コーラルの井戸の底で   作:WhatSoon

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#9 ヴェスパー部隊

コックピットの中で投射される映像を追う。

青と紺色のACが左右に揺れる。

 

急加速と減速を繰り返し……私の狙いを惑わす。

直後、画面中にアラートが鳴り響く。

 

四方八方から光が……レーザーが照射された。

 

 

「っ……!」

 

 

私はAC『トゥームストーン』を後方に跳躍させながら、上昇する。

レーザーを照射したのはACでもMTでもない。

 

アレは無人飛行機(ドローン)だ。

目の前の青と紺色のAC『ロックスミス』の背面に装備されているレーザードローン。

それがACから分離し、宙を飛んで私を追い回している。

 

だが、狙いは単純。

回避行動を取れば難なく避けられ──

 

 

『一手、遅れたな』

 

 

正面、AC『ロックスミス』が右腕に装備したアサルトライフルを発射した。

 

一発一発の威力は低い。

だが狙いは的確だ。

機体の関節部に命中させて、空中機動を邪魔してくる。

そこに意識を割けば、レーザードローンの照射を避けきれずダメージが蓄積していく。

 

レーザードローンを上手く扱える人間は少ない。

自身のACだけではなく、分離した複数機のドローンの位置や、攻撃タイミングの調整、射線の管理など……『普通のAC乗り』が熟すには多忙過ぎるからだ。

 

だが、目の前にいるAC乗り……V.I フロイトは『普通のAC乗り』ではない。

 

 

『そら、もっと動けよ。面白くなるのは、これからだろ……』

 

 

AC『ロックスミス』が急接近してくる。

左腕のレーザーブレードが光る。

 

あの武器は……私のAC『トゥームストーン』が装備しているレーザーダガーよりも、遥かに剣身が長い。

それどころか、ACが近接戦に使用するブレード武器の中でも最長クラスだ。

光の巨大な刃が形成され、迫り来る。

 

レーザードローンとアサルトライフルによるダメージの蓄積が、機体の制御を邪魔する。

しかし、このレーザーブレードが直撃すれば……一撃で『トゥームストーン』は撃墜されるだろう。

 

 

「……ここは──

 

 

私は敢えて、ブースターを切った。

 

 

『何?』

 

 

落下しながら、機体を背後に倒す。

寝転がるような姿勢で落下し、横に薙ぎ払われたレーザーブレードを避けた。

 

そのまま、レーザーハンドガンを連射する。

 

 

『……成程、そういう避け方もあるのか。面白いな』

 

 

しかし、彼は関心はしても焦るような素振りも見せず、光弾を回避した。

 

……これだ。

これが彼の『強さ』だ。

 

この、自身の想定を越えた例外(イレギュラー)が起きようとも、冷静に対処する判断能力。

これこそが、彼をヴェスパーの首席隊長たらしめている能力だ。

 

 

『だが、浅いな』

 

 

瞬間、『ロックスミス』は私の方へ機体の向きを下げた。

上半身を追うように曲げて……彼は右肩の武装を向けて来た。

 

拙い──

 

瞬間、そこから五発の弾丸が炸裂した。

あれは拡散バズーカだ。

広範囲を爆撃できる大型兵装……背後の地面に着弾すれば爆風が発生する。

回避は、不可能。

 

ならば──

 

私は『トゥームストーン』のパルスバックラーを起動し、バズーカを防ぐ。

 

 

「う、くっ……」

 

 

……重い。

 

パルスバックラーはバリアの展開直後が最も衝撃を防げる。

なのに、それでも……衝撃が装甲を貫通し、機体の姿勢制御装置(ACS)に強烈な負荷が掛かった。

 

瞬間、機体の制御がシステム下から離れて、動きを止めてしまった。

僅か数秒の硬直だろう。

 

だが、『ヴェスパーの主席隊長』には大き過ぎる隙だ。

 

 

『これで終わりだな』

 

 

目前の『ロックスミス』がレーザーブレードの出力上限を取り払い、レーザーで出来た剣身を伸ばした。

 

 

そして、機体ごと回転し──

 

 

巨大なレーザーの刃で、私の機体を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「途中までは良かったが、最後は俺の判断ミスを狙ってしまったな。並のAC乗りなら反応は遅れるだろうが、一定以上の力量を持つAC乗りなら立ち直りも早い。所詮は弱い奴を虐めたいだけの大道芸だ」

 

