【本編完結】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!   作:O.T.I

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第二幕 10 『星空の約束』

「ダンジョン化っ!?」

 

 地上に引き上げて来た私達は、調査隊の大型テントの中で早速ジョーンズさんに遺跡内部の現状を報告した。

 その報告に、ジョーンズさんは目を見開いて驚きの声を上げる。

 

「ええ。本来いるはずのない魔物。そしてそれを倒した後、跡形も無く消え去るところを確認しました。間違いなくダンジョンの魔物の特徴です」

 

「ああ…なんてこった…せっかく調査の目処が付くと思った矢先に…」

 

 すっかり落ち込んでしまった。

 それも仕方がないか…

 

「ジョーンズさん、しっかりしてくださいまし。魔核を探しだせば対処は出来るのですから」

 

「…しかしお嬢様、ダンジョンは資源になり得ます。例え魔核を発見しても早々に潰すという判断も出来ないのでは?お父上にも確認が必要でしょうし」

 

「…いえ、もしこのダンジョンが小規模のものだったら潰してしまいましょう。この遺跡そのものの価値の方が高いとお父様も判断なさるはず。…ジョーンズさん、これを」

 

 お嬢様はそう言って、収納倉庫(ストレージ)から例の資料を取り出してジョーンズさんに見せる。

 

「これは…?」

 

「第3階層の部屋の一つで見つけました。発見当初は現状維持を優先したのですけど、ダンジョン化が判明してからは魔物に荒らされる可能性も考慮して回収したのですわ」

 

「おお、それはありがたいです。どれどれ…」

 

 お嬢様が机の上に置いたそれをジョーンズさんが確認しはじめる。

 

 

 

「…これは!この遺跡の出自を裏付ける極めて重要な資料ですよ!」

 

 資料を読んだジョーンズさんは、少し興奮した様子だ。

 それにしても、流石は古代遺跡の調査を任されるだけあって、問題なく神代語は読めるんだね。

 

「そうでしょう?短い文面でも色々なことが分かると思います」

 

「ええ、神代の終焉を迎えるまさにその時を生きた人の率直な思いが読み取れますし、ここに記されている『神の依代』こそがこの遺跡の存在意義なのかもしれません。それに、ミュルグレイヒ、とあるのは現在のブレゼンタムのことですね。少なくともあの街は神代の頃から存在しているという証拠にもなります」

 

「ええ、そう思いますわ。たったこれだけの資料ですら計り知れない価値がある。魔物退治優先の中でたまたま目についたのがこれだったのですが、他にも貴重なものが見つかる可能性は高いと思いますわ」

 

「そうですな。これは是が非でも魔核をなんとかして頂きたいところです。…しかし、流石はお嬢様ですな。神代語にも通じてらっしゃるとは…」

 

「ああ、私が読み解いた訳ではありませんわ。こちらのカティアさんが読んで下さったのです」

 

「そちらのお嬢さんが?これはまたお若いのに大したものです」

 

「い、いえ…」

 

 う…地道に勉強したわけじゃなく、オキュパロスさまに直接頭に刷り込んでもらったお手軽学習なのでちょっと後ろめたい気がする。

 そんな私の気持ちを察したのか、カイトさんが苦笑しているよ。

 

「ああ、魔核がなんとかなったら、アスティカントにも協力を仰いでもっと大規模な調査をしないとだな…」

 

「アスティカントの考古学部門と言うと、バレンガ教授のところですね」

 

 アスティカントという言葉にリーゼさんが反応する。

 リーゼさんは学院の出身だからね。

 

「おや?君は先生の事をご存知で?」

 

「あ、はい。私は学院の魔法学部門の出身なんです。専門は違いますけど、魔法学でも考古学は無関係ではないですからね。バレンガ教授の授業は受けたことがあります」

 

「ほう、では君は私の後輩ということか。私は学院の考古学部門の出なのでね。バレンガ先生にはお世話になったんだよ。それにしても、流石はお嬢様のパーティーですね、優秀な方がそろっておられる」

 

「ふふ、そうでしょう。優秀な上に信頼ができる方たちですわ。…という事でカイトさま。優秀で信頼の置ける皆様に、新たな依頼を受けていただきたいのですが……もちろん先の依頼は完遂と言う扱いで、それとは別の依頼という形にしますわ」

