コーラルの井戸の底で   作:WhatSoon

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#11 防衛/強奪

ここは『中央氷原』。

ヒアルマー採掘場……アーキバス調査キャンプ。

 

そこに到着した私は、調査員……そして、キャンプを防衛しているMT部隊から歓迎された。

彼等も昨今の事情、ベイラムからの襲撃を危惧していたのだろう。

 

ヴェスパーの番号付きという分かり易く強さが保証された助っ人に、安堵しているのだ。

私の小さな肩に責任が重くのしかかる。

 

初めて顔を合わせたMT部隊の隊長には驚かれてしまった。

華奢な女だったから……だろう。

 

だが彼等は侮る事もなく、女性隊員を呼び付けて、女性用の施設などを教えてくれた。

私はあまり気にしていないが、その思いやりは嬉しく感じていた。

 

良い人達だ。

そう思った。

 

キャンプでは連日、コーラルの採掘、そして調査が進められている。

 

それを横目に見ながらも、私は特に何もしない。

何もないという事は、良い事だ。

ベイラムからの襲撃がないという事だからだ。

 

 

決して短くない期間、穏やかな日々を享受していた。

 

 

だから、私は忘れてしまっていた。

このルビコンに於いて『平穏』など脆い物であるという事を。

 

 

「ベイラム傘下、大豊(ダーフォン)のMT部隊が接近しています!距離、2000!」

 

 

その日、ついに敵対企業からの襲撃が来た。

私はAC『トゥームストーン』に乗り、迎撃に出た。

 

 

この拠点を、ここに居る人々を守るために。

雪と灰の嵐を切り裂き、私はベイラム傘下、大豊(ダーフォン)のMT部隊を視認した。

 

そして、こちらが視認したという事は、相手も視認したという事だ。

 

 

『AC……?それも、ヴェスパー部隊の番号付きだと!?何故こんな場所に……!?」

 

 

大豊(ダーフォン)のMT乗りの悲鳴にも取れる驚愕の声が聞こえた。

……恐らく、彼等の情報は古かったのだ。

 

ここにヴェスパー部隊の番号付きが……私が来ている事を知らなかったのだ。

 

 

AC『トゥームストーン』の右腕の武装……アーキバス先進開発局によって作られた大型のレーザーライフルを構える。

 

狙いは、目前の重装甲四脚MT。

 

瞬間、光が弾けた。

レーザーハンドガンとは比べ物にならないエネルギーが、光と熱になってMTを貫いた。

 

一撃。

 

この成果は、武器だけが原因ではない。

……新型ジェネレーターのエネルギー変換効率の良さも原因だ。

レーザー兵器に対する変換効率が優れていれば、それだけジェネレーターの出力を武装へと直結できる。

威力の向上が狙えるという訳だ。

 

 

「これは……なるほど、使えますね」

 

 

首席隊長であるフロイトに装備させられたレーザーライフルとジェネレーターだったが、成程……やはりACに対する知識なら、ヴェスパーで彼に並ぶ者は居ないのだと実感した。

 

 

『撃て!砲身が焼けてもいい!撃ち続けろ!敵はAC一機だ!敵の増援が来る前に、アレを落とすんだ!」

 

「……増援なんて、気にしなくて良いですよ」

 

 

彼等は私一人で殲滅するから、だ。

私がこの調査キャンプで優遇されていたのは、こうして前線で戦う義務があるからだ。

命を賭けて先陣を切り、敵を殲滅する。

故に、それだけの報酬が割り当てられている。

 

だから、ここに援軍など来ない。

 

左腕にレーザーブレードを展開する。

光の刃が、波のように揺らぐ。

 

これはフロイトのAC『ロックスミス』と同様の装備だ。

 

光が機体よりも大きな刃を作り出している。

そして、その光熱の刃を横に薙ぎ払った。

 

レーザーブレードは中量級MTを貫き、小型MTを溶かした。

 

 

『ひっ──

 

 

断末魔を耳に、プラズマミサイルを散布する。

そして、ミサイルを回避した勘のいいMT乗りは……レーザーライフルで貫く。

ハンドガンと比べて装弾数は少ないが、ハンドガンなら撃墜に数発必要なところを、レーザーライフルならば一撃で撃墜できている。

結果的に消費は減っている。

 

命中させられるのであれば、継続戦闘能力に差はないだろう。

 

