コーラルの井戸の底で   作:WhatSoon

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#7 レイヴン

『スキャン、完了。AC名『TOMBSTONE(トゥームストーン)』。登録番号『Nb09』──

 

 

画面にスキャンから得られた情報が表示される。

 

 

『識別名『V.IX(ヴェスパー・ナイン) セラ』』

 

 

電子音声が敵の情報を教えてくれる。

視界の隅に、逆さになった手のエンブレムが表示された。

 

そして、老人の……飼い主の声が聞こえる。

 

 

『621、警戒しろ。目の前に居るのはヴェスパー部隊の番号付きだ。今まで戦ったどんなACよりも脅威となり得る』

 

 

こちらのACに向けて、構えられている武装へ目を向ける。

レーザーハンドガンだ。

 

 

『しかし……ベイラムの依頼と、アーキバスの任務がバッティングしたか。杜撰だな』

 

 

ACは動かさず、飼い主の判断を仰ぐ。

 

 

『……こちらで、あのACと連絡を取ろう。だが621。いつでも反撃出来るよう意識しておけ』

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

レーザーハンドガンを向けているが、ACは微動だにしない。

 

見たところ、ルビコン解放戦線のMT部隊は壊滅しており、輸送ヘリも破壊されている。

このACが暴れた事により、私の任務は達成しているが……背を向けて撤退できるとは思えなかった。

 

得体の知れない威圧感が、目の前のAC……いや、AC乗りから感じる。

コイツは敵だ。

間違いなく、私を脅かす存在だ。

 

レーザーハンドガンの引き金を引──

 

瞬間、通信を受信した。

 

 

『……こちらはハンドラー・ウォルター。ヴェスパー第9隊長で違いないか?』

 

 

老人の声だ。

目の前のACから、一方的に通信を飛ばして来ている。

……私は少し迷いながらも、回線を開く。

 

 

「違いありません。私はV.IX セラです。貴方の所属と、目的を言ってください」

 

 

レーザーハンドガンは下げない。

……このACには、確実に先手で攻撃しなければならない。

 

 

『……私は、そこの独立傭兵『レイヴン』の代理だ。目的は……依頼の達成。『ルビコン解放戦線』の輸送ヘリの撃破だ』

 

 

私はコックピットの中で、眉を片方上げる。

私と同一の内容が、独立傭兵に依頼されている……?

 

独立傭兵とはつまり、どこの勢力にも属さない傭兵の事だ。

ならば……誰かが依頼したのならば……それは、アーキバスではない。

 

考え得るのは、アーキバスではない星外企業──

 

 

「……ベイラム・インダストリーからの依頼、ですか」

 

 

星外企業『ベイラム』。

私の所属している『アーキバス』と敵対している企業だ。

 

 

『そうだ。だが、こちらは戦う理由などない。ここは互いに手を引くべきだと打診する』

 

 

……確かに目の前のACは、敵対企業『ベイラム』からの依頼を受けている。

だが、本質は独立傭兵……ベイラムに所属している訳ではない。

 

ならば、私が戦う理由はない。

筈だ。

 

だが──

 

 

「却下します。貴方達の事は信用出来ません」

 

 

目の前のACが信用できない。

滲み出ている特殊な感覚……波形のような感触。

この目の前の人間が何者かは分からない。

 

だが、危険因子だ。

ここで見逃す訳にはいかない。

 

 

『交渉は決裂か。仕方あるまい』

 

 

瞬間、目に前のACが地面を蹴った。

ブースターを起動し、垂直に上昇する。

 

一手、遅れた。

 

アサルトライフルの弾丸が降り注ぐ。

頭上を取っての攻撃、成程、効率的だ。

 

だが、レーザーハンドガンを上に向けて連射する。

回避行動を取らせる事で、私に対する攻撃精度を落とさせる。

 

私のAC『トゥームストーン』も地面を蹴った。

後退しつつ、肩のレーザーキャノンを起動する。

 

会話中に既に冷却は済ませていたのだ。

レーザー武器は加熱されると冷却する必要がある。

 