 

「ダンジョン魔核(コア)の捜索と破壊か。報酬は?」

 

「そうですわね、もともとの依頼の倍額で如何でしょう?」

 

「…皆はどうだ?」

 

「私は構いませんよ。なんか中途半端で終わるのも嫌ですし」

 

「オイラもそれで良いッスよ」

 

「ええ、私も。遺跡の調査は継続して頂きたいですし」

 

 皆それぞれに了承の意を伝える。

 ここまで来たら何とかしたいというのは皆一緒だろうしね。

 

「よし、それでは新たな依頼として受けよう…と、言いたいところだが、遺跡の規模が想定よりも大きい場合や、脅威度Aのヤツが出てきたりしたら、流石に仕切り直さないとマズイと思うが?」

 

「確かにその場合は私の独断で動ける範疇では無いですわね…では、それで撤退した場合でも半額は保証で完遂扱い、で如何です?」

 

「ああ、それなら良いかな」

 

 とくに反対意見もないので、改めて新しい依頼として請け負う事になった。

 

 

 

 

 だが、既に時間は夕刻近く、これからダンジョンに潜るには遅い時間であるので、今日の探索は終了してこれから野営となる。

 

 ジョーンズさんが調査隊の大テントを使っても良いと言ってくれたが、流石に全員が寝泊まりするほどの広さは無く、調査隊の皆さんを追い出すわけには行かないのでそれは辞退した。

 

 お嬢様を野営させるなんて、などと恐縮しきりだったが、むしろお嬢様はワクワクした感じで野営に乗り気ですらある。

 

「ふふふ、ちょっと楽しみにしてたんですのよ?」

 

「そんな良いもんじゃないぞ?」

 

「あ、でも、私も普段はソロで日帰り可能な依頼しか受けないので、気持ち分かります」

 

 そんな話をしながら準備を進める。

 と言っても大した事をする訳ではない。

 

 

 野営場所は調査隊のテントも設営されている神殿前の広場のような場所。

 平坦で見通しがよく、仮に魔物の襲撃があったとしても直ちに気付いて対処が可能だろう。

 

 カイトさんは竈作り、ロウエンさんは薪を集めに、リーゼさんは魔物避けの結界の準備だ。

 

 

 私とお嬢様は、と言うと…

 

「カティアさん、これはどうします?」

 

「あ、それはスープにいれるので、そっちの鍋に入れてもらえますか」

 

「はい、分かりました。それにしても、カティアさんは料理も得意なんですね」

 

「ふふ、まだその評価は早いですよ?まだ下拵えなんですから」

 

「でも、手際の良さを見れば分かりますわ」

 

 そう、今はお嬢様と一緒に料理の下拵えなんかしてたりする。

 

 【私】は元々料理は得意だ。

 【俺】も寝たきりになる前は普通に出来た。

 

 しかし、それよりもだ。

 今の私は[料理8]を持っている。

 ゲームのカティアは料理スキルをマスターしていたのでその影響だ。

 

 ゲームにおける料理とは、一時的なステータス上昇などの効果をもたらす料理(アイテム)を素材から作り出すものだった。

 もちろん、現実のこの世界ではそんな怪しげな料理は作れないが、普通に料理が上手くなっている。

 分量や手順などが何となく分かるのだ。

 う〜ん、何と言うチート。

 

 

 普通は野営でこんな手の混んだ料理をすることなんて無い。

 携帯食、保存食で済ませるのが当たり前だ。

 せいぜい干し肉や塩で味付けしたスープぐらいが関の山だろう。

 

 では、なんで今ちゃんとした料理を作っているかと言えば…

 

 お嬢様が収納倉庫(ストレージ)にしこたま食材と調理器具を入れてきていたからだ。

 

 ちょっと一般との感覚がずれてる気がしないでもないが、美味しい料理が食べられる方が良いに決まってる。

 

 食材はたっぷりあるし、折角だから調査隊の皆さんにも振る舞おうって事で、結構な分量を作ることになったのだ。

 

「お嬢様も何だか包丁さばきが慣れた感じなんですけど…普段料理されるのですか?」

 

