燃え残った男は澄み渡る青空の下で何を成す   作:マスターBT

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本当は短編一話だけの筈だっのに、皆さんが私にコーラル(感想)を叩きつけてくるので、再び脳をコーラルに浸しました。


お前達は何を考え、どう生きる

「お前達を預かる事になったハンドラー・ウォルターだ。ハンドラーでも、ウォルターでも好きな様に呼べ」

 

 あの後、マダムの自室から訓練場として私達、『アリウススクワッド』が使っているアリウス領内の端にある運動場に移動してから、彼の自己紹介が始まった。

 黒に赤いラインの入ったコートを肩掛けに羽織りながら、足が悪いのか杖を突くその男に対して、初めて抱いた印象は『恐怖』だった。

 ヘイローを有しておらず、身に纏っている物も至って普通で、私達が撃つ銃弾を到底防げるものではない筈なのに、この場で最もか弱い筈のその男の何処までも歳を感じさせない凛々しい立ち姿から、発せられる空気だけで私達、全員は身動ぎの一つすら出来なかった。

 

「……ベアトリーチェから一通り名前は聞いているが、お前達の言葉で自己紹介をしろ……確か、お前がリーダーだったな」

 

 向けられる圧力はそのままに、むしろ私一人に向けられた事でより強くなった風に感じられ、震えそうになる体を必死に押さえ、皆を守る為に一歩前にハンドラーへと近づいた私を、誰か褒めて欲しい。

 

「錠前サオリだ……アリウススクワッドのリーダーをしている」

 

「そうか。お前の部隊はお前を筆頭に、ベアトリーチェに従順ではない様だな。何故だ?」

 

「それは……」

 

 まさか、会話が発生するとは思っていなかった私はすぐに返事が出来ず、言い淀んでしまい、それがより焦りを加速させた。

 何故なら此処、アリウスでは、私達子供は大人に都合の良い道具であって、即座に疑問に答えられない不出来な道具には罰が与えられ、それがその時、周囲にいた者達にも連帯責任として波及してしまう……私だけが罰を受けるのなら構いはしない……けど、皆だけは……

 

「錠前。体調が悪いのか?息が浅くなっているぞ。無理はするな」

 

「──え?」

 

 だからこそ、ハンドラーの口から放たれたぶっきらぼうだけど、アリウスでは一度も聞いたことがない言葉に思わず、ポカンっとしてしまった。

 それは他の皆も同じ様で、皆、私と同じ様な表情でハンドラーを見ていたのを今でも覚えている。

 そんな私達の表情と、視線の意味を理解したのかハンドラーは、皺のある顔に更に不機嫌そうな皺を加えると、軽く周囲を見渡してから声を抑えて話した。

 

「俺はお前達を使い潰すつもりなど毛頭ない。非効率すぎる」

 

 彼がそう言うと、発していた圧力が何処かへ消えていく。

 

「……お前達に撃たれれば俺は死ぬ。だから、気合を入れていたがどうやら逆効果の様だな。錠前、落ち着いたら俺の質問に答えて貰う。次は……そうだな、お前、自己紹介をしろ」

 

「……戒野ミサキ」

 

 彼から向けられた優しさに対する困惑で何も言えなくなっていた私を体調不良だと判断したのか、ハンドラーは次にその視線を私の隣に立つミサキに向ける。警戒心の強い彼女は仲良くしようという気が微塵も感じられない声色で名前だけを告げたが、彼に気を悪くした素振りは一切見えず、ミサキの頭のてっぺんから足先まで見る。

 

「変態なの?ジロジロ見ないで」

 

「その傷は自傷か」

 

「……だったら、なに?」

 

「一度生まれたものはそう簡単には死なない、俺はこの言葉を警句として掲げていたが長生きはするものだな。俺はこの目で見届けた、全てを失った者がそれでも生きる事を選択し、友人を得る結末を……戒野、死にたくなれば俺のところに来い。調整しよう」

 

 そう語るハンドラーの言葉には、確固たる実感が込められておりまた何処までも穏やかな表情を浮かべる彼に、さすがのミサキも言い返す言葉を失ったのか何かを言おうとして、口を開き掠れた様な声で「……意味わかんない」と発するのがやっとだった。

 

「いつか分かる時が来る。次、お前だ」

 

「……聞こえてるし」

 

「つ、槌永ヒヨリです……えへへ……訓練は辛いですよね……苦しいですよね……ですが、それも人生……」

 

「……卑屈だな槌永。訓練は辛くなければ意味がないからキツくはなるだろうが、要望があれば伝えてくれ。俺の方で適宜、判断しよう」

 

「く、訓練漬けにならないって事ですか!?そ、そんな……これからどれだけ苦しい時間を送るんでしょうか……」

 

 ヒヨリの悪い癖に思いっきりハンドラーは困惑している様で、困った様に私やミサキを見た後に、もう一度ヒヨリを見て沈黙の時間が流れた。かと思えば、スッと視線が逸らされたのには、思わず笑いそうになってしまった。

 

「次はお前だ」

 

「あれ!?私にはこうなんか、良い感じのお言葉とかないんですか!?……残酷ですね……辛いですね……」

 

「……後で何か買ってやる。今はそれで下がってくれ槌永」

 

「……」

 

 このままだとハンドラーとヒヨリの会話に入れないと思ったのか、姫が一歩前に出て手話で自己紹介を行うと、ハンドラーは鬼気迫る表情を浮かべて姫に近づき、喉あたりを触り始めた……これは何をしているのだろうか?