「……はい、おっしゃる通りです。フロイト隊長」

 

 

目の前で椅子に座り、隊服をラフに着崩しつつ……エナジーゼリーを飲みながら、私に説教をする男がいる。

名前はフロイト。

V.I(ヴェスパー・ワン) フロイト首席隊長だ。

 

 

「だが、やはり筋は悪くない。相手の認識の外から攻めるのは有効だ。人は予想外の出来事に弱い。あの回避方法は、方向性としては間違っていない」

 

「……ありがとうございます」

 

「しかし、リスクの管理がダメだな。ブースターを切れば、確かに回避と攻撃をスムーズに合わせられる。だが、相手が反応して反撃する場合、回避が間に合わない」

 

 

フロイトの説教は、私が望んで受けているものだ。

 

彼は……そう……AC狂いだ。

ACで戦う事が趣味で、仕事で、特技の男だ。

そして、その力量は私が知る限りトップである。

 

 

「俺ならば落下ではなく上昇を選択する。『ロックスミス』は拡散バズーカを持っているだろう?アレは地面に向かって打ち爆風を発生させる事で、先程のように回避困難な状況を作れる。だが、上空に逃げれば当たる地面もない。爆風は発生せず、直撃さえ避ければいい。回避も可能だ」

 

「……なるほど」

 

 

……凄く饒舌だ。

AC戦の事になると、彼は周りが見えなくなる程、熱くなってしまう癖がある。

 

 

「相手の装備を思考に入れ、相手の最も強い行動を考え、リスクが発生しないように立ち回る。柔軟な考え方が、お前には必要だ」

 

 

そう言い切ると、フロイトはエナジーゼリーを飲み干した。

そのまま容器を離れたゴミ箱に投げ入れた。

 

結構離れていたにも関わらず一発でゴミ箱に入れた。

フロイトの投擲技術に感心しつつ、私は口を開いた。

 

 

「……すみません、フロイト隊長。休日なのに、私の訓練に付き合わせてしまって」

 

 

そう、今日はフロイトも私も休日だ。

何の任務もなく、アーキバスの拠点内で休息を取る事が出来る。

 

にも関わらず、私の訓練に付き合わせている。

VRのAC戦シミュレーターで模擬戦までさせてしまった。

それも、先程は一回目ではなく、四回目なのだ。

 

しかし、フロイトは表情を大きく変えず、首を傾げた。

 

 

「何を謝る必要がある?」

 

「ですから、休日の邪魔をしてしまったのではないかと……」

 

「邪魔?……何の話だ?」

 

 

ここまで話して、やっと理解した。

フロイトは趣味も、仕事も、特技もAC戦というACオタクだ。

こうして模擬戦が出来ることを喜ぶ事はあっても、面倒だとか邪魔だとかは考えてもいなかったのだろう。

 

私は自分の眉間を揉む。

 

 

「いえ……お付き合い頂きありがとうございます」

 

 

そして、謝罪ではなく感謝を口にした。

 

 

「俺の方こそ、感謝したいぐらいだ。お前とやり合うのは面白い」

 

「……面白い、ですか?」

 

 

正直、何戦やっても勝てる気配がしない。

それでも、彼は面白いと言った。

 

 

「あぁ、面白い。お前の学習能力には目を見張る物がある……自分の手で強敵を育てられる。それは面白いだろう?」

 

「……そう、でしょうか?……すみません、私には……よく分かりません」

 

「そうか。仕方ないな」

 

 

フロイトは気にする素振りを見せず、視線をシミュレータに向けた。

……あんなに戦ったというのに、またACに乗りたがっているのか。

 

呆れつつも、思考に耽る。

 

 

私がフロイトに訓練を依頼したのは、自らの実力不足を感じたからだ。

ラスティの動きを見て感じたのもあるが……一番は、独立傭兵『レイヴン』に対してだ。

こんな体たらくでは、彼には勝てない。

 

そして、何より……あの独立傭兵は、ラスティから『戦友』と呼ばれている。

許せなかった。

私は『セラ』としか呼ばれた事がないのに、初対面だった独立傭兵が愛称で呼ばれているなどと……腹が立つ。

 

 

「あぁ、そうだ。お前のAC、なんて名前だったか?」

 

 

ふと、フロイトの視線が私を見た。

 

 

「『トゥームストーン』です……アーキバスの上層部が名付けました」

 

「そうか。機体構成(アセン)を考えたのは誰だ?」

 

