人類が宇宙に進出し始めて、長い時が流れた。
人々は星々を巡り、資源を貪り、富を奪い合うようになった。
しかし、それは地球で行なわれていた闘争が宇宙に広がっただけに過ぎない。
人間の本性……闘争心は、そう簡単に変わらないらしい。
『惑星ルビコン3』。
ここには新物質『コーラル』が眠っていた。
多種多様な特質性を持つ、新物質『コーラル』。
機械を動かすエネルギーにも、物質にも、食料にも、薬にもなる。
それは透明な箱に入れられた金銀に等しい。
どんな人間だろうと一目見れば価値を悟るだろう。
そんな莫大な財を生み出す『コーラル』は争いの火種となった。
独占しようと、搾取しようと……誰もが目論む。
光に集う蛾のように、『ルビコン』の外から『星外企業』達が引き寄せられた。
彼らは『コーラル』と、その利権を求めて企業同士の争いを起こした。
財を求めて、人より富を得ようと、殺し、殺され……他者を蹴落とす。
争いは、激化していく。
より強く、より激しく、より凄惨に。
やがて、人は『ルビコン』に眠る大量の『コーラル』を爆破させるに至った。
膨大な『コーラル』の奔流は『ルビコン』を……いや、『ルビコン』だけに留まらず、周囲の星々まで汚染した。
数多の人間を殺し、星々を汚した『コーラル』の爆発による大災害……人はその炎を『アイビスの火』と呼んだ。
そして、大災害による強大な爆発により、惑星に眠っていた『コーラル』は、燃え尽きてしまったように見えた。
資源もなくなり、汚染されてしまった『ルビコン』に価値はない。
星外企業達は、『ルビコン』から離れていった。
残されたのは、『
『ルビコニアン』は星外企業によって故郷を汚された怒りを胸に、それでも汚染された星で生きるしかなかった。
そして、半世紀の時が過ぎた。
『ルビコン』は二度と災害を引き起こさぬようにと、『惑星封鎖機構』と呼ばれる組織により封鎖されていた。
『ルビコン』を管理せんとする『惑星封鎖機構』と現地の住民達との間に……軋轢が生まれていた。
ある一つの情報が、封鎖されている筈の『ルビコン』から外に持ち出された。
それは、再び『コーラル』が惑星で発見されていたという事実。
星外企業達は『惑星封鎖機構』の妨害を掻い潜り、『ルビコン』に再び集まる事となる。
戦いの火が、枯れた筈の『ルビコン』で燃え始めていた。
◇◆◇
星外企業『アーキバス』。
私の所属する企業もまた、『コーラル』に引き寄せられた火種の一つだ。
◇◆◇
青い機体を、空に疾らせる。
空気抵抗を考慮し、鋭く、流線的なフォルムに作られた人型の機械が宙を飛ぶ。
右肩に書かれた逆三角形のエンブレム。
口輪により拘束された狼に、『IV』の数字。
両手に大小の銃火器を、両肩にも武装を。
人の形をした兵器の中に、私は居た。
機体の頭部、メインカメラを下げれば……幾つもの、小さな機体の影が見えた。
MT、『マッスル・トレーサー』と呼ばれる量産兵器だ。
私は機体を操り……高度を落としていく。
「……惑星封鎖機構め」
少し苛立ちを込めながら、右肩に搭載された武装を起動する。
投射された視界情報を頼りに、地上に存在するMTをマルチロックオンし……発射した。
プラズマミサイルが発射され、宙を切り裂く。
散開し、ばら撒かれたミサイルは、別々のMTへと誘導し……プラズマ爆発を引き落こした。
警邏のMT3機が、火と煙を上げてジャンク品となった。
『……っ!?コード15!敵襲!』
オープン回線で聞こえる敵機の声を聞きつつ、そのまま機体を宙で回転させる。
残りMTは……17機。
私の機体1機に対して、17倍の頭数。
だがしかし──
「この
すれ違いざまに、右腕のハンドガンでMTの脚部を破壊する。
体勢を崩した所を、左腕に装備したライフルで撃ち抜き、トドメを刺す。
虫のような脚部で地を蹴り、飛び上がる。
曲芸飛行のように錐揉み、高速で旋回しながら殲滅して行く。
しかし、MTに乗るパイロット達も黙って見ている訳ではない。
幾度も迎撃として発砲しているが……それでも、私の駆る『スティールヘイズ』を捉える事は出来ない。
『く、くそっ!コード31!指示を求む!』
『駄目です!本部との連絡が取れません!』
……どうやら、別働部隊は上手くやっているらしい。
通信拠点への破壊工作による通信妨害だ。
彼らに救援は来ない。
『相手はAC一機!集中砲火せよ!』
オープン回線で流される会話を、鼻で笑う。
攻撃の密度を上げれば、私を落とせると思っているのか?