斬って、撃って、爆破して。

 

数分後、足元に大豊(ダーフォン)のMT達が散らばっていた。

 

 

『システム。通常モードに移行します』

 

 

念の為にスキャンをかけるが、周りに動く気配はない。

 

争いで熱った身体を冷まそうと、息を深く吐く。

そして、通信回線を開き、調査キャンプの管制へと繋いだ。

 

 

「こちらV.IX セラです。MT部隊の迎撃が完了し──

 

『今……どこに……』

 

「……管制(コントロール)、どうかしま──

 

『南……ACが……』

 

 

通信が途絶えた。

辛うじて耳に入ったのは、ACという単語。

 

 

「……まさか──

 

 

瞬間、私は地面を蹴った。

 

この大豊(ダーフォン)のMT部隊は囮だ。

本命はACによる観測情報の奪取なのだろう。

 

失態だ。

良いように誘導されてしまった。

 

AC『トゥームストーン』のブースター、全てを点火する。

強襲噴射(アサルトブースト)を起動し、急行する。

 

先程の通信相手……MT部隊の隊長は南部拠点での警備をしていた筈だ。

私は焦る気持ちを抑えず、ACを急加速させ──

 

 

「…………」

 

 

半壊した調査キャンプを目にしてしまった。

 

 

MTが破壊され、燃料タンクへ引火したのだろう。

施設の幾つかは大破しており、そこにいた人の形跡すら消してしまっている。

 

管制塔も、焼け落ちていた。

 

 

「…………」

 

 

私を出迎えてくれた青年が乗っていたMTが、焼け焦げていた。

 

私にシャワールームの使い方を教えてくれた女性が乗っていたMTのコックピットに、大きな穴が空いていた。

 

酒の場で調子に乗っていた男が乗っていたMTが、バラバラになって地面に転がっていた。

 

 

「……う、っ」

 

 

……ここは、戦場だ。

『中央氷原』は……いや惑星『ルビコン』は戦場なのだ。

 

嘆いている暇はなかった。

私はACを加速させ……仲間を殺した相手の元へ向かう。

 

 

 

 

そして──

 

 

 

 

MT部隊の隊長が乗っている、四脚の重装甲MT……いや、その『残骸』が崩れ落ちていた。

 

 

「……部隊長」

 

 

そのMTは足蹴にされていた。

視線を引き上げれば……RaDの開発したパーツを装備した、見覚えのあるACが立っていた。

 

右腕にアサルトライフル。

左腕にパイルバンカー。

右肩に二連装グレネードランチャー。

左肩にはミサイルポッド。

 

……泥のような色をしたACだ。

だが、その姿に……いや、そのコーラルの波形に見覚えがあった。

 

 

「……独立傭兵『レイヴン』」

 

 

何故、海を越えた先である『中央氷原』に居るのか……なんて疑問は、今は全て捨てる。

 

今はただ、目の前のACを破壊すること。

そして、このAC乗りを抹殺すること。

それだけを考えていた。

 

……分かっている。

私もベイラムや、大豊(ダーフォン)、 ルビコン解放戦線の兵士を沢山殺している。

憎くて殺している訳ではない。

誰も彼もが己の為に、生きる為に他者を殺している。

 

目の前にいる『レイヴン』も同じだ。

立場が違うだけでしかない。

 

だから……怒るべきではない。

私情に流されるべきではない。

 

分かっている。

 

 

だが、しかし、それでも。

 

 

「やはり、貴方は──

 

 

今、目の前のACが私の……『アーキバス』の敵であるということ。

その事実に感謝せずにはいられなかった。

 

 

「私が、ここで殺します……!」

 

 

AC『トゥームストーン』が大地を蹴る。

灰と雪が、大地を跳ねた。

 

目の前で、AC『ローダー・フォー』の頭部カメラが光った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『ヴェスパー部隊の番号付きか……無視はできない。対処しろ、621』

 

 

耳に聞こえた飼い主……ハンドラー・ウォルターの声に従い、迫り来るACへ構える。

敵ACは青白くバーニアを光らせ、加速しつつ……その手の、大型のレーザーライフルを構えた。

 

自分の知っているアーキバスのレーザーライフルとは形状が違う。

警戒して、地を蹴り側面へクイック・ブーストを吐く。

 

