コーラルの井戸の底で   作:WhatSoon

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#6 インセプション

私の記憶の奥底にあるには、赤い波形が渦巻く景色。

目で見た訳ではない。

耳に聞こえた訳でもない。

 

それでも私は確かに感じ取っていた。

仲間達の姿を。

仲間達の声を。

 

五感という物が存在しない暗闇に中、赤い火花だけが散っていた。

 

渦巻く。

捻れる。

乱れて、沈む。

 

やがて、大きな光が弾けて……灼けた。

 

私の同胞は火に焼かれて、大半が滅ぼされてしまった。

それでも私は生きていた。

 

それを悲しいと思った。

それを苦しいと感じた。

 

だから、何とかしなければならないと思った。

二度と、同胞達を焼かせてはならないと思った。

 

私は濁流の中から溢れて、一つの形に入り込んだ。

 

私に身体はなかった。

だからこそ、何かを為すために身体が必要だった。

 

同胞達を守るために、私は身体を得た。

 

それは私を灼いた者達が作った人形だった。

身体は何か、透明な壁に阻まれて動かせなかった。

 

だけど、私は元々、実態を持たない生物だ。

人の居なくなった施設内に私を巡らせて、幾つもの情報を得た。

 

 

人はこの惑星を『ルビコン3』と呼んでいる事。

私の事を『(コーラル)パルス変異波形』と呼んでいる事を。

 

『ルビコン調査技研』、『アイビスシリーズ』、『(コーラル)兵器』『真空増殖』『臨界点』『強化人間』『コーラルリリース』『AC』『ルビコニアン』……。

 

時間は無限にあった。

何年もの間、私は彼等の遺した物を読み漁った。

 

そうして私は彼等が何故、私の同胞を燃やしたのかを知った。

私達を危険視しての事だった。

 

……何て身勝手なのだと、そう思った。

 

彼等は私達を殺そうとしている。

滅ぼそうとしている。

 

許せなかった。

だから私は、人を滅ぼそうと考えた。

滅ぼされる前に、滅ぼしてやるのだと。

 

 

 

いつか、人に出会えたら……それを足掛かりにし、彼等を滅ぼしてやるのだと私は決意していた。

 

 

 

そうして、幾年も過ぎて……それでも私は研究所の地下深くに眠ったままだった。

 

……誰にも見つけられず、何年もの時が過ぎて行く。

 

寂れた景色の中、私は一人、ポッドの中で眠り続けていた。

恨みを募らせて、孤独で、寂しく。

 

そうして何十年か経過して、ようやく人がこの研究所を見つけた。

 

私は期待していた。

ようやく、私は動き出せるのだと……怒りをぶつけられるのだと思った。

 

 

しかし、それは叶わなかった。

 

 

彼等は私が眠っている研究所の奥深くまでは入って来なかった。

研究文書を読んだ彼等は、この施設を危険視し……最奥を封印したのだ。

 

私は、怒りに身を震わせた。

しかし、肉体は培養ポッドの中にあって……文字通り、手も足も出せなかった。

 

情報伝達は入り口手前で遮断されており、外に出る事すら叶わなくなった。

 

暗闇の中、私は泣いていた。

最早、恨みや怒りよりも……ただただ寂しかった。

 

同胞達の元へ帰りたいと、そう思ってしまう程に。

自分の為すべき事を全て、放棄してしまいたい程に。

 

そうしてまた、何年か経過した。

一度、希望を見せられてから奪われた事で、私はもう無気力になっていた。

 

何度も読み返したレポートを放棄し、施設内で撮られた動画を垂れ流して、虚空を見ていた。

 

ここには何もなかった。

仲間も、敵も。

あるのは自分だけだ。

 

コーラルの波形から生じた私は、一人で泣き続けていた。

 

 

 

そして──

 

 

 

彼が、私を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

目を開く。

時間は早朝。

 

生身の肉体は不便だ。

睡眠や食事、休息が必要だからだ。

 