「……随分と舐められたものだな」
機体を翻し……MTから放たれた弾丸を、ミサイルを避ける。
この『スティールヘイズ』はMTのような玩具とは違う。
AC、すなわち『アーマード・コア』。
コアシステムを採用した人型の戦闘兵器だ。
奴等の乗るMTとは、格が違う。
1つ、2つと惑星封鎖機構のMTを破壊していく。
ハンドガンで撃ち、ライフルで貫き、プラズマで焼き、足で蹴り飛ばす。
そうしていく間に、気付けば残り一機となっていた。
他のMTとは違う、強固な装甲を纏った四足歩行のMT。
『システム!コード78!支援を求む!相手は──
左腕に装備していたライフルを、左肩の武装ハンガーに搭載しているN字型に格納されたレーザースライサーと持ち代える。
『ヴェスパー部隊!
レーザースライサーの上部と下部が展開する。
腕と接続している部位が回転し……二つのレーザー刃が対角線上に形成される。
まるでヘリコプターの翼、ローターブレードのように……レーザーの両刃が高速で回転する。
私はそのまま、回転するレーザースライサーを四足MTに叩き付けた。
高速で回転するスライサーがMTの鎧を切り裂く。
一度だけではない。
何度も何度も何度も、回転する刃が切り付ける。
最早、悲鳴じみた救援要請は聞こえない。
内部までズタズタに引き裂かれ、無惨な姿になっているからだ。
直後、私はレーザースライサーを停止させ、MTを蹴り飛ばした。
幾重にも傷が重ねられたMTは、炎と煙を撒き散らし……爆ぜた。
「……これで終わりか」
『スティールヘイズ』の背部、排熱機構を展開する。
金属板が射出され、熱を吐き出し……機体を急速冷却させる。
息を深く吐き、コックピット内の外部通信を起動する。
「こちら
『ヴェスパー』部隊。
それは星外企業『アーキバス』が抱える強化人間部隊だ。
ACという大型人型兵器を扱う者は、普通の人間では難しい……故に、AC乗りは強化処置を施した強化人間が殆どだ。
そして、そのヴェスパー部隊の
そして、連絡先は──
『……
ヴェスパー部隊の次席隊長様……私の上官だ。
私はIVで彼はII。
割与えられた番号が若ければ若いほど偉い、という事だ。
そして、肝心の
部隊の指揮は、次席隊長であるスネイルに委ねられている。
つまり、このヴェスパー部隊の指揮を実質的に握っているのは……この男という訳だ。
その次席隊長が、通信先で苛立たしげに口を開いた。
『随分と時間がかかりましたね。続けて封鎖されていた研究施設内部に侵入し、調査部隊が来るまでの露払いでもして頂きましょうか』
人を見下したかのような態度。
これが企業の姿、悪性そのもの──
いや、今は考えるべきではない。
「……了解した。このまま、斥候を行う」
従順なフリをして、通信を切断する。
AC『スティールヘイズ』のブースターユニットを起動する。
バネのような脚部で地を蹴り、飛び上がる。
そのまま、強襲ブースターによって急加速し、空を飛ぶ。
私は目前にある惑星封鎖機構の研究施設へと突入した。
◇◆◇
研究施設は……地下へと続いていた。
封鎖ハッチの結合部を破壊し、内部へと侵入していく。
やがて、舗装されていない地下洞窟のような場所が姿を現した。
惑星封鎖機構は『何か』を掘り当て、その『何か』を調査するために、施設を覆うように建造したようだ。
企業『アーキバス』は惑星封鎖機構の不審な行動に目を付け、この施設の先に『コーラル』の井戸があると認識していたが──
「……これは、何だ?」
実態は異っていた。
地下の巨大空洞には不釣り合いな程機械化された外壁や、巨大な研究施設らしきタワー、複数の砲台を備えた防衛装置などが配置されている。
惑星封鎖機構によって防衛装置は停止させられているようだが……どうにも、技術系統が惑星封鎖機構の物と異なるように見える。
「『アイビスの火』以前の研究施設か?」
……つまり、『ルビコン調査技研』の施設か。
技研は大災害『アイビスの火』以前に『コーラル』を研究していた技術者集団だ。
コーラルを用いた強化人間や、コーラルを動力とする兵器の開発など……コーラルを、ルビコンを食い散らかす害虫のような奴らだ。
『アイビスの火』によって組織は崩壊した筈だが……こんな地下にまで施設が残っていたとは。
しかし──
