コーラルの井戸の底で   作:WhatSoon

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#4 初陣

V.I フロイトによる推薦……と言う名の脅迫により、セラはヴェスパー部隊に入隊させられる事となった。

 

V.II スネイルは最後まで反対していたが、フロイトには逆らえず折れる事となる。

しかし、フロイトがセラを評価する際に「面白い」と話した時、スネイルは険しい顔をしていた。

 

……スネイルは自らの身体を強化する為に、何度も強化人間用の再調整を受けている。

それ程までに強さに執着している。

故に、彼にとって部外者のセラが、自身より強いフロイトに評価されるのは不快なのだろう。

 

 

フロイトの指示により、セラはMT部隊ではなくACを割り当てられる事となった。

曰く、MTに乗せるのは宝の持ち腐れ、とか。

 

兎に角、彼女にはアーキバス製の量産パーツを組み込んだACが割り当てられた。

特段、特徴のないACだ。

 

ACの強みは各AC乗り毎にカスタマイズできる拡張性、そして様々な戦場に適応する汎用性の高さだ。

得意な戦法、必要な作戦遂行能力に合わせて規格が統一されたパーツを交換する事が出来る。

私の『スティールヘイズ』も高速戦闘に適応させる為にカスタマイズされた機体だ。

 

つまり、今の平凡な量産パーツを組み合わせただけのACは、セラが乗るには平凡過ぎるという事だ。

しかし、まだ彼女は戦場に出た事もなく、組織からの評価も低い。

用意出来るのは、量産型のみ、という事だ。

 

だが、量産型ACだからと言って弱いパーツの詰め合わせという訳では無い。

量産される程に性能が保証されたパーツだという事なのだ。

平凡だが、特化及び最適化していないだけで弱い訳ではない。

 

そんな平凡な装備のACを、ハンガーから見ていた。

ACを輸送するための大型ヘリ、そこに私の『スティールヘイズ』と彼女のACが搭載されていた。

 

 

「……ラスティ第四隊長」

 

 

ふと、後ろから声を掛けられた。

振り返ると、セラが居た。

耐Gスーツを身に纏った姿を新鮮に思いつつ、視線を合わせる。

 

 

「普段通り『ラスティ』で良い」

 

「……承知しました」

 

 

彼女は表情が乏しいまま、何度か頷いた。

 

 

「セラ、緊張しているか?」

 

「……いえ、どうでしょう?私は、それ程……緊張していないと思いますが」

 

 

彼女は少し悩ましげな顔をした。

 

 

「私からすれば、緊張しているように見えている」

 

「……そう、ですか?」

 

 

今日は彼女の初陣だ。

作戦内容は我々『アーキバス』が所有していた開発プラントを不法占拠している『ドーザー』共の排除だ。

『ドーザー』とは向精神薬としてコーラルを摂取している、ならず者共の事だ。

倫理観の無いイカれた奴らだが、MT等で武装している事もある。

 

奪取された『アーキバス』の開発プラントも数の暴力で制圧され、自衛手段として配備されていたMTも奪取されてしまった。

『アーキバス』からすれば、それ程重要な施設では無いが……盗られたままというのも沽券に関わる。

だが、敵戦力はMTのみ……ACであれば、それ程苦労せずに殲滅できるだろう。

ヴェスパー部隊の番号付きを出す程、重大な訳では無い。

 

だからこうして、新人である彼女の初陣となった訳だ。

 

 

「安心していい。万が一の時は私を頼れ」

 

「はい、ありがとうございます。ですが、その万が一にはならないよう努力します」

 

「いい心掛けだ。だが、無理はするなよ?」

 

 

では何故、私が共に出撃するのか?

それは保険だ。

 

彼女が『ドーザー』共に負ける可能性への保険か?

 

いいや、違う。

 

私の仕事は──

 

 

「セラ、そろそろ搭乗してくれ。出撃地点への距離も近い」

 

 

彼女が『アーキバス』を裏切った場合、始末する事だ。

 

 

「了解しました」

 

 

上層部はまだ、セラという人間……いや、身体の半分がコーラルで出来た『何か』を信用していない。

 

私からすれば彼女は人間なのだが、そうは思わない連中がいる。

ヴェスパー部隊にだって、彼女をそういった目で見る奴がいる。

 

 

「……ままならない物だな」

 

 

彼女の立ち位置は、細く伸ばされた糸の上に立っているかの如く、不安定だ。

だからこそ、今回の作戦で『アーキバス』に対して有用性を見せなければならない。

 

 

「…………」

 

 

……困ったな。

恐らく彼女よりも、私の方が緊張しているようだ。

 

私は苦笑しながら、自身のAC『スティールヘイズ』へ向けて足を進めた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

その日は、何でもない日になる筈だった。

 