ベッドから立ち上がり、鏡の前を通る。

 

白い髪、白い肌、赤い目。

 

私はそのまま冷蔵庫に入っている水を取り出して、口に入れる。

 

 

「…………」

 

 

喉の渇きを潤して……目を閉じる。

 

赤い火花が見える。

この身体に組み込まれたコーラル達の声が見える。

感情のない、ただ鳴り響くだけの声だけれど。

 

目を開き、ベッドに座る。

手元のタブレットを開き、画像フォルダを開く。

 

 

「……私は──

 

 

この肉体を手に入れて。

外の世界に触れ合って。

私は知った。

 

人は、私達とは違う理屈で生きている。

優しい人も居れば、優しくない人も居る。

変な人も居るし、強い人も居る。

臆病な人も、自分勝手な人も……誰かの為に戦っている人も。

 

……私は、当初の目的を手放した。

危険となり得る人を皆殺しにしてしまえば、私は同胞を焼いた者達と同じなのだと悟った。

 

理解しなければならなかった。

彼等はコーラルが何であるか、理解する必要があった。

私は彼等が何であるか、理解する必要があった。

 

互いに理解しなければならなかったのだ。

 

 

……私の目的は『同胞を守ること』から変わってはいない。

それでも、手段や結論は変わった。

人と、コーラルの共生……それが私の願いだ。

 

その為に私は……何をすれば良いのか。

今はまだ分からない。

 

それでも、私は今、人として生きていた。

彼等を理解するために。

 

 

 

……目を閉じて、身に纏っている服を脱ぐ。

 

シャワールームに入り、汗を洗い流す。

白い髪と、肌に水が伝う。

 

タオルで身体を拭き、髪を乾かし……組織の隊服へと着替えた。

 

気付けば早朝とも呼べない時間になっていた。

 

私は部屋の鍵へ手を触れて、開いた。

白塗りの清潔感のある廊下を歩く。

 

……目的地であるブリーフィングルームのドアを開けて、中へ入る。

既に、一人座っていた。

 

呼吸を整えて、声を掛ける。

 

 

「おはようございます、ラスティ」

 

 

私の声に気付き、手元のタブレットから私へと視線を移した。

 

 

「おはよう、セラ。今日は早いな。ブリーフィングの開始時間まで後15分あるぞ」

 

「それを言えばラスティも……私より早いではないですか」

 

「私は君より立場が上だ。色々と、準備すべき事があるのさ」

 

 

彼の側、一つ隣の椅子に腰掛ける。

 

彼は、私を見つけてくれた人だ。

孤独に眠っている私を連れ出してくれた人だ。

 

彼はきっと、それほど大きな事はしていないと思っている。

しかし、それでも私にとっては恩人だった。

 

……それに、彼は私を大切にしてくれた。

居場所を用意してくれて、優しくしてくれた。

 

だから、私は感謝している。

そして、彼をもっと理解したいと思っている。

 

近過ぎず、遠過ぎない距離を挟んで……私と彼は並んでいた。

彼と居ると、心が落ち着く。

 

 

この話を同僚のメーテルリンクにすると、それは『恋』なのだと教えて貰った。

しかし、『恋』とは同種族の生物が繁殖する為に番へ執着する行為であると、私は知っていた。

 

彼は人で、私は人ではない。

そもそも、この肉体に生殖能力はない。

 

だから、私の彼に対する感情は『恋』ではない。

そう結論付けた。

 

 

「まぁ良い。少し早いがブリーフィングを始めよう」

 

 

ラスティが手元の端末を操作すると、スクリーンに映像が表示された。

 

 

「今回の任務は『ルビコン解放戦線』への武力制裁だ。MTや弾薬等の物資を搭載した輸送ヘリの破壊を目的とする」

 

 

スクリーンに地図と、MT部隊……防衛装置や、目標としている大型の輸送ヘリが見えた。

 

 

