セブンティーンからトゥエンティワンへ   作:秋草

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Record:619

 

 私が『起こされた』時、まず目の前が真っ白だったことを覚えている。長期冷凍保存されていた私の網膜は、手術台の灯りの刺激にすぐには対応できなかった。

 刺々しい白色が柔らかな乳白色に変わる頃、その男の顔が浮かび上がった。こちらを覗き込む、罅の入った巌のような男。それが私の主人、ハンドラー・ウォルターの第一印象だった。

 

 冷凍される前の人生は、まぁ碌でもないものだったと記録してある。行き場のない落伍者が戦地を借金と共に転がり回り、右脚を失って実験室行きだ。強化人間の施術前の記憶は曖昧であり、なんの感慨も浮かばない。

 強化人間。人体を超えたパイロット適正を与える外科技術。実際のところは、脳幹含めた深奥まで人体を弄くり回す、狂った人形遊びのようなものだ。…そういえば、昔は人形遊びが好きだった。

 私を商品として売り払った借金取りや、施術を行った医師らが私を見る目は、その人形遊びの人形を見る目と変わらない。その点、我らが『ハンドラー<飼い主>』たるウォルターは、いささか趣きが違っていた。

 

『619、お前に意味を与えてやる』

 

 その言葉は、低く、深い感情を伴い、私の枯れた心に染み込んだ。

 実際その言葉に二言はなく、解凍後のリハビリ、接続する機体の手配と調整、エトセトラ。無意味に機能不全に陥らぬよう、手が尽くされていた。

 『意味』。

 施術前の人生に、そこに居る『意味』などと呼べるものがあっただろうか。そして、冷凍保存されているモノであった私に、『意味』など無いのは言うまでもない。

 そんな私に、『意味』をくれると言う。

 その言葉が私に与えるもの、それは、かけがえのない安心だった。

 

ーーーーー

 

 解凍された私には2人の先達がいた。

 617と618。

 この2人に、私の後に起こされた620を合わせて4人。私達は4人で一つのチームとして運用された。

 強化人間として調整された私達には突出した個性などは無かったが、それでも僅かに差異はあった。なんの皮肉か、肉体の年齢で言えば私が一番上だったりもした。

 617は目端が効いて、メンバーのまとめ役。寡黙な癖に頑固なところがある618、一番笑う620。

 だが私達に序列はない。等しくハンドラー・ウォルターという男に従う猟犬、『ハウンズ』だった。

 

 ウォルターは私達の適正を見抜き管理する才があった。反射に優れ、活発に動き回る癖がある620に前衛のポジションを与え、視界の広い617にシールドを持たせてフォローさせる。618はその後衛を務め、2人がかき乱した戦場を均して整える。

 私は…反射速度や機動制御において、他のメンバーに劣る部分があった。だがウォルターは私の火器管制能力に着目したようで、射撃、特に中長距離での誘導兵器の使用を命じた。

 

「ハウンズの仕事には、お前のポジションは必要不可欠だ」

 

 得意分野も才能もなく、足を失って転がる戦場の塵。そんな私に与えられた、『意味』。私はそれに縋り付くように専念した。戦術目標の把握と、その障害への適切な理解。迅速で正確な対処。学ぶことは多かったが、それこそが私の適性と、悦びを、そう『喜び』をもって迎え入れた。それは汚泥にまみれた私の人生で、ただ一つ輝いているかのようだった。

 

ーーーーー

 

 ウォルターの『仕事』は、やがて、私達の練成と下準備から、本格的な目的へと進んでいっったようだった。ミッションの規模と難度は上がり、相手どる勢力も強大となっていく。

 そんな中、618が死んだ。

 作戦目標達成後、撤退時に手練れとぶつかった。消耗した機体と限られた弾薬で、618は即座に「損切り」を判断した。4機の中で、最も足回りに問題を抱え、撤退に支障がでる自身が壁となって時間を稼ぐ。

 620の制止も聞かず即座に転進した618。617は、その意志を受諾し、私達は3人で撤退した。

 

 618は死んだ。

 だが、その死に『意味』はあった。

 なぜなら、ウォルターの手元には私達が、3機のハウンズが残っている。

 

ーーーーー

 

 封鎖機構の宇宙港襲撃。それによるルビコンⅢへの航路の確保。

 ウォルターが私達に命じた、高難度の作戦。

 ウォルターはこの作戦で、大きく「仕事」が前進するということを私達に教えてくれた。そして「仕事」が終われば、その報酬は莫大なものとなることも。

 ウォルターは618が死んでから、「お前達の人生を買い戻せ」と語るようになった。目覚めた私に向けたあの罅割れた眼差しが、その言葉に込められていた。

 

 違う。

 違うんだ、ウォルター。

 私は、私の人生に『意味』を与えてくれたことに感謝しているんだ。才もなく、意味もなく、ただ闇の中に終わるはずだった私の人生に、『意味』が与えられたことを私は喜んでいる。

 私に才能を与えてくれて、私に仲間を与えてくれた。あぁ、調整によって均等に均された私の心だが、貴方とハウンズの仲間を愛している事は、最早疑いようもない。

 だから。

 私は、その『意味』を十全に発揮して見せるよ。

 どうか、見届けて欲しい。我が愛するハンドラー<飼い主>よ。

 

ーーーーー

 

617:作戦エリアに到達。フェーズ2移行。

 

620:事前情報より抵抗が厚いね。

 

619:前線基地をセンサーに捉えた。FCS起動。作戦通り爆撃を…

 

617:回避!全機散開!

 

620:要塞砲が起動してる。企業の奴らしくじったんだ!

 

619:回避運動でロックが乱れた。再調整する。

 

617:ダメだ619、狙い撃ちになる。

 

620:そうだよ、ここは…

 

619:いや、今しかない。2人は作戦を続行して。

『仕事』は果たす。

 

617:…了解、フェーズ2続行。

 

620:ッ!フェーズ2続行!

 

619:…機動修正、誘導誤差コンマ0.5、機体を直進固定、防壁および防御兵器全ロック、全弾射出準備…

 

620:!要塞砲より高エネルギー反応!

 

619:

 

ーーーーー

 

 あぁ、目の前が白く染まっていく。エネルギーの奔流が、機体を蒸発させていく。

 だけど。

 『仕事』をしたよ、ウォルター。着弾は見届けられなかったけど、最善最良の仕事をした。飽和爆撃は防壁を崩し、前衛設備を全壊させるはずだ。作戦通り。あとは2人がやってくれる。

 

 私は、『意味』を、果たしたよ、ウォルター、、、

 

ーーーーー

 

『619 生体反応 ロスト』

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