 大貴族のお嬢様とは思えないほどの手付きで包丁を扱うさまを見ると、普段から料理をしているとしか思えない。

 まあ、ブレーゼン家は他の貴族とはちょっと感覚が違うみたいだからなぁ…

 

「週に何度かは作ってますわ。生活全般のことは何でも一人でできるように、と言うのが我が家の教育方針でしたの」

 

「へえ…そうなんですね。閣下らしいです」

 

 

 そんな話をしながら下拵えを進めていると、いつの間にか竈と薪の準備が終わって火が起こされていた。

 そして、下拵えも終わって本格的に調理を行っていく。

 

 やがてあたりには良い匂いが漂い始め、日が沈む頃には食事の用意が整った。

 途中、結界を張り終えたリーゼさんもいろいろ手伝ってくれたので、思ったよりも時間がかからずに完成した。

 

 私達の調理中、カイトさんとロウエンさんは簡易テント(タープ)の設営をしてくれていた。

 

 何だか前世のキャンプみたいで楽しい。

 

 

 

 

「…まさか野営でこんな本格的な料理が食べられるとはな。ああ、いい匂いだ、すっかり腹が減ってしまったよ」

 

「本当ッスねぇ…もともとは干し肉とうっすい塩スープを覚悟してたんスけど。凄く美味しそうッス。カティアちゃん、腕を上げたんじゃないッスか?」

 

 一座の皆に料理を振る舞ったこともあるので、私が料理出来ることを知っているロウエンさんはそう評価してくれた。

 

「へへ〜、皆で頑張ったからね、なかなか美味しくできたと思うよ!」

 

「すみません、我々も呼んでいただけるなんて…」

 

「ふふ、大勢で食べた方が楽しいですから。遠慮なく食べてくださいね」

 

「ありがとうございます」

 

 調査隊の皆さんは恐縮しきりだったが、最近はまともな食事が取れてなかったらしく嬉しそうでもあった。

 美味しく食べてもらえれば作った甲斐があるというものだ。

 

「では、頂きま〜す!」

 

「頂きます」

 

 私とカイトさんが食前の挨拶をすると、みんな不思議そうにしていた。

 

「なんですの?それは?」

 

 私が説明すると、お嬢様は感心したようだ。

 

「あら、良い心掛けですわね。我が家にも取り入れましょうか。頂きますわ」

 

「「「頂きます(ッス)」」」

 

 お嬢様に続いて皆も挨拶してから食べ始める。

 …ブレゼンタムで流行ったりして。

 

 

「美味いッス!」

 

「本当、美味しいですね!」

 

「ああ、野営中の食事とは思えん。カティアもルシェーラも料理が上手なんだな」

 

「えへへ〜、ありがとうございます!おかわりも沢山ありますからね!」

 

「ふふ、ありがとうございます。レシピはカティアさんに教えて頂きましたわ」

 

 皆に褒められると気分が上がるね。

 

 調査隊の皆さんも美味い美味いと言って食べてくれる。

 お嬢様の手料理に感激してる人も居るみたいだ。

 良かったね。

 

 おかわりも沢山してあっと言う間に作ったものは全て無くなってしまった。

 お粗末様でした。

 

 

 

 食事を終えて、今は食後の紅茶を楽しんでる。

 …ええ、これもお嬢様の荷物に入ってましたよ。

 

 なんだろう、このまったり感は?

 すっかりレジャーキャンプになってる。

 

 まあ、楽しいから良いか。

 

 

「リーゼ、結界ってどんなやつだ?」

 

 と、カイトさんが尋ねる。

 私達はすっかり寛いでしまってるけど、ここは魔物が出る地域だし気になるよね。

 

「[界絶]を触媒の砂を使って大体100メートルくらいの円になるように効果範囲を広げてます。調査隊の大テントまで全部覆ってますよ。あと、『代行の魔符』で維持持続もバッチリです。Cランク程度の魔物なら入ってこれないはずですね」

 

 [界絶]は定置型の中級結界魔法で物理的な攻撃を防ぐ障壁を張るものだ。

 本来はせいぜい10〜20メートルくらいの円形だが、触媒…今回は魔法の効果範囲を補助するための魔力を通す特殊な砂で魔法円を描いて範囲を広げたのだろう。

 そして、遺跡の中で見せてもらった魔道具で効果時間を伸ばしているらしい。

 

 う〜ん、便利だな…

 やっぱり私も買おうかな?