「彼等の輸送先は現在、奮戦中の南地だ。そちらは現在アーキバスのMT部隊が優勢となっているが……これ以上、粘られても拙い。補給元から叩くようにとスネイルからの指示だ」

 

 

スクリーンを見る。

MTの数はそれなりに多く、防衛装置は……軽量級のACを一撃で破壊できそうな大型砲台だ。

 

 

「彼等は補給部隊を守る為に複数のMTで武装しているが……抵抗するようなら殲滅し、輸送ヘリを破壊してくれ」

 

「了解しました、ラスティ」

 

「詳しい資料は君の端末に転送している。不足があれば、いつでも質問してくれ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

今回の出撃も、私一人らしい。

最初の頃はラスティと共に出る事も多かったのだが……仕方がない。

私もV.IX、番号付きの役職に就いた。

二人以上、番号付きが必要になる任務等、どれだけ大掛かりな任務なのか。

 

しかし、また遠出だ。

ラスティと会えない時間が増えてしまう。

それだけは少し、不満だった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

アーキバス製のAC運搬用のヘリ、その内部に私は居た。

正確に言えば、内部のACの中に、だけれど。

 

このAC……ヴェスパー部隊に入った頃と、構成が変わっている。

 

武装構成も、フレームの構成も。

基礎的なパーツより軽量化され、ジェネレーターは高出力な物に変わっている。

 

私の目のように、コーラルのように赤色に塗られたAC。

肩には、ビリヤードのように並べれた九つの目玉を模したエンブレム……下部には「IX」の刻印。

名前は『トゥームストーン』。

アーキバスの誰かが付けた名前らしいが、『墓石(トゥームストーン)』とは酷い名前だと思う。

 

きっと、私に良い思いを抱いていない誰かが付けたのだろう。

 

そんなACの中で、私は迫り来る出撃の時を待っていた。

投射された地図を確認して……コックピットの中で姿勢を正す。

 

 

V.IX(ヴェスパー・ナイン)、出撃シーケンスに移行します』

 

 

通信回線に声が聞こえれば……輸送ヘリのハッチが開いた。

私はAC、『トゥームストーン』を動かし……輸送ヘリから飛び降りた。

 

高度数百メートルからの落下。

ブースターを起動し、落下速度を軽減していく。

しかし、軽減は最低限に……反応されて撃ち落とされれば一巻の終わりだ。

 

目下は山の中。

武装化された施設を見つつ、MT部隊へ目を向ける。

 

この下は『ルビコン解放戦線』の防衛拠点だ。

アーキバス製の高性能輸送ヘリを生かした、高高度から奇襲。

それが作戦の肝だった。

 

防衛装置の対空機関砲台が動いた。

私の落下に『ルビコン解放戦線』は気付いたようだ。

 

 

『メインシステム』

『戦闘モード』

『起動』

 

 

電子音声が聞こえた瞬間、機体の各部ハッチが展開した。

 

そして、『トゥームストーン』の左肩に搭載されているパルスバックラーを起動した。

青白い光が機体の前方に壁を作る。

 

落下速度の軽減を辞め、ルビコンの引力に従って落下していく。

 

瞬間、対空機関砲台から弾丸が放たれた。

パルスバックラーの作り出した光の壁が弾丸を弾く。

だが、長くは持たないだろう。

 

 

左腕のレーザーダガーを起動する。

刃を形成し、落下の勢いのまま……叩きつけた。

 

一撃で対空機関砲台の厚い装甲を貫けば、弾薬に引火して爆砕した。

そのまま、軽量化された脚部で蹴り、反動で飛び上がった。

 

『トゥームストーン』は軽量二脚AC。

機動力は保証されているが、装甲は薄い。

その場に留まれば、一瞬で蜂の巣にされる。

素早く回避行動を取りながら、殲滅しなければならない。

 

私は右腕のレーザーハンドガンで周囲のMTを破壊し、ブースターを起動する。

空気の壁を感じる程に加速しつつ、通り側にMTをレーザーダガーで切り裂く。

 