私は、そのクールタイムを消費するために会話に付き合った。

無駄に会話していた訳ではない。

 

レーザーキャノンを、発射する。

閃光が敵ACへと迫り……瞬間、敵ACの脚部、腹部、背部のブーストが順次に稼働した。

 

空中で機体を制御し、半回転しながら回避行動を取った。

 

 

「……っ!?」

 

 

まるで曲芸のような回避に驚きながらも、私は背部のレーザーキャノンをパージした。

再度、発射が可能になるまで間に合わないと悟ったからだ。

 

この『トゥームストーン』はレーザーキャノンの出力を安定化させる為に、ジェネレーター出力の大半をレーザーキャノンへ利用している。

そして、レーザーキャノンはEN負荷だけではなく重量もある。

 

物理的にも、負荷的にも『重い』という事。

パージする事によって二重の重石を捨て、『トゥームストーン』の機動力を上昇させる。

 

頭上から、アサルトライフルが発射された。

地面を蹴り、ステップを踏みながら回避する。

 

距離を取り、頭上の有利を無効化し……向き合う。

 

 

瞬間、敵ACの肩からミサイルが発射された。

四発の小型のミサイルが、トゥームストーンへ向けて発射された。

 

……あのミサイルは誘導型。

私をロックオンして、追い回すだろう。

 

更に、敵ACは腕部のパルスブレードまで展開している。

ミサイルを盾にした近接戦闘を仕掛けてくる気か。

 

 

そうはさせない。

 

私はレーザーハンドガンでミサイルを二発、撃ち抜いた。

周りのミサイルまで巻き込み、誘爆した。

 

そしてそのまま、パルスバックラーを起動し、煙の中へ突っ込んだ。

 

敵ACに、衝突する。

パルスバックラーから発生した光の壁が、敵ACを押し返す。

瞬間、レーザーハンドガンを押し当てて──

 

 

蹴り上げられた。

 

 

「くっ……」

 

 

敵ACは、そのままブーストを吐き、体制を崩したこちらに接近してくる。

敵のパルスブレードは既に展開されている。

 

こちらもレーザーダガーを展開し……出力制限を取り払う。

剣身が伸びて──

 

 

光刃が交差した。

 

 

「……っ」

 

 

エネルギーが反発し合い、互いに距離を取る。

目を落とし、投射された自身の機体情報を確認する。

フレーム各部に軽度のダメージ……だが、敵ACも同等のダメージを受けている筈だ。

 

しかし、同等のダメージ……というのは問題だ。

 

敵ACは碌な装備ではない筈だ。

それを反射神経と戦闘センスのみで私に追従してくる。

 

 

「……厄介ですね」

 

 

V.I フロイトと対面している時と同じ……いや、不気味さだけならば、この目の前のAC乗りの方が上か……?

ただの独立傭兵の筈で、凡庸なACの筈なのに……異常だ。

 

……背部のパルスバックラーの冷却は完了した。

どう、詰めるべきか。

 

 

攻めあぐねていると──

 

 

コックピット内でアラートが鳴った。

 

 

熱源反応……?

咄嗟に地面を蹴り、熱源へと機体を向けた。

 

 

「……アレは──

 

『『惑星封鎖機構』の大型武装ヘリか……?』

 

 

敵ACと通信している代理人、ハンドラー・ウォルターが声を上げた。

 

大型武装ヘリ……非常に分厚い装甲と、複数の高火力兵器を搭載した戦闘用の巨大ヘリだ。

ACの数倍の大きさと、装甲……機動力はないが面倒な兵器だ。

 

だが、所詮は武装ヘリ。

小回りの効くACならば敵にはならない。

 

……一機ならば、これほど焦りはしないだろう。

 

目前には武装ヘリが四機。

編隊を組んで、こちらに向かってきていた。

 

瞬間、先頭の武装ヘリのロケットランチャーが発射された。

複数の弾頭が地上にいる私達を狙っている。

 

地を蹴り、背後にあった『ルビコン解放戦線』の拠点を踏み台にする。

独立傭兵も……どうやら、回避出来たようだ。

 

 

『……ヴェスパー第9隊長。ここは──

 

「停戦、ですね。良いでしょう」

 

 

惑星封鎖機構が何故、ここに……?

