【本編完結】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!   作:O.T.I

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第八幕 2 『不審者』

 討伐隊の一行は山道を更に進む。

 

 それほど急峻ではない山地だが、それでも段々と山深くなって勾配もきつくなって来た。

 道が狭く隊列も間延びしてしまうので、なるべくこういう所では戦いたくは無いのだが…そうも言ってられないかもしれない。

 

 

 

 

 そうして暫く行軍すると、ロウエンさんがまた何かを察知して警告を発した。

 

「いるッスね、この先、あの辺り…やつッス」

 

 そう指差すのは、この先登ったところにある、少し開けているようにも見える場所。

 そう言われてみれば私にも感じられるあの禍々しい気配。

 スオージの森の時よりはプレッシャーを感じられないので、やはりそれほど強力な個体ではないのだろう。

 

「…いよいよだね。総員、厳に警戒を」

 

 そう指示を出して慎重に歩みを進める。

 

 

 

 

 しかし…警戒しながら進み…あと数十メートルほどとなった時、あの独特の禍々しい気配が突如として消失してしまった。

 

 

「!!…ロウエンさん!?」

 

「こりゃあ…どう言う事ッスか…?」

 

「行ってみよう!!」

 

 息を潜めながらの慎重な歩みを止めて、先程まで気配が感じられた辺りまで急いで向う。

 

 

 

 一気に山道を駆け上がり、多少は開けた場所に出ると、そこで見たのは…

 

「お、お前は!!」

 

 そこに居たのは、フードを被った不審な人物。

 こちらには背中を向けているが、その格好は、かつてリッフェル領の事件の時に現れた黒幕と思しき人物を思い出させるものだった。

 

 もしかして、この人も…?

 確証は無いが、異界の魂がいたと思われる場所に現れたのだ。

 無関係であるはずがない。

 

 そう思って私は彼(?)を問いただす。

 

「…すみません、ここで何をしていましたか?ここには強力な魔物がいたはず……もしかして、あなたが倒したのでしょうか?」

 

 自分で質問して、それは無いな、と思った。

 異界の魂と思しき気配が消失したとき、全く戦闘の気配は感じられなかった。

 そして、この人…こうして目の前にしても気配が殆ど感じられない。

 ロウエンさんでも、ここに来るまでは分からなかったみたいだし…

 

 私の問いに、その不審者はこちらに向き直り答える。

 フードを目深に被っていて顔が見えず、ゆったりとしたローブで体型も分かりにくいので男か女かも判然としない。

 

「魔物…ですか?何のことでしょうか。ここには何も居ませんでしたし、私はただ…薬草採取をしていただけですよ?」

 

 声も中性的で、男女どちらとも取れる声色だ。

 しかし怪しい…

 そんな言葉を鵜呑みにできるはずもない。

 

 だが、実際に魔物はおらず、あの禍々しい気配も最初から無かったかのように、綺麗さっぱり無くなっている。

 この人が無関係とも思えないのだが…

 

 

 

「すまねえが、そのフードを取ってもらえねぇか?」

 

「ああ、これは失礼しました」

 

 父さんの要望に、彼(?)はあっさり応えてフードを取る。

 

 顕になった顔を見て、私は思わず息を呑む。

 いや、私だけではなく、他の皆もまるで魅入られたかのように凝視して黙り込む。

 

 

 美しい。

 

 

 まず思ったのはそれだ。

 

 白銀の長髪、異常なほど整った相貌、黄金の瞳…およそこの世のものとは思えぬ神々しいまでの美貌だ。

 

 いったい何者だろうか?

 

 

 と言うか、顔を見ても男なのか女なのか分からない。

 

 

「あなたは…」

 

「私は冒険者のシェラと申します。ここに来たのは依頼ではないのですが…貴重な薬草が採取できるとの事で来ました」

 

「冒険者…?」

 

「はい。ふふ…皆さんそう言う反応をされますね。え〜と…はい、これです」

 

 そう言って取り出して見せてくれたのは、確かにギルド証だ。

 

 Cランク、シェラ、と確認できた。

 どうやら女性らしい。

 

 

「…失礼しました。私達はイスパル王国よりある特殊な魔物の討伐のため派遣された者です。…しかし、冒険者の方なら…魔物の気配は感じませんでしたか?」

 

「生憎と…戦闘は不得意なもので。あまりそう言うことは分からないのです。逃げ足には自信がありますから、遭遇したら一目散に逃げますね」

 

「そうですか…」

 

 滅茶苦茶怪しいのではあるけど、追求する材料が無い。

 先程までは私もはっきりと気配を感じていたが、現状それは全く感じられず、彼女の言い分を否定することが出来ない。

 

 

 

 

 

 

「では、私はこれで。今はアクサレナのギルドに所属してるので、また何か気になる事があればそちらへ…」

 

「…はい、ありがとうございます。お気を付けて」

 

 

 謎は残るが…彼女がギルド員であれば後でまた話を聞くこともできるし、この場は取り敢えず見送ることにした。

 

 

 

 

「…尾行しますか?」

 

「いや…素性も分かったし、今はいいよ(それに…何だか彼女は危険な気がする)」

 

 全くの勘だが…無闇に危険に晒すわけにはいかない。

 

 

 

 

 そしてその後、異界の魂を見失った私達はいくつかのチームに別れて周辺の探索を行ったり、山道を終わりまで進んでみたが、ついに発見することは出来なかった。

 

 

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