励みになってます。
私はヴェスパー部隊用のブリーフィングルームで、端末を開く。
静脈認証すれば『V.IV ラスティ』と表示されて、画面が開く。
そのまま私は、特務資料を表示させた。
企業達が『壁越え』と呼んでいる作戦。
それは『ルビコン解放戦線』が武装化した要衝……通称『壁』と呼ばれる要塞の攻略である。
山々を塞ぐ壁状の要塞であり、企業の物資運搬などを阻害している。
多数の固定砲台、MT部隊……そして、壁上には重装機動砲台『ジャガーノート』が控えている。
地上での突破も、上空からの突破も困難な難所……それが『壁』だ。
これには『アーキバス』も、敵対企業である『ベイラム』も煮湯を飲まされている。
どちらが『壁越え』を先に果たすか……と、競い合っているのが現状だ。
『壁』を再利用できれば、コーラル争奪戦で有利に進められる。
企業達は我先にと侵攻準備をしていた。
そして、昨日……『ベイラム』が飼っているAC部隊『レッドガン』とMT部隊による『壁越え』が行われた。
結果は惨敗。
参加した『レッドガン』のメンバーが1名死亡し、MT部隊も壊滅している。
それだけ、あの防壁は強固だという事だろう。
しかし、『ベイラム』の失態は『アーキバス』に取って好機でもある。
彼等の侵攻は失敗したが、『ルビコン解放戦線』も無傷とはいかない。
……事実、『ルビコン解放戦線』のNo.2……帥叔ミドル・フラットウェルから伝達があった。
アーキバスからの侵攻に合わせて、最悪の場合は『壁』を放棄する、と。
ここで徹底抗戦した所で、恐らくは……悪戯に被害を増やすだけだ。
そして、アーキバスから情報が流れている事を悟られないよう……既に、主要部隊は様々な理由をつけて離脱したらしい。
『ルビコン解放戦線』が所持している、数少ないAC乗りも防衛には参戦させないそうだ。
つまり、現在『壁』に残っているのは……捨て駒という事だ。
非情な決断だ。
だが、力無きルビコニアンには必要な決断だ。
何かを捨てられない者には、何かを得る事は出来ない。
我々はまだ、ルビコンを解放させるには力が足りない。
今はまだ、力を蓄える時だ。
そうだ。
我々には、御旗が必要なのだ。
ルビコンを解放するには、現在のトップである帥父サム・ドルマヤンでは駄目だ。
彼には決断力が足りていない。
純粋な力……そして、どこまでも飛べるような翼……この、ルビコンの灼けた空の向こうまで飛び立てる存在が必要だ。
私では足りない。
帥叔ミドル・フラットウェルでも足りない。
もう一手、必要だ。
そこをセラに期待していた。
実力はある、将来性も。
だが、彼女は……穏やか過ぎる。
争い事に向いていない。
……このヴェスパー部隊に居る事ですら、相応しくないと思っている。
争い事など知らない場所で、生きていて欲しいと願う程に。
……いや、私が彼女に争って欲しくないだけか。
私はタブレットの電源を落とし、席を立った。
今回の『壁越え』には、私が参加する。
セラは別稼働として、増援部隊を叩く。
直接的に『壁越え』を果たすのは私だ。
……いや、それともう一人。
セラと戦い、同等以上の力量を見せた独立傭兵……『レイヴン』。
彼も私と共に『壁越え』を行う。
……しかし、『レイヴン』か。
その名は知っている。
彼がセラと戦う前からだ。
この惑星、ルビコンの外にコーラルの情報を持ち出した主犯の名前だ。
だが、死んだ筈だ。
……ならば何故、生きている?
