向日葵畑と早咲きの桜の前で 作:卵スープの中のワカメ
最後に陽菜乃に会った夏から半年以上が過ぎ、今の俺は16歳。本当なら高校に通うか働くかしている年齢である。
「クソ…が…………」
「…悪いね。どうか来世は俺に殺されないような人生を歩めよ」
また一つ命の灯火を吹き消した。
殺して、殺して、殺して、殺して、殺す度に技術が上がっていくのを実感する。
「本っ当…胸糞悪い……」
吐き捨てるようにそう呟く。
ここはとあるテロ組織のアジト。そんな場所で目の前には震えながら怯えた目付きでこちらを見る女性、その女性の隣には既に息絶えた別の女性。どちらも服は破かれ体の至る所に青痣や切り傷ができ、身体中が血と他の体液で汚れている。何があったのかはなんとなく察しがつく。
「任務完了、生存者一名。恐らくは拉致被害者。以上」
人を殺している自分が人の行いに腹を立てるなどおかしい行動なのは分かっている。
「いや、その女性は我々の方で受け持とう。オリガ」
「はい、あなた」
つい先程まで誰もいなかったはずの空間に『如何にも』といった感じの強面の男性と少々場違いな上品な空気を纏った見目麗しい女性の夫婦が現れた。
妻が遺体を布で包んでから夫の方が部下に指示を出し、女性の遺体だけは丁重に扱うが他の男───今回の
そして、件の女性も妻と共に退出したのを見届けてから夫の方が拍手を始める。
「その歳でその技術。相変わらず見事なものだな、"サムライソード"」
「……何回も言ってますけどそのコードネーム恥ずかしいからやめて欲しいんですけど。…………それで?ロヴロさんは俺に何か御用ですか?」
声をかけてきた相手は元殺し屋にして現在は殺し屋斡旋業をしている人物で、通称「殺し屋屋」。本人が元凄腕の殺し屋なこともあり、殺し屋界隈ではかなり名の知れた人物である。
「依頼の話なら仲介人を通してくれって言いませんでした?」
「その仲介人からお前と話をするよう頼まれたのだ。…ついでに依頼主からもな」
「さいですか…それで、話ってなんなんですか?」
「当然、暗殺の依頼に決まっている。依頼主は国」
「国」
「ああ、国だ。そして
「生物」
なんか驚いた感じを出してみたけどそりゃ『暗殺』って言うんだから相手は生きてるよな。
「でだ、ここから話すことは国家機密。一度話してしまえば君は強制的に依頼を受けたことになるが」
「……分かりました。場所を変えましょう」
その言葉を聞いて、思っていた通りとでも言わんばかりに目の前の男性はニヤリと笑った。
所変わって都内某所の隠れ家的なバーの奥の個室で俺とロヴロさんは向かい合っていた。ここのマスターは俺の仲介人でもあるので隠し事はしなくても大丈夫なのでこうして話している訳だが…
報酬を受け取ったらすぐに飛行機に乗って帰国。よりにもよってこの人と隣の席だった時は夜もおちおち眠れなかった。
「以上が
「最高速度マッハ20、特定物質以外で出来た物はありとあらゆる兵器を含め無効、人間離れした感覚器官…おまけに教師としても満点ですか」
持ち込まれた情報にはとにかく驚かされた。なんせ月の七割を爆破して三日月にした張本人だと言うのだ。これで驚かない方が無理がある。
しかもそいつが、落ちこぼれを集めたクラスとはいえ日本指折りの有名中学で教師?
