ベヒモス「待っててナグモ。すぐ行くから」   作:羽織の夢

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これまでのあらすじ(学園恋愛ドラマ風)

ハジメの通うトータス高校へと転校してきたベヒモス。周りの美少女を物ともせずにハジメへとアタックを続けるベヒモスに、最初こそ拒絶していたハジメも彼女の無邪気さに邪険に扱うことも減っていた。
そんな時、クラスに新たに転校生が現れる。リヴァイアサンと名乗った少年はベヒモスの幼馴染だという。久し振りの再会に二人の会話が弾む。自分以外の男と親しげに話すベヒモスの姿を見て、ハジメは胸にもやもやしたものを感じ……


8.兎の召集

【オルクス大迷宮:調査報告書】

 

 本報告書は、二日前に起きたオルクス大迷宮の魔物の異変行動を調査したものである。

 

◆経緯

 

 オルクス大迷宮に生息する魔物の大群が地上へと進出。ホルアドに壊滅的な被害をもたらした。現場に常駐する兵士、滞在していた冒険者を中心に応戦するも、全員の死亡を確認。民間人にも多数の死傷者が出た。異変発生から数分後、突然魔物達が行動を停止。全ての魔物がオルクス大迷宮へと帰還した為、被害の拡大は免れた。

 

◆今回の異変について

 

 オルクス大迷宮の魔物が郡を率いて地上に出た記録は過去一度もなく、その目的は今も不明。魔物による死傷者の八割が踏み潰されたことによる圧死であり、捕食された者は一人もいなかった。今回の異変との関連性を調査中。

 

◆オルクス大迷宮への調査派遣

 

 原因究明の為、王国騎士団の一個小隊を迷宮へと派遣。十九階層まで探索するも魔物の姿は確認できず。一団が二十階層への階段へと向かう途中、マップに存在しない大穴を発見。十九階層から上下の階層を突き破る形で存在していた。深度は不明。頭上から僅かな光源が確認でき、、穴が地上まで突き抜けている危険性から、確認の為に急遽帰還した。地上で合流した兵士達と共にホルアド周辺を探索し、南西2km地点に大穴を発見。原因は不明だが、魔物が這い上がってくる危険性がある為、土系魔法で可能な限り穴を埋め、結界を形成。常時監視を置くこととする。

 尚、現段階での二十階層以下の階層の調査は危険と判断。オルクス大迷宮の入口も上記と同様の方法にて封鎖した。

 

 

◆王都襲撃との関連性

 

 今回の異変とほぼ同時刻。個体名“ベヒモス“が王都を襲撃。オルクス大迷宮から地上へと貫通した大穴の断面は焼け爛れており、“ベヒモス“が王都で放った火系統のブレスで作られたものではないかと推察。今回の騒動との関連性は非常に高いと考えられる。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「結局ほとんど何も分からねぇってことか」

 

 ベヒモスが王都を襲撃した日から三日。

 城下が見下ろせるテラスの一席に座りながら、今朝方渡された報告書を読んで、ハジメは落胆したように息を吐いた。彼の周りにはユエとシアにティオ。それに香織と雫といういつものメンバーが集まっていた。

 

「あれからまだ三日。ただでさえ犠牲者も多い。きっと調査に時間が割けないんだと思う」

「ですね。リリアーナさんもずっと忙しそうに走り回ってますし」

「仕方がなかろう。死者の弔いすら未だに出来ておらなんだ」

「まあ、な……」

 

 ユエ、シア、ティオの言葉に、ハジメは渋々納得した様子を見せる。

 今回の襲撃で王都は余りにも大きすぎる傷を受けた。確認された死者は八十六人。さらには行方不明者が確認できているだけでも二万人強。一応は生死不明となっているが、まず間違いなく望みは薄いだろう。

 

「本当に、一瞬で二万人以上の人達が亡くなったんだね」

「ええ。残された家族の方達を思えばちゃんと弔ってあげたいんだけど、ね」

 

 香織と雫は悲しそうに俯く。

 

