仲間に裏切られて殺された元勇者のTSゾンビ姫、四天王の吸血鬼に溺愛されて魔族の世界で愛され姫君になる 作:たんがん
「あの……メーチェさんに、ボクが男だって言っていい……?」
「ん? ……あー、お前、男だったのか? へー、そりゃ知らんかった」
「興味、なさそうだね……」
「ま、実際ねーからな」
メーチェとの波乱万丈の入浴を終え、彼女が「私は別の家事もありますので、一旦失礼しますね〜」と去っていった直後。
身体のメンテナンスをする、と言ってメーチェと入れ替わりに入ってきたシュタインに、ルウは思い切って話を切り出す。
これからすんのは触診だかんな、とぺたぺたとルウの身体をトカゲの手で触りながら、シュタインは目元から視線を上げないまま答えてくれた。
「あー、それで、ボク男ですって言いたいってか? やめとけやめとけ。説明がめんどくせーことになっから」
「んっ……!!せ、説明……?」
シュタインの手が胸元――――これ以上の言及は正直したくない――――に触れ、思わず甲高い声を出してしまいながら、ルウはシュタインの言葉を聞き返す。
「基本的に、ゾンビが生前と死後で性別が変わることはないからな。その辺の説明がひつようになると、結構なげーんだよ」
「……? でも、ボクは、こうして女の人の姿で蘇って……」
お前個人の事情だけでもだいぶ込み入ってそうだからな、と頭を掻くシュタインに、ルウは首を傾げる。
「だからお前は、厳密な意味では
それもボク様の最高傑作だ、とシュタインは口を三日月の形に歪めて笑った。シュタインはどうも、この
「あぁ、そもそもフレッシュゴーレムから説明が必要か? 魔族の中じゃだいぶマイナーな方だからな、まぁそれもしょうがねー……」
「……うぅん、大丈夫。ゴーレムの一種で、『人間の肉体』を素材にして作られたもの……だ、よね?」
「…………へぇ?」
ルウが記憶から引っ張り出した情報を口にすると、一瞬目を見開いたシュタインが感嘆の意を込めたような声をあげた。
どうやら、ルウの考えは間違いではなかったらしい。止められることはなかったので、ルウは自分の推測を続ける。
「だ、だったら……ボクが女になったのは、ボクの死体をゾンビに改造したんじゃなくて。元々シュタイン君が作ってた、女性型のゴーレムの一つに、ボクの魂を移した状態だから……で合ってる、かな? ボクにかけた魔術のこと、『魂転移』って言ってたし……」
「…………お前、今の説明でそこまで理解したのか。へぇ……やるじゃん!!」
「わっ……!?」
バチン、と背中を叩かれて、ルウは驚いた。あんまり力は強くなかったので痛みはなかったけど、咄嗟のことだったから結構ビックリする。
「いやー、お前は元ニンゲンだし元勇者って話だったから、魔族のことなんぞ興味ないかと思ってたぞ!! ニンゲンの割に随分調べてるじゃんか、ボク様も阿呆に一から十まで全部説明すんのはかったりーから嬉しいぞオイ!!」
バシバシとルウの背中を叩きながら、シュタインはこれまでで最高に機嫌の良いことが分かる満面の笑みを浮かべた。子供が新しいおもちゃを見つけたような、はしゃいでいる事が伝わってくる声音だ。
「う、うん……ボク、魔族のこと、好きで……元々、いろいろ勉強してた、から。体質とか、わからない部分はまだ多いけど……」
貴族時代、暇を見つけては書庫に入り浸り、魔族に関する文献を漁っていたことをルウは思い出す。
家族が見るだけで顔をしかめそうな魔族に関する物語や魔族の生態を集めた図鑑を眺める時間が、外に出て遊ぶよりも好きな子供だった。
魔族は敵だし、人間より野蛮な生き物なのだから、共存など不可能。
人間の世界ではそう言われることが当たり前だったから、自分のような考えが稀有なのは良く分かっている。自分が家族から疎まれる存在だったのは、魔族を好きだと公言していたからというのは間違いなく一因だったのだろう、と今振り返ってみるとルウにも分かった。
「ま、分かってんなら話は
「…………っ」
楽しそうな声音のまま、倫理や道徳をまるで感じられないことをシュタインは言う。
ルウは、思わず唇を噛む。フレッシュゴーレムという種族を聞いた時点で予想はできていた事だが、それでも事実として言葉にされると動揺を隠せなかった。
「特にお前のは、ニンゲンの臓器の一個一個まで再現した、特別製の自信作でな……なんだ? ボク様のこと、軽蔑でもしたかよ?」
「い、いや!! そんな、つもりは……!!」
楽しげに話すシュタインが、急に口数が少なくなったルウの様子に気がついて訝しんだ声を出す。
