ベヒモス「待っててナグモ。すぐ行くから」   作:羽織の夢

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6.喰らう者

 深い深い海の底。

 

 常人の身では到底たどり着けない深海の奥底にて、ソレは感じ取った。

 

──この気配、久しいな。

 

 久方ぶりに感じ取ったとある気配。

 それは永久の眠りを妨げるには十分過ぎるものだった。

 

──(わたし)の全盛、とはいかぬか。忌々しいニンゲン共め。

 

 声の主は憤りを感じながら雁首を持ち上げる。

 周囲には数えるのも億劫になる程の魔法陣が刻まれた楔の数々。それらにビシビシと音を立てながら亀裂が走る。

 

──まあ、良い。奴らが居ない今、あんな下等生物はどうとでもなる。

 

 自らにこのような屈辱を与えた者に苛立ちを覚えるも、其の者達の気配は感じられない。ならば、奪われたものを取り戻すのは容易いことだろう。

 古来より続く、たった一つの障害を除いて……

 

 ゴゴゴッ、と地響きが鳴り響き、

 

──まずは貴様だ、()()()()

 

 楔が、崩壊した。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「なんだあれは……?」

 

 常に冷静な姿勢を崩さなかったハジメに僅かな動揺が走る。

 傍らに居るはずのユエ達からの返答は無い。全員がただ目の前の存在に驚愕していた。

 

 鳥肌が立つ。

 足が竦む。

 呼吸が乱れる。

 

 それは彼らが最強であるが故に忘れていた感情。

 

 巻き上がる煙の奥。

 そこに映し出される黒く大きな影。

 

 丸太のように太い四肢。人の背を優に超える牙。そして天に向かって伸びる二本の角。

 

 まだ全貌がハッキリと見えたわけではない。ハジメ達から確認できるのはそのシルエットだけだ。

 それでも、彼らにのしかかる重圧はとてつもなく、生物としての本能が警鐘を鳴らす。

 

 ハジメ達は今まさに、死への恐怖をその身に刻まれていた。

 

「ハ、ジメさん……アレ、です」

「シア……?」

 

 シアが喉を震わせながら声を上げた。

 

「影しか見えないですし、ずっと小さいですけど、間違いないです……!! アレが、私が予知した未来で視た化け物です!!」

 

 そう叫ぶシアにハジメ達は目を見開く。

 最初からシアの視た未来と無関係とは思っていなかった。シアが視た信じられない未来の光景。そのタイミングで現れたベヒモスという強敵。偶然と割り切るには早計すぎる。

 

 確証はないが、確信していた。この魔物は未来の惨劇に関係する何かしらの鍵を握っているものと。

 

 だが、シアが語った天を突く程の巨大な獣がベヒモスと同一であるとは想像もしていなかった。

 

「……シア、大丈夫か?」

 

 ハジメが視線を影に向けながらシアに声をかける。

 

「香織達のところまで下がってて大丈夫だよ」

「うむ、今は無理をしなくてもいいのじゃぞ?」

 

 ユエとティオもそれに続く。

 彼らがこうもシアを気遣うように接するのは理由があった。今でこそ普段と何も変わらない姿だが、”未来視”が発動した直後は酷かったのだ。

 

 突然ハジメに抱きついたかと思うと、ぼろぼろと涙を溢しながら錯乱したように喚き散らしたのだ。

 

『怖い』

『死なないで』

『一人にしないで』

 

 あまりの豹変ぶりに南雲家総動員でシアを落ち着かせた。

 ようやく落ち着きを取り戻したシアから語られた言葉に、ハジメ達はようやく彼女が錯乱した理由を察した。

 

 想い人を、親友を、彼女の全てを失ったのだ。

 たとえそれが確定していない未来の一端だったのだとしても、シアには耐えられなかったのだろう。

 

 だからこそ、ハジメは即座にトータスに向かうことに決めた。

 ”未来視”の光景がいつ起こるものなのかは分からない。もしかしたら、トータスに向かうという選択肢を取ることがその未来を確定してしまう危険性ももあった。

 