私達が襲撃する事を予測していたのだろうか?

 

……どこからか情報が漏れていたと思って良いだろう。

 

兎に角、ここは独立傭兵と争っている場合ではない。

私の所属している企業、そして彼のクライアントと共通の敵だ。

 

それに一人で相手するには数が多過ぎる。

 

 

『我々は右側の二機を相手する。そちらは左側を』

 

「……分かりました」

 

 

拠点を踏み砕き、宙へ飛ぶ。

ジェネレーターをフル稼働させ、機体背部のブースターを起動する。

パルスバックラーを展開しつつ、急加速して接敵する。

 

……敵は大型武装ヘリ。

武装は機体に固定されており、取り回しは悪い。

 

他機体の射線を相手している武装ヘリで遮りつつ、強襲する。

同士討ち(フレンドリーファイア)を恐れて、攻撃できないだろう。

 

レーザーダガーを機体に押し付けながら、通り過ぎる。

 

……装甲が厚い。

表面しか切り裂けていないようだ。

 

結果論になるが、レーザーキャノンをパージしたのは拙かった。

火力が不足している。

 

 

……手数と知恵でカバーするしかない。

 

 

レーザーハンドガンをチャージしつつ、武装ヘリの下部へ滑り込む。

武装ヘリから離れた事で、別機体から機関砲が発射されるがパルスバックラーで防ぐ。

 

武装ヘリの下部にはロケットランチャーや、ミサイルポッドが搭載されている。

狙うべきは、そこだ。

 

レーザーハンドガンは実弾武器とは異なり、ジェネレーターの出力を上げる事で威力を上げる事が出来る。

勿論、その分、負荷が掛かり一定時間は使えなくなるが……今は、威力が必要だ。

 

出力を高めれば、ハンドガンの銃口がスパークした。

 

 

「……ここですね」

 

 

そのまま、機体の武装……ミサイルポッドへと光弾を連射した。

 

レーザーハンドガンの銃口が熱で赤く染まり、冷却モードになったが……狙い通り、ミサイルポッドの装甲を貫いた。

 

直後、強烈な爆発を引き起こした。

機体を左右に揺らし、回避行動を取りながら離れる。

 

 

「……まずは一機」

 

 

しかし、武装ヘリから離れた事で、もう一機の攻撃が激化する。

機関砲、ロケットランチャー、ミサイル……味方に当たる事を危惧して遠慮していた攻撃が、全て向かってくる。

 

瞬間、パルスバックラーを起動して攻撃を受け止めるが──

 

 

『AP 残り30%』

 

 

衝撃が機体を貫通した。

先程のACとの戦闘によるダメージが響いている……。

 

鳴り響くアラートに眉を顰めて、私はもう一機の武装ヘリへと接近する。

レーザーハンドガンは冷却中……先程のように弾薬に攻撃する事は出来ない。

レーザーダガーで誘爆させれば、私のACも危うい。

 

私は機体を急上昇させ……落下する。

武装ヘリは上方向への攻撃力が低い。

 

ブースターで落下速度に重ねつつ、急降下する。

落下速度に質量を伴わせ……武装ヘリの正面へ、足を突き立てた。

 

軋む音がした。

ACからも、武装ヘリからも。

 

 

「……整備班に叱られてしまいますね」

 

 

足を引き抜けば……武装ヘリの装甲がひしゃげていた。

 

レーザーダガーを起動し、コックピットがあるであろう部位へ突き立てる。

……レーザーの剣身が短くて、中枢には届かない。

 

片手に持っていたレーザーハンドガンを投げ捨て、腕部に結合しているレーザーダガーをパージする。

 

武装ヘリに突き刺さったままのレーザーダガーを……ACの拳で殴った。

機体に反動が返ってくるが……再度、両手で押し込んだ。

 