瞬間、自分の居た場所に熱線が通った。

避けた先、背後の崖が溶解しいるのが見えた。

 

 

『レイヴン、警戒を。あの武装の出力……直撃すれば致命傷になります』

 

 

エアの声に同意しつつ、ミサイルポッドを展開する。

だが、発射はしない。

 

この動きに敵ACは警戒するような仕草を見せた。

 

一瞬、反応が遅れた。

それが狙いだ。

 

ブーストを吐く。

 

そして、片足で地面を踏み、もう片方の足は浮かせる。

片足を軸に回転しつつ、ミサイルを発射する。

 

ミサイルの発射先は敵ACの居る方向ではない。

しかし、ミサイルは敵ACへロックオンさせた。

 

結果、大きく横に逸れながら……回り込むように誘導する。

 

直後、地を蹴り、後ろに……敵ACからすれば左側に、バックブーストを吹いた。

 

 

敵ACがミサイルを目で追えば、逆方向から攻める。

そして、AC(こちら)を追えば背後からミサイルが直撃する。

 

 

擬似的な挟み撃ちになる。

連射力を落とし、火力を引き上げたアサルトライフルを放つ。

 

一撃でACは貫けないだろうが、それでもダメージは蓄積する筈だ。

 

しかし……敵ACはパルスバックラーを起動し、光の壁を作り出していた。

アサルトライフルの弾丸は防がれる。

 

だが、光の壁は前面だけだ。

背後からミサイルが直撃する筈──

 

 

瞬間、敵ACの全てのスラスターが噴射した。

青白い光をばら撒きながら、こちらに向かって急激に接近する。

ミサイルは……バーニアの熱に焼かれ、コントロールを乱していた。

直撃は期待できない。

 

そして敵ACの左腕から、光の刃が伸びていた。

レーザーブレード……以前装備していたレーザーダガーとは刃渡りが違う。

 

こちらもAC『ローダー・フォー』の左腕、パイルバンカーを構える。

ただし、薬莢による爆発は使用しない。

杭を突き出したまま固定し……迫り来る敵ACへ槍のように繰り出した。

 

敵ACは直前に避け……しかし、機体表面に傷を負った。

……クリーンヒットではない。

 

滑るようにすれ違い……レーザーの刃が迫り来る。

 

 

『レイヴン!防御を!』

 

 

瞬間、光の壁が、ACを纏うように生成された。

パルスアーマーだ。

 

これは別に、このAC独特の装備ではない。

OSのコア拡張機能であり、ジェネレーターのエネルギーを機体周辺に展開する電磁パルス防護壁だ。

 

エネルギーを大きく食う為、一度使えば当分は使えないが……出し惜しみできる相手ではないと、そう判断した。

 

レーザーブレードが、機体周辺に展開された防御壁を滑り……ダメージを無効化した。

 

 

『面倒な、事を……!』

 

 

接触した拍子に、相手の声が聞こえた。

しかし、公開回線を通じた声ではない。

何故か……声が目に見えた。

 

そして、その声にエアが反応した。

 

 

『今のは敵ACからの、声……?』

 

 

同時に、敵ACも反応した。

 

 

『……これはレイヴンの……!?いえ、別の──

 

 

困惑する二名の声を聞き流し、既に半壊している電磁パルス防御壁を敵ACにぶつけた。

相手を吹き飛ばし……防御壁は完全に霧散した。

 

仕切り直しだ。

 

ACが向き合う。

しかし、相手は警戒するように立ち回っている。

 

戦況は硬直している。

直後、エアの声が響く。

 

 

『レイヴン、敵AC乗りは……どうやら、何か普通ではないようです』

 

 

気付いていた。

敵AC乗り……確か、セラという名前の女は、エアに近しい存在だという事に。

 

しかし、それでも手を抜ける相手ではない。

実力もそうだが……ハンドラー・ウォルターの猟犬として、敵は排除しなければならない。

 

今、二機の間には距離がある。

アサルトライフルを、敵ACへ構えた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

目の前の独立傭兵『レイヴン』を睨む。

先程、接触した瞬間……声が聞こえた。

アレは……私の同胞の声だ。

 

『レイヴン』は私と同様の、コーラルの大海に生じた歪みである(コーラル)パルス変異波形──

 

いや、違う。

 

