【本編完結】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!   作:O.T.I

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第一幕 11 『帰還』

 さて……小一時間ほどの休息を終えて、私達は街に戻ることにした。

 今は太陽の位置から見るに、とうに正午は過ぎている。

 だが夕暮れまではまだ余裕があるだろう。

 

 森を出て領軍の野営地に寄って馬を回収し……そこから寄り道せずに帰れば、何とか日が落ちる前には街に辿り着けるはずだ。

 

 

 『鳶』の人達は徒歩で来ているので、報告のために同行するカイトさん以外は少し遅れての帰還になる。

 街に帰るまでに日が落ちてしまうので、徒歩組を領軍の野営地で一泊させてもらえるようにお願いする予定だ。

 

 

「さて、これで結界消えてなかったら、いやッスね」

 

「……シャレにならん事言うな」

 

 全くだ。

 しかし、ロウエンさんのその心配は杞憂に終わり、木々が徐々に疎らとなり始める。

 どうやら森林地帯は抜け出せたようだ。

 

 

「ふぅ、何とか抜けられたな」

 

「ああ、ようやく出られたわ!早く街に帰ってお風呂に入りたい~」

 

「そうですね、[清浄]だけだとキレイになった気がしませんものね」

 

「俺はとにかく酒と美味いものが欲しい。ここ数日は保存食と山菜ばかりだったからな」

 

「同じく。せめて果物でも生えてれば良かったですけどねぇ…」

 

 数日振りに森から開放された『鳶』の面々が、開放感から早くも街に帰ってやりたいことを口々に訴える。

 

「お前たち、街に帰るまでが依頼だからな。余り気を抜くなよ。まだ原因を取り除いたばかりだから周辺の生態系の乱れはまだ戻ってないんだ」

 

「もう~、いいじゃない。カイトは夕方には戻れるだろうけど、私達はまだもう一泊あるのよ。少しくらい気も抜きたくなるわよ」

 

「まあまあ、そうは言っても皆さんなら油断もないでしょうし大丈夫ですよ」

 

「そうよ。カイトだってカティアちゃんと一緒だからって浮かれるんじゃないわよ~?」

 

「はぁ……まだそういうことを言うか。カティアも困ってるだろうが」

 

「あ、いえ、その、大丈夫です」

 

 確かに反応に困るけど……

 

 

「ん?何だ?カティアに気があるのか?……ふむ、ここは『娘が欲しければ俺を倒してからにしろ!』と言うところか?」

 

「洒落にならんからやめとけ」

 

「大将、それだとカティアちゃん一生嫁に行けないッスよ」

 

「……まったくダードレイさんまで。今日はじめて会ったばかりなのに、何でそう言う話になるんだか……」

 

「そうですよね、皆してからかって楽しんでるだけですよ。無視です、無視」

 

 もう。ほんとに何なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

ーー アネッサとレイラの内緒話 ーー

 

(カティアちゃんてば~、恥ずかしがっちゃって~。カイトくんと話してるとき凄く楽しそうなんだけど~、自分では気づかないものかしらね~。カイトくんの方はよく分からないけど~、満更でも無いと思うのよね~。カティアちゃんはホント美人だし~、良い子だものね~。お似合いだと思うわ~。まあ~、カティアちゃんもまだ恋と言う程のものでは無いみたいだし~、様子見かしらね~。好みのタイプって事だとは思うんだけど~。あ、ダードさんはやめさせないとね~。ホントにいき遅れるわ~)

 

 

「ねえねえ~、レイラちゃん~?」

 

「はい?何です?」

 

「カイトくんって、どうなの~?」

 

「?ああ、カティアちゃんのことです?」

 

「そうよ~、私の見たところ、カティアちゃんの方は結構気になってるように見えるのよね~。うちの一座以外であんなふうに楽しそうに男の人と話してるの、初めて見るもの~。ましてや初対面で~」

 

「……カイトもですね。あの朴念仁にしては珍しく気にしてるようにも見えますし、これはもしかして……って感じですかねぇ」

 

「なるほどなるほど~。だけど~、二人とも奥手っぽいし~」

 

「……周りが世話してやらないとですねぇ」

 

「「ぐふふふ~」」

 

 ……などとアネッサたちが話してることなど、カティアには知る由もないのであった…

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、野営地に戻ってきました。

 

 また群がられるのでは……と心配したが、そんな事もなく普通に出迎えてくれた。

 巡回から戻ってきてる人達もいるみたいなので、人数的に洒落にならないから助かった。

 

 『鳶』の面々の宿泊についても快諾してくれ、テントを一棟まるまる開放してくれた。

 そして、馬たちを回収してすぐに出発となる。

 

 

「では、道中お気を付けて。侯爵閣下にも宜しくお伝えください」

 

「ああ、協力感謝する。まだ生態系が戻ってないから暫くは警戒が必要だろうが、原因は取り除いたんだ。そう時間がかからずにあんた達も戻れるようになるだろ。それまでは監視の方頼む」

 

「はっ!お任せください!」

 

 なんか、父さんが上官みたいだね。

 

 

 ともかく、これから馬で帰還なのだが……元々うちの人数分しか借りてない。

 なので、カイトさんは誰かと相乗りと言う事になるのだけど……結局、私の馬に同乗する事になった。

 