 

「……?」

 

「不可能という訳ではなく、禁止されているのか……ベアトリーチェの奴、一体何を考えている」

 

「……」

 

「必要不可欠の存在だから、失わない様にだと?……そうか、秤。俺や彼女達の前では好きに喋ると良い、刺激は大切だ」

 

 そう言って姫と誰かを重ねているのかハンドラーは、優しい手付きで姫の頭を撫でてから私を見る。

 

「落ち着いたか、錠前」

 

「あ、あぁ……大丈夫だハンドラー」

 

「では聞かせてくれ。何故、お前達はベアトリーチェに反抗的なのかを……まぁ、粗方予想は出来るがな」

 

 じっと私達を見るハンドラー。

 大人を信用するのは抵抗があったが、この短時間で私達にかけてくれた言葉の一つ一つや、行動、浮かべる表情、そして何より私自身が助けて欲しいという思いもあって、アリウスが置かれている現状とマダムが来てからの変化を伝え、私の願いを話した。

 

「アリウスには希望がない。全ては虚しく、どこまで行っても全てはただ虚しいものだとマダムに教え込まれた……つい、昨日まで話していた相手がピクリとも動かず転がっている事なんて、このアリウスでは日常の光景だ。それでも、私はただ黙って見逃す選択を取れるほど賢くなく、罰を与えられた者を庇う事もあった……それがアリウスの全てを支配するマダムには気に食わなかったらしい」

 

 一度、言葉を区切りハンドラーを見る。

 相変わらず、表情はピクリとも動いておらず雰囲気も物々しいままだが、それが私にとっては安い同情をしていないと分かって嬉しかった。

 

「ハンドラー・ウォルター……私は皆を守れるだけの力が欲しい。Vanitas vanitatum et omnia vanitas.……例え、そうであったとしても私は姫を、此処にいる皆を失いたくはない」

 

「そうか」

 

 返された言葉はたったの三文字だけだった。

 私の願いなどそんなものかと落胆した時、ハンドラーは勘違いをするなと言わんばかりに声色を強めた。

 

「今日は此処までとする。俺はこの運動場を貸し与えられた……つまり中であれば、俺はお前達に自由を許す。好きにすると良い。槌永、少し俺の野暮用に付き合え」

 

「え、あ、はい」

 

 私達の返事を聞かずに、ハンドラーはヒヨリを連れて何処かへと向かってしまった……ハンドラーが残した言葉はつまり……

 

「……リーダー。どうするの?あの人の言葉を信じるなら、あの運動場好きに使って良いらしいけど」

 

「あぁ……恐らく、彼はそんなつまらない嘘を言う人じゃないだろう。有り難く、使わせて貰うとしよう」

 

「本気?信じるの?」

 

「もしも騙されたのなら、いつもの様に私が罰を受けるさ」

 

「……嘘は言ってないと思う。彼の私たちを見る目、慈しみに満ちてた」

 

「姫……そうか」

 

 私達の前では好きに話して良いとハンドラーが言っていたな。

 姫が信じると判断を下したのであれば、私もそれに続くと分かっているミサキは諦めた様に私達の後に続き、適当な場所の砂を払い座る……何かに怯える事なく、こうしてただ座っていられるなんて経験、いつぶりだろうか。

 

「怖い顔だけど良い人そうだねウォルターさん」

 

「……どうだか。あの雰囲気は明らかに普通じゃないよ」

 

「確かにな……まさか、ただ気合いを入れていただけで圧倒されるとは思わなかった」

 

「ふふっ、みんな怖い顔してたね……でもきっと、あの人も色んなものを失ってる人だと思う」

 

 姫は撫でられた場所を自分の手で触れ、何かを思い出す様に目を瞑る。

 

「……姫と誰かを重ねていたな」

 

「サッちゃんも分かった?とても辛そうに、でも優しくて、不器用な手つきだったけど不慣れで雑ではなかった。多分、何度か誰かの頭を撫でたことのある人」

 

「……一度生まれたものはそう簡単には死なない」

 

 何か思うところがあるのかミサキが、小さく呟いたのを最後に私達の間には会話がなくなり、時間だけが流れていく。

 それから数時間後、流石にヒヨリが遅くないか?と思い出した頃、外が賑やかになった。私達が運動場の外に出ると、そこには両手一杯にコンビニの袋を抱えるヒヨリと、疲れたのか肩で息をしているハンドラーが居た。

 

「み、みなさん!!ウォルターさんが色々と買ってくれました!!もしかしたら、丸々と太っちゃうかもしれませんけど、食べましょう!!」

 

「はぁ……はぁ……好きに過ごせ。俺はそこで休んでくる」

 

「えへへ……どれから食べようかなぁ……」

 

 多分、コンビニでもこの調子のヒヨリに振り回された事は想像に容易い様子のハンドラーが、運動場にある管理人室へと向かって行った……ヒヨリ、早速彼への甘え方を覚えたのか?

 

 

 

 

 

 

 

「621……お前なのか?」

 

 いつの間にか懐に入っていた、黒く所々に血管の様にコーラルと同じ色の赤が走り、中央には白いカラスが描かれている特徴的なカードを見つめる。

 この世界の金を持っておらず支払いに困ったが、このカードを見せれば簡単に手続きが終わった。

 

「お前の稼いだ金だ。俺に使う必要はないんだぞ621」

 

『うわぁぁぁ!?炭酸が吹き出したぁぁ!!世界は残酷ですね……』

 

『慌てて持ってくるからでしょ……ん、このショートケーキ美味しい』

 

『む?なんだこれは……何かを混ぜる様だが』

 

『見て見てサッちゃん。これ凄い』

 

『泡を食べるのかこの菓子は』

 

 賑やかなだな……だがまぁ、悪くない。

 

「621。聞こえているか?お前のお陰だ」




コーラルにみんな、脳を沈めればきっと書けるようになる……
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