『スキャン、完了。AC名『
画面にスキャンから得られた情報が表示される。
『識別名『
電子音声が敵の情報を教えてくれる。
視界の隅に、逆さになった手のエンブレムが表示された。
そして、老人の……飼い主の声が聞こえる。
『621、警戒しろ。目の前に居るのはヴェスパー部隊の番号付きだ。今まで戦ったどんなACよりも脅威となり得る』
こちらのACに向けて、構えられている武装へ目を向ける。
レーザーハンドガンだ。
『しかし……ベイラムの依頼と、アーキバスの任務がバッティングしたか。杜撰だな』
ACは動かさず、飼い主の判断を仰ぐ。
『……こちらで、あのACと連絡を取ろう。だが621。いつでも反撃出来るよう意識しておけ』
◇◆◇
「…………」
レーザーハンドガンを向けているが、ACは微動だにしない。
見たところ、ルビコン解放戦線のMT部隊は壊滅しており、輸送ヘリも破壊されている。
このACが暴れた事により、私の任務は達成しているが……背を向けて撤退できるとは思えなかった。
得体の知れない威圧感が、目の前のAC……いや、AC乗りから感じる。
コイツは敵だ。
間違いなく、私を脅かす存在だ。
レーザーハンドガンの引き金を引──
瞬間、通信を受信した。
『……こちらはハンドラー・ウォルター。ヴェスパー第9隊長で違いないか?』
老人の声だ。
目の前のACから、一方的に通信を飛ばして来ている。
……私は少し迷いながらも、回線を開く。
「違いありません。私はV.IX セラです。貴方の所属と、目的を言ってください」
レーザーハンドガンは下げない。
……このACには、確実に先手で攻撃しなければならない。
『……私は、そこの独立傭兵『レイヴン』の代理だ。目的は……依頼の達成。『ルビコン解放戦線』の輸送ヘリの撃破だ』
私はコックピットの中で、眉を片方上げる。
私と同一の内容が、独立傭兵に依頼されている……?
独立傭兵とはつまり、どこの勢力にも属さない傭兵の事だ。
ならば……誰かが依頼したのならば……それは、アーキバスではない。
考え得るのは、アーキバスではない星外企業──
「……ベイラム・インダストリーからの依頼、ですか」
星外企業『ベイラム』。
私の所属している『アーキバス』と敵対している企業だ。
『そうだ。だが、こちらは戦う理由などない。ここは互いに手を引くべきだと打診する』
……確かに目の前のACは、敵対企業『ベイラム』からの依頼を受けている。
だが、本質は独立傭兵……ベイラムに所属している訳ではない。
ならば、私が戦う理由はない。
筈だ。
だが──
「却下します。貴方達の事は信用出来ません」
目の前のACが信用できない。
滲み出ている特殊な感覚……波形のような感触。
この目の前の人間が何者かは分からない。
だが、危険因子だ。
ここで見逃す訳にはいかない。
『交渉は決裂か。仕方あるまい』
瞬間、目に前のACが地面を蹴った。
ブースターを起動し、垂直に上昇する。
一手、遅れた。
アサルトライフルの弾丸が降り注ぐ。
頭上を取っての攻撃、成程、効率的だ。
だが、レーザーハンドガンを上に向けて連射する。
回避行動を取らせる事で、私に対する攻撃精度を落とさせる。
私のAC『トゥームストーン』も地面を蹴った。
後退しつつ、肩のレーザーキャノンを起動する。
会話中に既に冷却は済ませていたのだ。
レーザー武器は加熱されると冷却する必要がある。
私は、そのクールタイムを消費するために会話に付き合った。
無駄に会話していた訳ではない。
レーザーキャノンを、発射する。
閃光が敵ACへと迫り……瞬間、敵ACの脚部、腹部、背部のブーストが順次に稼働した。
空中で機体を制御し、半回転しながら回避行動を取った。
「……っ!?」
まるで曲芸のような回避に驚きながらも、私は背部のレーザーキャノンをパージした。
再度、発射が可能になるまで間に合わないと悟ったからだ。
この『トゥームストーン』はレーザーキャノンの出力を安定化させる為に、ジェネレーター出力の大半をレーザーキャノンへ利用している。
そして、レーザーキャノンはEN負荷だけではなく重量もある。
物理的にも、負荷的にも『重い』という事。
パージする事によって二重の重石を捨て、『トゥームストーン』の機動力を上昇させる。
頭上から、アサルトライフルが発射された。
地面を蹴り、ステップを踏みながら回避する。
距離を取り、頭上の有利を無効化し……向き合う。
瞬間、敵ACの肩からミサイルが発射された。
四発の小型のミサイルが、トゥームストーンへ向けて発射された。
……あのミサイルは誘導型。
私をロックオンして、追い回すだろう。
更に、敵ACは腕部のパルスブレードまで展開している。
ミサイルを盾にした近接戦闘を仕掛けてくる気か。
そうはさせない。
私はレーザーハンドガンでミサイルを二発、撃ち抜いた。
周りのミサイルまで巻き込み、誘爆した。
そしてそのまま、パルスバックラーを起動し、煙の中へ突っ込んだ。
敵ACに、衝突する。
パルスバックラーから発生した光の壁が、敵ACを押し返す。
瞬間、レーザーハンドガンを押し当てて──
蹴り上げられた。
「くっ……」
敵ACは、そのままブーストを吐き、体制を崩したこちらに接近してくる。
敵のパルスブレードは既に展開されている。
こちらもレーザーダガーを展開し……出力制限を取り払う。
剣身が伸びて──
光刃が交差した。
「……っ」
エネルギーが反発し合い、互いに距離を取る。
目を落とし、投射された自身の機体情報を確認する。
フレーム各部に軽度のダメージ……だが、敵ACも同等のダメージを受けている筈だ。
しかし、同等のダメージ……というのは問題だ。
敵ACは碌な装備ではない筈だ。
それを反射神経と戦闘センスのみで私に追従してくる。
「……厄介ですね」
V.I フロイトと対面している時と同じ……いや、不気味さだけならば、この目の前のAC乗りの方が上か……?