『あほくさ、何言ってんだこのじいさん』と思ったのがバレて拳骨を食らってしまった、いたかったです まる
「この先は俺ではなく依頼人から。入ってくれ」
ロヴロさんがそう言うと同時にマスターが店の扉が開けた。一応、警戒の意味を込めて持ってきた武器の柄を握っておく。
入ってきたのは黒いスーツで身を固めたいかにも堅物そうな人間だった。
「…ロヴロさん、マスター、俺達が話し始めてからそこまで時間は経っていないはず。随分と根回しがいいんですね」
「お前なら断らないと確信していたからな。彼はカラスマ、この国の防衛省の人間で例の国家機密の暗殺に関する責任者でもある」
「はじめまして、"サムライソード"。紹介のあった通り防衛省の烏間だ」
「"サムライソード"です。よろしくお願いします」
それにしてもこの烏間という人、俺の方を向いている今は当然、扉を開ける時もこちらに歩いてくる時も席に座る時も全くもって隙が見当たらなかった。防衛省と言っていたが、その前は自衛隊のエリートでもやっていたのだろうか。
なんにせよ、ここまで強そうな人は殺し屋どころか傭兵や職業軍人を含めた戦いを生業としてる人でもそういない。
「それで早速だが暗殺の件について話したい。俺が呼ばれた以上、受けてもらえるという認識でいいだろうか」
「はい」
と、その後もトントン拍子で話は進んで行った。話をしていく中でプランも幾つか練ることが出来た。
「何か必要な物はあるか?基本的に対
「分かってます。一人の暗殺者に用意出来る量は限られているんでしょう?それならまずは────」
必要な物を全て言うと俺の考えていたことが烏間さんにも伝わったらしい。少し目を見開き驚いた表情でこちらを見つめてくる。
「本気か?」
「当然。むしろこれは俺以外には出来ませんよ」
「…まあ、確かに色々な意味でそうだが」
「そういうことで烏間さん、あなたにも一枚噛んでもらいますよ」
「話には聞いていたが、本当に子供なのか」
少年がバーを出てからほんの数分。烏間とロヴロはその場に留まり言葉を交わしていた。
「ああ、確か今年で16だったはずだ」
「16?
先程の会話の最中、一分の隙も見せなかった烏間と同様に少年も一切隙を見せなかった。それも今現在自分が教えている生徒たちと一つしか歳が変わらない少年が、である。
「だがな、カラスマ。これは覚えておけ彼は手強いぞ」
現在は火曜の午前、俺は烏間さんと山登りをしていた。
「対象は?」
「現在席を外している。昼に食うナシゴレンを買いに本場のインドネシアまで出かけた」
「えぇ………本当に常識外れなスペックですね」
「…ああ」
どうやらこの人も相当苦労しているらしい。
「生徒は?」
「他の教師が担当している英語の授業中だ。なんでも『どんな外国人とも仲良くなれる会話術』らしい」
そういえばロヴロさんの弟子が教師としているんだったか。
名前は…確かイリーナ・イェラビッチ、俺も名前を聞いたことくらいはあるハニートラップの達人だ。
「ハニートラップの達人でしたっけ?」
「知っているのか?」
「まあ、こっちの界隈じゃかなり名の知れた人ですから…………それにしても中学生に毎朝この山登りを強要するのは流石に酷じゃありません?」
この山の入口にはピカピカで設備も整った校舎があったのだが、対象が担任を勤めている学級はこの山を登った先にあるという。流石に露骨過ぎやしないだろうか。
「そこはこの学園の教育方針だからな。
…まあ、暗殺をする上でも基礎体力はあって損することは無いしそれを身に付ける分には中々いいのかもしれない。烏間さんはそれでも思うところはありそうな顔をしているが。
「頼んでおいた物は?」
「職員室に置いてある。しかし本当に良かったのか?武器の受け渡しが暗殺当日で」
「問題ありません」
今の俺の服装は椚ヶ丘中学校の制服。
────とどのつまり『転校生になり切って校舎内で暗殺を仕掛けよう』という寸法だ。
キャラ設定は大まかに
『俺は親の都合で転校することになった中学三年生』
『親が烏間さんの知り合いで俺自身も烏間さんと面識がある』
『無理を言って学級に参加する前に校舎だけ見せてもらいに来た』
の三つ。
烏間さんにはこの三つの点と適当にでっち上げた経歴を対象に伝えてもらった。
こんな中途半端な時期に特殊な事情がある学級に転入だなんていくらなんでも不自然すぎるので、これが嘘だとバレる可能性は非常に高い。