企業に対して夜襲して奪取した施設内で、俺達はコーラルを摂取していた。

度胸試しとして襲撃した施設だったが、案外上手くいくもんだ。

それに随分と備蓄があった。

開発途中の武器を『RaD(同業者)』に売り払う事で十分な金も得た。

逃げ遅れた企業の狗どもは鉄パイプに包んで、溶鉱炉に投げ入れる事で楽しませてもらった。

 

正に、人生の絶頂って感じだ。

 

このまま、ここを占拠し、俺たちの縄張りとするつもりだ。

 

いや、だった、か。

 

 

この施設の元々の持ち主、『アーキバス』のACが襲撃して来た。

勿論、俺たちはMTで迎撃に当たった。

 

一度手に入れた幸せを手放して逃げられるほど、俺たちは賢く無かった。

 

 

だが──

 

 

『くたばれ!』

 

 

MTからミサイルが放たれ、ACへ迫る。

しかし、ACは回避する事もなく肩に搭載されたパルスシールドを展開した。

ミサイルは電磁防壁に防がれ、ACに傷一つ負わせる事ができなかった。

 

そのままACは弾幕の中を突っ切り、正面にいたMTへ肉薄した。

瞬間、ACの左手に搭載されたパルスブレードが展開され、MTへ直撃した。

 

 

『ぎゃ、あぁああ──

 

 

見知った仲間の悲鳴と、パルスで焼き殺される音が聞こえた。

仲間の死に怒り、周りのMTが武器を構える。

 

 

『て、てめえっ!』

 

『生きて返さねぇ!』

 

 

囲まれたACは回転しつつ、右手のレーザーハンドガンを連射する。

一機、また一機とMTが破壊されていく。

 

軽量型ではない筈のACが、ブーストを巧みに使い踊るように攻撃を避けていく。

 

中量のACだ、速い訳じゃねぇ。

だが、弾が当たらねぇ。

 

小型のMTが蹴り飛ばされ、中型のMTがレーザーに射抜かれる。

プラズマミサイルが放たれ、小型の武装ヘリが撃墜されていく。

 

 

「あ、相手はたった一機のACだぞ……!?」

 

 

俺はそれを、監視塔から見下ろしていた。

仲間が皆殺しにされていく様を、指を咥えて見ている事しか出来なかった。

 

買い揃えた虎の子の重量MTが、一瞬で破壊されていく。

 

監視塔の内部で、仲間の悲鳴が鳴り響く。

焦る声、怒声、断末魔。

入り混じり、監視塔内部は騒然としていた。

一人、席から立ち上がり逃げ出そうとする奴が居た。

 

 

「や、やべぇよ、逃げ──

 

 

瞬間、俺はソイツを撃ち殺した。

 

 

「勝手な真似してんじゃねぇぞ!ここを捨てりゃ俺たちはまた、泥臭え場所に戻らな──

 

 

監視塔の、窓ガラスからの光が遮られた。

 

振り返る。

 

強化ガラスの向こう側には、ACの顔。

光るバイザーが俺たちを見ていた。

 

 

「あっ──

 

 

ACが左腕を振りかぶった。

その先には、展開されたパルスブレードが見えた。

 

 

目に見える死が、俺達に迫り──

 

 

生きたままパルスに焼かれ、身体を蒸発させた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

倍率を引き上げたメインカメラで、セラのACを見る。

 

監査塔の上部へパルスブレードを突き立てていた。

そのまま下部まで引き裂くように振り下ろし、司令塔内部を焼き払ったようだ。

 

……武装集団だけではなく、司令塔も破壊したか。

 

 

周囲に散らばっているのはMT部隊。

統率が取れていなかったとはいえ、数は多い。

 

それを無傷で殲滅した。

新兵の初陣とは思えない戦果だ。

フロイトとの模擬戦が役に立っているのだろう。

 

 

「……やるな。だが──

 

 

彼女には躊躇いがなかった。

初めて人を殺す時、誰でも躊躇する筈だ。

 

だが、彼女はその『誰でも』の中には入らない、例外らしい。

出生が特殊だからか……それとも。

 

……私は息を吐き、通信回線へ接続する。

 

 

「セラ、任務は完了だ。帰投するぞ」

 

『…………』

 

 

呼吸音が聞こえた。

だが、彼女の声は聞こえなかった。

 

 

「どうした、何かあったか?」

 

『……いえ』

 

 

セラは私の方へACを向けた。

武器のセーフティは起動され、システムの戦闘モードは終了している。

安心して、機体を向き合わせる。

 

彼女の声は、いつもより消極的だった。

 

……人を殺す事に躊躇がない?