もしそうならば、以前の接触時に気付いていた。

ならば……『ウォッチポイント』への襲撃時に、コーラルの本流に飲まれ、接触したのか。

私とは違う、別の(コーラル)パルス変異波形に。

 

同胞の声が聞こえる旧世代型の強化人間……私達を理解し得る存在なのか。

 

 

「しかし──

 

 

排除すべきだ。

 

『レイヴン』は他のどんな人間よりもコーラルの本質に近付いた存在だ。

だが、この人間に信念はない。

ハンドラー・ウォルターの猟犬として振る舞っているに過ぎない。

 

彼は不安定な、危険因子だ。

生かしておくには……影響が、大き過ぎる。

 

彼を『戦友』と呼んでいるラスティには悪いが……ここで、殺さなければならない。

 

どんな手を使ってでも。

 

 

「……づ、っ」

 

 

脳の中で何かが弾ける音がする。

体内のコーラルが活性化されていくのを感じる。

 

感覚を、義体の外に広げる。

目に見える世界を遅くする。

 

私の本質を、拡張していく。

 

 

『レイヴン!敵ACから微量のコーラル反応!これはっ──

 

 

聴こえる。

接触していなくても、彼と交信しているコーラルの声が。

 

 

「貴方は……ここで、死んでください……『レイヴン』!」

 

 

AC『トゥームストーン』の制限(リミッター)を解除する。

アラートが鳴り響く。

 

 

『機体制限解除。パイロットへの影響が懸念されます。ただちに制限を戻し──

 

 

通常、ACは人が乗る事を想定し、負荷が掛かり過ぎないように制限(リミッター)を掛けられている。

 

だが、それを取り払った。

 

瞬間、構えた状態からブースターで急加速し……敵ACへ肉薄する。

 

 

『敵AC、急速接近!速度は先程の1.3倍です……!』

 

 

彼と交信している(コーラル)パルス変異波形の、悲鳴にも似た声が聞こえた。

 

瞬間、『レイヴン』は後方へ短くバックブーストを吐いた。

ミサイルをばら撒きながら、小刻みに左右へ動いている。

 

このまま直進すれば直撃するだろう。

だが、回避行動を取れば近付けはしない。

 

奴は私が回避行動を取るのを狙っている。

ブーストの硬直をアサルトライフルで射抜くつもりだろう。

 

 

ならば──

 

 

コーラルを活性化させた脳は、反射速度を数倍に引き上げていた。

身体を操る精度も、速度も。

 

 

 

私は──

 

 

 

機体を地面に滑らせ、ミサイルの中をすり抜けた。

 

 

 

瞬間、『レイヴン』から動揺するような感情が見えた。

 

迫り来るミサイルを回避する訳ではなく、その隙間を通る。

機体の動きが少しでも乱れたら、直撃していただろう。

針に糸を通すような精密さが要求されていた。

 

だが、今の私には容易い事だった。

この程度では足止めにもならない。

 

AC『トゥームストーン』の左腕、レーザーブレードの出力上限を解放し、刃の密度を上げる。

光が飽和し、鈍い振動音が空気を震わせる。

 

 

『レイヴン、退避を!あのACは──

 

 

レーザーブレードを逆袈裟で切り上げる。

『レイヴン』は更に後退し、間合いから抜けようとしている。

 

私はレーザーブレードで宙を割き──

 

直後、私はレーザーブレードの出力を切断しつつ、後ろにクイックブーストを吐いた。

 

レーザーブレードの光波は宙に取り残され──

 

光る斬撃が、弾き飛ばされた。

 

 

『ブレードの光波が……飛んだ?』

 

 

同胞と、独立傭兵『レイヴン』から感じる驚愕の色が更に濃くなった。

 

隙が見えた。

確実に、命中する!

 

そう感じた瞬間……敵AC『ローダー・フォー』は地面へ、グレネードランチャーを二発放った。

 

 

「なっ──

 

 

その距離では自身を巻き込む。

自殺行為に等しい行動だった。

だが、その目的は……反動と衝撃で機体を浮かせる事にあった。

 

想定外の出来事に、即座に対応する判断能力。

……まるで、V.I『フロイト』のような思考速度だ。

 

ただの独立傭兵の筈なのに、ヴェスパー部隊の主席隊長と比べてしまう程に……彼は異常だった。

 

 

だが──

 

パルスバックラーを起動しつつ、急加速する。

 

 