「少なくとも、この件を解決するまでは無理だろうな」

 

 ハジメの言う通り、今はまだ犠牲者の弔いをすることは出来ない。正確にはする暇がないと言ったほうが正しい。

 何せ、この未曾有の事件を引き起こしたベヒモスは未だどこかに生存しているからだ。それこそ、今この瞬間に再び現れる可能性すらある。

 そんな状況の中、悠長に死者の葬式や行方不明者の捜索を行っている余裕は無い。

 

「だが、一つだけハッキリしたな」

「ホルアド近郊で見つかった大穴、だね?」

「ええ。正直言って、未だに信じられない気持ちの方が大きいわ」

 

 眉を潜めながら報告書を眺める地球出身組の三人。

 

「本当なんですか? あの少女が魔物だったなんて」

「それも、ご主人様達は一度戦っておるというのじゃな?」

「ベヒモス……聞いた覚えがある。ハジメが奈落に落ちてくるキッカケになったっていうあの?」

 

 反対に、ユエ、シア、ティオは俄には信じられないといった様子だ。

 

「人型の魔物は確かに居る。でも、あれは人型とかいうレベルじゃ無かった」

 

 ユエの言うように、魔物の中には人に近い容姿をした種族も存在している。例えばオルクス大迷宮でハジメとユエが戦ったアルラウネがそうだ。

 だが、所詮は魔物。知性は人間に比べるまでもなく、今回のように会話が成立するなど以ての外だ。 

 

「……そういえば、聞くのを忘れてたわ」

 

 すると、突然何かを思い出したように雫が顔を上げてハジメに視線を向ける。

 

「ハジメ、貴方何したのよ?」

「はあ? 何って何のことだよ」

「ベヒモスのことよ。正直、分からないことだらけだけど、ハジメへの発言が……その……」

「まるで愛の告白みたいだった」

 

 言い淀む雫に変わり、ユエが彼女の言葉を代弁する。

 

「明らかにハジメさんだけ扱いが違いましたよね?」

「……気の所為だろ」

「あの表情は間違いないじゃろ?」

「……気の所為だ」

「ハジメ君、ほっぺたムニムニされてたね? ね?」

「……気の所為」

「膝の上に乗られてなかったかしら?」

「……気の──」

「抱きつかれてた」

「……」

 

 女性陣からの怒涛の猛追にとうとう言葉を紡ぐことすら出来なくなるハジメ。

 

「アイツの胸に顔をうずめて──」

「ねぇよ!? 胸じゃなくて首元だっつうの!?」

「ほとんど同じ」

「だぁあああああ!? 話をややこしくすんな!?」

 

 苛立ち混じりに声を荒げたハジメは、懐から取り出した一枚の紙切れを机に叩きつけた。

 ハジメにジトッとした視線を向けていたユエ達も目の前に突きつけられたものに目が移る。

 

 

 

【港町エボナでの異変報告】

 

◆概要

 

 王都襲撃事件、オルクス大迷宮の異変と同日、沖合から魔物と思わしき雄たけびを多くの住民が確認。数分後に発生した津波がエボナの町を呑み込んだ。事前に津波の予兆を察知していた住民が避難をしていた為に人的な被害は無し。エボナが完全に水没する程の津波が観測されたのは今回が初であり、直前に住民が聞いたと思われる魔物の声と関係があると見て調査中。

 

◆追記事項

 

 避難をしていた住民が空を駆ける少女を見たとの証言あり。聞き出した特徴から王都襲撃の実行犯である“ベヒモス“の可能性が浮上。現在も調査中だがその行方は未だ不明。捜索を続行。

 

 

 

 それは港町エボナで起きた天災について記されたもの。オルクス大迷宮の調査報告書に比べたら短くまとめられた簡潔な報告書だった。

 

「港町エボナ?」

「大陸の最西端にある小さな町でしたっけ? 確か、エリセンとも近かった筈です」

「妾は一度立ち寄ったことがある。砂漠を越えた先にある海運業が盛んな町じゃ」

「……津波? トータスでもそういうのってあるんだね」

「そりゃあるでしょ……って、この追記事項のところ!?」

 