「確か……スネイル第二隊長だったかと──

 

「お前には向いていない。降りろ」

 

「え?」

 

 

急な発言に目を白黒とさせる。

急な罵倒かと思ったが、フロイトの顔は先ほどまでと全く変わっていない。

 

 

「機動力を重視する軽量二脚に、火力のない手持ち武装、そして重くて取り回しの悪いキャノン。バランスが悪い」

 

「……そうなのですか?」

 

「全ての事象に対応しようとした結果、どれも中途半端だ。器用貧乏、って奴だな」

 

 

フロイトがコンソールを手に取り、私に見せた。

そこにはAC『トゥームストーン』の機体構成(アセン)が表示されている。

 

 

「このレーザーハンドガン。軽装甲のMT相手には有効だが、重装甲の敵には火力不足だ」

 

 

確かに、と頷く。

レーザーハンドガンでは装甲の厚い敵を倒す事ができない。

実際に、封鎖機構の大型ヘリと戦闘した際も、内部の弾薬に誘爆させる事でしかダメージを与えられなかった。

 

 

「AC相手でも相手が分かっていれば、多少の被害を無視して接近戦を迫られる。もしくは、砲撃兵装を使われるだろう」

 

「……そう、ですね。なので──

 

「だからこのレーザーキャノンか」

 

 

フロイトが指差したのは、右肩に搭載されたアーキバス製のレーザーキャノンだ。

 

 

「うちの部隊員もよく使っているレーザーライフルを大型化させたヤツだな。威力は十分だ」

 

「はい」

 

「だが、取り回しが悪い。背部に装備している所為で精度は期待できない。そして、重く、ジェネレーターの出力を無駄に食っている」

 

 

頷く。

レーザーキャノンは強力だが、優れた軽量AC乗り相手には当てられる気がしない。

そして、外した場合は隙が大きく……装備しているだけで重く、負荷が掛かる。

 

戦闘中にパージして軽量化する事ができるが、武装が一つ減る事になる。

 

 

「この武装に出力を割くぐらいなら、取り外し(オミット)してレーザーハンドガンを別武装に変えた方が良い。……そうだな──

 

 

フロイトがコンソールを開き、アーキバスのカタログを開いた。

ずらりと武装の一覧が表示される。

 

ヴェスパー部隊はアーキバスに所属している。

つまり、使用するACのパーツはアーキバス製か、傘下企業のモノになる。

……例外として、フロイトは敵対企業のベイラムの装備を使っているが。

彼は自身のACが強ければ、企業間のしがらみなどどうでも良いのだ。

そして、当然上層部は文句を言っているが……彼の実績で黙らされている。

 

 

「まずハンドガンだが……連射速度は落ちるがレーザーライフルが良いだろう」

 

 

フロイトが指差した先には、見覚えのあるレーザーライフル……より、大型のレーザーライフルが表示されていた。

 

 

「これは?ヴェスパーのAC部隊で使用されているものとは違うようですが……?」

 

「アーキバス先進開発局が開発した新型のレーザーライフルだ。キャノンの元になった既存のレーザーライフルより高出力……その分、重さやエネルギーは食うがな」

 

「……なるほど」

 

「砲身を展開する事で、より強力な一撃を放つ事ができる。その際はレーザーキャノンよりも威力は上がる」

 

 

フロイトが動画を開いた。

……レーザーライフルの砲身が開き、放電していた。

 

 

「これがあればレーザーキャノンは不要だ。そして、減った手数をカバーする為に『VCPL』のプラズマミサイルを、空いた肩に装備する……なんてどうだ?」

 

 

なんて言いながら、心底楽しそうに話してくる。

……人の機体構成(アセン)に口出しをしているだけだが、本当に楽しそうだ。

 

 

「後は、そうだな……このレーザーダガーをレーザーブレードに換装するのも良いだろう。あぁ、それとジェネレーターも先進局が開発したヤツが良い。エネルギー兵装への効率を最適化した──

 

「すみません、待って下さい」

 

 

アレもコレもと話を進めるフロイトを、私は制止した。

楽しんでいた所を止められて不快だったのか、彼は少し眉を顰めた。

 

 

「何だ?」

 

「……その、アーキバス先進局?ですか?そこが開発した新兵器など私に持たせてくれるのでしょうか?予算も……私は部隊に所属していますが、任務の遂行件数も少ないです」

 

「お前は『壁越え』をしただろ。多少は無理が効くとは思うが……そうだな、何か言われたら俺の指示だと言えば良い。基本はそれで黙る」

 

