【本編完結】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!   作:O.T.I

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東大陸到着

 

ーーーー エフィメラ ーーーー

 

 

「港が近いぞっ!!」

 

「帆をたためーー!!」

 

「漕ぎ方よーいっ!!」

 

 

 船員たちの威勢のよい大声が甲板上に響き渡る。

 

 風をはらんで順調な航海を支えてきた大きな帆が、マストに昇った数人によってスルスルと畳まれていく。

 それと同時に、息のあった掛け声が両舷より聞こえ始めると、船は接岸に向けて最後のアプローチを始めた。

 

 東大陸の海上の玄関口の一つ……自由都市ラファの港はもう目前まで迫り、色とりどりの街並みが近付いてくる。

 それにつれて、私の中から少しずつ感慨深いものがこみ上げてきた。

 

 

 

 

 

 

 故郷であるグラナ帝国を出てから、早数年の月日が流れ去った。

 悲壮な覚悟をもって急峻なアールヴ山脈を超えたとき、私の心の中には不安しかなかった。

 だけど今は……まだ不安はあるけど、それよりも希望の方がはるかに大きかった。

 

 

 

「お姉様、いよいよですわね」

 

 船首近くで接岸作業を見守っていた私に、エルネラが声をかけてきた。

 

「そうね……でも、ラファの街からグラナも、まだ結構かかるのよね」

 

「でも、陸路のほうが気が楽ですわ。エルはクラーケンが出てこないかと、気が気ではありませんでした」

 

「あら……ふふ、まだあの絵本が苦手なの?」

 

 小さい頃に読んでいた絵本に出てきた海の怪物。

 エルがそれを随分怖がっていたことを思い出した。

 

 

『ふん。たかがタコごとき、我がいれば恐れをなして出て来れまい』

 

 突然そんな声が聞こえた。

 いま私たちの近くには他に誰もいないのだけど……

 声の発生源に目を向けると、それはエルが抱えた可愛らしい赤い竜のヌイグルミ……のようなもの。

 

「でもボラちゃん……あなたにはもう、そんな力は無いのでしょう?」

 

『……ボラちゃんは止めぬか、エルネラよ。我は誇り高き地脈の守護者!黒竜王ボラスなるぞ!』

 

「でも今は赤竜ですわね」

 

『…………むぅ』

 

 

 ……そう。

 実はこの竜のヌイグルミ、グラナ侵攻軍における最強戦力として現れた黒魔神竜ボラス……の成れの果てだったりする。

 

 あの時、武神ディザール様と赤竜王ゼアル様によって黒魔神竜は完全に滅ぼされたと思われた。

 だけど、東大陸の守護者が長期にわたって不在になるのは不味い……ということで、エメリール様やゼアル様のお力で、精神体として復活?したのだった。

 エルと違って、かなり『黒き魂』の侵食が進んでいたため、精神体としても何とか存在を留めるのがやっとだったらしいのだけど。

 

 だからエルの言う通り、いるだけで魔物が寄ってこなくなる……という事はないでしょうね。

 

 

 そして、なんで彼がヌイグルミの姿になってるのかと言えば。

 

「ボラス様の守護地は、霊峰フォスボラスでしたか。パニシオンからでも数週間はかかりますね……。早くミーティアちゃんにヌイグルミを返してあげたいところですが」

 

 ……ということである。

 不安定な存在であるボラス様のために、仮の依代としてミーティアちゃんがヌイグルミを貸してくれたのよね。

 大事な物みたいだから、出来るだけ早く返してやらないと。

 

 

『ゼアルのヤツに大きな借りを作ってしまうとは……口惜しや……』

 

 ……まぁ、ゼアル様からさんざんからかわれていたから悔しいでしょうね。

 彼自身も、むざむざと黒き魂に乗っ取られたことを恥じていたから尚の事。

 

 

「ですが、軍師……あの邪神リュートが相手だったのであれば、致し方ないのではないでしょうか」

 

『そうかもしれぬがな……不甲斐ないことには違いあるまい』

 

 邪神は、カルヴァードの十二神をも越える力を持っていたというのだから……いかに強大な力を持つ地脈の守護者とは言え、抗うことなど出来なかったと思うわ。

 そんな言葉も慰めにはならなかったみたいだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そうこうしているうちに船は港に接岸し、下船の準備のため引き続き慌ただしくなる。

 

 私もエルとともに一旦客室へと戻って支度を整える。

 とは言っても私自身の手荷物は既に準備はしてあるし、同行してくれた使用人たちも準備は万端の様子。

 

 なので、すぐに再び甲板に上がると、リシェラネイア様やロラン様、ブレイグ将軍と部下たち、ガエル君、それに……

 

 

 

「ではエフィメラ様。名残惜しいですが、ここでお別れですね」

 

「イスファハン王子……ありがとうございました。こんなに安全に東大陸まで来れるとは……本当に助かりました」

 

 またあのアールヴ山脈を超えるのか……と思うと憂鬱だったから、海上ルートで来れたは文字通り『渡りに船』だった。

 

「まあ、海域の都合もあってかなり遠回りになっちまいましたけどね……グラナまでの旅路はまだまだ長い。どうかお気をつけて。俺達は別の街に寄ってから帰国します」

 

「はい。イスファハン様こそお気をつけて。……またお会いできる日を楽しみにしています」

 

「こちらこそ。……あぁ、そうだ。これを……」

 

 そう言って彼は懐から取り出したものを手渡してきた。

 それは……

 

「……笛?」

 

 手のひらに収まるくらいの小さな笛だ。

 

 視線で問いかけると、彼は頷く。

 吹いてみろ……ということかしら?

 

 戸惑いながら唇に笛をあてて、思い切って息を吹き込むが……音が出ない……?

 

「あぁ、そいつは人間に聞こえない音を出すんですよ。……っと、来たな」

 

「?……きゃっ!?」

 

 イスファハン王子が視線を上に向けた……と思った次の瞬間、私の肩に何かが降りてきて、思わず驚きの声を上げてしまった。

 

「これは……鳥?」

 

 肩の方に目をやると、そこには可愛らしい小鳥がとまり、小首をかしげながらこちらを見ていた。

 

 

「そいつは伝令に使われる早鳥です。優秀なやつですよ。もしなにか困ったことがあったら……そいつに手紙を持たせて飛ばしてください。……まあ、困ったことがなくても、手紙をくれたら嬉しいですね」

 

「まあ……お気遣いありがとうございます。本当に何から何まで……」

 

 せっかくのご厚意なのだから、定期的に手紙を書いたほうが良いかしらね。

 

 

 

 ……私達はそうしてイスファハン王子と別れ、東大陸へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お姉様はイスファハン王子が好きなのですか?」

 

「えっ……?」

 

 エルがそんな事を聞いてきた。

 

 

 ラファの街に到着した私達は、船旅の疲れもあり(特にロラン様が……)、一泊してからグラナに向かうこととなった。

 今は宿の一室でエルと寛いでいる……そんな時に、彼女は唐突に先の質問をしてきた。

 

 

「……彼は女性に優しい方なのよ。リシェラネイア様とも仲良くされてたでしょう?」

 

「そうなのですか?……でも、お姉様とお話されてるときが一番嬉しそうでしたわ。それに、お姉様も……」

 

 そう……かしら?

 

 でも、少しずつ惹かれているかもしれない……という自覚は確かにあるかもしれない。

 グラナの問題が解決したその時は……また、お会いしたいと思う。

 

 

 

 

 さて……

 こんど手紙にはなんて書こうかしら?

 

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