亡霊ではないだろう。
……死人を騙る傭兵に違いない。
そして、代理人はあの『ハンドラー・ウォルター』だ。
只の騙りではあるまい。
……だが、まぁ良い。
重要なのは名前ではなく、その背景だ。
一体何を背負って、何故戦うのか。
私はそれが知りたい。
◇◆◇
『街区防衛部隊に報告!裏手にもACが──
AC、スティールヘイズの右腕装備……バーストハンドガンで四脚の重装甲MTを撃墜する。
『クソッ、何が起きて──
『何を考えているんだ!俺は帥叔のファイルを見──
戸惑う同胞達を、撃つ。
『コーラルよ!ルビコンと共にあれ!』
ルビコン解放戦線の兵士が、警句を唱えながら吶喊してくる。
すれ違いざまにレーザースライサーで引き裂き、離脱する。
機体が爆散し、中に居た兵士は即死だろう。
「……灰に塗れた警句をいくら唱えたところで、そこにはルビコンを変える力などない」
帥父サム・ドルマヤンの警句を口にしても、言葉は言葉でしかない。
力無きルビコニアンを奮い立たせても、無力には変わりない。
彼等は、このルビコンを解放したいと願う同胞ではある。
だが、今はまだヴェスパー部隊の第4隊長という立場が必要なのだ。
……謝罪はしない。
彼等の望みを背負い、それを叶える事。
それだけが贖罪となる。
「……この場は片付いたようだな」
焼け焦げたジャンクと化したMT達を見渡し、手元を確認する。
味方である独立傭兵『レイヴン』の位置情報を確認すれば……成程、既に壁の内部へと侵入しているらしい。
……期待通り。
いや、期待以上……と言った所か。
通信回線を開き、『レイヴン』へと飛ばす。
「聞こえるか。こちらV.IV ラスティ」
『…………』
相手からは返答はない。
しかし、何かが動く音が聞こえる。
……セラの言っていた通りだな。
この『レイヴン』、言葉を交わすつもりがないのか……それとも、言葉を交わせないのか。
気にせず、言葉を紡ぐ。
「どうやら、話に聞くより出来るらしい。こちらもスピードを上げていく」
『…………』
そのまま通信回線が遮断された。
……世辞を言ったつもりではなかったが、相手が好意的になっているのか、不機嫌なのかも分からないのは……少し、やり辛いな。
まぁ、いい。
「彼だけに『壁越え』はさせない。悪いが急がせてもらう」
私は、壁に搭載された砲台へ目を向けた。
◇◆◇
「……ラスティ」
破壊された大型の輸送ヘリを踏み、私は遠く離れた『壁』へ目を向けた。
足元にあるのはアーキバスの壁越えを妨害しようと、増援に向かおうとしていた『ルビコン解放戦線』だ。
数は多いが、質は悪い。
しかし……あの『壁』。
上部に待機している重装機動砲台『ジャガーノート』は厄介な兵器だ。
前面の装甲は攻撃を通さない程に硬く、分厚い。
その分、背後からの攻撃には弱いだろうが……重装機動砲台の名は伊達ではなく、背後を取らせないように立ち回るだろう。
単機での攻略は困難……だが、ラスティはV.IVだ。
敗北はないだろう。
だが……独立傭兵『レイヴン』。
彼はどうだ?
彼も『ジャガーノート』に遅れを取るとは思わない。
私が懸念しているのは別だ。
あの得体の知れない傭兵が、ラスティに牙を剥けば……。
アーキバスに雇われている以上、あり得ない話だが、絶対にないとは言い切れない。
そう考えれば、少し不安になってしまう。
……いや、心配するよりも報告が先だ。
息を深く吐き、通信回線を開く。
「こちらV.IX セラ。増援部隊の殲滅が完了しました」
『……確認しました。こちらV.II スネイル。その場で待機を──
スネイルが言葉を詰まらせた。
思わず、訝しむ。
「どうかしましたか?」
『いえ、そうですね……V.IX、貴方も『壁越え』の手伝いをしなさい。独立傭兵とV.IVは既に内部まで進行しています』
「……了解しました。V.IX セラ、作戦を続行します」
通信回線を切る。
……何故、今更『壁越え』の手伝いを?
スネイルは何か企んでいるのか?
……いや、それでもラスティの手助けが出来るのであれば、悩んでいる暇はないだろう。
私はAC『トゥームストーン』のブースターを最大稼働し、スクラップの山から飛び出した。
◇◆◇
重装機動砲台『ジャガーノート』。
複数の車輪の上に強固な装甲と、大口径の砲台を取り付けた戦車だ。
ミドル・フラットウェルから聞いてはいたが、随分と頑丈そうな作りだ。
旧時代的な兵器だが、侮る事は出来ない。
そんな兵器の前に、ACが一機立っていた。
私はそのACの側に『スティールヘイズ』を着地させた。
「君がレイヴンか。V.IX……セラが世話になったと聞いている」
『…………』
やはり会話は出来ない。
だが……彼は旧世代の強化人間か?