 それでも、ハジメに待つという選択は無かった。

 

 ハジメが世界で最も優先するのは地球で共に過ごすユエ達なのは間違いない。しかし、彼の地にはリリアーナを始めとした親交を深めた者達に加え、シアやティオの家族であるハウリア族、竜人族が居る。彼らを簡単に見捨てられるほどハジメも薄情ではない。

 

 何よりも、その獣は自分と自分の大切な存在に手を掛けようというのだ。

 そのようなことを知って、黙っていられるハジメではなかった。

 

 自分やユエ達は勿論、ハジメ達の存在で霞んでしまっているが、トータスでは十分に強者に該当するクラスメイトすらも声を掛け、あくまで個人の判断で同行を許した。

 

 ゲートをくぐる時にはシアも普段の様相を取り戻していたが、ここに来てあの時の光景がフラッシュバックしてしまった可能性がある。だからこそ、ハジメ達はシアに一度引くように促したのだ。

 

「……大丈夫です」

 

 恐怖で震える拳を握りしめることで無理やり震えを止める。

 

「私は大丈夫です。絶対にあんな未来は訪れさせません!!」

「良し……ッ! 来るぞ!!」

 

 恐怖を断ち切ったシアを一瞥したハジメが頷く。その瞬間を狙っていたかのように突風が目の前の砂塵を吹き飛ばした。

 

 映っていた獣の影は煙と共に形を崩し、景色が晴れたそこには瓦礫の山からこちらを見下ろす()()のベヒモスの姿があった。全身が焼け爛れる程の重症だったが、まるでビデオの逆再生かのように瞬く間に傷が塞がる

 

「うん。そうだった。実際に喰べるのってこんな感じだったね」

「? 何のことを言ってやがる……?」

「強者を喰らって自らの糧とする。君が昔やってたことだよ」

「ッ!? 何でそのことを!?」

「何でって……見ていたからさ」

 

 暗い暗い奈落の底で、ベヒモスは見ていた。

 自らに土を付けた者の軌跡を。自らの常識を打ち破った者の生き様を。

 

「君と一緒に奈落の底へと落ちた日から、己は君をずっと見ていたんだ」

「ハジメ君と奈落に落ちた……?」

「嘘でしょ? それって……!」

 

 ベヒモスの言葉にハジメだけでなく、香織と雫も反応を示す。

 彼女達は知っている。忘れるわけがない。あの日、オルクス大迷宮で起きた悲劇のことを。

 

 周りから無能と蔑まれていた頃のハジメが漆黒の闇へと吸い込まれていく光景を、二人は間近で見ているのだ。その時の犠牲者はハジメのみ。他の面々はなんとか地上への帰還を果たしている。

 

 だが、居る。居るのだ。あの時、ハジメと共に奈落へと落ちていった存在が、確かに居たのだ。

 

「おいおい、冗談だろ。お前まさかあの時……?」

「ッ!! 思い出してくれた!? うんそうだよ!! 会いたかったよナグモ!!」

 

 衝撃の事実に流石のハジメでも頬が引き攣る。

 ただでさえ目の前の人にしか見えない存在が魔物であることだけでも受け入れがたいのに、この上その相手は自分が相対した個体と同一であるという。

 とても信じがたい話だが、ハジメの目にはベヒモスが虚言を言っている様には見えず、そのようなことをする理由も無いので恐らく事実なのだろう、と無理矢理自分を納得させる。

 

「それと、お前じゃなくて己のことはベヒモスと──」

「で? 迷宮に籠もってたお前が態々地上に出てきた目的は何だ? その人の姿はどういうことだ?」

 

 健気に自分の名を呼んでもらおうとするベヒモスをあからさまに無視しながら、ハジメは疑問を投げかける。

 

「全然呼んでくれない。やっぱりニンゲンって難しい……えっと、何で地上に出てきたかだっけ? そりゃナグモに会う為だよ。この姿は……知らない。気づいたらこうなってた」

 

