セブンティーンからトゥエンティワンへ   作:秋草

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Record:620

 

 620、というナンバーは嫌いじゃない。キリが良くて割り切れるし、4人組の最後の1人がちょうど一桁台ゼロナンバーっていうのが良い。ほら、もし数字が続くとしたら、それは新しいステージって感じだからね。

 

 ボクの先輩方は、初見、いかにも強化人間って感じに見えた。無感情で無反応で沈痛というか、まぁこんなもんだよねっていう諦観もあった。軽口を叩き合うようなチームの仲間関係って、憧れるところがあるじゃない?そう言うボク自身も、軽快に絡みに行けるような体じゃなかったけどさ。

 でも実際のところ一緒に生活してみれば、意外とみんなそれぞれ個性があって、みんななりにその主張があって、ボクは楽しかったよ。

 617はお節介というか世話焼きというか、面倒見の良いところがあって、ボクがアレしようコレしようっていうと、真面目に付き合ってくれるんだよね。その分、ふざけて揶揄うとすぐに怒るんだけど。自覚が足りない、とかなんとか。

 618は部屋の隅で一人でマイペースに本を読んでいたりすることが多いんだけど、実はしっかり話を聞いていてくれる。それで一言二言助言をくれるんだ。「あとは勝手にすれば良い」なんて梯子を外す事もしょっちゅうだけどさ。

 619はお姉さんがいるならこんな感じなのかなって人で、なんというか、こう、ホウヨウリョクってやつなのかな。そっと見守っていてくれる視線が心地良いんだ。やたらとボク達の技能を褒めてくれるのが妙にこそばゆい。

 

 『ハウンズ』は、ボクが第二の人生で得た本当の『群れ』みたいで、目覚めてからの時間は居心地が良かった。

 

 もともとボクの体は汚染が酷くて、いろんな病室と実験室をたらい回しになっていた。病室でかかった医療費を、強化実験の治験で賄う、そんな日々。遂には費用が割に合わなくなって、あえなく冷凍保存って感じ。

 目覚めたところで、生身の体はゆっくりとしか動かせなくて介助器具が手放せないし、笑えばほおは引き攣るしで、まぁマトモな状態ではないわけで。

 そんなボクをなんでウォルターが起こしたのかは、わからない。620ってコードも、起こされた順に付けられたからなのか、それともウォルターが適当に買い付けた連番だったのかすら、ボクは知らない。

 

『620、お前に意味を与えてやる』

 

 彼のその言葉の真意は、ボクはバカだからよくわからない。

 でも。

 ボクに家族を与えてくれたこと。

 ボクに自在に動く鋼の体をくれたこと。

 それだけはボクにとって確かな真実で、ボクがウォルターに感謝している理由としては、もうそれだけで十分だった。

 

ーーーーー

 

 ボクに施された強化手術は、鋼の体、AC<アーマード・コア>の操縦適正を高めるものだ。神経接続でACに繋がっている限り、音速を超えた速度で動いても、鳥より高く飛び上がっても、ボクはへっちゃらだった。

 そういう落ち着きの無いところを、ウォルターは叱ることは無かった。

 

「パーソナリティによる適性には個人差がある。お前はそれが高度な機動特性にあるというだけだ」

「適性は、活かされるべきだ」

 

 そう言って、ボクの機体のアセンブルも、それに合わせたものを用意してくれた。

 どちらかと言うと617の小言の方が多かったなぁ。合わせる身にもなれ、とか、部隊の連携を乱すな、とか。相変わらず「我関せず」を貫く618も、ボクの動きを「才能だ」って褒める619も止めないから、その分617が口を開いていただけなんだけどさ。

 ボク自身も、実は色々言って面倒見てくれる617が好きで、あえて言わせていたところもあると思う。そういうヒトだから、目を離さず見ていて欲しいって気持ち、あるじゃん?

 

 良いところを見せたい。

 恩を返したい。

 今を楽しみたい。

 その全部がボクの動機で、それで良いと肯定してくれる。それが、ウォルターを飼い主とした、ボク達ハウンズの『群れ』だったんだ。

 いつまでも一緒にいたい、そう思える『群れ』。

 でも、そういうわけにはいかないよね。

 だってボク達は、戦うためのカタチをしている。

 

ーーーーー

 

「足止めを務める。皆はそのまま撤退しろ」

 

 618は、その時もマイペースだった。こうと決めた、だからこうする。それを決して譲らない。

 

「ダメだよ618!撤退は全員への命令だ!」

 