不思議と、その感情が読み取れる。
コーラル神秘主義者ではないつもりだが……何か、彼の感情が目で見える気がした。
「……君は、あのハンドラー・ウォルターの子飼いらしいな」
目の前の傭兵の飼い主は『ハンドラー・ウォルター』だ。
複数の強化人間……通称『
彼はその内の一人、という事だろう。
「これも巡り合わせだ。共に、壁越えといこうじゃないか」
『…………』
レイヴンからは、同意するような意思が感じられた。
少なくとも、私を味方だと認識してくれたようだ。
『ジャガーノート』が、こちらに迫ってくる。
「来るぞ……轢かれるなよ」
左右に散開し、私とレイヴンは『ジャガーノート』への攻撃を始めた。
◇◆◇
『壁』の頂上で、二機のACが『ジャガーノート』の相手をしている。
ラスティとレイヴン、その二人のACだ。
ブースターを停止させ、気付かれないよう離れた位置に着地する。
隠れて、二人の戦いを見学する。
彼等はジャガーノートを挟み込むように旋回し、走行の薄い背部への攻撃を蓄積させている。
機動力の高いAC、スティールヘイズに乗っているラスティが囮となる事で、レイヴンは攻撃に集中できているのだろう。
ラスティはレイヴンを庇うように立ち回っている。
レイヴンはジャガーノートの意識が向き過ぎないように、攻撃頻度を調整している。
上手い。
一目でそう思った。
だが何故か、少し苛立つ。
……危うげもなく敵を倒せるのに、何を苛立つ必要があるのだろうか。
自分でも分からな──
いや……これは、そうか。
『嫉妬』という奴か。
ヴェスパー部隊の複数投入という大型の任務は稀にしか発生しない。
私も、ラスティと肩を並べて戦った事はない。
それなのに──
しかも、あのレイヴンと──
不快だ。
……息を深く吐き、目を閉じる。
「……いけないですね。冷静さを失っては」
苛立ちを振り払い、ACトゥームストーン背部のレーザーキャノンを起動する。
ジェネレーターと連結し、エネルギーを充填する。
瞬間、隠れていた場所から飛び出し、ジャガーノートの背部にレーザーキャノンを発射した。
レイヴンは私に気付いていたようで、既に距離を取っていた。
光がジャガーノートに直撃した。
……どうやら、あの装甲は銃弾や爆発には強いようだが、エネルギー兵装には弱いようだ。
明らかにジャガーノートの動きが鈍った。
通信回線が開く。
『セラ!?何故ここに──
「V.II スネイルからの指示です」
『スネイルからの……?』
ジャガーノートがロケットランチャーを周りに発射した。
直撃は狙わず爆風による仕切り直しを狙っているのだろう。
『くっ、まぁ良い。それなら君も──
ラスティが駆るスティールヘイズがブーストを吐き、ジャガーノートから離れた。
『なっ……スネイル!?……っ、了解した』
何やら、誰か……恐らくスネイルと通信していたらしい。
青い機体の頭部が、私へ向いた。
『セラ、司令部のスネイルから伝達があった。壁内部の残党がこちらに迫ってきているらしい』
「それは……そうなのですか?」
壁の内部に、残党?
私は増援部隊を排除している。
完全に元から、壁内部に隠れていたのだろうか?
もしそうならば、何故、最初から攻撃しなかった?
私の疑念に、ラスティも気付いているらしい。
少し声のトーンを落とした。
『……『そう』らしい。悪いが君達にここを任せる』
「……了解しました、ラスティ。ご武運を」
『それは私の台詞だ……死ぬなよ』
通信が切断され、ラスティが離脱した。
壁内部に戻り、その残党を落としに行くらしい。
私は空中で素早く旋回し、レイヴンの隣に着地した。
「二度目の協力になりますが……貴方に協調性は求めません。個人の技能で、あの兵器に方を付けましょう」
『…………』
レイヴンは言葉を返さなかった。
だが、彼の同意が『目で』『聞こえた』。
旧型の強化人間はコーラルを体に内包している。
私のようにコーラルを視認できる存在ならば、感情を読むことも出来る。
彼のAC『ローダー4』の隣に、私のAC『トゥームストーン』を並べる。
以前見た武装とは異なっている。
右肩に装備していたミサイルは左肩に、空いた右肩には……二連装のグレネードランチャーを装備していた。
スラスターの炎の色も変わっている。
ジェネレーターの燃焼効率が上がった……という事か。
どうやら、以前よりは装備もマシになっているようだ。
重装機動砲台、ジャガーノートがこちらに向けて走り出した。
機関砲を乱射し、ロケットランチャーが放たれる。
私とレイヴンは示し合わせた訳でもなく、互いに反対方向に避けた。
ジャガーノートは……私を追うつもりか。
「……舐められたものですね」
