620、というナンバーは嫌いじゃない。キリが良くて割り切れるし、4人組の最後の1人がちょうど一桁台ゼロナンバーっていうのが良い。ほら、もし数字が続くとしたら、それは新しいステージって感じだからね。
ボクの先輩方は、初見、いかにも強化人間って感じに見えた。無感情で無反応で沈痛というか、まぁこんなもんだよねっていう諦観もあった。軽口を叩き合うようなチームの仲間関係って、憧れるところがあるじゃない?そう言うボク自身も、軽快に絡みに行けるような体じゃなかったけどさ。
でも実際のところ一緒に生活してみれば、意外とみんなそれぞれ個性があって、みんななりにその主張があって、ボクは楽しかったよ。
617はお節介というか世話焼きというか、面倒見の良いところがあって、ボクがアレしようコレしようっていうと、真面目に付き合ってくれるんだよね。その分、ふざけて揶揄うとすぐに怒るんだけど。自覚が足りない、とかなんとか。
618は部屋の隅で一人でマイペースに本を読んでいたりすることが多いんだけど、実はしっかり話を聞いていてくれる。それで一言二言助言をくれるんだ。「あとは勝手にすれば良い」なんて梯子を外す事もしょっちゅうだけどさ。
619はお姉さんがいるならこんな感じなのかなって人で、なんというか、こう、ホウヨウリョクってやつなのかな。そっと見守っていてくれる視線が心地良いんだ。やたらとボク達の技能を褒めてくれるのが妙にこそばゆい。
『ハウンズ』は、ボクが第二の人生で得た本当の『群れ』みたいで、目覚めてからの時間は居心地が良かった。
もともとボクの体は汚染が酷くて、いろんな病室と実験室をたらい回しになっていた。病室でかかった医療費を、強化実験の治験で賄う、そんな日々。遂には費用が割に合わなくなって、あえなく冷凍保存って感じ。
目覚めたところで、生身の体はゆっくりとしか動かせなくて介助器具が手放せないし、笑えばほおは引き攣るしで、まぁマトモな状態ではないわけで。
そんなボクをなんでウォルターが起こしたのかは、わからない。620ってコードも、起こされた順に付けられたからなのか、それともウォルターが適当に買い付けた連番だったのかすら、ボクは知らない。
『620、お前に意味を与えてやる』
彼のその言葉の真意は、ボクはバカだからよくわからない。
でも。
ボクに家族を与えてくれたこと。
ボクに自在に動く鋼の体をくれたこと。
それだけはボクにとって確かな真実で、ボクがウォルターに感謝している理由としては、もうそれだけで十分だった。
ーーーーー
ボクに施された強化手術は、鋼の体、AC<アーマード・コア>の操縦適正を高めるものだ。神経接続でACに繋がっている限り、音速を超えた速度で動いても、鳥より高く飛び上がっても、ボクはへっちゃらだった。
そういう落ち着きの無いところを、ウォルターは叱ることは無かった。
「パーソナリティによる適性には個人差がある。お前はそれが高度な機動特性にあるというだけだ」
「適性は、活かされるべきだ」
そう言って、ボクの機体のアセンブルも、それに合わせたものを用意してくれた。
どちらかと言うと617の小言の方が多かったなぁ。合わせる身にもなれ、とか、部隊の連携を乱すな、とか。相変わらず「我関せず」を貫く618も、ボクの動きを「才能だ」って褒める619も止めないから、その分617が口を開いていただけなんだけどさ。
ボク自身も、実は色々言って面倒見てくれる617が好きで、あえて言わせていたところもあると思う。そういうヒトだから、目を離さず見ていて欲しいって気持ち、あるじゃん?