 

「助かる。この辺りの魔物なら大丈夫そうだな」

 

「はい。万が一破られた場合は大きな音がするはずなので不意に奇襲を受ける心配も少ないと思います」

 

「それなら不寝番は要らないッスかね?まあ、オイラは外だと眠りが浅いので異常があれば即座に覚醒できるッス」

 

「ああ、それは俺も同じですね。じゃあ、特に交代での見張りは不要ということで」

 

 助かる。

 私の身体はまだお子様なので十分な睡眠が必要なんです。

 それに睡眠不足は美容の天敵だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …?

 ふと、夜中に目が覚めた。

 

 今回、不寝番は置いてないので皆すっかり寝静まっている。

 

 …いや、誰か起きてる?

 

 月明かりと、それに照らされた神殿の白い石材が反射する淡い光で思いの外明るい。

 

 そんな神秘的ですらある光景の中で、誰かが立って空を見上げている。

 

 あれは…

 カイトさん?

 

 私は皆を起こさないようにそっと起き上がり、カイトさんの方に歩いていく。

 

「…カティアか。すまない、起こしてしまったか?」

 

「あ、いえ。何となく目が覚めてしまったんです。…カイトさんは眠れないのですか?」

 

「いや、俺も途中で目が覚めてしまってな。…ほら、見てみろ」

 

 そう言って再びカイトさんは天を仰ぐ。

 私もそれに倣って空を見上げると…

 

「…うわぁ、すごい…」

 

 そこには満点の星空が広がっていた。

 前世ではとても見られないような圧巻のものだ。

 星の光がこんなにも明るいだなんて…

 余りにも壮大で神秘的な光景に、まるで吸い込まれて自分が溶けてしまうような感覚にとらわれる。

 

 そう言えば【私】の記憶でも、こんなふうに夜空を見上げたことはあまり無かったかも。

 こっちの世界では夜活動することがそれほど無いからね。

 

「凄いだろう?こんな光景を見てると自分がいかにちっぽけな存在に感じてな。小さな悩みなんて吹き飛んでしまう気がするんだ」

 

「…悩みがあるんですか?」

 

「そりゃあな。多かれ少なかれ、人は何らかの悩みを持っているもんじゃないか?」

 

「それはそうですね。私もありますよ。差し当たっては明日のダンジョン探索ですかね。次の公演の事とか。…気になる人のこととか。で、でも、嫌な悩みごとはないかも」

 

 何か雰囲気に流されて変なことを口走ったかも。

 ちょっと顔が熱くなる。

 

「ふふ、カティアは前向きだからな。そういうところは好ましいと思うぞ」

 

「私の取り柄ですから。カイトさんの悩みは…私で良かったらいつでも相談に乗りますよ?もっとカイトさんの事聞かせてほしいです」

 

「…そうだな。いつかは相談させてもらおうか。ふふ、頼りにしているぞ」

 

「はい!約束ですよ!」

 

 なんだか雰囲気に流されたのか、手が触れるか触れないかの距離まで、私はカイトさんにそっと寄り添った。

 

 そして、二人で無言でいつまでも星空を眺めるのだった。

 

 

 

 

ーー ロウエン、ルシェーラ、リーゼのコソコソ話 ーー

 

 

(う〜ん、何かいい雰囲気ッスねぇ…)

 

(そうですわね。でも、もどかしいですわ…もっと、こう、ズバッとして欲しいです)

 

(おっと、お嬢さん。起きてらしたんで?)

 

(ええ、カティアさんが起きる気配がしたので、何かな、と思いまして)

 

(へえ、ほんと冒険者に向いてるっぽいッスねぇ…)

 

(そうですか?ふふ、やっぱり冒険者登録しようかしら?)

 

(あ、カティアさんがカイトさんに寄り添いましたよ)

 

(ありゃ、リーゼちゃんも起きてたんスか)

 

(そこで手を繋ぐのです!…ああ、もう!じれったいですわ!)

 

(…あの二人も大変ッスねぇ)

 

 

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