 父さんやティダ兄、ロウエンさんとじゃ体重的に馬が大変だし、絵面的にも何か嫌だし、アネッサ姉さんだとティダ兄が嫌がるし。

 自然とそうなるのは仕方ない。

 

 何らかの意図が働いた訳では無い。

 無いったら無い。

 大体、何で【俺】が意識しなけりゃならないのか……

 何度もからかわれたから変に意識しちゃうんだよ。

 

 身体は女でも意識は男の【俺】が主体なんだ。

 そう、男相手にどうこうなる訳が無い。

 

 

(……ここにも軍の馬が居るんだから、あと一頭くらいは借りられたと思うんだけど~。そこには気が回らないのね~。何だかんだ意識してるのよね~、二人とも~。皆も何も言わないし~、そういうの好きよね~)

 

 などとアネッサ姉さんが考えてることなど、やっぱり分からなかった……

 

 

「ではすまないが、宜しく頼む」

 

「は、はい。では手綱はお願いします」

 

 ……そうだよね。

 身長的に私が前になるよな、そりゃ。

 いや、前に乗られてもそれはそれで困るんだけど。

 

 

 ああ……しかしこんなに密着するとは。

 あっ!?私、汗臭くないかな!?

 [清浄]しとけばよかった!

 

 って、そりゃ完全に女の思考じゃんか!

 しっかりしろ、【俺】!

 落ち着け、落ち着くんだ!

 

 羊が一匹、羊が二匹……って違う!

 寝てどうする!

 え~い、色即是空空即是色……

 

 

 そんなふうに、内心パニック状態だった事を除けば、道中は特に何事もなく無事に街まで辿り着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレゼンタムの街に帰ってきた私達は、馬を返すため領軍詰所に向かい馬をゆっくりと進ませる。

 

「お~し、帰ってきたぞ」

 

「ああ、中々濃い一日だったな」

 

「あ~、もうヘトヘトッス」

 

「あら~ロウエンくん、だらしがないのね~」

 

「まあ、そう言ってやるな。今日は斥候としてずっと気を張ってただろうからな」

 

「そうッスよ!労って欲しいッス」

 

「はいはい~、頑張ったわね~」

 

「ぞんざいッス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、カイトさん?」

 

「ん?どうした?」

 

「今日はありがとうございました。カイトさん達がいなかったらまだ今頃は……」

 

 まだ解決の糸口を掴めず森を彷徨ってたかも知れない。

 事前の情報収集と分析に随分助けられたと思う。

 

 そう思って改めてお礼を言ったのだが……

 

「いや、それはこっちのセリフだな。お前たちが来てくれたおかげでこうして無事に帰ってこられた。感謝してもし足りないな」

 

 反対にお礼を言われてしまった。

 それじゃあ……

 

「ではお互い様、と言う事で」

 

「ふ、そうだな」

 

 

 

 

(な~んか、いい雰囲気ッスねぇ)

 

(よくわからん)

 

(同じく)

 

(あなた達は鈍感すぎよね~)

 

 もちろん、彼らがコソコソ話してることには気づかなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 詰所に到着し、厩舎に馬を返す。

 

「お疲れ様。乗せてくれてありがとうね。今日はたくさん走って疲れたでしょう?ゆっくり休んでね」

 

「ひひんっ!ぶるるる!」

 

 うんうん、元気でね。

 

 

 う~ん、ずっと背中にカイトさんが密着してたから、何だか背中がすーすーするような気が……

 

「……先程まで背中に感じていた逞しい男の熱量がなくなってしまい~、彼女はそれを寂しく感じるのであった~」

 

「……姉さん、勝手なナレーションを入れないで」

 

「あら~、違ったかしら~」

 

「違うよ。背中がすーすーするな、とは思ったけど」

 

「あら~?」

 

「あら~?じゃないでしょ。何でそんなにくっつけようとしてるの?」

 

 ほんと、それが不思議だよ。

 

「う~ん、やっぱり自分じゃ気付かないのかしらね~。カティアちゃん、カイトくんと話してる時って~、凄く嬉しそうなのよ~?」

 

 ……なん、だと!?

 

「そ、それは、確かにカイトさん話しやすいし話てて楽しいと思ったけど、だからって別に……」

 

 どうも、【私】の好みのタイプなんだろうか。

 感情がそっちに引きずられてる気がする。

 ……でも、この先もずっと女として生きていくのだし、その方がいいのかも知れない。

 

 【俺】の意識が主体だとして、じゃあ女の子が恋愛対象なのかというと……どうも、違うみたいだ。

 

 姉さんは身内みたいなものだから別として、例えば今日会ったレイラさんとか美人だし、リーゼさんは可愛らしい感じだ。

 性格だって好ましい感じがした。

 以前の【俺】なら、異性として意識していたはず。

 でも、そんな事は全く感じなかった。

 

 よくよく考えれば、恋愛と言うのは子孫を残すためにある感情なのだろうから、身体の方に強く依存するものなのかもしれない。

 

 もっと、自分の感じるまま、素直にそれを受け入れていいのかもしれない。

 

 でも、まあ焦る必要はない。

 そう、女神さまも言ってたじゃないか。

 ありのままの自分を認めてあげなさい、って。

 

 

 

 でも、やっぱりからかわれるのは勘弁願いたい。

 だから、姉さん。

 そのニヤニヤはやめて。

 


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