 ベヒモス自身、自分が何故人の姿をしているのかは知らなかったが、これは彼女が迷宮の輪廻を外れる程の強い願いが反映された結果だった。

 人であるハジメと会って話をしたいという願望が、無意識の内に彼女の肉体を人と同じ見目へと作り変えていた。とは言え、あくまで外面だけの話で中身は人とはかけ離れている。

 

「は? 俺と会う為? どういう意味だ」

「……君と会ってから己はおかしくなったの」

 

 ベヒモスは自身の胸に手を置きながら語る。その頬は高揚し、熱が籠もった吐息が漏れる。

 その美貌と相まって異性のみならず同性すら魅了しかねない魅力を放つが、今更その程度でハジメは動揺しない。

 

「君のことを考えると胸が苦しいんだ」

「……ん?」

 

 だが、想像していた展開との違いにハジメの鉄仮面が僅かに崩れる。

 

「何かドキドキ煩いし、顔はすっごく熱くなる。それに君と会えるって考えたらお腹のとこがキュッてなるの」

「「「……」」」

 

 真剣な眼差しで聞いていたユエ達の視線がハジメに向かう。

 その目は「あれ、この展開もしかして」と雄弁に語っている。ちなみに雫からは「またなのね」と呆れた視線が突き刺さる。

 

「ねえ、ナグモは己がこうなった理由が分かる?」

「……いや、まあ……何だ……なあ?」

 

 ハジメとしても今更ユエ達以外にそのような感情を抱くことはないが、こうも純粋に尋ねられては答えづらい。どうせなら堂々と好意を持っていると言われる方が気兼ねなく断れて楽なのに、と。

 

「……君にも分からないんだ。そっか……うん、じゃあやっぱりこの方法で合ってるんだね」

 

 答えに詰まっているハジメの姿に一人納得した様子を見せたベヒモスは、ハジメに満面の笑みを向けた。

 

 

 

「ナグモ、君のことを己に喰らわせて?」

 

 

 

 一瞬、この場の空気が凍りついた。

 

「それはお前もハジメの貞操を狙ってるってこと?」

「ふむ、妾はどちらかと言うと食べるよりも食べられる方が好みなのじゃが」

「ユエさん、ティオさん。今私一杯一杯なのでツッコめませんよ」

 

 戯けた様子を晒すユエ達だが、その瞳の奥にはハッキリとした警戒心が浮かんでいた。

 この場にいる誰一人、ベヒモスの言葉が性的な意味合いで出された言葉でないと確信していた。そう捉えるには、彼女の言葉は狂気に満ちすぎていた。

 

「俺を喰うか。なるほど、魔物らしいな」

「何言ってるの? 君と己は同じだよ?」

「……何だと?」

 

 ベヒモスの言葉にハジメは不快感を滲み出しながら睨みつける。

 

「だってそうでしょ? 君は魔物(わたし)達を喰らって力を付けたんじゃないか。種族の違う己達を、理解の出来ない己達を。君は喰らった」

「……」

「魔物を喰らい、強さを喰らい、技能を喰らった。そうして君は魔物の力を手に入れた(わたし達を理解した)。」

「……やめろ」

 

 ハジメの小さな呟きはベヒモスには届かない。彼女は意気揚々と自らの願望を声高に叫ぶ。

 

「なら、己も君と同じ道を歩むことにしよう!! 己は君を喰らうことで、君を理解することが出来る!!」

「黙れッ!!!」

 

 瞬間、ベヒモスを包囲するように出現するクロス・ヴェルト。その総数、実に七百七機。

 かつてこの世界を支配していた邪神との決戦の開幕となった光景がここに再現された。

 

 オルクス大迷宮での地獄の日々。

 確かにハジメは魔物を喰らうことで力を得た。しかし、それは生きて故郷に帰りたいという純粋な想いから取った方法だ。

 決してベヒモスの言うように相手を理解する為の行為などでは無い。

 

「フルバースト!!」

 