 何故このタイミングでこんなものを? と首を傾げる一同だったが、雫の指差す箇所を読んだ瞬間、その顔つきが変わる。それを確認したハジメが切り替えるように言葉を発した。

 

「いいか? 俺達はあの時奴に負けた。ムカつくがそれが事実だ。だが、俺達はこうして全員生きてる。それは何故か……」

「ベヒモスの片腕を吹き飛ばしたあの光ね」

「ああ。結果的にあれが俺達を救った。そんでもって、あの光がどの方角から来たか覚えてるか?」

「え? えっと、確か……」

「西、じゃな。エボナがある方角と一致するの。偶然と呼ぶにはちと出来過ぎじゃ」

 

 どんな攻撃も効かなかったベヒモスの耐久力を撃ち破る程の攻撃。あれほど固執していたハジメを置いて王都を離脱したベヒモス。西の地にある田舎町で起こったこれまでにない大災害。沖合から聞こえた魔物の声。そして、その町周辺で目撃されたベヒモス。

 

 これらを繋ぎ合わせると、一つの真実が現実味を帯びてくる。

 

「奴にとって、俺達を後回しにしてまで対処しなくちゃならねぇ敵が現れた。そう考えれば奴の行動にも辻褄が合う」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよハジメさん!? 王都からエボナまでどれだけ離れていると!?」

「俺だって信じたくないが、そうとしか考えられねぇんだよ」

 

 あの光が果たしてベヒモスを狙ったものなのかは定かではないが、あれが“攻撃“であったことは間違いない。そして、あの状況からベヒモスが全く関係のない地に行くとは思えなかった。ベヒモスがエボナに現れたというのなら、その地に自分を傷つけた敵がいた、という証明になる。

 

 だが、それは同時にあの化け物に匹敵する魔物がこのトータスに存在していたという証にもなる。

 

 戦い方こそ魔物を彷彿とさせる力任せの杜撰なものだったが、圧倒的過ぎる暴力の前には戦略も戦術も意味を為さない。それは実際に対峙したハジメ達が一番良くわかっている。

 エヒトとの戦いも一筋縄ではいかないギリギリの勝利だったが、あれとはまた違った強さを持っていた。

 

「そんな化け物が今の今までどこにいたんでしょう?」

「ユエ。ティオ。何か知ってたりしないか? 昔にヤバい魔物が封印されてたとかそういう話」

「特にそういった話は聞いたことがない」

「妾もじゃ」

 

 首をかしげるシアを尻目に、ハジメがユエとティオに尋ねる。

 人族の中でも長寿の種であり、王族と族長の孫娘という立場であった彼女らならば、何かそれに連なる話を聞いたことがないかと思って尋ねたが、残念ながら二人共心当たりはないらしい。

 

「二人が知らないなら過去の文献を漁っても意味ないかしら?」

「うーん、そうかも。やっぱり魔物のことは魔物に聞くしかないのかなぁ」

「何を言ってるのよ香織。魔物に聞いて教えてくれるわけ──」

「……いや、案外ありかもしれねぇぞ?」

 

 香織の突拍子もない提案に雫が呆れた声を上げるが、それを聞いたハジメが待ったをかけた。

 

「そうだ。何で気付かなかったんだ。分からねぇなら聞けばよかったんだよ」

「えっと……ハジメ君? 自分で言っといて申し訳ないんだけど、魔物に聞くっていうのは流石に……」

「変成魔法があるだろうが」

「「……あっ!!」」

「そっか。変成魔法で従えた魔物とはある程度意思の疎通が出来る」

「あ、なるほど! 確かベヒモスはオルクス大迷宮の魔物でしたよね? なら、オルクス大迷宮の魔物を従わせれば何か分かるかもしれませんね!!」

 