怒られるかもしれない、と感じたルウは、咄嗟に否定を返した。
「ぼ、ボクは、君がそうやって、ゴーレムを作ってくれたおかげで。こうやって蘇ることが、できたから……それを咎めたり、しない。できない、よ……」
「……ふーん? ま、お前が許そうが許さまいが、ボク様はどーでもいいけどなー」
一応はルウの言葉に納得したらしく、シュタインはそれ以上食いついてはこなかった。
ほっ……と、ルウは胸を撫で下ろす。
自分が告げた言葉に嘘はないが、言ってないこともあったから。
(ごめん、なさい……あなたたちが死ぬ前に、魔王を倒せなくて……戦いを、終わらせられなくて……)
自分の肉体に『なってくれた』人間が、既に死んでいるという事実。それも、戦場で————すなわち、魔族との戦いの中で。
名前も知らないその人たちを悼んで、内心でルウは彼女たちに手を合わせた。
「……っと、話が逸れたな。何の話だったか、あぁ……お前が厳密にはフレッシュゴーレムだ、って話か」
幸か不幸かシュタインはルウの内心に気がつくことなく話を続け出したので、ルウは内心の黙祷もそこそこにシュタインの話に耳を傾けた。
「んで、お前がフレッシュゴーレムだと、何が問題かってーと。基本的にフレッシュゴーレムを含めたゴーレムってのは、誰かに操作されることを前提とした作りのもんだ。お前みたいに人形そのものが意思を持つ例は、文献の中にあるかないかってところなんだよ」
「……もしかして、『魂転移』の術も、そのレベルの術ってこと?」
「あぁ、そうだな。文献でしか見たことない、何もかもぶっつけ本番だった……つまり、それを成功できたのも、ボク様が天才だからってことだけどな!!」
シュタインは楽しそうに語るが、ルウからすればゾッとする話だった。自分がこうして蘇ることができたのは、本当に運が良かったということなのだろう。
「で、まとめるとだ。お前は存在自体が魔族として特例中の超特例。だからメーチェみたいに特に魔族に詳しくもない奴に話しても、キョトンとされるだけでかえって混乱されると思うぜー。そんだけならいいけど、変に訝しがられたり……」
「……下手したら、元勇者ってところを、説明しなきゃいけなくなるかもしれない。そういう、こと?」
「正解。お前は本当に話が早くて助かるな」
だから面倒ってことだ、とシュタインが締めくくると、ルウも納得することができた。
元勇者というところにまで行き着くというのは極端な例えだったが、それでも変に勘繰られたり奇異の目で見られたりすることはルウの本意ではない。例えばメーチェに不審な者を見る目、奇異と困惑が色濃く感じられる表情で見られることを想像したら……それだけでルウは、元男という事情を話す気にはもうなれなくなった。
「ほいっと、触診終わりー。んー、喉はだいぶ安定してきたけど腰回りと右腕辺りの魔力の巡りがよえーなー……あと何日かはリハビリ続ける必要がありそうだぞこりゃ」
「あ、う、うん……ありが、とう……」
シュタインはルウの身体に触れ続けていた手を離す。どうやら、話し続けている間にも、触診というやつを終わらせてくれていたらしい。
ペコリ、とお辞儀をするルウに、今度はシュタインの方から質問を投げかけてきた。
「つーかお前、急に敬語使わなくなったのはなんでだ?」
「え、えっと……シュタイン君、実家にいた弟、みたいで……つい……」
「……言っとくがボク様、お前より年上だかんな? 魔族はニンゲンほど年齢が見た目に出ねーんだよ」
じとーっ、と不満そうな目で見つめてくるシュタインに、ルウは慌てて頭を下げた。
「ご、ごめん、なさいっ!! 気をつけ、ます……」
「……ま、固苦しいのは面倒だし、別にいーけどよ。その代わりボク様も、お前は呼び捨てにすっからな、ルウ」
「……っ!! あ、ありが、とう……シュタイン、君」
ふんっ、と鼻息を鳴らすシュタインだったが、拒絶するような冷たさは感じられなかった。
機嫌を損ねた訳ではなかったようで、ルウは安堵の溜め息をつく。
「さて、ボク様は明日も様子見には来るつもりだけど……さっき、分かんないことは教えてやるって言っちまったしな。エルドラドの奴は自分の仕事あっから、頻繁には来れねーだろうし……」
しょうがねー、とぼやきながら、シュタインは座る姿勢を整えた。
「なんか、質問とかあるなら今のうちに聞いておいてくれれば答えてやるよ。なきゃボク様は、さっさと自分の部屋戻っかんな」
どうも彼は、根っこの部分には面倒見の良さがあるらしい。ルウは彼の優しさに感謝して、一番気になることを尋ねるのだった。