 ハジメの号令と共にクロス・ヴェルトから撃ち出される紅の弾丸。それが一発の例外もなくベヒモスに向けて降り注いだ。

 

「ちょ、ハジメさんこれじゃ周りに被害が……!!」

 

 あまりの衝撃と閃光にリリアーナが不安げな声を上げる。

 ハジメの兵器は威力こそとんでもないが、周囲への被害が大きすぎるものが多い。本来ならこのような居住区で満足に力を振るうことは出来ないのだ。

 

「大丈夫だ。もう周囲に人は居ない。攻撃の方向さえ気をつけりゃあ人的被害は出ねぇよ」

 

 リリアーナにちらりと視線を向けた後、ハジメはそう答えた。クロス・ヴェルトの弾丸はベヒモスを包囲した状態で放たれた。これならば余程近くに人が居なければ被害は出ない。

 その言葉にリリアーナがほっと安堵の息を吐いた瞬間だった。

 

 ハジメの頬を風が撫でた。

 

「まずは周りの邪魔者を片付けようか」

「……あ?」

 

 ぐちゃり、という生々しい音。

 びちゃびちゃという液体がこぼれ落ちる音がハジメ達の耳に届いた。

 

「ハ、ジメ……?」

「……ユエ?」

 

 ハジメの最愛の吸血姫。

 彼女の華奢な足は地面を離れ、鳩尾を貫く腕に吊るされていた。

 

「まず一人」

「な、にしてんだてめぇえええええ!!?」

 

 怒りの声を上げながら駆けるハジメを尻目に、ベヒモスは腕を振るってユエを投げ飛ばす。その隙に、ベヒモスの頬にハジメの拳が突き刺さる。

 

「ごめんね。()()()()()()()()()()()効かないんだ」

「ごっ!?」

 

 しかし、全く意に返していないベヒモスの拳を逆に叩きつけられたハジメはまるでピンボールのように吹き飛んでいく。

 

(”金剛”が……機能、してねぇ……!!)

 

 殴り飛ばされる直前に”金剛”を発動させたハジメだったが、ベヒモスがハジメに触れた瞬間、”金剛”が剥がされたことに動揺し、受けきれなかった衝撃がハジメの意識を遠ざけかける。

 

『よくもユエとご主人様を!!』

 

 上空から響き渡る怒号にベヒモスが上に視線を向けると、そこにはいつの間にか完全な竜へと姿を変えたティオの姿があった。

 ガバッと開いた顎門から黒い閃光とも言うべき極光が放たれた。

 

「元々己と相性は悪いが、それもさっき喰らったな」

『ば、馬鹿な!?』

 

 しかし、ティオ渾身のブレスをベヒモスは躱そうともしない。まるでそよ風に吹かれたようにベヒモスの髪を舞い上がらせるだけに終わる。

 

「……外した」

 

 ぽつりとベヒモスが小さく呟いた。

 その意味を理解する前に、ティオは突如バランスを崩し、地上へと真っ逆さまに墜落していく。

 落下するティオの視界に映ったのは足元の石ころを拾ってこちらに振りかぶるベヒモスの姿。

 

『石礫を、投げ、て……?』

 

 ティオの左肩から左翼の付け根は歪な形に撃ち抜かれていた。

 

「よっ、と」

「させるかぁああああ!!」

 

 墜落したティオに向けてベヒモスは二投目を投げるが、間に割って入ったシアが打ち砕く。

 そのままベヒモスに向けて落下の勢いのままヴィレドリュッケンを叩きつけた。

 

「許さない!! 絶対許さない!!」

「お前はまだ喰らってなかったな。そちらから来るなら手間が省ける」

 

 受け止めた手を振り、ヴィレドリュッケンを弾き飛ばしたベヒモスはシアの両肩をがしっと掴むと、

 

「イタダキマス」

 

 がぶりっ、とシアの首筋に噛みついた。

 

「あああああああああッ!!?」

 