良いところを見せたい。
恩を返したい。
今を楽しみたい。
その全部がボクの動機で、それで良いと肯定してくれる。それが、ウォルターを飼い主とした、ボク達ハウンズの『群れ』だったんだ。
いつまでも一緒にいたい、そう思える『群れ』。
でも、そういうわけにはいかないよね。
だってボク達は、戦うためのカタチをしている。
ーーーーー
「足止めを務める。皆はそのまま撤退しろ」
618は、その時もマイペースだった。こうと決めた、だからこうする。それを決して譲らない。
「ダメだよ618!撤退は全員への命令だ!」
ボクは子供だから駄々をこねた。618の機体が作戦中に脚部を破損していること、618に合わせる事でチーム全機のペースが遅れることも分かっていた。
追手は単騎だけれども、ボク達よりも強く、コンディションも万全だ。今のペースでは到底逃げきれない。
「肯定だ、620。618の提案は却下する。全機で追手を迎撃すれば、勝算は十分にある」
「こちら619、残弾の情報を共有する。620も準備をして。」
617がボクの駄々を作戦として指示する。そうだ、619だって装備の再確認をしているし、やってやる。誰かが居なくなるくらいなら、みんなで足掻くべきだ。
そんなボクの決意は、それでも届かない。
「617、『意味』を果たせ。ハウンズの『意味』を考えろ。必要以上の損失は、認めてはならない」
その言葉は、まとめ役である617に向けたものだったけれど、ボク達全員に突き刺さった。
ボク達が『群れ』でいられるのは、ウォルターがくれた『意味』のためだ。ボク達はウォルターの猟犬だから、群れでいられる。
そうボク達に突きつけて、いつものように。
「ゆえに、自分は勝手にやらせてもらう」
譲ることなく、618は死に向かって行ったんだ。
ーーーーー
迸るレーザーが、視界を真っ白に染める。
619: あとは 任せた
ボク達はウォルターが、ハンドラー<飼い主>がいるから、『ハウンズ』でいられる。ボク達の繋がりは、『ハウンズ』だから、ここにある。
それは、ボク達の矜持であり、『ハウンズ』を愛するからこそ、決して蔑ろにしてはいけないこと。
618は死んだ。
『ハウンズ』を残すために、自分の命を使った。
今、目の前で619も倒れた。
彼女の遺志は正確な爆撃となり、進路上の防壁と迎撃設備を一掃する。
617:…突入ルート確保。前衛を務める、続け。
620:ーーーッ了解!
617がシールドを展開して、前に出る。要塞砲を破壊すれば、宇宙港制圧のための脅威は無くなる。砲火を掻い潜り、ボク達が要塞砲まで辿り着けば作戦は達成だ!
進路外からの砲撃は止まないが、関係ない。『ハウンズ』で最も高い機動特性を持つのがボクだ!619が作ってくれた道、押し通ってみせる!
620:防衛ライン突破!617!
617:シールド及び左腕破損…だが行ける。
途上で617は片腕を失ったけれど、右腕のガトリングガンとランチャーは健在。ボクの方は全兵装無事だ。
これで勝てる!
ーーそう確信したボク達の視界を。
ーー巻き上がる土砂が覆い隠す。
時間がゆっくりと流れていく。
地下の格納庫から飛び出した鉄塊が、その無限軌道と質量でボク達を押し潰そうとする。
617は肩のランチャーを犠牲に潜り抜けた。
ボクはクイックブーストで背後を取る。
鉄塊の正体は封鎖機構の機動兵器。
ACよりも巨大で、ACよりも強固な。
ーー時間が ゆっくりと 流れていくーー
617の放つガトリングガンは、その装甲に弾かれている。
機動兵器の砲塔が旋回し、傷ついた617を狙う。
ボクは即座に617の前に出る。シザース、交錯し捻れる連携機動で、機動兵器の狙いを逸らす。
ーーゆっくりと 時間がーー
言葉もなく、617とボクは機動兵器を挟撃する。左右同時の十字砲火。ボクの機体が両手でばら撒くハンドガンは、装甲で弾かれても衝撃を残す。617もガトリングガンを撃ち続ける。
機動兵器は撹乱され、その場に踏みとどまる。
ーーボク達の 意味はーー
その時、嘘のようにスルリと砲塔が回った。
チャージ済みの拡散レーザーが、ボクの眼前に。
咄嗟に体勢を捻り、それでも光弾がボクの右腕を持っていく。
まだ左腕がある。動き続けろ。もう少しで617が懐に飛び込める。その『もう少し』を作り出せ。
ボク達は『ハウンズ』だ。『群れ』なんだ。
一人じゃない。みんな一緒だ。
そう、だから。
例えボクの体が吹き飛んでも。
『ハウンズ』の、ボク達の『意味』はーー
620: 617!ボク達の勝ちだ!
ーー決して 消えないーー
ーーーーー
『620 反応 ロスト』