だがそれでいい。
あくまでも俺の目的は校舎の中で暗殺を仕掛けること。
理由は一つ、校舎内なら対象は生徒を傷つけることが出来ない。つまり、衝撃波で生徒を傷つけるようなスピードを出すことは出来ないからだ。最高速度のマッハ20と人体に影響が出ない速度なら天と地ほどの差が生まれる。
しかし、対象は部外者の臭いに敏感で教室にたどり着くことすら難しい上に手の込んだ罠をしかけてもほとんど看破されるという。
ならばどうするか。
答えは簡単。事前に『部外者が来る』という情報を流しておけばいい。それも『転校生』という対象が断れない事情で来ることにして、その上で技の精度とスピードで暗殺を仕掛ける。
「着いたぞ。ここがE組の校舎だ」
山登りを終え、授業の邪魔にならないようにこっそりと校舎の間取りを確認。あとは暗殺対象が帰ってくるまで職員室でお茶でも飲んでいよう。
そう思い、職員室に入って真っ先に目に付いたのが烏間さんの机に立てかけてある細長い箱だった。
「その箱が?」
「ああ、君に頼まれていた物だ」
「分かりました。それはまだそこに置いておいてください。自分のタイミングでやるので」
烏間さんが出してくれたインスタントのコーヒーを飲みつつ、対象がいつインドネシアから帰ってきても問題ないように烏間さんが学校の説明を始める。
「この椚ヶ丘中学校では────」
そして、かれこれ同じセリフを七回は聞いた頃
「ターゲット暗殺の成功報酬は100億」
「おや、烏間先生…と、そちらは」
「ちょうどいい。コイツがその国家機密の暗殺対象だ」
窓から黄色いタコが入ってきた。目測でも2mはありそうなその対象は足に当たるのであろう触手を動かしてこちらに向かってくる。
「はじめまして。殺せんせー…ですよね?来週からここに通わせてもらう剣崎東侍です」
そう言ってから頭を下げる。
ちなみに当然と言えば当然だが、さっき名乗ったものは偽名だ。発案者は例の仲介人を兼ねているバーのマスター。"サムライソード"から侍と剣を適当に当てはめた名前だそうで。
「こちらこそ初めまして。剣崎君ですね。烏間先生から話は聞いております。一学期はもうすぐ終わってしまいますがよろしくお願いします」
そこで授業が終わるチャイムが鳴り響いた。
「もうこんな時間ですか。ちょうどいいですし剣崎君も皆さんと顔合わせをしますか?」
「いえ、それは正式にこのクラスに加えていただく時の楽しみに取っておきます」
「おや、そうですか。それでは先生は次の授業の準備があるのでここら辺で。何か聞きたいことがあったら昼休みの時間にでも聞きに来てください」
対象が俺に背中を向けて職員室から出て行こうとする。
触手を使って扉を開ける。まだ…まだ……ここだ。
──────────
────何かが飛んでくる。
国家機密兼100億の賞金首兼椚ヶ丘中学校3年E組担任である殺せんせーは自身の直感がそう告げたのに従い、軽く横にズレる。
だが、普段から銃弾飛び交う教室の中で出欠を取っている彼からすれば弾幕が薄すぎる上に飛来する速度も遅い。
恐らく、あの殺し屋と思われる転校生が腕試しにナイフでも投げてきたのだろうと予想しつつ、同時に思考を働かせる。
(私と話している最中に先走っていた殺意も加味して考えると…やはり見た目相応に経験も浅い。だが磨けば光る物を確実に持っている。ヌルフフフ、これからが楽しみですね)
顔を普段の黄色一色から黄色と緑の縞模様に変えて振り返ると、そこには…
「にゅや?」
珍しく驚いた様子をした
直後、足に違和感が走る。
「なっ!」
咄嗟にその場から移動するも時すでに遅し。普段から移動用として服の外に出している触手が八割以上削られた。
玄関から外に出ようと思ったが、自身と玄関を挟んだ位置には対殺せんせー用物質で出来ているのであろう細長い棒が窓と窓枠の隙間に挟まる形で存在している。
かなりパニックになっているこの状況で『棒の隙間を潜り抜けて外に出る』なんて器用なことは出来ない。
結果、移動する方向は自然とE組の教室がある方向になる。
窓から脱出するために片腕をかけるも飛来した暗器によって腕が落とされる。
(は、速い…!まさか!隠しきれていなかったあの殺意も初撃も全てブラフ!?最初に触手を落としたのは形状からして刀、腕を落としたのは暗器、なんて器用な……!!)
