【本編完結】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う!   作:O.T.I

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決起

 

ーーーー ブレイグ ーーーー

 

 ようやくグラナの地に帰ってきた。

 ユラン山脈を無事に超えた一行は、辺境都市ロスタムの目前まで来ている。

 

 ここに至るまでに幾つかの山村農村を通り過ぎたが……特に変わった様子は見られなかった。

 村民たちは隊商(キャラバン)にしては物々しい集団が通り過ぎるのに奇異の目を向けていたが。

 

 休憩で立ち寄った村の一つでそれとなく話を聞いてみたが……やはり国内の現状が分かるような情報は得られなかった。

 だが、あのカティア様たちと邪神の最終決戦の場面はここでも見られたらしく、これからグラナでも何か大きなことが起きる……そんな思いは抱いている様子だった。

 

 

 

 

 そして、ロスタムの街影が見え始める。

 辺境の地と言えど、それなりの規模の街であればある程度の情報は得られるはず。

 そんな期待を胸に、心持ち足早に歩を進めるが……

 

 何か様子がおかしい……?

 

 そう思ったのは一瞬のことで、街から漂う不穏な気配の正体には直ぐに思い至った。

 まだ距離はあるが、うねりとなって聞こえてくるこの音は……

 よく目を凝らせば、幾筋かの煙が立ち昇るのも見える。

 

 間違いない、これは……!

 

 

「ブレイグ将軍!!」

 

 エフィメラ様が馬車から飛び出しながら声をかけてきたのは、俺と同様に街の異変を察したからだろう。

 流石にあの大戦を経験しただけはある……と、頼もしさを感じるとともに、年若い高貴な少女が修羅場を潜ってきた事実を思うと複雑な気分にもなる。

 

 そして、彼女だけでなく周囲の兵たちも異変を察知してざわついていた。

 

 

「これは……ロスタムの街で戦闘が行われているのでしょうか?」

 

 エフィメラ様に続いてこちらにやって来た、リシェラネイア様が俺に問いかけてくる。

 

「ええ。それは間違いないでしょうな……。どうしますか?」

 

 俺はエフィメラ様にそう聞きながらも、彼女から返ってくる答えには想像がついていた。

 

「行きましょう!!もし黒神教派と皇帝派の戦闘が行われているなら放ってはおけません!!」

 

 やはりか。

 

 本来であれば出来るだけ素性を隠しながらパニシオンに向かうはずだったのだが……

 しかし、エフィメラ様がおっしゃるように、あの戦闘が黒神教がらみなら捨て置けないのも事実。

 それに……パニシオンに至るまでにエフィメラ様が功績を積んでおくのは悪いことではない。

 

 そんな算段を一瞬で巡らせながら、一つ進言をする。

 

 

「混戦状態の中に我々がこのまま進軍しても、余計な混乱をもたらすだけです。それに、こちらの手勢は多くありません。まずは敵味方の識別が最優先かと。その上で皇帝派に協力して、事にあたらねばならないでしょう」

 

「そう……ですね。しかし、どうすれば……」

 

「一つの方法としては、少数精鋭で先行して街に入り、戦況を見極め情報収集すること。あるいは……」

 

 そこまで言いかけて俺は、リシェラネイア様の隣に立つローランド殿に目を向けた。

 すると、すぐにその意味を察して彼は一つ頷き……

 

「黒神教の指揮官の中には、俺が知ってる奴がいるかもしれねえな。よし、ちょっくら行ってくるか」

 

 なんの気負いもなく、そう言った。

 

 そう、黒神教の幹部だった彼ならば、情報収集役として適任である。

 単独での戦闘能力も全く申し分ない……どころか、我々の中で最強クラスだ。

 

 

「ローランド殿、お願いできますか?」

 

「おう。任せておけ」

 

「ロラン、一人では危険よ。もうあなたは魔族じゃないのだから……私も一緒に行くわ」

 

「リシェラネイア様もそれは同じでしょう。でしたら私も……」

 

「お姉様が行くなら私も……!」

 

 

 リシェラネイア様がローランド殿と共に潜入すると表明すれば、エフィメラ様とエルネラ様もそれに同調する。

 御自ら動こうとされるのは、この方の美点かと思うが……ここは諌めねばなるまい。

 

 

「エフィメラ様、エルネラ様も……お立場をお考えください。ここはローランド殿とリシェラネイア様にお任せしましょう」

 

「立場と言うならリシェラネイア様だって……」

 

「エフィ、私はもう皇族として振る舞うつもりはないって言ったでしょう?……ふふ、心配はいらないわ。私だって内偵の真似事で黒神教に潜入したことはあるし、単独行動は慣れてるわ」

 

「むぅ……」

 

 リシェラネイア様に諭されて少しむくれる様子を見ると、彼女も年頃の少女らしく見え……少しほっとする。

 

 

「エフィメラ様。我々の上に立って導くことが出来るのは……由緒正しきグラナの血筋である、あなた様だけです。もしこの戦いが黒神教の支配からの解放のためのものであるならば……グラナの夜明けは、ここから始まることでしょう」

 

「グラナの夜明け……そうですね。それが私の……いえ、私達が目指すもの」

 

 

 いつの間にかエフィメラ様を中心に人々が輪になって集まっていた。

 彼らの瞳に宿るのは希望の光だ。

 

 

「リシェラネイア様、ローランド様。よろしくお願いします」

 

「ええ。任せて」

 

「おうよ。お前さんは、どーんと構えておけ」

 

 

 決意を新たにしたエフィメラ様のもと、ついに俺達は動き始める。

 

 

「ブレイグ将軍。街に突入した後の直接の戦闘指揮は貴方にお願いします」

 

「はっ!お任せください」

 

 皇帝陛下に忠誠を誓った俺にとって、グラナのために戦えることこそ我が誉れ。

 

 そして、我が剣を捧げるに相応しき御方の下で戦えることの喜びにうち震える。

 

 

「さあ皆!!グラナの夜明けは今こそ始まります!!私達が光をもたらすのです!!」

 

 

 鬨の声が響き渡る。

 

 

 エフィメラ様の言葉の通り。

 グラナの夜明けは……今この時、この地より始まる。

 

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