【本編完結】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!   作:O.T.I

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第五幕 7 『同胞』

 楽しかった晩餐も終わって、私とミーティアは部屋に戻ってきた。

 

 再びお風呂に入って、夜着に着替えようと思ったところで…レティシアさんとの約束を思い出し、外に出てもおかしくない程度の部屋着に着替えた。

 

 ミーティアは満腹な上に旅の疲れもあったのか、着替えて早々に寝てしまった。

 

 う〜ん…このまま待ってればいいのかな?

 そう思った矢先、部屋のドアがノックされる。

 

「カティアさん、夜分に申し訳ありません。入ってもよろしいでしょうか?」

 

 あ、この声はレティシアさんだね。

 向こうから来てくれたみたい。

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「失礼します」

 

 と、こちらも部屋着に着替えたレティシアさんが入ってくる。

 

「あ、ミーティアちゃんは寝てしまいましたか」

 

「はい、お腹いっぱい食べてましたし、旅の疲れもあったのでしよう」

 

「ふふ…可愛い寝顔…カティアさんはお疲れではないですか?」

 

「私は慣れてますし大丈夫ですよ。普段もまだ寝る時間じゃ無いですし」

 

「そうですか、良かったです…」

 

 そこで少し会話が途切れる。

 

 私も色々話そうと思ってたのに、何から話せばいいのかしばしの間逡巡する。

 

 そして、意を決して口を開いたのはレティシアさんの方だった。

 

 

「カティアさんは…転生者、ですよね?」

 

 その質問に頷いて答える。

 

「そして…前世は日本人、ですよね?」

 

「はい」

 

「…あぁ!やっぱりっ!」

 

 と、そこでレティシアさんが感極まって私に抱きつき、顔を私の胸に埋める。

 いや、埋まりはしない。

 

 …じゃなくて!

 

「レ、レティシアさん!?」

 

 突然の事にびっくりして名前を呼ぶが、彼女は私の胸でただ嗚咽を漏らすだけだ。

 

「…うっ、うっ…ぐすっ…」

 

 …そうか。

 この人はきっと、私と違って納得して転生した訳じゃないんだ…

 今日見てた感じだと、家族との仲も良好だし幸せな家庭で育ったんだと思ったけど。

 きっと、想像を絶するほどの苦しみを乗り越えてきたんだろうな…

 

 静かに声を押し殺して泣く彼女の背中を優しく撫でて、私はしばらくの間胸を貸すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんね、突然…迷惑だったよね」

 

「ううん、驚いたけど。すっきりしたかな?」

 

 心の奥底を見せてくれたからなのか、お互い自然と口調も砕けた感じになる。

 

「ちょっと自分でも制御が出来なくなって……私の事を本当に理解できる人がいると思ったら嬉しさが込み上げて、つい…」

 

「…やっぱり、転生したのは本意じゃなかったんだね?」

 

「うん。カティアさんは違うの?」

 

「カティアでいいよ。私もレティって呼ぶね。…私の場合は少し特殊なんだ」

 

 そうして、私はこの世界に転生した経緯を伝える。

 誰かに話すのは初めてのことだ。

 

 

 

「もともとこの世界にいた人物(カティア)に憑依…それも何だか大変そうだね…」

 

「そうでもなかったよ。体が色々覚えてたし、何より自分は納得ずくで転生したのだし。…レティは凄いよ。私だったら立ち直れないかも」

 

「…ううん。私が凄いんじゃないよ。父さんも、母さんも、兄さんも…根気よく私のことを支えてくれた。見捨てないでくれた。だから、私は立ち直れたの。だから、今度は絶対に家族を悲しませる事はしないんだって誓ったんだ」

 

 …やっぱり凄いと思うよ、レティ。

 

「それでも、やっぱりどこか寂しかったのは事実で…同じ日本からの転生者に会えたのは、本当に嬉しかったの」

 

「私もだよ。ある意味『同胞』はこの世界にはいないと思ってたからね」

 

 だから、あの異界の魂の哀しみも理解することができたんだ。

 

 

 

 

 

「…ところで、さっきの話だとカティアは前世は男性なんだよね?」

 

「え?ええ、まあ…。もう、そういう感覚はすっかりないけど」

 

 割と最近のことなのに、何だか懐かしい気がするよ。

 

「で、あのカイトさんとお付き合いしてる、と」

 

「つ、付き合ってるわけじゃないけど…いや、まあ、付き合ってるのかな?」

 

「まあ、どっちでもいいけど。その…悩んだりはしなかったの?」

 

「もちろん、悩んだよ?でも、結局自分の気持ちに素直になる事にしたんだよ。…もう少しで後悔するところだったし」

 

 思えば、私ダメダメだったねぇ…

 

「その…実は、私も前世は男だったんだけど…」

 

「ああ、やっぱり…」

 

「え!?…そ、そんなに男っぽかったかな…?」

 

「あ〜、いや、何となくだよ。あんな機関車を創ろうと思うのは、どっちかというと男の考えかな〜、ってね」

 

「そっか〜、そうかもね」

 