一度、自身が触手を切り落とされた職員室の方に視線を戻す。しかし、そこにはもう誰もいない。
「ま、まずっ……み、皆さん!今すぐ教室の壁際によってくだ…!?」
今度は余った片腕まで落とされる。
(次、この状況ならまず間違いなく教室に入る。それも生徒に危害が加わらないように立ち回るはず)
彼がしたことは極めて単純。
気配を消しながら音を立てずに殺せんせーの懐まで瞬時に忍び寄り、姿勢をできる限り低くした。その状態で蹴りを放ち対殺せんせー用物質でコーティングされた靴で腕を蹴り落としたのである。
普段の殺せんせーならば確実に気付けたそれにも今のパニックになった殺せんせーは気付けていない。
「え?」
次の瞬間、E組の生徒とその生徒達に捕まっていた英語の担当教員であるイリーナ・イェラビッチは驚愕した。
「ハァ…ハァ…にゅやっ!」
何せ今までどれだけ頑張っても触手を一本落とすのが精一杯だった殺せんせーが満身創痍といった表情で教室の中央に現れたからだ。
そして、それだけではなく次の瞬間に入ってきた何かにやられたのだと全員が察した。
「渚、私の目おかしくなっちゃったのかな」
「いや、僕も……何かいるはずなのに…何も見えない」
殺せんせーの顔に一筋の切り傷が入る。更に殺せんせーが苦しそうな表情となる。
(相手は普段からプロをあしらっている。すぐに俺の動きにも慣れてくるはず)
一方で殺し屋は現状の分析をしていた。
(やっぱり…少しずつだけど目で追われ始めた。これで最後の一手、完全に見切られる前に決める。首は…高すぎる。それなら首を狙うには……これしかない)
そして、殺し屋はその場で跳んだ。
空中で一回転しつつ殺せんせーの目の前を通り過ぎる瞬間、ほんの刹那の抜刀。
その時、殺し屋の目には暗殺対象がまるで『予想通り』とでも言いたげに笑ったように見えた。
(まさか…釣られた!?)
首を狙うためとはいえ、足場のない空中で回転しながら放たれた居合。
それこそ、このクラスにいる人類の叡智の塊と言っても過言では無い固定砲台の超高性能カメラでなければ捉えられないような絶技とでも言うべき神速の抜刀術。
それを終えた殺し屋は殺せんせーが立っていたところから見て背後に当たる場所に着地する。
「殺せんせー…?」
何が起きたのか分からないE組の面々の前に残っているのは地面に落ちた殺せんせーの服と帽子のみ。
「…嘘でしょ?」
「おいおいおい!待てよ!」
殺し屋が気配を消すのをやめてクラスの中心に現れる。
「ここの制服着てるぞ!」
「うそ…」
ざわざわと教室中が騒ぎ始める中、赤髪の少年が動いた。
「ねえねえ、おにーさん殺し屋でしょ?100億の賞金首を殺したのに喜んだりしないの?」
「俺は殺せてない。ほら」
その赤髪の少年の、どこか威圧感を放っているような言葉に殺し屋は手に持っていた刀の切っ先を天井の隅に向ける。
そこには液状化をした殺せんせーが貼り付いていた。
「いやはや本当に危なかった…首に刃が触れた時は流石に死を覚悟しましたよ」
「よく言うよ。最後のあれ、動きに慣れ始めたフリで焦らせてこっちが決めに行くのを釣ったんだろ?」
「それはそうですけど…まさかあそこまで速いとは…」
「殺せんせー、それってさあ?要は舐めプしたら思いの外強くてやばかったってこと?」
「ちょ!カルマ君、それ言わないでください!せっかくオブラートに包んでいい感じにしたのに!」
──────────
居合で首を落とす直前、笑った対象が何かを噛み砕いたように見えた。その直後に今まであった手応えが無くなり、まるで液体を斬っているかのような感覚に陥った。
恐らくは噛み砕いたのはフラスコか試験管といったところか。