機関砲をパルスバックラーで防ぎつつ、回避行動を取る。
ミサイルとロケットランチャーの直撃は避けなければならない。
爆発によってパルスバックラーを貫通し機体にダメージが入ってしまうだろう。
絶え間ない機関砲の掃射に気を取られつつも、ロケットランチャーを回避する。
高誘導のミサイルは機体に引き寄せて、ギリギリで回避する必要がある。
気を抜けない。
「……流石はラスティ、ですね」
彼のACにはパルスバックラーが装備されていない。
機関砲すら回避し続ける必要があっただろう。
だが、私が見た限り彼のAC、スティールヘイズは無傷だった。
それは卓越した技量と、高速戦闘に追従する思考速度が為せる技だろう。
V.IVに相応しい技量だ。
勝手に少し、誇らしく感じてしまう。
私は機体を上昇させ、レーザーキャノンを構える。
エネルギー供給は控えさせ……出力は絞る。
正面からでは、ジャガーノートへの有効打にはならない。
だから狙いは攻撃ではなく、目眩しだ。
質より、量を優先する。
右手のレーザーハンドガンと共に、出力を絞ったレーザーキャノンを連射する。
ジャガーノートは壁のような形状をした戦車だが、必ずどこかに外部を確認するためのカメラがある。
それを光で撹乱する。
結果、宙を舞う私に向けて攻撃を乱射しているが……あらぬ方向へと弾を飛ばしている。
これならば回避も容易くなる。
そい考えた瞬間、ジャガーノートの背後へ、レイヴンがパルスブレードを叩きつけた。
だが、前面より装甲が薄いとはいえ、重装機動砲台の名前は伊達ではない。
致命傷にはなり得ない。
しかし、それもレイヴンには想定済みだったのだろう。
アサルトライフルを構え、密着した状態でジャガーノートに発射した。
何度も、何度も炸裂音が聞こえる。
やがて、ジャガーノートに衝撃が蓄積されていたのか、脚部のキャタピラが悲鳴を上げた。
姿勢を崩した。
間違いなく、今は動けない。
レイヴンはジャガーノートの背部を蹴り、反動で距離を取った。
そして、右肩に装備されている二連装のグレネードランチャーを構えた。
瞬間、私は巻き込まれないようにジャガーノートから離れた。
直後……グレネードランチャーが二発、ジャガーノートに向けて発射され──
炸裂した。
流石に装甲が分厚くとも、あの威力は受け止められない。
ジャガーノートの装甲は破れ、機体内部の弾薬に引火していく。
小さな爆発が、ジャガーノートに内部から連続で発生している。
『コ──ル──共に──あ──
『誰か──あぁ──
耳に、彼らの断末魔の叫びが……彼等が口にしていたコーラルを通して、聞こえてくる。
「…………」
……嫌な気分だ。
自分がどれだけ身勝手な事をしているのか、理解してしまうからだ。
直後、ジャガーノートは破片を撒き散らし、爆散した。
中に居たパイロットの声も、もう聞こえない。
爆炎に呑み込まれ、焼け死んだのだろう。
粉々になり原型を留めていないジャガーノートを、私は見下ろした。
……目を閉じて、機体の中で……私は黙祷した。
彼等は立場が違っただけで、私と同じルビコンで生まれた……ルビコニアンだからだ。
人とコーラル……異なる生物だが、それでも私達はルビコンで生まれた隣人だ。
それを殺したのだから……頭を下げるぐらい、したくもなる。
そして、黙祷後……独立傭兵『レイヴン』へと顔を向けた。
「貴方には言いたい事がありました、が……まぁ、良いです。今は無事に生き残れた事を喜びましょう」
色々と口にしたい事があったが、今は……壁の頂上から見えるルビコンの空を見ていたい。
この空の美しさに、言葉は無粋だ。
どこまでも、コーラルに灼けた空が……地平の果てまで続いていた。
◇◆◇
『新着メッセージ、1件』
『やぁ、レイヴン。こちらV.IVラスティだ』
『まずは『壁越え』について、君の協力に感謝しよう。噂に勝る腕前だった』
『……それと、共に戦った縁だ。ひとつ伝えておこう』
『『壁越え』でアーキバスは……君と、V.IXを捨て駒にするつもりだった』
『まず、君についてだが……『壁越え』の立役者になるであろう君が死ねば、功績を『アーキバス』が独占できると考えたからだ』
『そして、V.IX。セラについてだが……彼女は、上の連中……いや、その一部から危険視されている。君は知らないだろうが……彼女は少し、特殊な立ち位置でね』
『……すまない、話が逸れたな』
『兎に角、君と彼女は生き残った。上の連中は君達を過小評価していた訳だ』
『だが『壁』は落ちた。上の連中も君の名を覚える気になるだろう。この私や、彼女と同じようにね』
『ではまた、会おう。次に相対する時も、敵ではない事を願わせて貰おうか……『戦友』』