「既に放棄された施設のようだな」
機械化された床部等の汚れや、老朽化した外装から……この施設が放棄されて長い年月が経っている事は読み取れた。
しかし、『アイビスの火』による直接の被害は少なく、殆どの施設が現存していた。
ここまで綺麗な研究施設ならば……何か、技研の失われた研究成果が得られるかも知れないな。
つまり、惑星封鎖機構はこの眠れる古代研究所を見つけ出し、外部に悟られぬよう調査をしていた……という事か。
星外企業のコーラル研究も進んでいるが、未だにコーラル関連の技術のみならば技研の半世紀前の技術にすら遅れを取る。
……『アーキバス』も、この技術は喉から手が出るほど欲しいだろう。
滑走路らしき道へと着地する。
足を地面に滑らせて、勢いを相殺する。
……先程まで、惑星封鎖機構が居たのだろう。
巨大なコンテナを引き摺った跡がある。
何かしらの研究対象を回収した、と見て良いか。
私がMT部隊と戦っている間に撤退したのか。
人影も機影も、一つとして存在しない。
「……逃げ足だけは早いようだな」
ACが通れる程に開けた道を直進し、研究施設内部へと侵入して行く。
技研の作ったタワー型の研究施設は地下へと繋がっている。
ブースターを起動させ、落下速度を緩めながら降りて行く。
……警戒は怠らない。
技研の防衛装置が稼働している可能性も、惑星封鎖機構の置き土産が存在している可能性も考慮する。
だが、杞憂だったようで……そのまま、最下層の足場へと着地した。
そこで見たのは……異様な光景だった。
「……これは、廃棄された培養ポッドか。随分と数が多い」
数十メートルの高さに、規則正しくポッドが並んでいる。
高さ、3メートル弱……コーラルで育てる食用のミールワーム培養ポッドとは規模が違う。
……何を培養していた?
ポッドの表面は砕けており、中身が存在しない。
故に分からない。
3メートル弱という大きさ。
縦に長い培養ポッド。
その中にあるべき物は何だ?
思考の隅で、一つの疑惑が浮かび……それを振り払う。
『スティールヘイズ』の頭部からスキャンを実行する。
……廃棄されて長いからか、何も残っていな──
「……生体反応だと?」
投射された情報の中に、一件……生体反応があった。
ただ熱源は小さい……MTやACには乗っていないようだ。
惑星封鎖機構の構成員が逃げ遅れ、ポッドに隠れているのか?
私は右腕のハンドガンを構えながら、生体反応があった場所へ向かう。
数歩、接近して……ハンドガンを、培養ポッドへ構えた。
そこにあったのは……稼働している培養ポッドだった。
コーラルを動力にしているのか……長い年月の果てというのに、まだ動いていた。
赤い、コーラルと同様の色をした液体の中で、『何か』が揺れ動いていた。
「……やはりそうか。随分と非人道的な事をしている」
それは、人だ。
3メートル弱の培養ポッドの中に、人が入っていた。
コーラル技術によって人工的に生み出された人間……だろうか。
……ハンドガンの銃口を降ろし、ポッドを注視する。
若い女だ。
真っ白な肌に、真っ白な髪を伸ばした女が……一糸纏わぬ姿で培養ポッドに眠っていた。
施設は機能停止している。
半世紀以上前から眠っているのだとしたら、生きている可能性は無い。
恐らく、既に人間としての機能が停止された『生きている死体』だ。
恐れる事はない。
周囲に更なるスキャンを実施する。
ACに集積したデータを解析しつつ、目の前の物言わぬ女に視線を戻し──
女が目を開いていた。
「なっ……」
その女は生きていた。
『アイビスの火』の後からも、ずっと、ここで……一人で、生きていたのだ。
「…………」
息を呑む。
その目は赤かった。
その目は深かった。
覗き込み続ければ、吸い込まれてしまいそうな程に。
その目が細められた。
私をポッド越しに、AC越しに見透かされたような気がして──
無意識のうちに、外部との通信機能を起動していた。
『
「スネイル。生存者を一名、発見した」
『……そのような些事で私を煩わせないで下さい。惑星封鎖機構の生存者が存在するのでしたら、無力化し、尋問を行うように言った筈ですが』
「違う。私が見つけたモノは──
戦火が拡大しつつある『ルビコン』に、また一つ……新たな火種が燻り始めていた。