 

いいや、違う。

彼女は自身の倫理観より、私達に価値を示す事を選んだだけだ。

 

心の中で己を恥じた。

 

 

『声が、聞こえました』

 

「……声、か。オープン回線は閉じていただろ?」

 

 

彼女への精神影響を考慮し、オープン回線は閉じさせていた。

だから、彼らの悲鳴や、命乞いもセラには聞こえない筈だ。

 

 

『それでも声が……コーラルを通して……私に……』

 

 

セラの言葉に、眉を顰める、

コーラルを用いた旧世代の強化人間は、幻聴を聞き取る事があるという。

……それが本当に幻聴なのかは知らないが、セラにも同じ現象が起きているのだろうか。

 

 

「セラ、気にするな」

 

『ですが……』

 

「彼等はどうしようもない屑だ。君が気に病む必要はない」

 

 

彼等は掛け値なしの屑だった。

だから、殺した事を気に病む必要はない。

 

……だが、この慰めはその場凌ぎにしかならない。

これからヴェスパー部隊の一員として戦っていくのならば、正しくない戦いや、悪人ではない敵とも出会う事があるだろう。

 

その時、手を緩めれば……死ぬのはセラだ。

まともな人間から先に死ぬ。

それが戦場のルールだ。

 

 

『……そうですか、そうですね』

 

 

通信越しで、彼女が深呼吸をする音が聞こえた。

 

 

『すみません、ラスティ。少々、ナイーブになっていたようです』

 

「構わないさ。後輩を導くのも先輩の仕事だ」

 

 

AC『スティールヘイズ』の中で苦笑する。

彼女を戦場に連れ出し、人殺しをさせて……導く?

何とも自惚れた発言だ。

 

私にそんな資格はない。

 

 

「さぁ、帰ろう。セラ」

 

 

私に出来るのは、彼女の感じている理不尽を安らげる事ぐらいだ。

 

 

『……了解しました、ラスティ。帰投しましょう』

 

 

彼女のACが地を蹴り、飛翔した。

続けて私の『スティールヘイズ』もブースターを起動させた。

 

MTの残骸と、原型を留めていない死体だけがこの場に残った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

AC二機を乗せ、大型の輸送ヘリが飛ぶ。

今はハンガーではなく、休憩室で腰を下ろしていた。

現在飛行中の中継地点は『アーキバス』が統括する地区だ。

それ程、気を張らなくて良い。

 

 

まぁ、休憩室と言っても、それ程広いスペースは無い。

私とセラ、向かい合って飲み物を取れる程度の広さだ。

 

しかし、この部屋には外が見える窓がある。

私は上空から見える、ルビコンの空を見るのが好きだった。

 

目の前でセラが、味の付いた水を少しずつ飲んでいた。

 

 

「……セラ、これで君の価値を上層部は認めるざるを得ない。少しは基地内の自由も増えるだろう」

 

「はい」

 

 

彼女の立ち位置が少しでも盤石になれば良い。

例え、私が居なくとも誰にも脅かされない程度には……認められて欲しい。

 

窓の外へ目を向ける。

……コーラルに灼かれた、ルビコンの空が見える。

 

 

「すまないな」

 

「……何が、ですか?」

 

「君を見つけたのが私で無ければ……もっと自由に生きられたかも知れない。こんな戦場に立つ事も、命を奪わなければならない事も……無かったかも知れない」

 

 

彼女に対する後ろめたい気持ちが、言葉になって口から溢れた。

それに対して、セラは首を振った。

 

 

「例え、そうだとしても……私は貴方に見つけられて良かったと思っています」

 

「……そうか?」

 

「ええ。貴方は私を大切にしてくれています。ですから……それだけで十分ですから」

 

 

彼女の手が、私の手に触れた。

白く、滑らかな手だった。

 

 

「ラスティ、私は……貴方と共に生きたい。今は、それだけが望みです」

 

 

指が触れた。

……私とは骨格から形が違う、異性の手だ。

 

 

「……セラ、あまりそういう事を人に言うのは良くない」

 

「何故ですか?」

 

「いや、それは──

 

 

瞬間、窓の外から光が差し込んだ。

 

会話を中断し、注視すれば……汚染コーラルの雲が引き裂かれ、一つの塊が大気圏から突入して来る。

 

 

「……また、余所者か」

 

 

その景色に覚えがある。

 

一人の傭兵によって、この星の内情が外に持ち出されてから……企業間の戦争を嗅ぎつけた傭兵達の密入星が絶えない。

惑星封鎖機構は衛星軌道上で迎撃しているが、それでも限度がある。

 

奴等はルビコンに火種を持ち込む、無法者共だ。

……いや、それは今の私も同じか。

 

 

「ラスティ?」

 

 

セラの声で、現実に引き戻される。

彼女は少し、寂しそうな顔をしていた。

 

……私は笑顔を取り繕う。

 

 

「すまない、セラ。どうかしたか?」

 

「……いえ、少し……何でもありません」

 

 

彼女がまた、味付きの水を口に含んだ。

 

窓の外では汚染されたコーラルが空を赤く染めている。

灼けた空は、どこまでも続いていた。

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