 神代魔法の一つ、変成魔法は有機的な物質に干渉する力を持つ魔法だ。この魔法を魔物に使用すると、魔物のステータスを大幅に上げ、さらには変成魔法の使用者との意思疎通が可能になる。

 今の状況を打破するために、この上ない程適した魔法だった。

 

 だが、そんなハジメに待ったを掛けた者がいた。

 

「しかし、ご主人様よ。意思疎通が出来るとは言え、それはあくまで最低限のものじゃ。果たして情報を引き出せる程理知的な魔物がいるかどうか……」

 

 ティオの主張は正しい。

 意思疎通が出来たところで所詮は魔物。ベヒモスの名や容姿を出したところで答えられる個体が居るかも怪しいし、殆どの個体が主の簡単な命令や感情を読み取る程度しか出来ないだろう。

 

「数打てば当たるというが、少し無謀ではないか?」

「なら、話が分かる奴に聞けばいいだろう?」

「? それはどういう……」

「あのな? 誰も今から魔物を従えまくればいいなんて言ってないだろ」

「しかしそれでは……?」

()()()()()()。話の通じる理知的な奴が」

「「「…………………………あっ」」」

 

 たっぷりと時間を使った後、全員が思い出した。

 その視線がシアの頭頂部に集まる。

 

 注目の的となったシアの頬は嫌なものを思い出したとばかりに引き攣っていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『王様、お久しぶりやわ。しばらく会えてへんかったからごっつ寂しかったで。話は聞いたわ。ワイの力が必要なんやて? 王様の頼みならいつでも力貸したるで』

「関西弁なのは相変わらずなんだな、お前」

 

 ハジメから“念話“による呼び出しを受けた人物(?)はハジメ達をさほど待たせること無く彼らの元に到着していた。ハジメの膝の上には、もふもふの毛皮をした一匹の兎が居る。

 

『全く。王様の要望にも満足に応えられんとは、同じうさ耳を持つ者として恥ずかしいわ』

「はあぁあああ!? いきなり喧嘩売ってくるとはいい度胸じゃないですか!?」

「シア、落ち着いて」

 

 名はイナバ。種族名、蹴りウサギ。

 元々はオルクス大迷宮に住む魔物の一匹だったのだが、とある事情により迷宮を出て鈴の従僕となった魔物だ。

 

「まあ、元気そうでなりよりだ。呼んだのはこっちなんだが、かなり早かったな」

『王都の方からとんでもない気配を感じてな。王様から念話が届く前から向かってたんや』

 

 とんでもない気配というのは間違いなくベヒモスのことだろう。イナバは元々気配感知の能力が特に秀でている。それこそ数十キロ離れた場所の気配を探る程度なら朝飯前だった。

 

「そうか。なら話は早い。お前が感知したその気配のことで聞きたいことがあるんだ」

『よう分からんけど、ワイに答えられることなら何でも答えるで』

「助かる。正直、もっと早くに気づくべきだったんだが……」

 

 オルクス大迷宮の異変。それの元凶だと推測されているベヒモス。

 大勢の死傷者を出した一大事件に加え、王都襲撃のインパクトが大きすぎて忘れていた。

 

「魔物が自らの意思で迷宮を出る。それは何も()()()()()()()()()()

 

 更に加えるならば、両者の共通点も非常に多い。

 理性を持ち、感情を持ち、種族を越えた強さを持つ。

 

 何よりも、どちらもハジメに強い感情を抱いている。

 

「あの時は状況が状況だったんでそういうこともあるかと適当に流したんだがな……」

 

 冷静に考えれば、おかしな点が多すぎた。

 

 人間に影響を受け、人間のように成長する。

 その第一人者とも呼べる存在が、直ぐ近くに居たのである。

 

 ハジメが視線をイナバへと向ける。

 そのつぶらな瞳はハジメの纏う特有の魔力光のように紅色に光り輝いていた。

 

「教えてくれ、イナバ。お前達は一体何なんだ?」

 

 

 

 




イナバ『転校生のベヒモスって知ってるやろ? あれ、ワイの中学の後輩』
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