 刃物で斬られるのとは訳が違う。鈍く痛烈な痛みがシアを襲う。

 何とか振り払おうとするも、人の力を大きく超える顎力はシアを喰い千切らんとばかりに食い込んで離さない。

 しかし、ベヒモスがシアの体を喰い千切る前に、どこからともなく飛んできた雷を纏う龍がベヒモスの左半身に噛みつきシアから無理やり引き剥がした。

 

「シアから、離れて!!」

 

 倒れ込みながらも片手を必死に伸ばすユエ。

 彼女の意思を受け取った五体の天龍は、主の敵を滅ぼすべく地面に叩きつけたベヒモスに次々と喰らいついていく。

 

「ユエさん!? 傷は!?」

「このくらいなんでもない!!」

 

 貫かれた鳩尾はジュクジュクと音を立てながら元の肌色を取り戻していく。ユエの”自動再生”だ。

 

「それよりもシアの傷を──」

 

 シアも再生魔法で自身の回復は出来るが、ユエの方が早く正確だ。

 直ぐ様シアに向けて手をかざし──

 

「何だ、お前まだ生きてたのか」

 

 その腕をぱしりと掴まれた。

 嘘だろう、と二人はその人物の姿を視界に収めた。

 

「ニンゲンは胸を貫いたら大抵は死ぬんだけどな」

 

 ”五天龍”

 火、雷、氷、風、土の属性を組み合わせた五体の龍を生み出す、ユエの扱う中でも最上位の強さを誇る魔法だ。

 

 それを真正面から受けていて、何故そこまでピンピンしていられるのかが分からない。

 何よりも二人の目を引いたのは、今もまさに蒼龍と石龍がベヒモスの肩と腰に喰らいついている光景だ。唸り声を上げる天龍だが、ベヒモスの体が燃え上がることも無く、石化していく様子も見られない。

 

「……しつこいな」

 

 ベヒモスの背部から吹き出した炎と衝撃が蒼龍と石龍を跡形もなく消し飛ばす。天龍に噛みつかれていたというのに、その肌には一切の傷が見られなかった。

 

「へぇ、傷が治ってる。お前も私と似た力を持ってるんだね」

「くっ!!」

「なら、頭を潰せばちゃんと死ぬかな?」

 

 ベヒモスの掌がユエに向かって伸びていき、

 

「いい加減にしやがれぇえええ!!!!」

 

 大気が震えるような爆発。

 ベヒモスに向かってロケット弾のように飛び出すハジメの体からは鮮麗な紅色の光が噴き上がり、瞳も同様の紅色へと変わっていた。

 

 限界突破の終の派生”覇潰”。

 身体スペックが五倍まで膨れ上がったハジメの初速は音を越え、瞬きの間にベヒモスの元へと辿り着く。その手には長大なライフルが握られていた。

 

「死ねッ!!」

 

 シュラーゲン・AA。

 ドンナーに比べ、威力と貫通力に秀でた対物スナイパーライフルだ。

 

 その銃口をベヒモスに密着させた状態で、ハジメは引き金を引いた。

 巨大な魔物でさえ瀕死に追い込む一撃。それをゼロ距離で放てば、余裕で対象の肉体を貫く……はずだった。

 

 轟音と爆炎を上げながら跳び出した88mmの弾丸の衝撃でベヒモスの体が吹き飛ぶ──ことはなく、5m程後退するだけに留まる。

 

「びっくりしたぁ」

「……嘘だろおい」

 

 弾丸は確かに命中した。

 ドレスに覆われていない剥き出しの胸元を間違いなく穿った。

 

 からん、と音を立てて弾丸が地面を転がる。まるでプレス機で挟まれように原型が無い弾丸が嫌でも現実を突きつけてくる。

 

 戦場に於いて、戦士の気概を挫く最大の要因は圧倒的な膂力(パワー)でも無ければ、超人的な速度(アジリティ)でも無い。

 

 いくら足掻こうとも無意味と感じてしまう程の、

 

──次元の違う耐久力(タフネス)である。

 

 

 

 




攻撃を当てても1ダメージも入らないなら諦めるしかない、というレベル要素があるアクションRPG理論。
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