ただの独立傭兵の筈で、凡庸なACの筈なのに……異常だ。
……背部のパルスバックラーの冷却は完了した。
どう、詰めるべきか。
攻めあぐねていると──
コックピット内でアラートが鳴った。
熱源反応……?
咄嗟に地面を蹴り、熱源へと機体を向けた。
「……アレは──
『『惑星封鎖機構』の大型武装ヘリか……?』
敵ACと通信している代理人、ハンドラー・ウォルターが声を上げた。
大型武装ヘリ……非常に分厚い装甲と、複数の高火力兵器を搭載した戦闘用の巨大ヘリだ。
ACの数倍の大きさと、装甲……機動力はないが面倒な兵器だ。
だが、所詮は武装ヘリ。
小回りの効くACならば敵にはならない。
……一機ならば、これほど焦りはしないだろう。
目前には武装ヘリが四機。
編隊を組んで、こちらに向かってきていた。
瞬間、先頭の武装ヘリのロケットランチャーが発射された。
複数の弾頭が地上にいる私達を狙っている。
地を蹴り、背後にあった『ルビコン解放戦線』の拠点を踏み台にする。
独立傭兵も……どうやら、回避出来たようだ。
『……ヴェスパー第9隊長。ここは──
「停戦、ですね。良いでしょう」
惑星封鎖機構が何故、ここに……?
私達が襲撃する事を予測していたのだろうか?
……どこからか情報が漏れていたと思って良いだろう。
兎に角、ここは独立傭兵と争っている場合ではない。
私の所属している企業、そして彼のクライアントと共通の敵だ。
それに一人で相手するには数が多過ぎる。
『我々は右側の二機を相手する。そちらは左側を』
「……分かりました」
拠点を踏み砕き、宙へ飛ぶ。
ジェネレーターをフル稼働させ、機体背部のブースターを起動する。
パルスバックラーを展開しつつ、急加速して接敵する。
……敵は大型武装ヘリ。
武装は機体に固定されており、取り回しは悪い。
他機体の射線を相手している武装ヘリで遮りつつ、強襲する。
レーザーダガーを機体に押し付けながら、通り過ぎる。
……装甲が厚い。
表面しか切り裂けていないようだ。
結果論になるが、レーザーキャノンをパージしたのは拙かった。
火力が不足している。
……手数と知恵でカバーするしかない。
レーザーハンドガンをチャージしつつ、武装ヘリの下部へ滑り込む。
武装ヘリから離れた事で、別機体から機関砲が発射されるがパルスバックラーで防ぐ。
武装ヘリの下部にはロケットランチャーや、ミサイルポッドが搭載されている。
狙うべきは、そこだ。
レーザーハンドガンは実弾武器とは異なり、ジェネレーターの出力を上げる事で威力を上げる事が出来る。
勿論、その分、負荷が掛かり一定時間は使えなくなるが……今は、威力が必要だ。
出力を高めれば、ハンドガンの銃口がスパークした。
「……ここですね」
そのまま、機体の武装……ミサイルポッドへと光弾を連射した。
レーザーハンドガンの銃口が熱で赤く染まり、冷却モードになったが……狙い通り、ミサイルポッドの装甲を貫いた。
直後、強烈な爆発を引き起こした。
機体を左右に揺らし、回避行動を取りながら離れる。
「……まずは一機」
しかし、武装ヘリから離れた事で、もう一機の攻撃が激化する。
機関砲、ロケットランチャー、ミサイル……味方に当たる事を危惧して遠慮していた攻撃が、全て向かってくる。
瞬間、パルスバックラーを起動して攻撃を受け止めるが──
『AP 残り30%』
衝撃が機体を貫通した。
先程のACとの戦闘によるダメージが響いている……。
鳴り響くアラートに眉を顰めて、私はもう一機の武装ヘリへと接近する。
レーザーハンドガンは冷却中……先程のように弾薬に攻撃する事は出来ない。
レーザーダガーで誘爆させれば、私のACも危うい。
私は機体を急上昇させ……落下する。
武装ヘリは上方向への攻撃力が低い。
ブースターで落下速度に重ねつつ、急降下する。
落下速度に質量を伴わせ……武装ヘリの正面へ、足を突き立てた。
軋む音がした。
ACからも、武装ヘリからも。