 

そう言われて、あぁ、そういえば……と納得した。

実際にヴェスパー部隊の指揮を取っている事は殆どなく、次席隊長のV.II スネイルに任せっきりになっているが……実際、彼が首席隊長なのだ。

 

多少の……いや、殆どの無理はまかり通るのだろう。

 

 

「つまらない話は終わりか?ACの話をしよう」

 

 

その後、フロイトが私の機体構成(アセン)を弄り、内装と武装を殆ど変えられてしまった。

機体を構成するフレームパーツは同一だが、ジェネレーターやブースターまで変更する事になった。

 

 

その後、作成した申請書類を出したのだが──

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「V.IXセラ!何だ、この機体構成(アセン)は!?」

 

 

後日、顔を真っ赤にしたヴェスパーの会計担当……V.VII(ヴェスパー・セヴン) スウィンバーンに詰められる羽目になった。

 

 

「あの、いえ──

 

「こんな高価な武装ばかり……それも、新入りのV.IX(九番目)なのに?私が承認するとでも思ったか!?指導が必要なようだな、指導が──

 

「フロイト隊長が、このようにしろと……命令を……」

 

 

私がそう反論すると、スウィンバーンは表情を変えて天を見上げた。

 

 

「あぁ、またか!あの人は!全く……!何を考えて……くっ!」

 

 

歯軋りをしながら、目を強く閉じている彼を見て少し気の毒に感じた。

 

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

 

だから、こうして声を掛けた訳だが──

 

 

「大丈夫な訳がないだろう!?部隊の入出金については私が管理している……!最近もスネイル閣下が装備を改めたばかり……独立傭兵に破壊されたMT部隊の修繕費も少なくはない!予算は無限にある訳ではないのだ!」

 

「は、はい……」

 

 

スウィンバーンが机を叩き、恨みがましい顔をした。

そして……私を見て、ため息を吐く。

 

 

「……貴様に言っても仕方あるまい。被害者なのだろう?フロイト首席隊長の」

 

「……ひが……被害者、ですか?」

 

「違うのか?」

 

「いえ……はい。私は被害者です」

 

 

少し頭を働かせ……否定すると面倒な事になりそうだと、頷いた。

 

 

「だろう、そうだろう?あの人は本当に勝手な人で……いや、よそう。どこで聞いているかも分からない」

 

 

……何とも落ち着きのない人だな、なんて私は思った。

 

しかし、ヴェスパー部隊の会計担当とは……まぁ、かなり面倒な仕事なのだろう。

首席隊長も次席隊長も、かなり我が強いからだ。

 

スネイルはまだ大丈夫だろうが……フロイトは金に無頓着なのだろう。

AC戦以外の事になると、彼は途端に興味を失うからだ。

 

ちら、とスウィンバーンに目を戻す。

 

 

「非常に、非常に……不服ですが、首席隊長の指示であるならば、私は反論できない」

 

「はぁ……すみません、スウィンバーン」

 

「謝るつもりならば、言動には気を付けて頂きたい。特にフロイト首席隊長の前では」

 

「は、はぁ……」

 

 

理不尽だ、と感じながらも目の前で焦燥している人間を見れば、自然と溜飲が下がった。

……スウィンバーンが少し目を細めて、私を見た。

 

 

「貸し、一つだ」

 

「……貸し、ですか?」

 

「あぁ、そうだ。無理難題を押し付けられる私の気持ちを考えてみろ。貸しの一つや二つあっても仕方ないだろう?」

 

「……えぇ、まぁ、良いですよ。何か困った事があれば、必ず助けに行きますから」

 

 

もう何だか面倒になってきてしまったので、貸しぐらいならばと頷いた。

すると、スウィンバーンは幾分か顔色を良くした。

 

 

「貴様のAC乗りとしての技術は、私も評価している」

 

「……ありがとうございます?」

 

「故に、この貸しが私の助けになる事を祈ろう。そうでなければ、この気苦労はタダの無駄骨になってしまう」

 

「はぁ……」

 

 

スウィンバーンは腹を痛そうに撫でながら出ていった。

……彼はかなりストレスを抱えているようだ。

何だか少し、可哀想に見えてきてしまう程に。

 

 

「……借りてしまいましたが、私は何をやらされるのでしょうか?」

 

 

ポツリと呟いた疑問に、答えてくれる人は居なかった。

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