「その様子だと…どうやら失敗したらしいな」
「はい」
烏間さんが教室に入りながら俺と元に戻って服を着た対象を見てそう言うので、納刀しつつ返事をする。
俺の技術は最初に暗殺対象の視界から外れているのが条件だ。しかし、対象もさっきまでとは違い明らかに俺を警戒している。この状況ならどれだけ刀を振ろうが当てられないだろう。
「烏間先生!その人って…」
「それなら先生から紹介をしましょう!彼は転校生────」
「のフリをした殺し屋だ。ちなみに年齢は16、転校してくるには一年遅かったな」
「にゅやッ!?先生てっきり本物の転校生かと思ってたんですけど!?」
どうやら割とショックだったようで対象が地面に倒れ込む。そしてふと違和感に気付いた。
「あれ?殺せんせーなんか目増えてない?」
「いいえ、どれか四つは鼻と耳、余った二つが目です」
紛らわしすぎる。生徒達もそう思ったようで数人かはツッコミたそうにしていた。
「音の消し方、臭いの消し方、立体機動、刀の扱い……そして何よりも隠してることにすら気付かせない殺気の隠し方…どれをとっても超一流。そんな暗殺者を感知するには鼻を利かせた上に耳もすませなければいけなかったので」
ちょんと袖を軽く引っ張られる。そちらに目をやれば
「先輩、殺し屋って何?私聞いてないんだけど?」
俺の袖を掴んでいる陽菜乃がいた。
…まあ、こうなることも予想はしてた。
椚ヶ丘中に陽菜乃がいることは聞いていたが、AからEまであるなら万が一にもこのクラスにいることは無いだろうと思ったが、その万が一を引いたわけだ。
クラスメイトの個人情報まで与えられた訳では無いが教室に入った時に知り合いがいたら流石に分かる。
「何って…聞いての通りだよ。殺し屋が俺の本当の仕事、高校生とか言ってたのは嘘。これでいいか?」
「っ!…なんで嘘なんて吐いたの?私がそれ聞いて誰かに言いふらすとでも思った!?避けるとでも思った!?」
「いいや、お前がそういう人間だとは思ってない」
「だったらなんで」
「…けどわざわざ一般人に自分が殺し屋だって公言する人間なんかいる訳ないだろ。それこそこういう教室にいるなら話は別だけど、少なくとも俺と会った去年と一昨年、お前は殺し屋なんかとは縁もゆかりも無い普通の中学生だった。違うか?」
「それはそうだけど…!」
どうにも、この時の俺は自分が思っていたよりも暗殺の失敗というものを重く受け止めていたらしい。その証拠に今も確実に頭に血が上っている。
───嫌われたくない、避けられたくない
そんな思いで黙っていたことをよりにもよって今、根掘り葉掘り聞かれようとして。
分かっていたとも。倉橋陽菜乃という人間が、一度関わった相手が殺し屋であってもそれが理由で人を避けるような人間では無いことは。でも…一度溢れ出した負の感情を押さえつけることが出来なかった。
「そもそも、お前なんかに俺の何が分かるんだよ」
しまったと、そう思った。
「…どういう意味?」
「たかが二週間、たかがひと夏の思い出、それだけで人のこと理解してる気になるなよ」
不味い、今のは完全に失言だった。
「…そう…分かった。そっちがそう言うならいいもん…先輩なんか!」
売り言葉に買い言葉。向こうも怒った様子で声を荒らげる。
そこで不意に死神に首を刈り取られるイメージを抱いた。反射的に首の脈が通る場所に手を当てて後ろに下がる。
「はいそこまで。君達がどういう関係かは知りませんがそれ以上は口に出さないようにするのがお互いのためです」
気付いたら額に触手を当てられていた。一旦冷静になったことで教室の中に気まずい空気が流れる。
「……すいません、烏間さん。俺はこれで」
そうして俺は校舎を後にした。