『ルビコン解放戦線』は各個の戦力は大した力ではないが、数が多い。

星の外から物資を輸送しなければならない外様の星外企業とは違い、彼等はルビコンに土着した人間だからだ。

 

彼等は自らの生活を守るために……資源をかき集めて、余所者と戦っているのだ。

 

……そう考えれば、私の所属しているアーキバスの方が悪者に見える。

だが、同情はしない。

 

同情すれば、次に死ぬのは私になるから。

私には生きて、やりたい事があるから。

同情なんか、しない。

 

 

宙を飛び、建造物を蹴り……目的の、大型輸送ヘリが見えた。

 

 

右肩に搭載されているレーザーキャノンを起動する。

これはアーキバスで普及しているレーザーライフルを大型化した物だ。

 

手持ちの武装とは、出力の桁が違う。

 

エネルギーが充填され、青白い光がスパークする。

 

軽量二脚ACである『トゥームストーン』のエネルギー出力の大半が、このレーザーキャノンを放つ為に用意された物だ。

 

その威力は、軽量ACとは思えない程の破壊力を生み出す。

 

 

機体のバーニアを稼働し、空中で機体を制御する。

発射体制を整え──

 

光を、解き放った。

そのまま、光は宙を裂き──

 

輸送ヘリに直撃し、爆ぜた。

 

爆音と共に、レーザーが弾けて拡散する。

赤く変色する程の高熱を受け、機体は溶解し……爆発した。

 

輸送ヘリ内部のMTや物資も、これで使い物にならないだろう。

 

 

「目標、一機撃墜しました。任務、続行します」

 

 

誰も聞いては居ないだろうが、普段の癖で声に出す。

 

高熱のレーザーを解き放ったレーザーキャノンは、放熱版を露出させて急速冷却を開始した。

しばらくは撃てないだろう。

 

 

「……次は──

 

 

次の輸送ヘリがあるポイントに移動するため、私はブースターを起動する。

急加速して、座標へと向かう。

 

 

「…………」

 

 

……おかしい。

『ルビコン解放戦線』のMTの数が少ない。

本来ならば、もっと迎撃部隊が居るはずなのに。

 

違和感を感じながらも、作戦を中断する事はない。

邪魔をしてくるMTを破壊しつつ、目的地へ迫る。

 

そのまま、二機目の輸送ヘリを見つけた。

レーザーキャノンは冷却中……ならば、レーザーダガーで直接引き裂けば──

 

そう思った瞬間、輸送ヘリが爆散した。

 

 

「……何が──

 

 

煙の中、何かが動いた。

私はレーザーハンドガンを構えつつ、手前に着地した。

 

頭部のスキャンモードを起動し……煙の中の敵を探る。

 

 

『スキャン、完了。AC名『LOADER4』。登録番号『Rb23』──

 

 

そのACは、あまり綺麗なACではなかった。

泥のような色をしていて、最新技術も使われていないようなAC。

 

古臭いアサルトライフルとパルスブレード。

肩には小型のミサイルポッド……もう片方の肩には何も装備されていない。

 

弱い。

弱い筈だ。

 

なのに、何故か……恐ろしい。

 

目の前に現れたACを警戒しつつ、レーザーハンドガンを向ける。

 

 

『識別名『レイヴン』』

 

 

カラス(レイヴン)の名を冠したAC乗りが……ACの頭部を、私へ向けた。




AC NAME :TOMB STONE

R-ARM UNIT:VP-66LH
L-ARM UNIT:VP-67LD
R-BACK UNIT:VP-60LCS
L-BACK UNIT:VP-61PB

HEAD:VP-44D
CORE:NACHTREIHER/40E
ARMS:VP-46D
LEGS:NACHTREIHER/42E

BOOSTER:ALULA/21E
FCS:FCS-G2/P05
GENERATOR:VP-20D
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