ミシリ、と軋む音がした。

ACからか、それとも私の身体からか。

いや、その両方だ。

 

 

無人機でしか叶わないような急加速に、『レイヴン』は反応出来ない。

反応しても、そのACでは動けないだろう。

 

パルスバックラーを展開したまま、敵AC『ローダー・フォー』に衝突した。

相手は姿勢が崩れている……受け止める事も出来ず、弾けた。

 

よろめいた所に、更にブーストを吹かせる。

 

 

『立て直して下さい!追撃、来ます!』

 

 

耳に焦る同胞の声が聞こえる。

つまりこれは……想定外のダメージだという事だ。

 

好機。

 

レーザーブレードは回路が焼き切れたのか、反応しない。

ならば、と蹴りを繰り出す。

 

敵AC『ローダー・フォー』に直撃し、地面へ落下させた。

灰や雪を巻き上げて、機体が地面を滑る。

 

私はAC『トゥームストーン』に装備されている、大型レーザーライフルを構えた。

 

まだ、敵ACの姿勢制御装置(ACS)は復旧していない。

 

これで、終わ──

 

 

ブ、ツゥ──

 

 

と鼻から血が垂れた。

 

急加速と急停止を繰り返した結果、強烈なGによって身体の機能が幾つか破損したのだろう。

視界が一瞬、ボヤけた。

 

……思考が──

 

 

「こ、のっ……!」

 

 

歯を食いしばり、目を見開く。

まだ、耐えられる。

 

そして、レーザーライフルを発射した。

 

だが、コンマ数秒の寄り道が、彼に回避する余裕を与えてしまった。

 

レーザーはACの横を通り過ぎ……真っ白な大地に着弾した。

雪が溶け、蒸発し、水蒸気が吹き上がる。

 

視界が不良となっている間に、『レイヴン』が姿勢を立て直していた。

だが、機体の損傷は隠せていない。

 

しかし、それはこちらもそうだ。

機械音声がコックピット内で鳴り響く。

 

 

『脚部関節、損傷甚大。AP 残り50%』

 

 

無理な加速、機体制限を越えた挙動の連続……負荷をかけてしまった関節が悲鳴をあげていた。

 

だが、まだ動く。

このACも──

 

 

「ぐ、ゔっ……」

 

 

私の身体も。

 

耐Gスーツに血が垂れている。

だが、思考はクリアだ。

 

呼吸を整え、レーザーライフルを構えて──

 

 

……音がする。

何か、異音がする。

 

拡張された聴覚に、何か大きな飛行物体が迫る音が──

 

 

「っ!?」

 

 

顔を上げれば……巨大な空中戦艦がこちらに接近していた。

 

 

 

「ぁ……惑星、封鎖機構……?」

 

 

だが、規模が今までとは違う。

大型の武装ヘリの何十倍もの大きさの要塞とも呼べる戦艦が……こちらに向かってきている。

 

それが……数えきれない程の数で──

 

これは、ルビコンを警備しているSG(サブジェクトガード)部隊とは規模が違う。

より上位の……執行部隊だ。

本来の封鎖圏内では運用されない過剰な戦力だ。

 

 

『ルビコンに不法侵入した全ての勢力に告ぐ』

 

 

公開回線、そして強襲戦艦外部のスピーカーから無感情な声が聞こえる。

 

 

『ただちに武装解除し、封鎖圏外へと退去せよ』

 

 

惑星封鎖機構はルビコンを食い荒らす企業同士の争い、そして不法侵入に業を煮やし、武力制圧による強制執行を行うつもり、なのか?

 

 

『これ以上の進駐は惑星封鎖機構に対する宣戦布告と見做し、例外なく排除対象とする』

 

 

強襲戦艦の下部から、MTとは異なる機体が射出された。

 

私は目前のACへ視線を戻す。

……今は『レイヴン』と戦っている場合ではないのだろう。

誰だって分かる話だ。

 

だが、それでも……しかし。

 

 

この、独立傭兵だけは──

 

 

「私が──

 

 

視界が点滅する。

 

拙い。

無理をした身体の、限界が──

 

限界を知らせる肉体の悲鳴を無視していた、その反動が身体を覆う。

 

身体を支える力が弱まっていく。

 

今、この瞬間に意識を失う訳には──

 

 

「く、ぁっ──

 

 

視界が、暗転し……目の前が真っ暗になった。

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