 ボクは子供だから駄々をこねた。618の機体が作戦中に脚部を破損していること、618に合わせる事でチーム全機のペースが遅れることも分かっていた。

 追手は単騎だけれども、ボク達よりも強く、コンディションも万全だ。今のペースでは到底逃げきれない。

 

「肯定だ、620。618の提案は却下する。全機で追手を迎撃すれば、勝算は十分にある」

「こちら619、残弾の情報を共有する。620も準備をして。」

 

 617がボクの駄々を作戦として指示する。そうだ、619だって装備の再確認をしているし、やってやる。誰かが居なくなるくらいなら、みんなで足掻くべきだ。

 そんなボクの決意は、それでも届かない。

 

「617、『意味』を果たせ。ハウンズの『意味』を考えろ。必要以上の損失は、認めてはならない」

 

 その言葉は、まとめ役である617に向けたものだったけれど、ボク達全員に突き刺さった。

 ボク達が『群れ』でいられるのは、ウォルターがくれた『意味』のためだ。ボク達はウォルターの猟犬だから、群れでいられる。

 そうボク達に突きつけて、いつものように。

 

「ゆえに、自分は勝手にやらせてもらう」

 

 譲ることなく、618は死に向かって行ったんだ。

 

ーーーーー

 

 迸るレーザーが、視界を真っ白に染める。

 

619: あとは 任せた

 

 ボク達はウォルターが、ハンドラー<飼い主>がいるから、『ハウンズ』でいられる。ボク達の繋がりは、『ハウンズ』だから、ここにある。

 それは、ボク達の矜持であり、『ハウンズ』を愛するからこそ、決して蔑ろにしてはいけないこと。

 618は死んだ。

 『ハウンズ』を残すために、自分の命を使った。

 今、目の前で619も倒れた。

 彼女の遺志は正確な爆撃となり、進路上の防壁と迎撃設備を一掃する。

 

 

617:…突入ルート確保。前衛を務める、続け。

 

620:ーーーッ了解!

 

 

 617がシールドを展開して、前に出る。要塞砲を破壊すれば、宇宙港制圧のための脅威は無くなる。砲火を掻い潜り、ボク達が要塞砲まで辿り着けば作戦は達成だ!

 進路外からの砲撃は止まないが、関係ない。『ハウンズ』で最も高い機動特性を持つのがボクだ!619が作ってくれた道、押し通ってみせる!

 

 

620:防衛ライン突破!617!

 

617:シールド及び左腕破損…だが行ける。

 

 

 途上で617は片腕を失ったけれど、右腕のガトリングガンとランチャーは健在。ボクの方は全兵装無事だ。

 これで勝てる!

 ーーそう確信したボク達の視界を。

 ーー巻き上がる土砂が覆い隠す。

 

 時間がゆっくりと流れていく。

 地下の格納庫から飛び出した鉄塊が、その無限軌道と質量でボク達を押し潰そうとする。

 617は肩のランチャーを犠牲に潜り抜けた。

 ボクはクイックブーストで背後を取る。

 鉄塊の正体は封鎖機構の機動兵器。

 ACよりも巨大で、ACよりも強固な。

 

 ーー時間が ゆっくりと 流れていくーー

 

 617の放つガトリングガンは、その装甲に弾かれている。

 機動兵器の砲塔が旋回し、傷ついた617を狙う。

 ボクは即座に617の前に出る。シザース、交錯し捻れる連携機動で、機動兵器の狙いを逸らす。

 

 ーーゆっくりと 時間がーー

 

 言葉もなく、617とボクは機動兵器を挟撃する。左右同時の十字砲火。ボクの機体が両手でばら撒くハンドガンは、装甲で弾かれても衝撃を残す。617もガトリングガンを撃ち続ける。

 機動兵器は撹乱され、その場に踏みとどまる。

 

 ーーボク達の 意味はーー

 

 その時、嘘のようにスルリと砲塔が回った。

 チャージ済みの拡散レーザーが、ボクの眼前に。

 咄嗟に体勢を捻り、それでも光弾がボクの右腕を持っていく。

 まだ左腕がある。動き続けろ。もう少しで617が懐に飛び込める。その『もう少し』を作り出せ。

 ボク達は『ハウンズ』だ。『群れ』なんだ。

 一人じゃない。みんな一緒だ。

 そう、だから。

 例えボクの体が吹き飛んでも。

 『ハウンズ』の、ボク達の『意味』はーー

 

 

620: 617!ボク達の勝ちだ!

 

 

 ーー決して 消えないーー

 

 

ーーーーー

 

『620 反応 ロスト』

 

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