「で、レティは前世男性で…今も男の思考なの?…はっ!?まさか、さっき抱きついたのは!?」

 

「へ!?いやいやいや、そういうんじゃないよ!私は別に女の人が好きってわけじゃないから!」

 

「あ、そうなの?」

 

「うん。もちろん転生前は女の子が好きだったけど、今はそういう感情は無いよ。…でも、じゃあ男が好きかというと…それもよく分からないんだよね…」

 

 転生のしかたは違うけど、その辺の葛藤は同じような気がする。

 ここは、経験者としてアドバイスしておきますか。

 

「そういうのはね、とにかく自分の気持ちに素直になるのが一番だと思うよ。レティに好きな人ができた時…きっと前世の記憶のことで悩むかもしれない。でも、やっぱり、その時の自分の素直な気持ちを大切にするべきだと思う」

 

「自分の気持ち、かぁ…。流石、経験者の言葉は含蓄があるね」

 

「でしょ?」

 

 私の言葉が、少しでも彼女の役に立つならいいな…

 

 

 

 

 

「それにしても、あの機関車…というか、鉄道は凄いね」

 

「そうでしょうそうでしょう!…私ね、前世は鉄道オタクだったんだ。いわゆる乗り鉄ね」

 

 そう言って、今度は彼女の事を教えてくれた。

 

 

 

 

 

「と言うことで、もう前世の家族と会えないのと同じくらいショックでねぇ…で、開き直って『無ければ私が作る!』ってなったんだよ」

 

「…何というか、凄い情熱だね。私は趣味って言ったら寝たきりになってからやってたゲームくらいだったし…」

 

 ある意味ゲームの世界が現実になったみたいなものだし。

 もちろん、ゲームと現実を何でも混同したりはしないけど。

 

「ふ〜ん、ゲームねぇ…この世界に凄く似てるんだって?」

 

「うん。全く同じじゃなくて違うところも多いけど…例えば、このイスパルナの街なんかはゲームでも存在していたね」

 

「不思議だね…でも、その因果があったから私達もこの世界との繋がりが出きた?」

 

「リル姉…エメリール様はそんな事を言ってたけど、正確には分からないみたい」

 

「神のみぞ知る、どころか神様すら分からないってことかぁ…まあ、ともかく、今はこの世界の住人だからね。今この時を一生懸命生きるだけ。取り敢えずは夢を叶えるために頑張るよ!」

 

 私に出会ったことでかつての哀しみ、寂しさが思い出されたみたいだけど、彼女はとっくにこの世界で生きる覚悟を決めてる。

 夢に向かって一生懸命生きる彼女は、その黄金の髪のようにとても眩しかった。

 

 

 

 

 

 

「カティアはさ、どうするの?」

 

「?どうするって?」

 

「あなたは歌姫であり…そして、この国の王女なんでしょ?」

 

「ああ、やっぱり知ってるんだ」

 

「うん。失礼が無いようにって事前に聞かされてたよ。それで…」

 

「歌姫は続けたいと思うけど…王族としての責務も果たしたい。この世界の平和を脅かす存在を打倒するためにも。レティの話を聞いてね、こう言ういろんな人の夢を守りたいって思ったよ」

 

「そっか…ありがとう。じゃあさ、今度は私からのアドバイスね。…やりたい事はさ、諦める必要はないと思うよ?王女様が歌姫なんて素敵じゃない。そりゃあ、何でもかんでもできるわけじゃないし、結果として何かを諦めることだってあるかもしれないけどさ。最初から諦めるくらいだったら、チャレンジしなきゃね。私は、そうしたから」

 

「…うん、そうだね。そう、私は前向きなのが取り柄だからね。何でもチャレンジ…その通りだよ。流石、経験者の言葉は含蓄があるね」

 

「でしょ?」

 

「「ぷっ!あはははは!」」

 

 さっきと同じようなやり取りに、思わず二人して吹き出してしまった。

 

 

 その後も、話は尽きることなく…深夜に及ぶまで話し込んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いけない。もうこんな時間…」

 

「ついつい話し込んじゃったね、もう寝ないと」

 

「明日は列車の旅、楽しみにしててね」

 

「うん、凄く楽しみだよ。いいよね〜、列車の旅って。流れる車窓、見知らぬ土地、美味しい駅弁…」

 

「…今、何と?」

 

「へ?」

 

「そうだよ!『駅弁』!私としたことが何で忘れてたんだ!」

 

「え、駅弁がどうしたの?」

 

「大事な旅の醍醐味の一つを忘れてたなんて!こうしちゃいられない…開業に間に合わせるためにも今から計画を練らなければ…!」

 

「え…あ、あの?」

 

「カティア!ありがとう!それじゃあ!」

 

 と言ってレティはぴゅーっと部屋を出ていった…

 

「あ、レティ!ちゃんと寝るんだよ!!」

 

 私は慌ててその後ろ姿に声をかけるが…あれは多分徹夜するな。

 

 

 

 

 

 やっぱり彼女は…少し変わった娘なのであった。

 

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