瞬間、武装ヘリの挙動が変わった。

機体の制御は失われ……フラフラと動き始めた。

 

……コックピットか、制御装置を破壊したのだろう。

武装ヘリが落下していく……私は武装ヘリを蹴り飛ばし、距離を取る。

 

武装ヘリは自由落下し……ルビコン解放戦線の拠点にぶつかり、爆発した。

 

 

「……こちらは片付きました。ハンドラー・ウォルター、そちらは──

 

 

瞬間、背後でも爆発が起きた。

……武装ヘリが二機、墜落していた。

 

どうやら、あの独立傭兵も武装ヘリを撃墜できたようだ。

 

AC『トゥームストーン』を、独立傭兵のAC『ローダー4』へ向ける。

 

 

……あちらも、機体の損傷は酷そうだ。

アサルトライフルは手に持っておらず、背部のミサイルポッドもひしゃげている。

あるのはパルスブレードだけ、だろう。

 

機体の表面には焦げた痕跡……満身創痍だ。

しかしそれは、私も同じだ。

 

いや、こちらに残っている武装は防御用のパルスバックラーのみ。

レーザーハンドガンは……今、どこに落ちているかも分からず、レーザーダガーは武装ヘリと共に爆散してしまった。

 

対して敵ACはパルスブレードを持っている。

 

 

『……ヴェスパー第9隊長』

 

「何でしょうか?」

 

 

拙い。

現状ではあれば、敵が有利。

徒手空拳で武装を持っているACを相手にするのは悪手だ。

 

 

『こちらは『アーキバス』と事を構えるつもりはない。ここで手打ちにしたい』

 

 

その提案に、安堵しつつ……不快に感じた。

 

 

「見逃す、という事でしょうか」

 

『いや……互いに戦う理由がない。それに『レイヴン』の名が『アーキバス』に売れるのであれば、それが理由になる』

 

 

眉を顰める。

目の前のAC乗り……独立傭兵『レイヴン』。

 

彼は間違いなく危険だ。

独立傭兵という事は、何処にも所属していないという事。

逆に言えば、何処とでも戦うという事。

 

……『アーキバス』に、『ヴェスパー部隊』に、『私の友人』に牙を剥けば……。

 

ここで殺すのが──

 

 

 

…………いや。

 

 

 

「良いでしょう。互いに傷を負っている身です。ここは引くとしましょう」

 

 

危険だからと排除するのは、この惑星を……コーラルを焼いた『彼ら』と同じだ。

私は、『彼ら』とは違う。

 

理解しなければならない。

目の前の独立傭兵を……『レイヴン』を。

 

 

「独立傭兵、レイヴンですね。名前は覚えました。いずれまた……敵対しない事を、私は願います」

 

『……善処しよう』

 

 

レイヴンに話しかけたつもりだが、代理人のハンドラー・ウォルターが言葉を返してきた。

さっきからそうだ。

 

……レイヴンは何かしら、言葉を話せない事情があるのだろうか?

訝しみつつ、パージしていたレーザーキャノンを拾い、戦域を離脱した。

 

空中で待機している『アーキバス』の輸送ヘリを目指して、私はコーラルで灼けた空を飛行した。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『新着メッセージ、1件』

 

『独立傭兵レイヴン。先日はV.IXへの支援、ありがとうございました』

 

『……申し遅れました。私はアーキバスグループ傭兵起用担当、V.VIII ペイターと申します。以後、お見知り置きを』

 

『勝手ながら、V.IXの戦闘ログにて貴方の実力を査定させて頂きました。素晴らしい活躍が期待出来るでしょう』

 

『つきましては、一つ。貴方に受けて頂きたい依頼がございます』

 

『詳しくはV.II スネイル閣下から説明致します。目標は──

 

『ルビコン解放戦線の防衛の要。通称、『壁』の攻略となります』

 

『貴方からの、色よい返事を期待しています。それでは、よろしくお願いいたします』

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