたり。腕を伸ばしたり曲げたりと、身体のストレッチの介助までしてくれて、まさに至れり尽くせりと言わんばかりの待遇だ。

 満足に動けないとはいえ、ここまでの厚遇をしてもらうことは、ありがたいとは思うものの申し訳なさもルウは感じてしまう。

 

「は〜いルウ様、あ〜ん、ですよ〜」

「は、はい……あーん……」

 

 特に、こんな子供相手に取るかのような介護をされてしまうのは、申し訳なさと気恥ずかしさで顔から火が出そうだ。

 リハビリを続けている内に窓から差し込む日が赤く染まりつつなっていることに気づき、そろそろ夕食時だろうかという時にメーチェが持ってきた、パンとスープ。彼女はそれをベッド脇のデスクに置くと、パンを千切ってルウの口に運んできたのだ。

 一人で食べようとして不意に腕から力が抜ければ、食器を落としたり皿を割ったりするかもしれない。だから食べさせてあげるというその理屈はわかるが、理屈が分かっても感情が追いつくかはまた別の話。それでも理屈は理解できる以上、ルウとしてはこの待遇に甘んじる他になかった。

 

「もぐもぐ……お、美味しい、です……」

「お口にあったようで、何よりです〜。腕によりをかけてますからね〜」

「め、メーチェさんが、作ってくれたんですね……ありがとう、ございます……」

 

 ペコリ、と。頭を下げるルウに対して、メーチェはいえいえ〜、とあくまで謙虚に礼を受け取る。

 彼女からすれば割り振られた仕事だから当然のことなのかもしれないが、それでもルウからすれば見ず知らずの相手に半日近くずっと付き合ってくれたというのは、頭を下げるぐらいでなければ申し訳が立たなかった。

 

「そ、そういえば。ボクたちゾンビもご飯、普通に食べられるんですね……」

「えぇ〜、そうですよ〜。私達アンデッドの肉体には、『なるべく生前の肉体の動きを再現しようとする』性質があるみたいでぇ〜。だから……ほらっ〜」

 

 ふとルウが気になったことを聞いてみると、何故かメーチェに腕を掴まれて。

 

「ぁえっ、ななっ……!?」

 

 給仕服の上から彼女の胸元――――給仕服の上からでも分かる豊満な膨らみに、細くなったルウの手が思いっきり押しつけられた。

 ぐにぃ、と柔らかくて吸い付くような感覚に、ルウは顔から煙が出るんじゃないかと思うぐらい真っ赤になった。

見た目こそ淑女だが、ルウの中身はまだ幼さの残る少年である。自分の身体を調べるのすら躊躇するほどには女性経験など皆無なのだ、当然のように心臓の跳ね方も尋常ではない。

 

 とはいえ、結果として”心臓を跳ねさせた”ことで、突然そんな行動を取り出したメーチェの意図にも気づくことができたのだが。

 

「ぁ…………」

 

 トクン……トクン……

 

 触れた腕を通じて、確かに伝わってくる振動――――鼓動の感覚。

 当たり前のようでいて、そうではない。自分たちは、死人なのだから。

 

「このように〜、身体の中では心臓も動いてるんです〜。身体の中の魔力で生前の動きを再現しただけの、見せかけって話ですけどね〜。体温も感じますでしょ〜?」

 

 言われてみて気づいたが、衣服越しとはいえ彼女の身体は、ほのかに熱を帯びていた。

 そうだ、自分も思ったばかりではないか……ゾンビでも体温や鼓動はなくならないのだな、と。

 その情報は、ゾンビは腐った死体だとか人の形をしているだけの恐ろしい存在だとか、ルウの中にある常識ともあまりに異なっていた。

 

「だから、私達アンデッドの生活習慣は生前の、他の魔族と比べてもそんなに変わらないものになってるんです〜。この辺、詳しいことはシュタイン君が詳しく知ってますから、後で聞いてみてもいいかもですね〜」

「は、はい……そうして、みます……」

 

 勧められたからではなく本心から、ルウは首を縦に振る。

 本を読んで知っただけの自分の中の知識と、実際の魔族の違い。こうしてその違いを知ることができたのが、面白いとルウには思えたのだ。

 機会があるかは分からないが、シュタインと会話ができる機会があったら聞いてみたいな、と心から思う。

 

「それにしてもルウ様、胸を触ったぐらいでずいぶん可愛らしい反応をなさるんですね〜。女同士なんですから、そんなに気にしなくて大丈夫ですよ〜」

「あ、えっと……ハイ……」

 

 くすくすと笑うメーチェの顔が、ルウはまともに見られなかった。体温を上げる機能をしっかりと再現されている肉体が、赤くなりそうなほど頬に熱を集めてしまっているのが自分でも分かる。どうやら、元男というところもまだ知らせてはいなかったらしい。

 

 正直に自分は元男ですと告白した方が、いいのだろうか。でも、エル様とシュタイン君は、その事を隠してボクを紹介してたみたいだし……

 

 ルウが事実を言うべきか言わざるべきか、内心で逡巡していると。

 

「それに、この後は一緒にお風呂に入るんですから〜。こんな事で赤くなってたら、後でもっと大変ですよ〜」

「………………………」

 

 さっきまでは赤くなっていたであろう顔から、今度は血の気が引いていく(見た目にはほぼ違いはない)のを感じた。

 とはいえ少し考えてみれば、食事さえも介助が必要だった以上、これも必然の理屈だ。

 風呂場で倒れるなど、食事よりもよっぽど大きな事故に繋がりかねない。だから、『不意に力が抜ける』今の状態がどれだけ続くかは分からないが、完全に治るまでは毎日メーチェに同伴してもらうことになるのだろう。

 

 理屈は、分かる。痛いほどに分かるのだが。

 

「………………あの。濡れたタオルを用意してもらう、訳には」

「そんなんじゃダメですよ〜? 身体の中を流れる魔力は、清潔感まで保証してくれる訳じゃないんですから〜。ルウ様は、腐った死体になりたいのですか〜?」

「……はい」

 

 笑顔ではあるが、言葉からは有無を言わせない”圧”を感じさせるメーチェ。それを断るのは、今まで他人からの依頼や頼み事を断ったことが全くないルウには土台無理な話であり。

 

 ――――――ひゃっ!? ちょ、ちょっと、そこは、その……

 

 ――――――――――ダメですよー、ここも洗わないと汚れたまっちゃうんですからー。特にルウ様は、大きいですし……

 

 ――――――で、でも、ボクは……ひゃぁぁぁぁっ!?

 

 ……当人の名誉のために、詳細は割愛するが。この後に風呂場で起きた出来事によって、ルウが自身の身体はもう『女』のものなのだと、強く実感させられたという。

 




今作のゾンビは腐った死体のような恐ろしい存在というより、『死を経験した者達』という扱いを強めに描いております。
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