「……整備班に叱られてしまいますね」
足を引き抜けば……武装ヘリの装甲がひしゃげていた。
レーザーダガーを起動し、コックピットがあるであろう部位へ突き立てる。
……レーザーの剣身が短くて、中枢には届かない。
片手に持っていたレーザーハンドガンを投げ捨て、腕部に結合しているレーザーダガーをパージする。
武装ヘリに突き刺さったままのレーザーダガーを……ACの拳で殴った。
機体に反動が返ってくるが……再度、両手で押し込んだ。
瞬間、武装ヘリの挙動が変わった。
機体の制御は失われ……フラフラと動き始めた。
……コックピットか、制御装置を破壊したのだろう。
武装ヘリが落下していく……私は武装ヘリを蹴り飛ばし、距離を取る。
武装ヘリは自由落下し……ルビコン解放戦線の拠点にぶつかり、爆発した。
「……こちらは片付きました。ハンドラー・ウォルター、そちらは──
瞬間、背後でも爆発が起きた。
……武装ヘリが二機、墜落していた。
どうやら、あの独立傭兵も武装ヘリを撃墜できたようだ。
AC『トゥームストーン』を、独立傭兵のAC『ローダー4』へ向ける。
……あちらも、機体の損傷は酷そうだ。
アサルトライフルは手に持っておらず、背部のミサイルポッドもひしゃげている。
あるのはパルスブレードだけ、だろう。
機体の表面には焦げた痕跡……満身創痍だ。
しかしそれは、私も同じだ。
いや、こちらに残っている武装は防御用のパルスバックラーのみ。
レーザーハンドガンは……今、どこに落ちているかも分からず、レーザーダガーは武装ヘリと共に爆散してしまった。
対して敵ACはパルスブレードを持っている。
『……ヴェスパー第9隊長』
「何でしょうか?」
拙い。
現状ではあれば、敵が有利。
徒手空拳で武装を持っているACを相手にするのは悪手だ。
『こちらは『アーキバス』と事を構えるつもりはない。ここで手打ちにしたい』
その提案に、安堵しつつ……不快に感じた。
「見逃す、という事でしょうか」
『いや……互いに戦う理由がない。それに『レイヴン』の名が『アーキバス』に売れるのであれば、それが理由になる』
眉を顰める。
目の前のAC乗り……独立傭兵『レイヴン』。
彼は間違いなく危険だ。
独立傭兵という事は、何処にも所属していないという事。
逆に言えば、何処とでも戦うという事。
……『アーキバス』に、『ヴェスパー部隊』に、『私の友人』に牙を剥けば……。
ここで殺すのが──
…………いや。
「良いでしょう。互いに傷を負っている身です。ここは引くとしましょう」
危険だからと排除するのは、この惑星を……コーラルを焼いた『彼ら』と同じだ。
私は、『彼ら』とは違う。
理解しなければならない。
目の前の独立傭兵を……『レイヴン』を。
「独立傭兵、レイヴンですね。名前は覚えました。いずれまた……敵対しない事を、私は願います」
『……善処しよう』
レイヴンに話しかけたつもりだが、代理人のハンドラー・ウォルターが言葉を返してきた。
さっきからそうだ。
……レイヴンは何かしら、言葉を話せない事情があるのだろうか?
訝しみつつ、パージしていたレーザーキャノンを拾い、戦域を離脱した。
空中で待機している『アーキバス』の輸送ヘリを目指して、私はコーラルで灼けた空を飛行した。
◇◆◇
『新着メッセージ、1件』
『独立傭兵レイヴン。先日はV.IXへの支援、ありがとうございました』
『……申し遅れました。私はアーキバスグループ傭兵起用担当、V.VIII ペイターと申します。以後、お見知り置きを』
『勝手ながら、V.IXの戦闘ログにて貴方の実力を査定させて頂きました。素晴らしい活躍が期待出来るでしょう』
『つきましては、一つ。貴方に受けて頂きたい依頼がございます』
『詳しくはV.II スネイル閣下から説明致します。目標は──
『ルビコン解放戦線の防衛の要。通称、『壁』の攻略となります』
『貴方からの、色よい返事を期待しています。それでは、よろしくお願いいたします』